岩淵紗貴(MOSHIMO)にとっての「至福なオフ」

岩淵紗貴(MOSHIMO)にとっての「至福なオフ」
森朋之
森朋之

ミュージシャンの「オン」と「オフ」を覗く連載「至福なオフ」。「オン」のモードで作り上げた作品についてはもちろん、休日の過ごし方や私服のこだわり、聴いている音楽など「オフ」の話題にも触れています。今回のゲストは、MOSHIMOのボーカリスト・岩淵紗貴さん。「オフ」のリラックスタイムや好きなファッション、最近聴いている音楽などについて教えてもらいました。また8月4日にはメジャー1stフルアルバム「化かし愛」をリリース!さまざまな恋愛シーンを赤裸々に描いた歌詞、“ライブで盛り上がりたい!”という気分を誘うバンドサウンドなど、MOSHIMOらしさをたっぷり注ぎ込んだ本作についても語ってもらいました。


岩淵紗貴のオフ

ーまずは「オフ」のお話から。今日のファッションのこだわりポイントは?

岩淵:これ、自分たちのブランドの服なんですよ。去年、ギターの一瀬(貴之)と一緒にNoisyという会社兼レーベルを立ち上げて、春にeasy as pieというブランドを作って。以前からグッズデザインなんかも自分たちでやってたんですけど、知り合いのイラストレーターやデザイナーと一緒に好きな洋服を作りたいなと思ったんですよね。オンラインの販売から始まって、今年はWall Of Graphicというブランドと協力してポップアップストアも開催しました。

ーモノ作りが好きなんでしょうね。

岩淵:そうですね。良いのか悪いのかわからないですけど、私、すごく飽き性なんですよ。洋服の好みもけっこう変わるし、どんどん自分をリニューアルしたいタイプなので、「だったら、好きなものを自分で作っちゃおう」って。一瀬もクリエイター気質なので、そこは合ってると思います。

ーなるほど。バンドとブランドをやってると、“至福のオフ”の時間も取りづらそうですね……。

岩淵:正直、そういう時間はほとんどないですね。最近は楽曲提供もやらせてもらうようになったし、3月くらいからほとんど休みがないんですよ。「もうダメ、パンクしちゃう」ってなって、1日だけボサーッとさせてもらいましたけど(笑)。寝る前もいろんなアーティストさんのライブ映像を観て、「こういう演出いいな」「こんなライブやってみたい」って考えたり。そういうことが好きだし、苦痛じゃないんですよね。なので私の場合、“オフ”というよりも、切り替えるタイミングが大事なのかって。いちばんいいのは、ランニングなんです。

―走ることで気分を変える?

岩淵:そうですね。走ると脳が切り替わるというか……まあ、その最中も音楽を聴いてるんですけどね(笑)。「こういう曲、歌いたいな」とか「こういうMCしたい」「こんなステージしたい」みたいなイメージがどんどん膨らんで、「よし、やってやる!」って闘争心も沸いてきて。たぶん、アドレナリンが出てるんでしょうね(笑)。逆にしばらく運動しないと、「きついな」って弱気になっちゃうこともあって。それを防ぐためにも、運動は大事です!

―どれくらいの距離を走るんですか?

岩淵:大体5kmとか10kmくらいは走りますよ。コロナになったばかりの去年の春とかは、月に150kmから200kmくらい走ってました。「幡ヶ谷再生大学」(TOSHI-LOWを中心に立ち上げられたNPO法人)の陸上部にも参加させてもらってて、かわいがってもらってます。あとはそうだな、何も考えず、お風呂に浸かるのも好きですね。ちょっといいバスソルトを入れて、いっぱい汗かいて。あ、そうだ、星を見るのも好きなんですよ、私。

―お、「至福のオフ」らしくなってきましたね(笑)。

岩淵:(笑)。天気がよければ家のベランダからでも見えるし、夜中、近所の陸橋まで行くこともあって。3大流星群も必ず見ます!ペルセウス座流星群、ふたご座流星群、しぶんぎ座流星群なんですけど、一人でも見に行っちゃうんですよ。福岡に住んでた頃は、一人で高速に乗って、空気が澄んだ山頂まで行ってましたね。東京だと、やっぱり公園ですね。ブルーシートを敷いて、寝っ転がって流星を眺めるのは本当に楽しいですよ。

―いつも一人で?

