約5年ぶりにオリジナルアルバムをリリースした藤巻亮太。2022年2月に迎えたソロ活動10周年作品として、数々のタイアップ楽曲や先行配信楽曲に加え、5曲の未発表音源を含む全12曲が収録される『Sunshine』。初回限定盤には10周年を記念したベスト盤が付属されている。本インタビューでは、そんな記念すべきアルバムに込めた思いを語ってもらった。また、2018年からは地元・山梨で自身が主催する野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI」、2021年は日本全国のホールや会館を回るAcoustic Liveを開催するなどライブ活動にも精力的な藤巻に、フェスやライブへの思いも聞いた。 (撮影/井上友里)
心の曇りを晴らすアルバム『Sunshine』
――2022年2月にソロ活動10周年を迎えていますが、ソロ活動10周年作品であるアルバム『Sunshine』の制作はいつ頃から取り掛かり始めたのでしょうか?
藤巻:2022年の春先から制作を始めました。楽曲が貯まってきたというのもあったのですが、2022年3月頃「この道どんな道」という今の自分の姿勢みたいなものが反映された曲が出来上がったんです。そこで、10周年期間中にアルバム出しましょうとなりました。貯めてきた楽曲の中からどの曲を入れるか考えつつ、新録の楽曲を「Mt.FUJIMAKI 2022」くらいの時期までレコーディングしていました。
出典元:YouTube(藤巻亮太)
――ためてきた楽曲はどのような基準で選ばれたんですか?
藤巻:1つの物語になっている楽曲を選びました。そこから最初に曲順をつくり、12曲揃ってから最後にタイトルを決めました。
――リード曲「Sunshine」からタイトルをつけられていると思うのですが、なぜこのタイトルにしたのか教えてください。
藤巻:このアルバムを一言でどう表現するか考えた時、当てはまった言葉が「Sunshine」でした。葛藤はしつつも前向きなアルバムができて、今の自分のマインドから見えている景色とこの言葉に親和性が高いなと思ったんです。
曲づくりを始めた19歳の頃から今まで、自分の心を整理するために、自分が前に進んでいくために、自分の曇っている心を晴らすために、を動機に楽曲をつくってきたのだと感じて。歳を重ねた分、経験が積まれて見えなかったものが見えてくるようになるけれど、同時に形成された価値観で見えなくなるものも出てきた。誰しもがそれをよすがにしながら生きていると思うのですが、不安を覚えることもあるんですよね。特にここ数年、目まぐるしく社会や世界が変化していく中、自分の価値観に対して自信が持てなくなることもありました。そんな曇らせているものを晴らす「Sunshine」のようなものが自分の中では音楽であり、曲づくりであると気づき、このタイトルにしました。
――アルバム全体から前向きさが伝わってきたのですが、それは藤巻さんがご自身の気持ちを前向きにするためだったからなんですね。
藤巻:自分を鼓舞している曲ばかりです(笑)。1曲つくるたびに、その時々に抱える疑問や悩みといった曇り空を晴らしながら生きてきた部分があると、今回のアルバム制作を通して気づきました。まずは自分が励まされるような楽曲をつくっていた気がします。
聴いてくださる方たちはいろんな立場やシチュエーションの中で曲に触れると思うのですが、僕なりにつくった曲で誰かの救いになったり、前向きさが伝わったりしたらいいなと思っています。
――本アルバムには「僕らの街」「まほろば」「千変万化」など多くのタイアップ楽曲も収録されています。それらもまた“自分の気持ちを前向きにさせたい”という気持ちが込められているのでしょうか。
藤巻:タイアップの楽曲は、どういう思いで僕にタイアップのお話をくださったのか、どういう楽曲をイメージされているのかなど、何を大切にされているのかを聞きながら楽曲をつくっているので、自分自身を前向きにさせる曲をつくることとは違うかもしれません。ただ、タイアップをいただいたからこそつくれた曲から新たに気づかされたことはあります。
――例えばどの楽曲で気づきがありましたか?
