今年のグラミー賞は見どころがたくさん〜ここだけは押さえときたい グラミー主要4部門〜

今年のグラミー賞は見どころがたくさん〜ここだけは押さえときたい グラミー主要4部門〜
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山本雅美

2023-01-13

アメリカ音楽界最高の栄誉とされる第65回グラミー賞授賞式が、2023年2月6日(日本時間)にロサンゼルスのクリプト・ドットコム・アリーナで開催されます。今年の一番の見どころは、なんと言っても2017年にグラミー対決をしたビヨンセとアデルの再燃。この時はビヨンセのキャリアを決定づけたアルバム『レモネード』が〈最優秀アルバム賞〉の最有力候補であったにも関わらずアデルの『25』が受賞、グラミー最大の番狂わせだったと言われました。アデルは受賞後のスピーチで「この賞はビヨンセが受賞するべきだった」とビヨンセを賞賛。トロフィーを真っ二つに折り、プライベートでは仲の良いビヨンセに分けようとさえしたのです。そんな前提となるストーリーがあるので、今回の各賞の結果が本当に気がかりです。ちなみにビヨンセは9部門、アデルは7部門でノミネートされています。この2人に割って入るのが元ワン・ダイレクションのメンバーで、ポップス&ロックスターとして大きな飛躍を遂げたハリー・スタイルズになりそうな予感です。

出典元:YouTube(Newstalk)

今回のグラミー賞は絶対的な本命が存在しないため、2020年のビリー・アイリッシュや2018年のブルーノ・マーズのように、1組のアーティストが主要部門を独占するようなことにはならないのではないかと思います。だからこそ、どのアーティストにもチャンスがあり、よりワクワクしながら楽しめるのではないでしょうか。

〈最優秀レコード賞〉は順当にアデルの「Easy On Me」?

アルバム『21』が世界セールス2,300万枚を超え、21世紀で最も売れたアルバムとして認定されたアデル。これまでに2012年と2017年のグラミー賞で主要3部門を総なめにするなど、現代のメインストリーム・ポップ・シーンを代表するシンガーソングライターです。アデルのアルバムはいつも数字表記ですが、その意味はアルバム制作をスタートさせた時の年齢を表し、その時代にアデルに起きた私的なエピソードがテーマとなっています。〈最優秀アルバム賞〉にノミネートされたアルバム『30』もまた同様で、今回はサイモン・コネッキとの結婚と離婚や、最愛の息子・アンジェロの出産を経験したアデルの激動な日々に基づいた作品が多く収録されています。「Easy On Me」のミュージックビデオでも悲しみや苦しみを反映するかのように、これまで暮らしていた家から出て行くアデルの姿がモノクロームで写し出されているのも印象に残ります。

出典元:YouTube(Adele)

またアルバム制作中には、長きに渡りわだかまりのあった父親が癌で亡くなっているアデル。多くのアーティストたちは人種やマイノリティなどの社会問題をテーマに歌い評価を高めることも多い中、アデルが歌い続けるのはあくまで私的な世界。しかし身近に感じるテーマだからこそ、多くの人がアデルの歌に感し愛され続けるのでしょう。

今回のグラミーでも、アデルが最有力な候補であるのは間違いありません。ただしアルバムを発表するたびに、アデルだけがクローズアップされることを良くないと思う人たちが存在するのも事実。そんな心理票がアデルの主要部門受賞独占ということにブレーキをかけそうな気がします。そこで今回のグラミーではアデルが〈最優秀レコード賞〉のみの受賞となると、他の賞にバリエーションが生まれると思うのですがどうでしょうか。

大きな変革を遂げたハリー・スタイルズに〈最優秀楽曲賞〉を贈りたい!!

〈最優秀レコード賞〉は、アーティストだけでなく制作に携わったレコーディングスタッフ全員に対して贈られます。これに対し〈最優秀楽曲賞〉は、アーティストではなく作詞者と作曲者を対象にしています。似ているように思える賞ですが、実は微妙な違いがあるのです。ここ最近のグラミーでは同じアーティストが主要部門を独占受賞するケースが増えていますが、2021年にビリー・アイリッシュの「Everything I Wanted」が〈最優秀レコード賞〉を受賞しつつも、〈最優秀楽曲賞〉は〈最優秀レコード賞〉にノミネーションもされていなかった H.E.R.の「I Can't Breathe」が受賞しています。受賞の理由としては、この楽曲が2020年5月に起きた警官による無抵抗な黒人殺害の事件(ジョージ・フロイド事件)を題材にし、大きな社会的なメッセージ性を持っていたことでしょう。そんな観点で〈最優秀楽曲賞〉を見ていくと面白そうです。