岩淵:いや、いつもではないです(笑)。去年の夏は女の子の友達と一緒だったし、冬は知り合いのカメラマンさんと、彼の奥様と子どもたちと一緒にふたご座流星群を見ました。コンビニでおでんを買って、毛布にくるまって……あれは最高でしたね。

―最近聴いている音楽も選んでもらっていて。大江千里さん、T.M.RevolutionからFoster the People、ニッキーミナージュまで、めちゃくちゃ幅広いですね。



岩淵:そうですね、「いいものはいい」という感じで聴いてるので。ニッキー・ミナージュの「The Night Is Still Young」はアガりたいときに聴いてます(笑)。ACOさんの「ya-yo!」は、MVにおぎやはぎさんが出演されていて。リアルタイムではなく、後から聴いてめちゃくちゃ好きになりました。ループが日常に溶け込む感じもいいし、「昨日買った本に/まったくもう/どーでもいーこと書いてあるといーな。」という歌い出しもいいなって。私、夏目漱石の「坊ちゃん」が好きで何度も読み返してるんですけど、「ya-yo!」を聴きながら読んでた印象が強くて。いや、「坊ちゃん」に“どーでもいーこと”が書いてるわけじゃないんですけど(笑)。

―「坊ちゃん」のどんなところが好きなんですか?

岩淵:何だろう? もう話も覚えちゃってるんですけど、ときどき読みたくなるんですよね。「坊ちゃん」って、いろんな出版社から出ていて、それぞれカバーのデザインやフォントが違うんですよ。本屋さんで一冊一冊、手に取って眺めるのも好きです。


クリエイターとしての岩淵紗貴

―続いては音楽活動について。先ほども話に出てましたが、いろいろなアーティストへの楽曲提供が続いてますね。

岩淵:そうなんですよ。田所あずさちゃん、田村ゆかりさん、アイドルグループのSOLにも提供させてもらって。MOSHIMOのテイストを求められることもあるし、「紗貴ちゃんなら、私が思っていることをちゃんと言葉とメロディにしてくれるはず」と言う依頼もあって、すごくやりがいがありますね。田所あずさちゃんからは、直接「紗貴ちゃんに書いてほしい」と言ってもらったんです。「どういう曲を作ろうか?」から始まって、電話でいろいろ話して……。歌詞やメロディに少しでもイヤなところがあれば、それがフラストレーションになるし、発信力も弱くなるんですよ。



岩淵:曲は歌う人がいて初めて成り立つし、本人がどう思って、どう生きているかを捉えて書かないと。SOLの場合は、MOSHIMOの「電光石火ジェラシー」みたいなテイストでお願いしますと言われて。彼女たちに合わせて、フェスやライブでも盛り上がれて、1年を通して使えるような曲にしたいなって。

出典元:YouTube(SOL - トピック)

―ひとつひとつオーダーメイドなんですね!

岩淵:本当にそうですね。「これでどうですか?」ってコミュニケーションを取りながら作るのが性に合ってるなって。自分の価値観に留まると、それ以上広がっていかないですからね。山崎育三郎さんが3時のヒロインのみなさんをフィーチャーした曲(「僕のヒロインになってくれませんか?feat.3時のヒロイン」)も作らせてもらったんですけど、すごくいい勉強になりました。ZOOMミーティングに参加して、レコーディングのディレクションにも立ち会わせてもらって。ご本人と話をしながら、その場でメロディや歌詞を変えたり……緊張したけど、いい経験でしたね。

出典元:YouTube(山崎育三郎)

―クリエイターとしての才能が開花しつつあるのでは?

