エモい洋楽

エモい洋楽
柴那典
柴那典
音楽好きだけでなく、いつの間にか多くの若者たちの間で当たり前に使われるようになっている言葉「エモい」。由来は諸説あるものの、おそらく「emotional =エモーショナル」から転じて広まったのだと思います。つまり、切なく悲しかったり、もしくは熱く激しかったり、とにかく「感情を強く揺さぶられる」という意味。発祥はゼロ年代に世界中を席巻したロックの一ジャンルとしての「Emo=エモ」だと思うのだけれど、今やエモやポスト・ハードコアのバンド以外も普通に「エモい」という言葉で形容されるようになっている。 というわけで、このコラムとプレイリストでは僕が思う2017年リリースの「エモい洋楽」をまとめました。
少女の記憶の中に息づく父の愛情
ポーター・ロビンソン&マデオン「シェルター」
出典元:(YouTube:Porter Robinson) 今年2月にCDリリース&来日を果たし、アメリカ最大級のフェスティバル「コーチェラ・フェスティバル」でもメインステージで数万人を熱狂させた若きエレクトロ・ミュージックの俊英ポーター・ロビンソン&マデオン。「エモい」という形容詞で、真っ先に思い浮かぶのがこの「シェルター」という曲です。二人とも日本のアニメが大好きで、特にポーター・ロビンソンはジブリ映画や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』などの切ないストーリーを持った作品がフェイバリットだとのこと。この曲も、もともと彼が原案のストーリーを考え、日本のアニメ制作会社A-1 PicturesとのコラボでMVが作られていきました。崩壊した世界の「シェルター」にたった一人取り残された少女、その記憶の中に息づく父親の愛情が曲のテーマ。歌詞もサウンドも、最高にエモい。
闇の中で輝く獅子
スキップ・マーリィ「ライオンズ」
出典元:(YouTube:SkipMarleyVEVO) 聴いていて思わず奮い立たされるような気持ちになる。そういう意味での「エモい」楽曲が、スキップ・マーリィのデビュー曲「ライオンズ」。ギターのアルペジオから始まる楽曲は徐々に盛り上がり、サビで「俺たちは選ばれたライオンだ。闇の中で輝くんだ。俺たちの世代でムーブメントを起こすんだ」と叫ぶ。ちなみにスキップ・マーリィはボブ・マーリィの孫。ケイティ・ペリーのメッセージ性の強い新曲「チェーン・トゥ・ザ・リズム~これがわたしイズム~」にもフィーチャリングで参加し、存在感を示しています。デビュー曲でこれを歌うということは、きっと彼は自分自身の同世代にとってのスターになるというステートメントを示したんだと思います。
失意の底で知った「美しい真実」
ロンドン・グラマー「トゥルース・イズ・ア・ビューティフル・シング」
出典元:(YouTube:LondonGrammarVEVO) ロンドン・グラマーは、思わず鳥肌が立つような壮麗な歌声を持つ歌姫ハンナ・リード率いる、イギリスはノッティンガム出身の3人組。哀愁を帯びたサウンドと物悲しい歌詞の世界観が評判を呼び、2014年のファーストアルバム『IF YOU WAIT』が全英アルバム・チャート2位を記録と華々しいデビューを果たした彼女たちが、より研ぎ澄まされた音楽性でシーンの最前線に戻ってきました。きたるセカンド・アルバムより新曲「Rooting For You」「Big Picture」、そしてこの「Truth is a Beautiful Thing」が公開されているのだけれど、これが全てハンナの歌声の美しさを活かしたスロー・ナンバー。特にこの曲のテーマは、愛する相手との悲しい別れを経た主人公が、やがて気付いた「美しい真実」について。染み入るような一曲です。
絶望、しかし世界は終わらない
アノーニ「パラダイス」
出典元:(YouTube:REBISMUSIC) 2016年にアルバム『HOPELESSNESS』をリリースし、高い評価を得たシンガー、アノーニ。新曲「PARADISE」は今年にリリースされたEPの表題曲。これがサウンドも歌詞も、深く突き刺さるような一曲なのです。もともと自身がボーカルをつとめるバンド、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズで活動していた彼女は、生まれながらにトランスジェンダーであることを公言し、そのもう一つの人格がアノーニ。アルバム『HOPELESSNESS』をには、そういった中性的な存在から生まれるどことなく神聖な歌声の魅力、そしてハドソン・モホークとワンオートリックス・ポイント・ネヴァーという最先端のエレクトロ・ミュージックを支える二人の才能が作ったサウンドの魅力、さらに環境問題から政治まで激しく社会をえぐる歌詞の世界が結実していました。と「PARADISE」も、その延長線上にある一曲。「Hopelessness(=絶望)」と曲中で繰り返し、その一方で「世界は終わらない」「私はここにいる」と歌う。おそらく曲のテーマはトランプ後のアメリカ社会でしょう。とても強い感情のこもった一曲です。
柴那典
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