出典元:YouTube(TheBonnieRaitt)

まず注目は昨年デビュー50周年を迎えた女性ブルース・ロックギタリストでありシンガーソングライターのボニー・レイットの「JUST LIKE THAT」。73歳とは思えないパワフルさと独創性を持つ楽曲がどう評価されるでしょうか。

出典元:YouTube(Lizzo Music)

さらに 2021年にメジャーデビューシングル「abcdefu」がSNSで拡散され“Z世代の歌姫”として人気を得たゲイルや、2018年にグラミー3部門を受賞、今回「About Damn Time」で初の主要部門受賞を目指すダイバーシティ時代のポップ・アイコンとなったLizzoなどにも注目。また2012年にリリースされた『レッド』に収録されている「All Too Well」を、新たに10分バージョンにして生まれ変らせたテイラー・スウィフトも気になります。

出典元:YouTube(Harry Styles)

しかし、今回はハリー・スタイルズの「As It Was」に是非とも受賞して欲しいというのが本音です。昨年はアメリカ最大の音楽フェスティバル『コーチェラ・フェスティバル』のヘッドライナーで登場、その圧巻のステージにワン・ダイレクション時代から変革をし続けた姿を見せつけられました。そして、その後にリリースした「As It Was」は、全米チャート15週1位を記録、全米チャートのトップ3に史上最長となる29週ランクインするなど爆発的なヒットソングに。サウンド面ではこれまでにハリーがリスペクトしてきた1980年代のロックやポップミュージックを軸としながらも、最近のメインストリームにおけるトレンドも飲み込み見事に昇華させています。一方で、そのサウンドの華やかさとは裏腹に、成功者だったハリーの苦悩や孤独を表す言葉が散りばめられていることに驚かされました。ハリー・スタイルズは2022年に自身の大きな変化を内外に知らしめた存在と言えるでしょう。

〈最優秀アルバム賞〉に相応しいビヨンセの『RENAISSANCE』

まず最近の受賞傾向を見ていきます。2021年受賞のテイラー・スウィフトの『Folklore』はパンデミックの渦中でレコーディングされ、それまでのポップサウンドと一線を画したインディーフォーク、オルタナティブロック、フォークトロニカといった音楽性を取り入れたアルバムで受賞しています。また昨年受賞したジョン・バティステの『We Are』は、2020年に再燃したBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動の中で、「分断を避け、人々が結びつく」ことを歌ったアルバムでした。両作品ともアルバムとしての明確なテーマを持ち合わせているのがわかります。

〈最優秀アルバム賞〉は、このテーマがやはり重要なのではないでしょうか。その観点で見ていくと、ビヨンセの『RENAISSANCE』のアルバムコンセプトが頭ひとつ秀でている気がします。

出典元:YouTube(Beyoncé)

今回のグラミーでは最多の9部門にノミネートされ、合計ノミネート数は歴代トップの88となったビヨンセ。〈再生〉と名付けられたビヨンセの『RENAISSANCE』は2つのテーマを持っています。ひとつはパンデミックにより抑圧された毎日を余儀なくされた中からの〈再生〉。そしてもうひとつは、これまでにもビヨンセが自身と向き合ってきたマイノリティやアイデンティティからの〈再生〉です。アメリカの音楽メディアでも「ビヨンセが、クィア(性的マイノリティや、既存の性のカテゴリに当てはまらない人々の総称)カルチャーに大きな影響を受けたことを提示したアルバム」と『RENAISSANCE』を評しています。ゲイ・アンセムや、クィア・アーティストの楽曲がサンプリングされ、クィア・コミュニティがルーツとされるディスコからハウスなど、実に多彩なサウンドが織り込まれているこのアルバムは〈再生〉していく世界に向けて、ビヨンセがたくさんのヒントを提示してくれているかのようです。こんな時代だからこそ、さらに多くの人たちに共有してもらいたい気持ちにさせられる『RENAISSANCE』が〈最優秀アルバム賞〉に名前を刻んでもらいたいものです。

出典元:YouTube(Bad Bunny)

