東京を歌う曲になぜ名曲が多いのかを改めて考える。【後編・内から見た東京】

  • 邦楽
柴那典

「東京」をテーマにした曲には名曲が多い。その定説の理由を改めて様々な切り口から分析するのがこのコラム。前編では「外から見た東京」、つまり地方出身者から見た東京の街をキーワードにいくつかの曲を紹介してきた。「東京」という言葉を通して、新生活への夢や希望、愛しい恋人との出会い、別れ、故郷への思い、そういう様々な人生の転機と感情の機微が描かれてきた。

そして後編のキーワードは「内から見た東京」。東京で生まれ育った人たち、そこで暮らす人たちの視点から見た「東京」を歌う名曲を紹介したい。


起きぬけの露面電車が 海を渡る

▼はっぴいえんど「風をあつめて」
はっぴいえんどの不朽の名作『風街ろまん』収録の一曲。歌詞を書いた松本隆は東京都港区の青山生まれ。幼い頃の街の風景は64年の東京五輪を契機にした都市開発ですっかり失われてしまったという。そんな彼が、路面電車が走っていたかつての幻想の東京を見立てて描いた架空の街が「風街」。同作収録の「暗闇坂むささび変化」の「暗闇坂」も麻布十番にある実在の地名。「内から見た東京」は、失われた風景へのノスタルジーの象徴だった。


おんぼろ列車に乗って田舎道

▼サニーデイ・サービス「東京」
96年にリリースされたサニーデイ・サービスの名盤『東京』の一曲目。70年代のはっぴいえんどを真っ当に受け継いだこのアルバムは、90年代の日本のロックを象徴する一枚になった。印象的なのは「おんぼろ列車に乗って田舎道」という歌詞が出てくること。なぜ「東京」という曲名なのにこんな歌詞なのだろう?とリリース当時は思っていたけれど、はっぴいえんど「風を集めて」と重ねあわせるとその理由がよくわかる。曲を書いた曽我部恵一は香川県出身。「東京」という言葉は、上京した彼自身が暮らす場所ではなく、あくまで「失われた少年時代の風景へのノスタルジー」の符合として使われたものだった。


私を抱きしめ 守ってくれた人は もういない

出典元:(YouTube:サザンオールスターズ)

▼サザンオールスターズ「東京VICTORY」
東京をテーマに数々の名曲を作り、先日にはスペシャル番組『偉大なる歌謡曲に感謝〜東京の唄〜』で東京を題材にした昭和の歌謡曲をカバーするなど、なみなみならぬ東京への愛を示してきた桑田佳祐。サザンオールスターズが2014年に発表したこの曲は2020年の東京オリンピックをイメージしたもの。やはり「失われる風景」がモチーフだ。彼らが長年拠点にしてきた「聖地」青山のビクタースタジオなど変わりゆく風景に心を寄せつつも、未来に思いを馳せて「みんな頑張って」とエールを送る一曲になっている。


町の火がやがてまたたきだす

出典元:(YouTube:松任谷由実)

▼荒井由実「中央フリーウェイ」
松任谷由実の東京にまつわる名曲といえば、荒井由実時代の「中央フリーウェイ」。「右に見える競馬場 左はビール工場」というのは中央自動車道を調布から西に向かって走っていく時に見える風景をそのまま描写した歌詞だ。八王子市出身の彼女らしいフレーズと言える。彼女のように東京で生まれ育ったアーティストの場合、「東京」という言葉をあえて使わないことが多い。むしろ、もっと日常に近い地名を織り込むことで都市生活のリアリティを浮かび上がらせるほうが多いとも言える。


ああ 街は深く僕らを抱く!

▼小沢健二「強い気持ち・強い愛」
小沢健二も東京を舞台にした数々の名曲を作っているが、決して「東京」という言葉を曲名につけたりしないのが、やはり東京育ちである彼のポイント。かわりに出てくるのが、「いちょう並木」や「晴海埠頭」(「いちょう並木のセレナーデ」)や「公園通り」(強い気持ち・強い愛)など各地の地名、というわけだ。ただし、2010年代に入ってニューヨークに拠点を移した小沢健二は、今再び、もっとグローバルな視点で「外から見た東京」を描こうとしている、という気がする。このあたりは新曲が音源として発表されたらより詳らかになるだろう。

都市生活者のリアルを溶かしこんだポップスの系譜には、シュガーベイブ「DOWN TOWN」や、それに連なる山下達郎、大貫妙子などの曲群が加わる。さらに、ここ最近のインディー・シーンを賑わすシティ・ポップ以降のバンドたちを加えると、「内から見た東京」は、そのまま日本の「都市型ポップス」の系譜として成立するとも言えそうだ。


【内から見た東京 ソングリスト】
・ はっぴいえんど「風をあつめて」
・ はっぴいえんど「暗闇坂むささび変化」
・ サニーデイ・サービス「東京」
・ サザンオールスターズ「東京VICTORY」
・ 桑田佳祐「東京」
・ 荒井由実「中央フリーウェイ」
・ 松任谷由実「手のひらの東京タワー」
・ 松任谷由実「未来は霧の中に」
・ 小沢健二「いちょう並木のセレナーデ」
・ 小沢健二「強い気持ち・強い愛」
・ シュガーベイブ「DOWN TOWN」
・ 赤い公園「西東京」
・ 中原理恵「東京ららばい」
・ ハナレグミ「中央線」
・ 大貫妙子「東京オアシス」
・ cero「夜去」
・ Awesome City Club「Lullaby For TOKYO CITY」
・ never young beach「どんな感じ?」
柴那典

ライター/編集者。1976年生。 音楽に軸足を置きながら、いろんなことを書いています。 主な掲載先:『ナタリー』『nexus』『CINRA』『MUSICA』『marquee』『papyrus』などなど。 http://shiba710.blog34.fc2.com/ twitter:shiba710

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