世代・ジャンルを超えてノラ・ジョーンズが愛される理由

世代・ジャンルを超えてノラ・ジョーンズが愛される理由
ジョー横溝
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ノラ・ジョーンズは、世代・ジャンルを超え愛される稀有なミュージシャンだ。“世代・ジャンルを超えて”なんていう台詞は、死ぬほど使い古された言葉だが、実際、彼女の曲はAMラジオでも流れるし、ピーター・バラカンが選曲したりもする。これほど音楽的にお茶の間から音楽通まで愛されている現在進行形のミュージシャンは、ノラ・ジョーンズの他にいないと思う。今回はそんなノラ・ジョーンズのこれまでの軌跡とニューアルバム『ビギン・アゲイン』を徹底解説!


ノラ・ジョーンズの美貌と音楽的才能

お茶の間的に受ける理由の一つが、世界を魅了するその美貌。その魅力がいかんなく発揮されたのが、2007年のジュード・ロウとの主演映画『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(監督はウォン・カーウァイ!!)でのエリザベス役。恋人の心変わりで失恋したエリザベスを演じたノラの美しさをスクリーンで観て、ノラに恋したオヤジ達が世界で続出した。(何を隠そう私もその一人だ!)

ただ、ノラ・ジョーンズが注目されたのは美貌がきっかけではなかったように思う。2002年2月26日にデビューしたノラ・ジョーンズは、翌月にはアメリカRolling Stone誌で紹介されている。この時の記事を読んだ記憶があるが、注目された理由はアルバムの内容だけではなくノラの父親の存在が大きかった気がする。ノラの父親はインドで最も有名な音楽家でビートルズにも影響を与えたシタール奏者ラヴィ・シャンカル。ラヴィ氏はビートルズのジョージ・ハリソンのシタールの師で、ジョージ・ハリソンの呼びかけでボブ・ディラン、エリック・クラプトン、リンゴ・スター、レオン・ラッセルなどが参加した1971年8月1日にニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで行なわれた「バングラデシュ・コンサート」にも出演した。その『バングラデシュ・コンサート』のライヴアルバムでラヴィ氏の演奏を聴くことが出来る。

と、ビートルズとも絡んだ偉大な父親の存在が最初に音楽通に注目されたノラだが、直ぐに彼女の楽曲の良さが人々の心を掴んだ。ファーストアルバム『ノラ・ジョーンズ』に収録されている「Don't Know Why」がそれだ。当時、『ノラ・ジョーンズ』をCDショップで購入したが、ブルーノートというジャズレーベルからのリリースで、JAZZコーナーにアルバムは置いてあった。アルバムの1曲目に収録されている「Don't Know Why」は3分ちょっとのシンプルな曲で、JAZZ特有の空気に包まれていながらも、お洒落で、メロディアスで、でも深みのある音だった。この曲は日本でも平井堅、JUJUらにカヴァーされ、良質なポップスとして親しまれた。

ちなみに、アルバム『ノラ・ジョーンズ』とシングル「Don't Know Why」で、ノラはその年のグラミー賞8部門でノミネートされた。ポップス一辺倒だったアメリカの音楽シーンがノラの登場でがらりと変わったのを今でもハッキリと覚えている。

デビューからヒットを飛ばし高い評価を受けたため、それ以降のリリースは相当なプレッシャーがあったと想像されるが、ノラは良質のアルバム、シングルを立て続けにリリースした。セカンドアルバム『フィールズ・ライク・ホーム』に収録された「SUNRISE」はほっこりとしたポップスの秀作だ。

出典元:YouTube(Norah Jones)

ポップスの定義を“大衆”とするとして、時代的な背景を少しだけ書いておくと、アルバム『フィールズ・ライク・ホーム』がリリースされた2004年はアメリカ大統領選挙があった年。共和党のジョージ・W・ブッシュが再選を果たしたのが象徴で、当時のアメリカは2001年の9.11以降の“不安””に翻弄される時代の中、アメリカの大衆の保守化が顕著になった時だ。そんな中で、ノラのほっこりとした「SUNRISE」が硬直化するアメリカに温もりを与えた印象がある。そんな風に時代・大衆の華となりうるのも、ノラの才能、あるいは宿命と言っていいのかもしれない。

