『オフ・ザ・ウォール』が変えた、マイケルの運命

『オフ・ザ・ウォール』が変えた、マイケルの運命
齋藤奈緒子
齋藤奈緒子
2016年1月7日~2月26日のブラック・ヒストリー・マンス(黒人歴史月間)を記念して、マイケル・ジャクソンが1979年に発表したアルバム『オフ・ザ・ウォール』のデラックス・エディション(CD+DVD/BD)がリリースされました。リマスターされたオリジナル・アルバムと、スパイク・リー監督による最新ドキュメンタリー・フィルムの2枚組となっています。 『オフ・ザ・ウォール』は、マイケルの輝かしいソロ・キャリアの幕開けを飾った、実質的なソロデビュー作。全世界で3000万枚を売り上げ、いまだに多くのミュージシャンのフェイバリットである一方で、その後の『スリラー』や『バッド』などと比べると、ちょっと地味めな印象もあります。この機会に、あらためてその意義と、当時のマイケルの思い、そして、いかに後世へつながっていくのかを振り返ってみましょう。 マイケル・ジャクソンは、ご存知のように幼少期から、大人気グループ、ジャクソン5(のちにジャクソンズへと改名)のリード・ヴォーカルでしたが、自分たちが作りたい音楽を作れていたわけではありませんでした。また、彼らが青年に成長するにつれ、セールスも伸び悩み……。そこでソロ活動を決意したマイケルは、かつて出演した映画『ウィズ』で縁があった、プロデューサーのクインシー・ジョーンズに相談をします。はじめマイケルは、誰かプロデューサーを紹介してもらうつもりだったのに、クインシーが「僕じゃダメかい? 」と返事、のちの黄金タッグが誕生したのです。
(YouTube: michaeljacksonVEVO) そうしてマイケルが20歳の時に発表された『オフ・ザ・ウォール』は、「今夜はドント・ストップ」「ロック・ウィズ・ユー」の2曲のNo.1ヒットを生み、シングルを4曲連続でビルボードチャートトップ10に叩き込む新記録を樹立、大ヒットアルバムとなりました。にもかかわらず、グラミー賞ではわずか1部門の受賞にとどまります。それがマイケルを大いにガッカリさせ、「次のアルバム『スリラー』をもっとすごいものにしてやろう! 」と、闘志に火をつけるきっかけとなったのです。
(YouTube: michaeljacksonVEVO) また、この『オフ・ザ・ウォール』の、キャッチーかつセクシーで、なおかつ大人の粋な抑制も漂うディスコ~R&B・ソウルサウンドは、のちのミュージシャンたちに大きな影響を与えます。先日「アップタウン・ファンク feat. ブルーノ・マーズ」でグラミー賞を受賞したマーク・ロンソンは、「長年DJをやっているが、『オフ・ザ・ウォール』ほどプレイしているレコードは他にない」と発言し、ファレル・ウィリアムスは「『オフ・ザ・ウォール』や、その後に続くマイケルの作品はぜんぶ、僕の音楽の源だ」「マイケルのおかげで、僕たちの場所がある」と語っています。また、昨年「キャント・フィール・マイ・フェイス」が特大ヒットした美声ソウルシンガー、ザ・ウィークエンドも、ファルセットで歌おうと思ったキッカケは『オフ・ザ・ウォール』だったんだとか。ヒットチャートで今もなおそのDNAが生き続けている、まさに、クラシックにして最新の1枚というわけです。 今聴きかえすと、このアルバムは、マイケルの全ディスコグラフィの中で、自分の好きなものを一番純粋に詰め込んだアルバムに思えてなりません。このあと、『スリラー』が音楽史上最高のヒットアルバムとなり、キング・オブ・ポップの称号を手にしていきます。でもそうなる前の、何の制約もなく好きな音楽を歌えるという喜びが、このアルバムの最高のグルーヴに繋がっており、また、37年経つ今も人々を惹きつけているのかもしれません。
齋藤奈緒子
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