ダークホース的な存在がプエルトリコ出身のバッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』です。Billboardで初登場1位を記録し、その後計13週間1位を獲得。2022年のBillboard年間チャートで、スペイン語のアルバムとして初の年間チャート首位を獲得したアルバムとなり、グラミーでもスペイン語のアルバムが〈最優秀アルバム賞〉にノミネートされたのはこれが史上初めてとなっています。

出典元:YouTube(ABBA)

また2021年11月に40年振りに復活したABBAが新作スタジオアルバム『Voyage』をリリースし世界的なムーブメントを起こしたことは奇跡のような話だった。そんなABBAの姿と音楽に多くの人が元気や希望をもらったことでしょう。ABBAは今回のグラミーでも特別な存在になることは間違いありません。

〈最優秀新人賞〉はバンド対決となるか?

この1年で著しい活躍をみせた新人に授与される賞です。昨年はKKBOXの予想通り、デビュー曲「drivers license」が全米・全英シングルチャート初登場1位となった18歳の新星・オリヴィア・ロドリゴが獲得しました。 今年のノミネーションを見ると〈最優秀新人賞〉もズバリの大本命は不在ですが、時代を象徴する若きロックバンドがノミネーションされていることに注目です。1組目はイタリアの4人組ロックバンド・Måneskin(マネスキン)

出典元:YouTube(Måneskin Official)

英語でなく母国語のイタリア語で歌いながらも、古き良き時代のロックDNAを継承した懐かしくも新しいサウンドが世界中の幅広い世代に支持されています。全世界でのストリーミング総再生回数はなんと50億回を超えているほか、音楽フェス『コーチェラ・フェスティバル』にも登場、大ヒット映画『エルヴィス』のサウンドトラックに「If I Can Dream」で参加するなど話題を振り撒いています。日本でも注目度が高く、昨年は『SUMMER SONIC 2022』に出演するほかテレビ番組でも取り上げられ、来日公演も大成功しました。Måneskinの受賞はかなり濃厚なのではないでしょうか。

出典元:YouTube(BBC Music)

その対抗馬がWet Leg(ウェット・レッグ)です。イギリス南部にある人口14万人のワイト島出身、リアンとへスターの女性2人組ギターバンドWet Legは、2000年代にUKインディーロックを聴いて大人になった人たちにとっても懐かしい感じがしつつ、若い世代からはそのサウンドスタイルやファッション性が新鮮で人気が爆発、デビューアルバム『Wet Leg』は全英&全豪チャートで1位を獲得しています。またロックのレジェンドであるイギー・ポップから絶賛され、なんとハリー・スタイルズのオーストラリアツアーでのサポートも決定しています。バンド形態のアーティストがアワードを獲得すれば、第55回(2013年)のFun.以降10年振りとなります。偶然にも2組に共通しているのが古き良きサウンドエッセンスと現在進行形のスタイルを持ち合わせたバンドということです。

BTSはいきなり2冠達成の可能性も? 日本人のノミネーションは?

出典元:YouTube(Coldplay)

今回BTSは、コールドプレイとの共作となった「My Universe」で〈ポップグループ賞〉に、活動休止前の最後のシングルとなった「Yet To Come」で音楽ビデオ賞にノミネートされています。「My Universe」はBTSにとって6度目、コールドプレイにとっては2度目のBillboard1位になるなど実績と話題性も十分。また所属レーベルHYBEがジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデを要するアメリカの総合メディア企業ITHACAホールディングスを買収したことも大きく、韓米の新たなエンタテインメント産業の発展への期待感などもあり、今年のグラミーで遂にBTSが受賞、しかも2部門同時というのも現実的な気もします。

出典元:YouTube(MASA TAKUMI)

日本人ではインストゥルメンタルアーティストとして活躍、 AAAやDA PUMPの作曲などを担当した宅見将典が「MASA TAKUMI」名義でリリースした『Sakura』が〈最優秀グローバル・ミュージック・アルバム賞〉にノミネートされています。また〈最優秀クラシック・インストゥルメンタル(ソロ)賞〉では、イギリス在住で過去に6度のノミネーションと2度のグラモフォンを獲得している内田光子の『ベートーヴェン:ディアベッリ変奏曲』がノミネートされました。

グラミー賞は様々なジャンルにスポットを当て今回は新たに5部門を追加、全91部門のノミネーションが発表されています。すべての賞を眺めていくと「え、こんな賞があるの?」というぐらいテンションがあがります。ぜひ、皆さん自身がこだわるグラミー部門賞を探してみるのも面白いと思います。



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