岩淵:いやいや、才能はないです。周りのみなさんのサポートで、何とかやれているだけで。MOSHIMOではやれないこと、「自分が歌うのはちょっと違うかな」と思って封印していた曲を、他の方に歌ってもらえるのはすごく嬉しくて。コラボはどんどんやっていきたいし、みなさんに感謝ですね。一つ思うのは、Noisyという場所を作ってよかったということかな。居場所がないから自分たちで作ったんですけど、同じように居場所がない人たちが集まってきて。ここが壊れるのがすごく怖いので、がんばって守っていきたいです。

―バンド活動へのフィードバックもありそうですね。

岩淵:そうですね。他のアーティストに曲を書くことで、「やっぱり自分はこういう曲が好きなんだな」と明確になってきたし、MOSHIMOでやるべきこと、岩淵紗貴としてどういう曲を作ればいいんだろう?と考えるようになったので。それは新しいアルバム(「化かし愛」)にも出ていると思います。


メジャー1stフルアルバム『化かし愛』

―ここからはMOSHIMOの活動について聞かせてください。2020年に新メンバーの汐碇真也さん(Ba)、高島一航さん(Dr)が加入して新体制になりましたが、コロナ禍で思うような活動ができず。振り返ってみてどんな1年でしたか?

岩淵:地獄でした(笑)。周りの人たちとのコミュニケーションが上手くいかないこともあって、かなりストレスもたまって。ただ、メンバー内の意志はしっかり固まってたんですよ。「今はこれがやりたい」「これが出来る」ということを確認して、少しずつ制作もすすめて。なのでメジャーデビューが決まったときも、もちろん嬉しかったんですけど、浮かれることなく「ここから、やれることをどう増やしていくか?」という思考になれた。それはすごくよかったと思います。この1年は確かに思うような活動が出来なかったけど、それをマイナスに捉えるのではく、MOSHIMOらしさを追求しながら制作できたのかなと。

―その成果が、メジャー1stフルアルバム『化かし愛』というわけですね。

岩淵:そうですね。今って、みんなが主人公だと思うんですよ。好きなファッション、好きな音楽、好きな食べ物なんかを自由に取捨選択して、それを発信できるので。だからこそ私達も、「MOSHIMOにしかないサウンドや歌詞って、どういうものだろう?」「岩淵紗貴として歌いたいものは何だろう?」ってしっかり考えたんですよね。あと最近は「サブスクで初めて聴いて、MOSHIMOを好きになりました」と言ってくれる人も多いので、アルバムの前半にMOSHIMOらしさが出ている曲を詰め込みました。“らしさ”って何なの?って言われると、「自分たちで勝手に枠を決めてるんじゃない?」とも思うんですけど、たとえば、普段はなかなか言えないことを赤裸々に歌ってたり、ライブで元気になれたり。「悲しいことがあって、“ピエン”だけど、元気に楽しく前に進むしかない!」みたいな。

―なるほど。今回のアルバムの歌詞は、様々な恋愛シーンを切り取っていて。恋愛のフォーカスしたのも“らしさ”を追求した結果ですか?

岩淵:やっぱり恋愛が好きなんでしょうか(笑)。世の中の歌は基本的にラブソングだと思ってるんですよ。私の場合は、それをめちゃくちゃわかりやすくストレートに書いているだけかなと。(歌詞の内容は)実際に経験したこともあれば、人から聞いた話をもとにしているものもあるんですけど。

―そう言えば岩淵さん、ラジオ(BSCラジオ「LIKESONG」)でも、「この前、別れたばっかりだからさー」みたいな話をバンバンしてますよね。

岩淵:ハハハハ(笑)。いや、別れたのはもちろんショックだし、泣きますよ。でも、こうやって生きてるし、大したことないかなって。「フラれたんだよね」みたいな話って、誰もが共感できるし、誰も傷つかないじゃないですか。自分のなかで解決できてれば、どうってことないかなって。

出典元:YouTube(MOSHIMO Channel)

―さすが(笑)。アルバムのタイトル曲「化かし愛のうた」も当然、MOSHIMOらしさが濃密に込められた楽曲ですね。

岩淵:そうですね。和の感じというか、ヨナ抜き音階だったり、盛り上がり方だったり、みんなでコールできるパートだったり……って、こういう言い方すると作家みたいでイヤなんですけど(笑)。

