噂のピアニスト、ユップ・ベヴィンに会いにオランダ大使館に来ちゃいました。

噂のピアニスト、ユップ・ベヴィンに会いにオランダ大使館に来ちゃいました。
KKBOX編集室
KKBOX編集室
その美しい演奏でヨーロッパのストリーミング・アーティストとして世界中で話題になっているオランダのピアニスト、ユップ・ベヴィンが7月11日、東京・港区芝公園にある駐日オランダ王国大使館でショーケース・ライブを開催、KKBOX編集室はJD Sakiちゃんと一緒にインタビューをしてきました! ☆ユップ・ベヴィン プロフィール 1976年生まれ。オランダ東部の都市ドゥーティンヘム出身の作曲家、ピアニスト。世界的なCM音楽制作会社で働きながらバンドでキーボードを弾いていたが長女の誕生をきっかけにバンドを脱退。ある時、出張先のホテルのロビーでピアノを弾いているとそれを聴いていた人が涙を流すのを見て、自分には音楽の本質と美を探究するようなシンプルな音楽が向いていると音楽性を変えることを決意。2015年、作曲から録音まで全て自分で制作したアルバム『ソリプシズム』(Solipsism)は、全くのノンプロモーションにも関わらず、必要最小限にまで剥ぎ落とされ彼の音楽の素晴らしさがSNSや口コミで広がり、特にSpotifyでは自主制作盤として異例となる6,000万近くの再生回数を記録し、現役ピアニストとして最も聞かれる中の一人となった。2017年にはドイツ・グラモフォンと契約し、メジャーデビュー作『プリヘンション』(Prehension)が4月7日に発売されることになった。
普段は入れないオランダ大使館公邸に潜入
▼オランダ大使館公邸。1923年の関東大震災で一度消失、その後に立て直した由緒ある洋館です。 JD Saki、KKBOX編集室スタッフ共々生まれて初めて中に入ったオランダ大使館。特別な理由がない限り入れない場所なのでちょっと緊張します。整った芝生の上を歩くのはとても気持ちが良いということを実感。
▼こちらが公邸入口。初来日のライブということもあり、たくさんの関係者が訪れました。
▼オランダ大使公邸内のダイニングルームがこの日のライブ会場。KKBOXとSakiちゃんが一番のり!
目の前で繰り広げられた繊細で大胆なユップのピアノ
まずは駐日オランダ王国大使アルト・ヤコビ氏からこの公邸の建物とユップ・ベヴィンの簡単なプロフィールの説明。5月中旬にイギリスの新聞ガーディアン誌では、世界中のストリーミングサービスで8,500万回以上の再生が記録されたというレポートがされたということ、ユップは自分の音楽を「複雑な感情のためのシンプルな音楽」と呼んでいることなどのイントロダクションがあり、ユップが登場。207cmという身長に会場の皆さんはびっくり。初夏の昼下がりからライブが始まりました。
(C)Yoshifumi Shimizu
(C)Yoshifumi Shimizu
▼アップライト・ピアノのフタを開いて演奏するのがユップのスタイル。目の前で演奏を見ることができ、今まで聴いたことがない響きに会場はうっとり。 演奏曲目は、 1. はじめから(Ab Ovo) 2. Etude 3. 偏心 (Sonderling) 4. Midwayer 5. Sleeping Lotus 6. ハンギングD (Hanging D) の6曲。 ライブの3曲目終了後、今回のアルバムタイトル『プリヘンション』の意味を質問されると、ユップはイギリスの哲学者、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの用語であることを話してくれました。リアリティとは動きの中に現実があり、「現実を意識することなく受け止める」ことを表す意味だそうです。新作についてはゆっくり準備して2018年末頃にリリースを計画中で、今度はストリングス、クワイア(合唱)、エレクトロニック的なことなども考えていると語っていました。 ユップは風貌からも哲学的なイメージですが、その演奏はとても美しい演奏でした。最後の「ハンギングD」という曲では、ピアノの上の方のパーツを外し、前の5曲とは違うミニマル的で激しい演奏を展開し、ライブは終了。
