今、洋楽シーンでは何が起こっているのか?

今、洋楽シーンでは何が起こっているのか?
栗本斉
栗本斉
現在の音楽シーンといっても、あまりにも細分化されていてひとつにくくるのは難しい。でも、ひとつひとつを紐解いてみると、2017年の洋楽シーンがどのような変化が起こるのかが予想されるのではないでしょうか。 ひとつには、ここ数年のトレンドだったハッピーかつノーテンキなEDMのムーヴメントはいつの間にか落ち着き、反動なのかシンプルに歌を聴かせるアーティストが増えてきたことが挙げられます。その筆頭が、チェインスモーカーズでしょう。昨年はホールジーをフィーチャーした「クローサー」が大ヒット。ダンス・ミュージックとしてでなく、ソングライター・チームとしての実力ぶりを見せつけました。
The Chainsmokers「Closer ft. Halsey」
出典元:(YouTube:ChainsmokersVEVO) このヒットと呼応するように、ゼッドやカイゴといったEDMのヒット・クリエイターたちも、続々と歌モノへと転身し始めています。そして、その流れはヒップホップにも飛び火。先日英米のチャートで1位を獲得したDJキャレドの「I'm The One」も、ラップというより歌の印象のほうが強いものになっています。そして、極めつけは日本でも大ヒット中のエド・シーランです。今っぽいサウンドを取り入れたり、バンド編成で歌っても、彼の場合はギター1本でも勝負できるメロディを持っていますし、何よりも声の存在感が大きい。こういった実力派シンガーはまだまだシーンをにぎやかにしてくれるはずです。
Ed Sheeran「Shape of You」
出典元:(YouTube:Ed Sheeran) 歌モノが定着していく一方で、サウンド面では70年代末のディスコや80年代のブラコン、ファンクといったブラック・ミュージックへの回帰志向も盛り上がりつつあります。この動きはプリンスの早すぎる死去ともリンクしていて、マーク・ロンソンの大ヒット・チューン「アップタウン・ファンク」にフィーチャーされたブルーノ・マーズが最前衛を走っているといえます。
Bruno Mars「24K Magic」
出典元:(YouTube:Bruno Mars) ジャズ・ヴォーカリストとして認識されているホセ・ジェイムズまでもが、ディスコやファンクとがっつり向き合っていますし、なかにはスプーンのようなロック・バンドまでもがプリンスに大々的に影響を受けていたりすることもあるのが面白い。ちなみに、ブルゾンちえみ効果で注目を浴びたオースティン・マホーンの「ダーティー・ワーク」も、80年代ディスコ風のサウンドが受けた要因のひとつではないでしょうか。
Roger Troutman「Do It Roger」
出典元:(YouTube:2chann) プリンスと並んで80年代のファンクを牽引したのが、ザップを率いたロジャー。ヴォコーダーを使ったサウンドを聴けば、ブルーノ・マーズがいかに影響を受けているのかがよくわかります。
Spoon「Can I Sit Next To You」
出典元:(YouTube:Spoon) ロック・シーンに目を向けると、こちらはさらに時代を遡ることになります。少し前までは80年代のエレクトロ系のサウンドが目立ちましたが、昨年はザ・レモン・ツイッグスやブロッサムズのように、70年代初頭のサイケデリック・ロックやアシッド・フォーク、ソフトロックなどのテイストを感じさせるバンドが急増しています。
The Lemon Twigs「As Long As We're Together」
出典元:(YouTube:TheLemonTwigsVEVO) もともとこういったレトロなイメージのバンドは定期的に登場していましたが、この1年くらいは顕著で、ギター・ロックやシューゲイザー、エレクトロ・ロックやポスト・ロックなどなど出自が違うのに、同じ方向を向いていることが多いのも興味深いものがあります。また、ファーザー・ジョン・ミスティのように、ソロ・アーティストでも同じような懐古的な世界観を志すシンガーが増えてきそうです。
David Bowie「Space Oddity」
出典元:(YouTube:David Bowie) 初期のデヴィッド・ボウイを代表する大定番曲。ザ・レモン・ツイッグスのフォーキーな雰囲気に加えて彼らのビジュアルも、この時期のボウイなくして語れません。
Father John Misty「Pure Comedy」
出典元:(YouTube:Father John Misty) こうしてみると、いずれも基本に戻るというか、ルーツ回帰がある種のトレンドになっています。しかし、ただたんに過去の焼き直しをしていても、音楽シーンの活性化にはつながりません。ぜひともそこから、大きな風穴を開けてくれるような才能が現れ、飛び抜けた存在になってくれることを期待したいと思います。
栗本斉
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