藤巻:「サントリー天然水 北アルプス」のテーマソングとして作った「まほろば」は、自分の生活の縮尺を見直すことができた曲です。コロナ禍で家から出られない中、便利なものに依存している自分がいました。僕はせっかちだから便利なものは好きなのですが(笑)、どこか効率の良さに追われ過ぎて疲れているところもあったんです。
出典元:YouTube(藤巻亮太)
そのタイミングで「まほろば」のお話をいただき、北アルプスの町である長野県大町市に行かせてもらいました。とても水がキレイな町で、自然と共に暮らしている方たちを見て、自分も自然と繋がっていると感じられて、すごく救われた気持ちになりました。同時に、自然に触れて楽曲をつくっていく中で、効率を意識したことで生まれた空白の時間に何をしていたのか改めて考えてみたんです。そうしたら実は何もしていなかったことに気がついて。そういう自分の縮尺を曲づくりで見直すことができて、少し楽になれたというのはあります。
藤巻亮太の楽曲づくりの源泉
――“自身を鼓舞する”とお話しいただいた一方で、以前ラジオで曲づくりについて「社会や世界との繋がりを大切にしたい」とお話しされていたのが印象的でした。自分の内側にあるものと外側にあるものがどう結び付いていくのかも気になります。
藤巻:ソロになってからは外との繋がりから生まれる“揺れ”を大切に音楽をつくっているのだと思います。僕の曲をつくるモチベーションを振り返ってみると、ずっと“人”だったんです。ソロになって初めて、バンド時代はバンドのために頑張ることが自分のガソリンになっていたと気づいたんです。そして、ソロはソロで曲を依頼してくださる方や僕の音楽に触れてくださる方がすごく大切だった。
そんな人との出会いや関わりの中で様々な価値観に触れると、自分の価値観と誰かの価値観がぶつかることで“揺れ”が生じる。自分の内側にあるものだけではなく、外側にある繋がりの中で揺れた自分の“揺れ幅”をしっかりと感じて歌にしていこうと。揺れる前の自分と揺れた後の自分は少し違う重心を持っている気がするんです。
――本アルバムでは切ない歌詞なのにサウンドが前向きな楽曲が多いと感じていたのですが、それもある種の“揺れ幅”なのかなと。個人的には「サヨナラ花束」に感じています。
藤巻:いろんなものには始まりがあったら終わりがあります。その始まり方も終わり方も自分の思い通りに選べるかというと、そんなことはない。だけど、始まりも終わりも自分がどんな佇まいでいられるかは自分で決めることができる。それがすごく大切だと思うんです。終わりだけを切り取るとものすごく切ないけど、終わりがあるから一生懸命に生きられるし、出会いを大事にできる。そういうポジティブな意味に響いたらいいなと思ってつくったのが「サヨナラ花束」です。
たしかに「サヨナラ花束」を含め、曲としてはポップだけど、言葉としては明るさだけではない部分に光を当てたいと思うことがあって。そういった時、言葉の行間をメロディやサウンドが支えられるように、無意識に重心の在り方を曲全体から考えてつくっていくことはあるかもしれません。最初から設計図があったわけではなく、つくっていく中で重心を掴んでいくのですが。
――では、本アルバムの初回限定盤にはソロ10周年を記念したベスト盤が付属されていますが、この10年間の楽曲の中で特に“揺れ”を感じている楽曲はありますか?
藤巻:「オオカミ青年」ですかね。ソロの1stアルバムのタイトルにもなっていて、このアルバムそのものが揺れていたと思います(笑)。一匹狼と群れの中の羊、両方の自分がすごくせめぎ合っていることを比喩した曲です。自分という人間は世界に1人しかいないし自分の人生だから自分の意思ですべて決めて生きていくことがあるべき生き方のはずなのに、同時に人間は社会的な生き物でもある。組織の中で和を大切にしながら生きていかなければいけない。僕自身、バンドというコミュニティの中からソロになったけど、一匹狼のように1人では何もできなくて。けれども、自分にしかできない表現も考えなければいけない。
出典元:YouTube(藤巻亮太)
まるで風船のように、内側の空気と外側の大気圧が釣り合って成立しているような感覚ですよね。自分の内側にある自分と外側の人から見る自分、本当の自分をどちらかに固定せず揺れ動いている。それを曲にした原点でもあるので、“揺れ”を感じる楽曲を挙げるなら「オオカミ青年」なんです。とはいえ、今回のベスト盤に選んだ楽曲は、今の自分にとってソロの中でも大きく“揺れた”曲たちです。1年後に選んだらまた違う楽曲が入るかもしれないとは思います(笑)。
「Mt.FUJIMAKI」「Acoustic Live Tour」〜ライブへの思い
――ソロになってからの10年間、ライブ活動にも精力的に取り組まれています。中でも2018年から開催している「Mt.FUJIMAKI」は、ソロ活動において大きな出来事だったのではないでしょうか。
藤巻:そうですね。ソロ活動って本当に難しくて、バンドだと“バンドのため”という大義名分があるから音楽をつくれていたんですけど、自分のためとなるとどう音楽をつくればいいか分からなくて。分からない時は原点に戻るしかない。そうやって戻りに戻っていった時に「山梨!」と思ったんですよ(笑)。レミオロメンの頃も山梨の景色をたくさん歌っていたのですが、30代後半になって改めて山梨という場所からいろんなものをもらっていたんだと気づいて。規模はどうであれ自分なりの音楽の楽しさや素晴らしさを山梨に少しでも還元したいなと始めたのが「Mt.FUJIMAKI」です。