自分の視点を持つことを教えてくれた両親に感謝しています
▼まずは日本式に挨拶から。ふたりの身長差は約50センチ! Saki:私はいま19歳ですが、その頃にどんな音楽を聴いていましたか? ユップ:かなり昔の話だから…そうだなぁ…。アシッド・ジャス、ジャングル、ブレイクビーツ、そしてピクシーズ、ニルヴァーナ、パール・ジャム、サウンドガーデンなどのロック系、あとミニマルミュージックのフィリップ・グラスなどを聴いていました。 Saki:ピアノ以外の楽器は演奏されたりしていたのですか? ユップ:バンドでドラムスは叩いていましたね。ギターやベースもやったけどあまり上手くはならなかった(笑)。なので主にキーボードとドラムス。 Saki:出身地のドゥーティンヘム(オランダ東部の都市)は、どのような街ですか? ユップ:生まれてから18歳までを過ごしました。ドイツとの国境近くオランダ東部で人口6万人くらいの緑が多く美しい小さな街です。教育環境、学校、先生、音楽やアートでとても良い影響を受けたけど、ちょっと退屈なところもあったり。その後、アムステルダムに引っ越しました。 Saki:どんな授業が好きでしたか? ユップ:哲学と社会学。世界の経済とかに興味があり、その勉強もしましたが、それ以上に好きだったのが音楽と哲学でした。
▼ライブとは違ってカジュアルでリラックスしたムード。 Saki:生まれ育った環境が、ユップさんの作る音楽にどんな影響を与えたのでしょうか。 ユップ:いい質問ですね。ひとつ両親にすごく感謝していることがあって。カトリックの小学校に通っていたのですが、6〜7歳と12歳になると通常受けるべき儀式があるのですが、両親はそれに出なくても良いと言ってくれて。そのようなことは宗教的に教え込まれることではなく、「自分の視点で判断して見つけなさい」としてくれた。それは幼い頃から自分を探すという教育の環境を与えてくれた、そういう意味ではとても両親に感謝しているし、しいては自分が演奏する音楽にもつながっています。 「The Light She Brings」
出典元:(YouTube:Joep Beving) KKBOX:MV「The Light She Brings」がブレイクのきっかけということを聞いたのですが、ディレクターのラヒ・レヴァニさんとの出会いについて教えてください。 ユップ:2011年、広告代理店に勤めていたときに広告大賞を受賞することになり、そのための僕の写真を撮ってくれたのがラヒでした。彼の撮影してくれた写真は最高の出来で、そのときの自分のムードに寄り添うものだった。その後ファーストアルバムを作り終えたとき、彼にいろいろな写真を使わせてもらいたいと連絡を取ったのですがぜんぜん返事が来なくて。そして、出来上がったアルバムの音を送ったところ、翌朝に返事が来て、「写真だけじゃなくアートワークすべてに関わりたい」と言ってくれた。それから、音楽とヴィジュアルを2人で高めあういい関係が出来上がったのです。
▼アルバム『プリヘンション』ジャケット
KKBOX:通常、ピアノのヒーリング・ミュージックでは、美しい山や森など風景のヴィジュアルが多いと思うのですが、人間が出ていて、また今回のアルバムではヌードの写真だったり、そういう部分で何か違ったものを見せる狙いはあるのですか? ユップ:なぜ自分が音楽を創るのかというと、人とリアリティの関係を探るということをやっていて。1枚目のアルバム『ソリプシズム』は、ひとりの人間にとってのリアリティがなんであるか?要するに、自分の頭の中にあるリアリティは何か?そして、自分以外の人とそれをシェアできるのか、という探究であって。たとえば、美しいものを作った。それが自分だけではなく、願わくば、自分以外の人にも響くものであって欲しい。そう思うことで人と人とのコネクションができるという、そういう想いだったのです。 で、今回の2枚目『プリヘンション』は、それよりも多くの人間と現実ということを考えていました。なので、MV「Prehension. A Film.」ではカップルが登場し、それぞれの人生を経て、出会い、恋をし、子供が生まれ、けんかもして、別れもあり、でも最後にまた一緒になる。