ノラのことを知らない人に、聴いて欲しい過去の名曲は他にもいくつもあるが、「Feelin' the Same Way」「Lonestar」「Turn Me On」が個人的には大好きでおススメだ。ノラの歌を聴いていると、"Feel Like Home(家にいるような)“という言葉がぴったりな温かい気持ちになれる。仕事で疲れた時や旅先で聴くと安心でき、それでいて少し切ない感じがクセになってしまう。


最新アルバム『ビギン・アゲイン』

そして、ノラは現在までに6枚のオリジナルアルバムをリリース。音楽的には、JAZZをベースにしながらも、ポップス、ブルース、カントリー、フォークがミックスされているばかりか、ウィリー・ネルソン、アウトキャスト、ハービー・ハンコック、フー・ファイターズなど、幅広い一流ミュージシャンとのコラボレーションを行う奥行きの深さを見るにつけ、ノラこそが現代アメリカの最重要ミュージシャンの一人と言っても過言ではない。そして、グラミー賞に過去9回も輝いていることがそれを証明してくれている。

さて、そんなノラ・ジョーンズの待望のニューアルバム『ビギン・アゲイン』が4月12日にリリースされた。実は今回のアルバム、かなり実験的な制作方法を取っている。ノラは、2016年にアルバム『デイ・ブレイクス』をリリース、ワールド・ツアーを行なった後、昨年より“#songofthemoment”(ソング・オブ・ザ・モーメント) というコンセプトのもと全て即興というセッションで収録を行った。その後、昨年夏から「ソング・オブ・ザ・モーメント」シリーズでデジタル配信。様々なジャンルを網羅してきたシングル楽曲に3曲の未発表曲を追加し、今回のアルバム『ビギン・アゲイン』としてリリースした。つまり今作はアーティスト、ノラ・ジョーンズのクリエイティヴィティを撮影した7枚のスナップ写真のような作品集であり、コンセプト・アルバムと言うことになる。

出典元:YouTube(Norah Jones)

そうしたコンセプト・アルバムとわかった上で注目したいのが、楽曲毎のコラボミュージシャンの面々。中でもWILCOのジェフ・トゥイーディーの参加は重大ニュースだ。ただ、“コンセプト・アルバム”で、しかもWILCOのフロントマンであるジェフ・トゥイーディーが参加と聞いて、嬉しくもあり、心配にもなった。WILCOはオルタナティブシーンで活躍する現代アメリカの最重要バンドで、世界中の音楽マニアの心を掴んでいる。そのWILCOのブレインがジェフ・トゥイーディーなのだが、簡単に言うと、ジェフは、つねに実験的な試みをし続ける玄人好みのミュージシャンで、真っすぐなものを好まないひねくれ屋さんだ。
そのジェフが参加したとなると、ノラの“家に居るかのような温かみ”はどこかに消えてしまう可能性がある。

アルバムの1曲目、2曲目は、今作の実験性とノラのクリエイティヴィティに、従来のノラらしさが加味された楽曲だった。問題は、ひねくれ屋さんジェフとのコラボ曲。4曲目の「A Song with No Name」と6曲目の「Wintertime」がそれだが、この2曲が共に美しいメロディが素朴に堪能できる秀作。しかもジェフが参加している味=なんとも言えない牧歌的な雰囲気が楽しめる素晴らしいコラボだ。


他にもノラだけで制作している「It Was You」は従来のノラの魅力が十二分に堪能できるし、実験的だが、過去のアルバムとも地続きな作品で、音楽通から従来のファンまで楽しんでもらえる内容になっている。やはり、“世代・ジャンルを超えて愛される”のがノラ・ジョーンズなのだ。

トータルで見て、このアルバムでミュージシャンとして更に新しい扉を開いた感じがするノラ・ジョーンズ。ブルーノート・レーベル80周年に華を添えるかたちでリリースされた今回のアルバムで、ノラ自身だけではなく、JAZZシーンにおけるボーカル作品の寿命が100年は延びた感じすらする。そういう風にシーンに影響を与えるのもノラ・ジョーンズならではだ。さすがはノラ・ジョーンズ。あとは来日公演でその美貌を再び私たちに披露してくれるのを期待するのみだ。

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