「歌い手の時代が来るとは思っていました」:歌い手・ピコがいま考えていること
ニコニコ動画の「歌ってみた」から人気に火が付き10年にメジャーデビュー。コンスタントにキャリアを積み上げ、自身の集大成と呼べるベストアルバム『ピコレクション“BEST+4“』を7月24日にリリースした。過熱する「歌い手」ブームを牽引する彼はこの状況をどう考えているのだろうか? ピコさんはニコニコ動画の「歌ってみた」出身ですが、動画投稿を始めた頃は今のような人気アーティストになることを想像していましたか? ピコ:最初は全く想像していなかったです。元々高校大学とバンドをやっていたんですけど、その頃は身内だけにしか音楽を聞いてもらえなかったんです。インターネットに投稿することによって不特定多数の人に自分の歌声を聞いてもらえると思ったので。身内相手だと「良かったよ」と言われてもその中の何割かはお世辞だったりもするじゃないですか。その点インターネットは、率直な意見が聞けると思って始めたのが当初の動機ですね。 その時の反響は? ピコ:もうボロボロでした(笑)。今ではニコニコ動画ってメジャーな存在ですけど、当時はまだまだアンダーグラウンドな世界で。辛口コメントが多かったので、最初は結構へこみましたね。 その後、男女の声を操る「両声類」の歌い手として注目されたわけですが、ご自分では意識されてたんでしょうか? ピコ:動画をアップロードし始めて数ヶ月くらい経った頃、僕の声が「女の声に聞こえる」というコメントが付いて。それが当時僕の上げた動画の中で一番再生数が伸びたものだったので、そこで一気に「ピコ=両声類」と呼ばれるようになったんです。最初は驚いたんですけど、そう呼ばれたことによって、意識して変化をつけようとかは考えるようになりました。例えば女性の気持ちを妄想して歌ってみるとか。 ベストアルバムにはアニメのタイアップ曲を多く収録されていますが、思い出深い曲があれば教えて下さい。 ピコ:『勿忘草』が『テガミバチ REVERSE』のエンディングテーマになったことは大きな一歩でしたね。「ニコ動の歌い手がアニソンを?」みたいな驚きもありました。この曲をきっかけに色々な反響がありました。元々アニソンがすごく好きでしたし、アニソンを歌うのも夢でしたから。 そして、『よりぬき銀魂さん』の『桜音』でさらにいろいろな人に自分の存在を知ってもらえるようになりました。海外のイベントに行っても『銀魂』は知られているんだなと改めて作品の強さを感じました。 数々の歌い手とのコラボ作品も多いですよね。印象に残っているコラボは? ピコ:やはり赤飯とのコラボですかね。腐れ縁というか、昔から一緒にやってきているので。僕は赤飯がいなかったらデビューできていなかったと思うし、逆に赤飯も僕がいなかったら今のような位置にはいなかったと思います。 動画で注目されたあと、ライブ活動も行うようになりましたが、動画とライブの違いは何だと考えていますか? ピコ:最初は同じようなものだと思っていたんですけど、今は全然違いますね。ライブは生物じゃないですか。その時その時の環境に自分が合わせていかなくてはいけない、逆に自分色に染めなければいけないといった、すごく臨機応変さが求められるんですよね。 一方で動画は「目で見るもの」だと思っているので、いかに映像と声をうまく組み合わせることが出来るか、見てくれた人がどういう反応をしてくれるかを考えて作らなくてはいけないんです。100%完成されたものをこちらからアップしてしまうと、「つまらないもの」とされてしまうので、コメントしたくなるような「おもしろいもの」「つっこみどころがあるもの」を常に考えながら作っています。なので、ライブと動画は全く違いますね。 今は沢山の「歌ってみた」出身のシンガーがメジャーデビューしています。このブームの先駆け的な存在のピコさんはこのブームをどう見ていますか? ピコ:当時から「こうなるだろうな」と思っていたところはあります。その頃のニコニコ動画は「素人集団の集まり」でみんなが思い思いに好きなことをやっていた場所だったと思うんですけど、今はそれがビジネスのひとつのツールみたいな感じになっている。それに対する寂しさもあります。でも、場所が大きくなればそういうビジネスが生まれるのも当たり前だと思っているので、その効果で歌い手さんもたくさんCDデビューをするようになったのだろうなと感じています。自分が先駆けだったというよりは、世の中の流れがそうなっていったからと言ったほうがいいのかもしれません。 既存の音楽シーンにバンドやアーティストがたくさんいる中で、今、歌い手が求められている理由はなんだと思いますか? ピコ:まず第一としては「距離」だと思います。例えば、僕もメジャーデビューを発表したときに一番多かったコメントが「遠くにいっちゃう」「寂しい」だったんです。そういった「距離」がない人達だからというのがひとつ。もう一つは「自分も歌い手になれるかもしれない」という対象であるということが理由としてあると思います。昨日まで一学生だった人が明日にはスターかもしれないというのが歌い手なので。工程としてはすごくシンプルな存在なんです。あとは柔軟性ですよね。メジャーにはできないことができるというのは大きいと思います。既存の音楽の概念にとらわれずに順応できるというか。 香港、台湾とワンマンライブを行い、世界各地のイベントにも出演されていますが、海外公演で印象に残っていることは? ピコ:台湾は初めてのワンマンライブを行った土地なので、凄く印象に残っています。台湾のアニメイトで一日店員をやった時はお店に入り切らないくらいファンの人が来てくれてたのが本当に嬉しかったです。香港のファンの方もすごく熱かったです。それと、僕シンガポールが好きなんですよね。緑が多くて街も綺麗だし、料理も美味しくて。まだイベントでしか行ったことがないので、次はワンマンで行きたいです。 今後の目標を教えてください。 ピコ:声を使った仕事だと、声優さんやパーソナリティーもやってみたいです。バラエティ方面……実は結構今回のアルバムについてる特典DVDでもいろいろやらかしてるので、そういうところをアピールしていきたいですね(笑)。 【文・藤谷千明】