昨年デビュー10周年を迎えた長澤知之さんが、これまでの軌跡を総括したアンソロジー・アルバム『Archives #1』を4月12日にリリース。同時にこれまでの作品が一挙にKKBOXで配信スタートしています。長澤さんの作品に改めて触れると、日常的なテーマから社会的なテーマまで独特な視点でとらえた言葉に溢れ、実に多彩なメロディに魅了されます。そしてインタビューに現れた長澤さんはとても真摯な音楽愛を持った人でした。今月からKKBOXのミュージックキュレーターとして登場もしてくれる長澤さんの魅力をお届けします。

10年間で育まれた34篇のアンソロジー。

初めにお伝えしておくと、自分はこれまで長澤さんの熱心なリスナーではなかったのですが、今回の『Archives #1』に圧倒されました。自分にとってはどの曲も新曲であり、ひとつひとつの密度の高い「作品」に対峙させてもらった気がします。自分の感性を揺さぶり続けられ、すっかりマイヘビロになっています。

ありがとうございます。そう言ってもらえることがすごく光栄です。

長澤さんがデビューしてからの10年間を紐解く34曲が収録されています。選曲が大変だったのではないですか。

これまでに6枚のミニアルバムと2枚のフルアルバムをリリースしているんですが、当然作品としてのコンセプトがあるので、そこからパンチのある曲だけを選曲してしまうと作品としても重いものになってしまと思っていました。そして自分だけで選曲をしてしまうと主観的になりすぎるので、スタッフと意見を交換しながら選曲をしていきました。



スタッフの皆さんとの共同作業だったんですね。『Archives #1』冒頭を飾る曲が「あんまり素敵じゃない世界」(2013年)ですが、1曲目はこのアルバムにとって非常に大事なことだったと思います。

とても大事でしたね。ただ、いろんなスタッフが「あんまり素敵じゃない世界」を1曲目に挙げてくれたんです。僕もすごく馴染みやすかったし、この曲が1曲目に来るべきだなって。とてもキラキラした曲なので、その幸せな感じがみんなの中にも、僕の中にもあったんだと思います。



そのキラキラ感に続くのが「フラッシュバック瞬き」(2013年)。違う世界が現れ、見事に裏切られました(笑)。そして3曲目の「夢先案内人」(2011年)では、感情がぐちゃぐちゃにされるほどの言葉とメロディに鳥肌が立ちました。

「夢先案内人」を作った時って、壮平(小山田壮平/AL)と、ギターやピアノを弾いたりしながら飲んでいたんです。そして夜が明けて部屋から見えた甲州街道を走っている車を見ていたら、自分で感じることや想像していること、話したことだとか妄想だとか願望だとか祈りだとか、そんなものが集まってできました。気持ちとしては落ちていた時だったのかもしれません(笑)。この作品に反映されている感情が自分の中にあったんだと思います。



ここにいる主人公はもうどうしようもないほどの苛立ちを持っているように感じます。そこに深く共鳴できました。男のエモさというか(笑)

やけっぱちってことですね(笑)。サウンド的にもやけっぱち。いま自分が聴いても相当やけっぱちな感じです。エモいってそんなことかもしれないですね。

『Archives #1』には、新作「蜘蛛の糸」も収録されています。この作品にも「夢先案内人」と同じような男の苛立ちを感じたのですが、そこには刺々しいものから、なにか柔らかな感情の変化を感じます。

出典元:(YouTube:OfficeAugusta)

そうだと思います。今回のジャケットは実家の部屋なんですけど、この頃って学校にも行かず、引きもこもって曲を作っていました。共感してもらえる人も、信じることができる人もあまりいなくて。そんな人間に対する苛立ちがあったから刺々しかったのかもしれませんね。もちろん今でも苛立ちはありますけど、信頼できる人や、自分の音楽を認めてくれる人が増えてきています。人に対する愛も生まれてきたから少し柔らかくなっているんでしょうね。

リスナーの感性とセッションすることで作品ができる。

「STOP THE MUSIC」(2013年)は、反復して進行するメロディから一転しアウトロが一分も続く圧巻の作品でした。また「片思い」(2007年)では、想定していたメロディが転調しサイケデリックな世界を見せてくれます。そのほかにも長澤さんの作品は実に様々な表情を持っています。



日本画の持つ〈余白〉と言うとおおげさかもしれませんが、音楽も聴いている人の想像力が加わって初めて本当の作品が出来上がるのだと思っています。自分ひとりで曲を作っている時も楽しいんですけど、作品という状況になったら誰かに聴いてもらわないと最終的に仕上がらないし。歌はその人の気持やパーソナルなものが晒け出され、楽器というもので想像力を加えます。そこからさらに、聴いている人と一緒に作品を完成していく時間を共有できればいいなと思っています。



そうなんです。長澤さんの作品は一方通行ではなくて、聴く側もいろんな想像をできるという楽しさがあります。

自分の作品を聴いてくれた人の景色って違って当たり前だし、大げさに言えば、そこで聴いてくれる人とのセッションでできていると思うんです。十人十色の感じ方があっても共通感覚を持って作品が出来上がることって、すごくミラクルなことだと思うんです。

そして、このアルバムのエンディングは「僕らの輝き」(2011年)です。1曲目の「あんまり素敵じゃない世界」と同じように、自然体な言葉と肩の力を抜いたサウンドがこのアルバムのエンドロールに構成されていて、この2曲は対になっている感じがしました。



そう言ってもらえるのが良かったので嬉しいですね。トラックの最後ってやはり自分が確信をもてるとこに落ち着けたいと思っていました。この曲がデビュー曲だというのもあるし、ここで終わりじゃないという新たな想いがあります。

『Archives #1』を聴いて、なんでもっと前から長澤知之を聴かなかったんだろうと後悔しています。同時に音楽って素晴らしなと改めて感じることができ本当に感謝しています。デビュー10年で、自分自身が新しいファンのひとりです(笑)

最高ですね(笑)! ありがとうございます。そう言ってもらえるのが救いだし、本当にありがたいです。

音楽の原体験は光GENJIとビートルズ

KKBOXでは、5月から長澤さんをミュージックキュレーターとしてお迎えし、半年間に渡りプレイリストを公開していきます。いまからとても楽しみなのですが、そもそも長澤さんの音楽の原体験はなんだったのでしょうか。

幼稚園の時の友達がピアニカで「パラダイス銀河」を弾いていたんですね。それを聴いて幼な心ながら「なんて美しいメロディなんだ」って自分の琴線が上がったことを覚えてます。自分はメロディが好きなんだって自覚した瞬間でした。



もうひとつはビートルズです。昭和の名曲を紹介する番組があって、その1位がビートルズでした。「抱きしめたい」だったと思うんですけど、エキセントリックだけどメロデイアスというのが衝撃でした。その時に自分はエキセントリックなものが好きなんだって実感しました(笑)。9歳の誕生日にビートルズのアルバムを買ってもらい、「プリーズ・プリーズ・ミー」が本当に好きになって。エキセントリックで最高な曲です。



音楽活動を始めてから影響を受けたアーティストや曲はありますか。

たくさんありますね。自分もみなさんと同じ音楽ファンでもあるので、新しい曲も昔の曲も良く聴いています。古いものでも自分にとっては初めて出会った曲は新しい刺激を受けますね。

そうなんですね。そんな長澤さんのミュージックヒストリーや、長澤さんのアンテナに触れた曲の紹介を楽しみにしています。

(写真:杉田 真 / テキスト&取材 : KKBOX 山本雅美)


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