そういう人生が起こるものだということを何か描きたかった。つまり、人というのは生まれてきてずっと一緒であるわけではなく、その肉体も、考え方も、哲学的にも、精神的にも変化していくものである。登場する女性は、あそこで見えている彼女がすべての姿なのか?またその奥にはまだ何かがあるのか?それを探そうとすることが、まさに人生を象徴しているんじゃないかなと思います。まぁ、裸ということで言えば、そのあとの子どもの誕生ということの象徴なのです。子どもを作るときには服を着ないですよね(笑)。あと服も流行に左右されますが、服を脱いだことで、流行のない、タイムレスな存在になるじゃないですか。今であろうと、100年後であろうと、100年前であろうと変わらぬものの象徴としての「裸」だということです。 「Prehension. A Film.」
出典元:(YouTube:JoepBevingVEVO) KKBOX:今回のMV「Prehension. A Film.」は何か反戦というメッセージはあるのですか?最後、煙が出て最後に2人ともいなくなるのが収容所のようにも思えたのですが。 ユップ:それは違います。収容所ではなくて、いわゆる警察の尋問室のイメージ。「今、人間が難しい時代にいる」ということの象徴です。あの部屋で窓がありますよね? あの窓があることで、自分はあのシーンを窓の外から傍観している。そこで行われていることは、人の会話なんだけれども、自分の人生でもある。 KKBOX:ライブの最後に演奏した「ハンギングD」という曲は他の曲とちょっと違う印象がありますが、モチーフになった気持ちとか音楽的なアイディアはあるのですか? ユップ:この曲はライブで演奏するときに、最後でバランスを取る曲が書きたいな、という想いで書いた曲です。自分のライブでは、大半がソフトで制御された曲が多く、お客さんも自分のゾーンに入り込む。それは素晴らしいことなんだけれど、最後に正反対のエネルギーでバランスをふっと元に戻すということが、自分にとってもお客さんにとっても、帰るときに目が覚めて会場を後にできる、そういうものにしたかった。自分の中にはソフトだけじゃないそういう一面もあって、違う美しさも感じてもらえればと思います。
▼ライブ後のユップ。演奏が終わると優しい表情にチェンジ。 KKBOX:空手のように小指でピアノを弾くのは、クラシックの先生からはNGが出そうですが、クラシックピアノのレッスンは受けたのですか? ユップ:ないです(笑)。ジャズのレッスンは1年だけ。自分はピアノのテクニックはないということはわかっているので、ツェルニーを勉強したのですが、それが原因で手首を痛めてしまって。なので、まったくの独学です。 「Hanging D」
出典元:(YouTube:JoepBevingVEVO) KKBOX:どのようなアーティストに影響されましたか?あと、最近好きなアーティストは? ユップ:ジャズを聴いてきました。ビル・エヴァンス、キース・ジャレット。それとフィリップ・グラスの影響も大きいですね。あとプロコフィエフ。最近はクラシックを聴くことが多く、マーラーの9番と10番、ペトリス・ヴァスクス、アルヴォ・ペルトも好きですね。
▼オランダのテレビ局が密着取材。私たちのインタビューも収録されました! ここで30分のインタビューは終了。とても優しくて丁寧に答えてくれました。クラシカルなピアニストは世界中にたくさんいますが、インタビューの通り、ユップは哲学的でありながらも難解ではなく、人の心にグっと響くエモーショナルなものを持っていて、そこが世界中で聴かれている魅力なんだと感じました。時間はフルサイズのコンサートを聴いてみたいですね。 プレイリストでは前半にユップの作品、後半に彼が影響を受けた音楽家たちの曲を選曲しました。最後にユップが演奏したピアノの前でパシャリ!
インタビュー写真撮影:山本雅美 通訳:丸山京子 協力:駐日オランダ王国大使館、ユニバーサル ミュージック合同会社
KKBOX編集室
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