そんな始まりで山梨の方たちと関わって、さらに自分自身もいろいろいただくようになって、最近は「音楽で人を元気にできたらいいな」という思いがとても強くなってきました。山梨だけではなく、今の時代はみなさん戦っていらっしゃるから。本気で頑張らないと、本当に元気になってもらえるような音楽はできない。それは実際に山梨へ戻って、働いている人や暮らしている人の空気を感じて、より思いました。
――「Mt.FUJIMAKI」を始めてすぐにコロナ禍に入りましたが、中止や配信を経て2022年には再び有観客での開催となりました。お話を聞いていると、藤巻さんの強い思いが実ったのではないかと思います。
藤巻:いい季節、いいロケーション、いい気候のなかで音楽を聴いてもらいたい、音楽を届けたいと思っていたし、来てくださった方にハッピーな気持ちになってもらえると自分なりの自信もありました。なので、2年分の思いがこもっていたことも相まって、有観客で開催できたことはとても嬉しかったです。自分にできることは全部やったと自負しています。
出典元:YouTube(藤巻亮太)
――ほかにも、「Acoustic Live Tour 2021「まほろば」」を皮切りに、現在も日本全国のホールや会館を回られています。
藤巻:各地のみなさんが呼んでくださることもあって、普段過ごしているだけではなかなか行けない場所も多いので、Acoustic Liveはすごく楽しみにしています。地域によって文化も歴史も花鳥風月も暮らしている人たちもすべて違う。同じ曲をやっても場所によって違う景色が見えるんです。北の地で冬の曲を演奏するのと、南の地で冬の曲を演奏するのとでは、“冬”に対する捉え方が違うから、曲の捉え方も違うというのをすごく感じます。いろんな場所で、いろんな営みを感じながら、その地に暮らしている方たちに何かを届けたいという思いで歌わせてもらっています。
――「Acoustic Live Tour」でいろんな町の営みを見ることで、楽曲制作に影響を受けることも?
藤巻:楽曲制作している時に、「ここに暮らしている方たちは、どういう風に聴いてくれるかな」と想像してみることはあります。楽曲をつくっていると1つの世界にグーっと没入してしまうことがあるので、1回離れて客観視する時間が大切でもあります。そういう時に、普段自分が身を置いていない地で、自分が持っていない価値観に触れると、少し違う感覚で音楽を見つめられるんです。なので、広い意味でAcoustic Live Tourは楽曲制作に影響を受けていると思います。
――対照的に、2023年2月からは『Sunshine』を引っ提げた4ピースバンドツアーを開催されます。「Acoustic Live Tour」とはまた違う景色を見ることができそうですよね。
藤巻:ええ。『Sunshine』はバンドサウンドのアルバムなので、まずはこの世界観をしっかり届けたいと思います。アルバムの楽曲だけではなく新旧楽曲を織り交ぜたセットリストを組んでいきます。なので、アコースティックとは違う自分なりのロックが伝わるステージにしたいです。僕の原点はバンドですし、久しぶりのバンド編成のライブツアーだからこそ、僕自身1番楽しみにしています。エレキギターをガンガン歪ませていきたいですね(笑)。
ソロ活動10年、音楽との向き合い方
――ソロ活動10年の中で、音楽活動への向き合い方に変化はありましたか?
藤巻:変化というか気づきが多くありましたね。音楽は自分が縛っているものを解く力があるのではないかと思えるようになりました。音楽を始めてすぐってすごく純粋で。楽器が弾けるようになって気持ちがいい、曲が完成して感動した、一緒に音を鳴らすのって最高だ、と後付けの価値観がないようなものでした。そこからたくさんの経験を経て、いろんな価値観に触れて、自分らしさが培われていく。それ自体にはものすごく感謝しているけれど、同時に自分の世界から出られないジレンマに直面して、判断を曇らせてしまうこともありました。仏教用語の“自縄自縛”です。
――“自縄自縛”?
藤巻:誰かが自分を縛っているのではなく、自分の縄で自分を縛って「苦しい……」と言っている。音楽を始めた19歳の頃にもあったのかもしれないけど、社会に揉まれていく中で明確に縄で縛っていることに気がついて(笑)。それに気が付いたことで決して楽になれたわけではないけれど、縄を解くことが人を救うことに繋がるし、音楽には縄を解く力があるのではないかと思えるようになりました。今回、「Sunshine」というすごくピュアな青春ソングを書けたのも、縄を解放していく力を音楽に感じたから生まれたように思います。
――そんな気付きを経た今、今後さらに10年、20年、どのように活動していきたいとお考えですか?
藤巻:今しか歌えない歌、つくれない曲が絶対にあると信じているので、いくつになってもそれを一生懸命に生み出していきたいという思いがあります。また、曲との向き合い方によっていろんな景色を見せてくれるから、ライブの一期一会の中で自分なりに素直に感じたものをこれから歌に乗せていきたい。それが曲づくりの源泉になる気もするので。まずは着実に音楽を届けて、そこから得た“揺れ”を怖れずに、元気に音楽をつくっていきたいです。