―狙うところはしっかり狙うと。

岩淵:はい。「電光石火ジェラシー」(2018年リリース)も、「ライブでこんなふうに盛り上がりたい」とか「こんなコールしたい」って考えながら作ったので。『化かし愛』の歌詞は、すべて自分が体験したことですね。リード曲には自分の体験だったり、思ったことを詰め込むって決めていて。こういう悲しいことを明るくポップに歌うことも大事にしてるんですよ。落ちるところまで落ちたら、あとは上がるしかない!っていう(笑)。コロナ禍になって、どんどん怖いものがなくなってるんですよ。誰にどう見られてもいいし、意見の相違があっても、「あなたの価値観はそうなんですね。私の価値観はこうなんです」というだけなので。

―吹っ切れた?

岩淵:そうですね。去年、父が亡くなったことも影響しているかも。最初の緊急事態宣言が出る前だったので、最後に会えて。そのとき「いつ死んでもいいように生きよう」と思ったんですよね。

―「青いサイダー」のような思春期の恋愛を描いた楽曲も印象的でした。



岩淵:「青いサイダー」は、「今もこういう恋愛をしたいな」という理想を描いているんです。曲を作ったのはけっこう前なんですよ。メロディも歌詞も気に入っていて、いい曲だなと思っていたんですけど、なかなかリリースするタイミングがなくて。今回のアルバムは夏っぽいアプローチの作品なので、ピッタリだなと。「神様ちょっと」もかなり前に書いた曲ですね。CHEESE CAKE(MOSHIMOの前身バンド)をやってた頃で、引きこもり気味の“病み期”だったときですね。その頃から私達のことを知ってくれてる人たちに、あの頃の気持ちを伝えたくて。

―リスナーに対する気持ちも入ってる?

岩淵:もちろんです!だからアルバムの最後が「調子どう?」なんですよ。私たちは何とかやってるけど、そっちはどう?これからも一緒に進んでいこうねっていう。私たちとしては無関心がいちばん怖いし、「応援してくれる人がいて成り立ってるんだな」と実感することも多くて。このタイミングでメジャーデビューできたのも、メンバーやスタッフだけではなくて、ファンのみなさんがいてくれるからなので。

―アルバムのリリース後、9月からは全国ツアー「1st FULL ALBUM「化かし愛」RELEASE TOUR <バカ試合>」がスタートします。

出典元:YouTube(MOSHIMO Channel)

岩淵:状況を見ながらのツアーになると思いますけど、とにかくメンバーが変わってから初めてのリリースツアーですからね。みんなも「この4人のライブを早く見たい」と思ってくれてるだろうけど、何よりも私たちが楽しみです(笑)。ライブをやってるとき、歌ってる瞬間がいちばん楽しいし、マインド的には根っからのバンドマンなんですよ、やっぱり。(ブランドの運営や楽曲提供など)いろんなことをやってると「バンドだけじゃないの?」と思われることもありそうだけど、根本はバンドっていうのはずっと変わってなくて。そのうえで、チームとしてやれることを増やしていきたいんですよね。メンバーとスタッフがいればそれができると思うし、今、めちゃくちゃ楽しいです。

―素晴らしい。MOSHIMOの新しいキャリアが始まりますね。

岩淵:新しいエッセンスをどんどん取り入れて、広げていきたいですね。もちろん軸がしっかりしてないとダメだけど、これからはどう枝葉を広げるかが大事だと思うので。


〈MOSHIMOプロフィール〉

(L→R)Ba:汐碇真也 Vo&Gt:岩淵紗貴 Gt:一瀬貴之 Dr:高島一航

日常生活で抱く様々な不安、困難、フラストレーションを全てポジティヴへと変える熱いライヴパフォーマンス、可愛くもパワフルな歌声、ポップながら骨太なロックサウンドで、若者の心を掴み、巨大な渦となりつつある新進気鋭のギターロックバンド。9月12日からは1stフルアルバム『化かし愛』リリースツアー<バカ試合>が全国7都市でスタート!


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