ウイスキーと音楽〜酒と音楽に纏わるちょっといい話〜
「ウイスキーに合う肴」といえば、その銘柄の数ほどありまして、なかでも人気のハイボールは何にでもマッチングしてしまい、シャンパンと同じく食い合わせの悪い料理を探すほうが難しいといった状況です。そして料理以外にも「ウイスキーに合う肴」は存在します。その代表は煙草やシガーでしょうが、煙が空間を満たすのと同じく鳴らされる音楽もまた最高の酒の肴になります。というわけで、今回は「ウイスキー(スコッチ)に合う音楽」をテーマとして、恵比寿の音楽バーで働く筆者がおすすめのお酒と音楽をアテンドしてみようという企画でございます。それでは1杯目と1曲目をどうぞ。
スペイバーン10年とマイルス・デイヴィス『Elevator to the Gallows』
View this post on InstagramSit for a spell and share a dram this weekend in the spirit of #Halloween.
スペイバーン(Speyburn)はスペイ川の中流あたりにある蒸留所で、深い深い渓谷の谷間でひっそりと操業されています。口当たりはなめらかで爽やか、クセのない飲み口はモルト初心者にもぴったりです。
さて、スペイバーン蒸留所は美しい景色に囲まれてはいるものの、実は処刑場の跡地に建てられています。そこでマイルス・デイヴィスの『Elevator to the Gallows(仏題/Ascenseur pour l'échafaud/邦題:死刑台のエレベーター)』はいかがでしょう。1曲だけ掲げましたが、アルバムを通して聴いていただきたいところです。
これだけですとあまりにベタですのでもう1曲。スペイバーンの爽やかな味わいにはドナルド・フェイゲンの『Snowbound』もよく合います。口も鼻も、耳もさっぱりと。それでいて味(曲)は確かなマリアージュをお楽しみください。
タリスカー10年とトム•ウェイツ『Sea of love』
タリスカー(TALISKER)はスコットランドの北西、スカイ島にある最も古い蒸留所であり、俗にいう「舌のうえで爆発するような胡椒の風味」が特長です。
複雑な海岸線に打ち寄せる波のごとく、荒々しさが特徴のウイスキーですが、その反面ドライフルーツのような甘さも持ち合わせています。タリスカーのラベルには、すべて「MADE BY THE SEA」と書かれています。音楽は「SEA」つながりで、トム・ウェイツの『Sea of love』をどうぞ。
オリジナルは1959年にフィル・フィリップスが発表、有名なカヴァーですとハニー・ドリッパーズが1984年に全米3位を記録しています。どの曲も素晴らしいのですが、タリスカーの「爆発的な」テイストと組み合わせるならば、やはり地鳴りのように響いてくる荒々しい声のトム・ウェイツのバージョンがおすすめです。
ベンリアック キュオリアシタス10年とライ•クーダー『Dark End Of The Street』
ベンリアック(BENRIACH)は1898年にスペイサイドで操業をはじめた蒸留所ですが、オフィシャルボトルの販売が開始されたのは実は最近のこと。そんなベンリアックのキュオリアシタス10年は、自家製ピートモルトを使用したパワフルかつ華やかな一本。スペイサイドらしからぬ味わいですが、ストレートでもハイボールでも、ピーティーでしっかりとした味わいを楽しめます。
この1本に合わせたい曲は、ライ・クーダーの『Dark End Of The Street』。ちなみに『Dark End Of The Street』はもともとジェイムス・カーの楽曲ですので、続けて聴き比べるのもよいでしょう。
どちらの曲も、客のひけた深夜のバーで聴くと最高です。家ならば、できるだけ柔らかい場所に沈み込みながらどうぞ。ちなみに胸が締めつけられるほど美しいメロディで、どんないいことを歌っているのかと思いきや、実は不倫ソングです。
ラガヴーリン16年とBeirut『Nantes』
ラガヴーリン(LAGAVULIN)は、アイラ島にあるラガヴーリン湾に佇む蒸留所で作られるシングルモルト。「昔はそれなりに悪かったものの、今や立派な紳士です」といった風情の、上品な香りとパンチの効いたスモーキーさが同居しています。
若々しくて、まるで田舎のヤンキーが七夕祭りで暴れるような微笑ましさの8年も捨てがたいですが、今回はシンプルに16年を。飲み方は何でも構いません。どう飲んでも美味いのがラガヴーリンです。
そんなラガヴーリン16年に合わせる音楽は、ベイルートの『Nantes』で。美しくも上品なイントロが鳴らされるなか、だんだんとバルカンビートを基調とし、それこそスモーキーでプリミティブな音色が交わる曲です。それは、まるでラガヴーリンを口に含み、飲み込み、鼻から香りが抜けていくまでの一連の過程を現したかのようです。
ちなみに中心人物のザック・コンドンは1986年生まれの32歳。その才能に嫉妬してしまいそうになりますが、若い人はフレッシュに、年配の方は「20代の頃、何をしていたんだっけ?」と涙を流しつつラガヴーリンを流し込み、じっくり耳を傾けていただけるとよろしいかと思います。
ほんの少しだけですが、おすすめのスコッチウイスキーと音楽をご紹介させていただきました。秋の夜長にはぜひ「お酒と音楽」をゆっくりと味わってみてください。