イケメン指揮者-水野蒼生が語る、クラシック音楽オープン化計画

イケメン指揮者-水野蒼生が語る、クラシック音楽オープン化計画
服部のり子
服部のり子

ドイツ・グラモフォンが、よりリラックスした雰囲気でクラシックを楽しんでもらえるイベントとして取り組む「イエロー・ラウンジ」。日本でも先ごろ初めて開催、クラシック音楽とデジタルアートを融合させた空間は圧巻の内容で、新しいクラシックの楽しみ方を提示してくれた。その「イエロー・ラウンジ」で異質な存在だったのが、指揮者でありながら、前代未聞のDJでクラシック音楽のパフォーマンスをする水野蒼生。今回、水野蒼生が目指すクラシック音楽の新たな未来の話を聞いた。


クラシックDJでクラシック音楽をもっとオープンに!

オーストリア・ザルツブルクにあるモーツァルテウム大学に在籍する水野蒼生。同大学は、カラヤンらを輩出したクラシックの名門校だ。自由を制限する日本の音大に違和感を持ち、中退、浪人生活を経て留学し、受験者40名から合格者わずか2名という狭き門を突破して指揮科に入学した。

「オーケストラが好きで、中学生の時にドラマ『のだめカンタービレ』の影響を受けたこと。また、合唱コンクールで指揮を務めた時に、自分が振ることで音が鳴る快感を覚えるなど、さまざまな要因が重なり合うなかで、指揮者を目指すようになりました」

出典元:UNIVERSAL MUSIC JAPAN

実際に欧州のオーケストラやザルツブルクの大聖堂のミサを指揮するなど、順調にキャリアを積み始めている。その一方で、9月5日にクラシカルDJとして、アルバム『MILLENNIALS -We Will Classic You-』でデビューした。“クラシカルDJ”とは耳慣れない言葉かと思う。この肩書で何を起こそうとしているのだろうか。

「クラシック界は、ライヴ志向が強いところ。生演奏にこそ価値があると考えられています。僕が自由に音源を使わせてもらったドイツ・グラモフォンは創立120年を誇る最古のレーベルで、歴史的価値の高い作品がいっぱい遺されています。その作品を個人で聴く楽しみ以外に、オープンに人々が集う社交的な場で、再生することにもっと価値や意義があるのではないかという思い。また、リスペクトするアーティストが遺した名演をもっと若い人達に聴いてもらうための架け橋になりたい、という思いもあって始めたことです」


クラシック界に風穴をあけるデビュー作『ミレ二アルズ』 

具体的にデビュー作ではベートーヴェンの『第九交響曲』をはじめ40曲を7つのテーマごとにミックス。さらに作品全体をストーリー仕立てにすることで、独自性が強調されて、コンセプチュアルな作品に仕上げられている。ただ、曲と曲のつなぎがあまりにも自然なので、クラシックに詳しくない人にはもともとそういう曲に思えるかもしれない。それでも十分いいと思うが、気になるのは保守傾向の強いクラシックの専門家の反応だ。革新的な行動には批判が伴うものである。

「当初は徹底的に叩かれるのではと思っていましたが、意外にも高評価をいただいています。きっとそれは、単に楽曲をつなげたのではなく、40曲の楽譜を読み込み作品の背景を調べあげて、その整合性を踏まえた上でテーマごとにミックスしているので、解釈の深さとそこから感じ取れる作品へのリスペクトを認めていただけたのではと思っています。また、それらの過程を通して指揮者としてのスキルアップにつながり、僕にしか出来ないアルバムを作ったという自信にもなっていますね」

1曲目の「NOT GO LONG TIME AGO」の最後に拍手、足音、話し声、扉を閉めるSEが入っていて、これはなんだろう?と疑問符が浮かぶが、そこには「クラシックをコンサートホールの外へ連れ出したい」という彼の情熱が込められている。また、タイトルの『ミレニアルズ』は、ネットの世界でひとつのキーワードになっているデジタルネイティヴの若い世代のことを意味していて、彼らに聴いてもらいたいという希望が込められている。

クラシックとデシタルアートの融合に挑む 

そんな“ミレニアルズ”らしいイベント「イエロー・ラウンジ」で、DJとしての初お披露目を果たした。この「イエロー・ラウンジ」は、ドイツ・グラモフォンが、よりリラックスした雰囲気でクラシックを楽しんでもらえるイベントとして始めたもので、日本では9月12日に初めてお台場のデジタルアート・ミュージアムで開催された。手が触れると、映像が反応することで知られている会場だ。そこでアリス=沙良・オット(ピアノ)、ミッシャ・マイスキー(チェロ)という世界的な演奏家と、日本のジャズ・ピアニスト、山中千尋が演奏し、水野蒼生がDJを務めた。

出典元:Yellow Lounge

「あの会場はいい意味で、現実味のない、ユートピアみたいなところ。肉体ではなく、意識だけが存在しているような不思議な感覚に襲われました。デジタルアートとクラシックのコラボと聞いて、当初はうまく融合が出来るのかと不安視するところはあったのですが、水のインスタレーションなど自然がテーマなので、もともと自然にインスピレーションを得て作曲されたクラシック音楽と呼応しているのを感じることが出来ました」

確かにユートピアだったかもしれない。お台場という地理的環境もあり、現世から隔離された夢の世界にいる感覚があった。そんな環境で、世界的なアーティストの生演奏をステージと客席の境界線がない至近距離で聴けて、表情や手の動きまでがはっきりと見られて、感じられるのだ。間違いなく至福の経験となり、夢心地にさせてくれた。

「憧れの人達と同じ場所で共演できたことだけでも嬉しいのに、ミッシャ・マイスキーさんからもすごく良かったと言ってもらえた。アリスさんとは大学が同じな上に、彼女自身も“クラシック界はクローズドなところ”というマインドをお持ちのようで、いろいろ話せて良かったです。デジタルアートとの可能性も大いに感じて、アイディアがいろいろ膨らむ時間にもなりました」


僕はクラシック界のインフルエンサーになります!

水野蒼生が抱くヴィジョンは、クラシック界のロック・スターになること。そこに込められているのは「アイコン的な存在がいないと、若い世代にアピールしにくい。ロック・スターというのはその比喩で、僕はクラシック界のインフルエンサーとして、この素晴らしい音楽をもっと広めていきたい。そもそも指揮者というのはモーツァルトやベートーヴェンを現代にプロデュースするための存在でもあるから」と語る。

英才教育を受けてきたタイプではない。ピアノ、ヴァイオリン、フルートなど楽器を始めた時期は遅く、高校は普通科で、音大を中退するなど挫折も経験している。そのなかでクラシックを心から愛する彼は、自由な発想と行動力で独自の道を切り拓いている。アカデミックな世界に新風を吹き込み、それが次第に大きな波紋となるような存在になるだろう。潜在的にクラシック界が待ち望んでいた逸材だと思う。


服部のり子
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