レコード会社担当が語る 新しいクラシックの楽しみ方

  • クラシック
高野麻衣

音楽ストリーミングサービスが始まって、様々な音楽へ簡単にアクセスすることができるようになり、私たちのミュージック•ライフはとても豊かなものになりつつあります。それはクラシックというジャンルでも同じです。「クラシックは高音質で楽しむもの」「クラシックを聴くのは知識が必要」というようなイメージのあるクラシックですが、音楽ストリーミングサービスだったら、もっと気軽に楽しむことができるのです。今回はレコード会社のクラシック担当者お二人をお招きして、新しいクラシックの楽しみ方をお話して頂きました。

【プロフィール】 
ユニバーサルミュージック代表・阿部 香さん
クラシック部で小澤征爾、村治佳織などを担当しており、プレイリスト作成などデジタル周りも積極的に取り組む。

ワーナーミュージック•ジャパン代表・松田実月さん
ワーナークラシックスのA&R/マーケティング。クラシックのデジタル周りを担当。

音楽ストリーミングとクラシック

―音楽ストリーミングサービスが始まって数年。クラシックの聴かれ方が変わっている実感はありますか?

阿部:そうですね。担当としてもリスナーとしても、様々な発見があります。僕自身、普段は音楽ストリーミングサービスで聴くことが多くなり、なんて便利なのかと実感しているところです。

松田:私も同感です。たとえば身近な、子どもを持つ友人などが、クラシックを気軽に聴いてくれるようになったと思います。手軽にアクセスできるからこそ、従来の「クラシックファン」でない方にも聴かれるようになっているような気がします。

松田実月(ワーナーミュージック)

KKBOX:クラシックって、誰もが子どもの頃からBGMとしてたくさん聴いているんですよね。小学校の下校の音楽でドヴォルザークの「家路」を聴いたとか、そういう方は多いと思います。ある調査によると、ポップスなどを好む音楽リスナーに「次に聴きたいジャンル」を尋ねたところ、いつも2番目にくるのがクラシックなのだとか。

阿部:わかる気がします。僕自身、吹奏楽部に入った中学時代にクラシックのレコードに触れるようになって、「カッコイイ!」と思ったのが原体験ですからね。

松田:私もそうですね。小学校に入って、学校のオーケストラ部が『日本の四季』という曲を演奏したのをのを聴いて、シンプルに「カッコイイ!」と思い、ヴァイオリンを始めました。「クラシックを聴く」と構えがないほうが、純粋に楽しめる気がするんですよね。配信でも「クラシック」というジャンルを表に出さないことで、より多くの人に聴いてもらえる実感があります。

―どんな曲が人気なのですか?

松田:周囲では、たとえばヴァイオリンを習っている友人から「(ヴァイオリンの)ヒラリー・ハーンってこんなアルバム出していたんだね!」と送られてきたり。熱心に新譜情報を追いかけていなくても、アーティストで検索かけたら一気に出てくるから発見があるのかも。

阿部:弊社で印象的だったのは雰囲気系ですかね。代表例が<NaturaRythm>の人気プレイリスト「午前2時の音楽」。僕らとデジタルチーム7、8人が月3曲くらいずつ出しあって作っていますが、まったくのジャンルレス。お互いまったく知らない曲との出会いがあって楽しいし、評判もいいんです。

阿部 香(ユニバーサルミュージック)

―KKBOXでも大人気です。ある種の集合知ですよね。共通点は「午前2時に聴きたい」というキーワードだけ。

KKBOX:人それぞれの「午前2時がある」ということですよね。「こういう音楽がある」という想いでセレクトされているので、と伝えたくてセレクトされているので、熱量を感じます。

―ユニバーサルさんは以前からプレイリストにかなり力を入れられていますよね。ワーナーさんもこれから新展開ということで、楽しみです。

松田:これから配信を強化していくにあたり、目玉になるようなものをと企画中です。やはりマリア・カラスを筆頭に歌ものには自信がありますので、そのあたりをフックに、でも「オペラ」と強調しすぎずに発信していきたいなと。

―「クラシック」「オペラ」といいった単語を使わずに、四季や一日の時間帯、気持ちといった誰にでも通じる共通語を用いるのは大事ですよね。KKBOXのクラシック系プレイリストで、気になるものは?

阿部:「キテレツクラシックの世界」が気になります。これはどういうリストですか?

KKBOX: “Leck mich im Arsch in B-Flat Major, K. 231”や“Come tu mi fai rabbia quando passi”など、ちょっと奇妙な歌詞がついていたり、作曲家のエピソードがおもしろいものをセレクトしています。

松田:「静かな秋の日本人クラシック」、どういう選曲ですか?

KKBOX:内田光子や、辻井伸行など、日本人好みの四季を感じる選曲です。

―「猫とジャズクラ」もいいですね。

KKBOX:猫が好きな作曲家や、それにちなんだ音楽を集めています。KKBOXのリスナーは「ポップスなどが好きで、クラシックをたまに」という方が多いので、きっかけづくりを意識しています。


阿部:『のだめカンタービレ』のブームの時にも思いましたが、絵に音楽が乗ると売れるんですよね。みんな映像がついたもの、イメージが浮かびやすいものを聴きたがる。だからコンサート会場でCDは売れるのかなって。音楽ストリーミングもそこを意識していきたいんです。

近藤:僕もいいですか?

―ユニバーサルミュージックのデジタル担当・近藤さんですね。ぜひ!

近藤:デジタルとフィジカルは共存すべきだと思っています。CDは、家に持ち帰っていい音で聴く。サブスクは外に持って出て気軽に聴く。そういう聴き方の違いを極めていくべきかなって。僕らが呼び寄せたいのは「ハードルが高い」と思ってクラシックを聴いてない人。そういう人って、きっかけさえあれば5、6時間聴きっぱなしでいてくれるかもしれないですよね。KKBOXさんのプレイリストがすごくいいのは、プレイリスト・タイトルがサブスク業界で一番おもしろいという点です!

―(一同笑い)。ありがとうございます!

阿部:きっかけづくりには大事なことだと思います。

松田:まず聴いてもらうには、そういう第一印象が大事ですものね。

2018年後半の注目アーティスト

―では具体的に、それぞれおすすめのアーティストも教えてください。

阿部:ユニバーサルからはまず、アリス=紗良・オットを。ドイツと日本の血を引くピアニストで、若手の中でもユニークな存在です。8月に新譜『ナイトフォール』が発売されます。

松田:大好きです!

阿部:ありがとうございます。

―『ナイトフォール』。夜のとばりが降りるというような意味でしょうか。007の映画のタイトルみたいでカッコいいですね。

阿部:はい。それこそコンピレーションみたいなカッコいいアルバムです。ジャケットではクールですが、アリスは親近感もあって個性的。好きにならずにいられないキャラクターです。

―新しい試みを率先してやるイメージがありますね。クラブでの演奏やSNSも熱心で、そういうアーティストが増えているのは心強いですよね。

松田:ワーナーでいうとアレクサンドル・タローでしょうか。フランスの中堅ピアニストです。ドビュッシー没後100年を記念して、ちょうどデジタルで「月の光」をシングル・リリースしたばかりです。

―タローらしい企画ですね。彼もまた、新しいことを積極的にやるイメージ。

松田:デジタルでも非常に人気の高いアーティストなんです。デジタルでも多く聴かれている。なんでかなと分析してみると、彼はプレイリストに入りやすいフランスものの小曲を、若いときから録音しているんです。今回は初のベートーヴェンで、後期ソナタのアルバムです。ベーゼンドルファーを使って、新しい表情を見せていけるかなと。

―なるほど楽しみです。もう一組、若手対決いかがでしょうか?

松田:ユニバーサルさんのMizuno Aoiさんが気になっています。

阿部:よくぞ言ってくださいました! 彼はまだ学生の新人ですが、実は指揮者なんです。現在ザルツブルク・モーツァルテウムの3年生で、指揮者だけどDJもやるという変わり種。クラシックも積極的にMIXしちゃうんですね。コアなクラシックを勉強していながら、同世代にもっとクラシック聴いてほしいという志でクラウド・ファウンディングでライブを開催しちゃう。発信力のある人です。クラシックの新しい方向性として、我々もとても楽しみなんです


松田:なるほど! ワーナーからは、今年専属契約を結んだピアニスト小林愛実と、ヴァイオリニスト辻彩奈を。小林はすでにEMI時代に2枚出していますが、アメリカで研鑽を積んで重厚さを増してきています。辻のアルバムはライブ音源なので、その迫力も味わってもらえるかと。

あと、新人発掘育成の一環として、ピティナ(全日本ピアノ指導者協会)と連携し若手ピアニストを国内外に見出していく取り組みをスタートするんですが、その第1弾に登場するのが、CHANEL Pygmalion Daysでも活躍するピアニスト太田糸音です。18歳の大型新人ですが、今回は彼女自身も選曲に関わり、魅力が最大限に引き出される配信アルバムが完成しました。おすすめです。彼女たちもみんなSNSをやってて、デジタル事業との相性もいいんですよね。


―以前、KKBOXでインタビューさせていただいた松田華音(ユニバーサルミュージック)さんも、可愛いインスタを発信されてますよね。新しい、若いリスナーにも繋がっていくといいですね。

阿部:自己発信していくアーティスト、今後もどんどん増えていきそうですよね。期待しながら、僕らも新しいクラシック、音楽の聴き方を提案していきたいと思います。

いかがでしたか。ヒット曲や自分のお気に入りのアーティストの曲だけではなく、KKBOXを上手く使ってみれば、いままで出会ったことのにような素晴らしいクラシック音楽に発見することができるはずです。ぜひ皆さんも気軽にクラシックの世界に触れてみませんか。


高野麻衣

音楽ジャーナリスト/コラムニスト。上智大学史学科卒業。音楽雑誌編集を経て現職。ラジオ『Memories & Discoveries』(JFN系列)レギュラー。歴史をベースに音楽、美術、マンガ・アニメ、英国王室等について執筆。書籍やメディア、イベントで企画監修・構成・出演を担当するほか、ラ・フォル・ジュルネ音楽祭、東京フィルハーモニー交響楽団ワールド・ツアーなどにも携わる。乙女座B型。 著作:『フランス的クラシック生活』(PHP新書)、『マンガと音楽の甘い関係』(太田出版)、『マリー・アントワネットの音楽会』(ワーナーミュージック) http://www.salonette.net

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