現代のメッセージソングに隠された「僕らの未来」

  • 邦楽
kimkim

衆議院選が終わったかと思えば、今度は都知事選と、皆さんも政治への関心を特に強く持った7月になったのではないでしょうか。海外でも、特にイギリスではEU離脱が決まるなど、世界の情勢が大きく変わりそうな予兆も感じる昨今。日本においてもまた、そういった変化が、近い将来生まれるかもしれませんね。そういった中で、音楽は常に、そんな時代の背景と寄り添うように生まれてくるものです。かつてフォークソング全盛だった60~70年代には、ストレートに反戦や政治について歌った曲も多くありましたが、その形も昨今のJ-POPでは少し移り変わり、直接的ではなくやや間接的に表現されるようになってきました。しかしそれでも、アーティストそれぞれが、自分なりの表現方法で、今の気持ちを歌っているのです。今回はそんな、アーティストからのメッセージが隠された歌詞をご紹介していきたいと思います。


現実感との対比が絶妙なメッセージソング

昨今のJ-POPシーンにおいても、特に熱いメッセージ性を持った歌詞で、リスナーに訴えかけるように歌う印象の強い高橋優。中でも特に代表作といえる『ほんとのきもち』は、ちょっと現実味を感じにくい世界や政治の情勢を、自身の身近な生活感と対比で表現することで、そのようなメッセージ性を上手く溶け込ませています。

 テレビの中で怒鳴り合っているあの人たちに何があったの?
 一体どんな事情があったんだろう
 少し気まずくなっていた友達に今電話したら何を言われるだろう?
 そして僕は何て言うんだろう?

Aメロで描かれた見事な対比の一つです。国会答弁を想起させるような1フレーズ目。「あの人たち」を政治家と置き換えると、そんな遠い世界で起こってるような“喧嘩”をイメージさせられます。そして、 身近に起こった過去の友達との“喧嘩”を思い出すような2フレーズ目。遠くかけ離れた出来事のようでありながら、実はその延長にあるということを、対比と共通項を並列に提示することで表現しています。

 ことの真相は何も分かってるようで分からない
 それでもどうにか生きていかなくちゃならない
 疑ってばかりいられない でも信じれるものも少ない
 ただ一つ確かなのは僕の気持ち
 君のその声聞かしてよ 信じれるものがそこにあるよ
 ただ一つ確かなのは僕の気持ち 「君が好き」

今、世の中で巻き起こっている事実も、ニュースで知る限りでは信じがたいことも多い。でも、「君が好き」という自分の感情は信じられる。そんな身近にいる“君”が聞かせてくれる声なら信じられる。それを信じることで生きられる。というメッセージが詰まった、素晴らしいラストですね。

このようなメッセージソングでは、分かりやすい“君”という存在を置くことで、リスナー自身においての置き換えをしやすくさせ、共感が得やすくなっています。今の世の中に対して大きく疑問を投げ掛け、何も出来ない自分を歯がゆく思いながら、でも自分に出来ることはとにかく目の前にいる君を守ることだ!と信念を貫くような歌詞が、昨今のメッセージソングの一つの在り方として確立されているのです。今の世の中に対しての疑問を、大きく考えるとどうしても自分ごとのようには考えづらくなりますが、目の前の君を守るという身近な信念を持って生きれば自ずと、自分にとって何が一番大切なのかが、大きく見えてくるものではないでしょうか。

出典元:(YouTube:takahashiyu)


現代の不安を連想させるような、空想の未来

タイトル『FREE STAR』の“star”というワードと、印象的なイントロのギターリフから、宇宙のイメージが思い浮かぶACIDMANの名ナンバー。少しSFチックな歌詞の世界観が、遠い未来の地球を連想させます。

 月光のない きれいな夜
 小さな光を売る声
 儚くて 美しくて
 狂いそうに きれいな夜

ボーカルの大木伸夫が、「太陽系から外れて光がなくなった地球で、光が商品として売られている世界をイメージした」というストーリー。サウンド同様に、とてもきれいなワードが並んでいるようにも見えますが、だからこそその背景にある、黒い世界を読み取りなるような歌詞です。

 少年はいつも集めていた
 残り僅かな光を
 一欠片 独りきり
 笑い合えた目々を思い

 月が点火した最後の夜
 戦争なんて忘れそうな
 ただきれいで 美しくて

この歌詞には、“少年”という対象が主人公として存在しており、その少年が過去のシーンを回想します。そこに何か争いが起こっていたことを想像させられると、ただの“きれい”ではなく、無機質で荒廃した風景をイメージさせられるようでハッとします。そして、この物語でいう“過去”はつまり、リスナーにとっての“現代”。現代における争いが、未来のそんな無機質な世界に繋がる可能性があるというイメージが、空想でありながらも現実味を帯びさせるのです。

 Free star たった一秒で
 Free star 世界を変わる
 僅かに残された光

この物語では、その少年が世界を変える僅かに残された光を探しに行きます。いわば、この世界でいうヒーローのような存在であり、その“光”は、“希望”のようなものです。そんなヒーロー、そして希望を求める現代を、どこか象徴したような曲になっているのですね。

こういった主人公が現れる、ストーリー仕立ての歌詞の曲は数多く存在しますが、例えばこのような未来の世界を描いた世界なのであれば、現代における不安から導かれる要素やワードというのが、リアリティに直結するのです。

出典元:(YouTube:AcidmanVEVO)


多数決の是非を問う、ストレートなロックナンバー

最後に、このようなメッセージソングの中でも、特にストレートに表現された曲をご紹介します。amzarashiの『多数決』は、昨今のJ-POPシーンにおいては珍しいほどに、今の現代における疑問を痛烈に投げかける歌詞になっています。

 価値観も善悪も 多数決で決まるなら
 もしかしたら 生まれる場所を間違えたのかもな
 もういいよ いいよ この部屋は世界の隅で
 機会を今かと、窺うには丁度いいかもしれない
 賛成か 反対か 是非を問う 挙手を願う

全てにおいて多数決で決まる世の中に、それでいいのかとストレートに投げかける歌詞が印象的です。“多数決”の中にはもちろん、今の日本における選挙制度も含まれるでしょう。この歌詞では、特に人物が描かれていませんが、“この部屋”が自分の“居場所”としての象徴を表しており、世界から見てまるで忘れられたような自分という存在を、虚無的に表現しています。

 札束の数 名誉の数 友達の数 勲章の数
 勝ち越した数 賞状の数 努力した数 褒められた数
 僕らの価値は数字じゃない
 自分の評価を人に任せる訳にはいかない
 世界は移り変わる 昨日の価値は今日の無価値

しかしこの歌詞では、自分の価値を決めるのは人ではなく自分だ!と、発奮するように前を向いていきます。“昨日の価値は今日の無価値”。ですが、今日の無価値は明日には価値になる可能性もある。常に目まぐるしく変わり続ける時代の中で、自分自身で価値を見出すことが、明日の自分の価値に繋がると、強く諭されるような歌詞ですね。

出典元:(YouTube:amazarashi Official)

このようなメッセージ性を含んだ歌詞は、アーティストそれぞれの表現を用いながらですが、それでも必ずリスナーを勇気づけるために存在しているといえます。他にも様々なカタチで、現代に対する深いメッセージ性を提起しながらも、リスナーを鼓舞する歌詞を持った曲をピックアップしてみました。どんな時代においても、やはり音楽が持つパワーは偉大なものです。
kimkim

1985年11月3日生まれ。2010年~2012年末まで、大手レコード会社新人発掘部にて勤務。当時、年間で500を超えるライブチェックを行っていた超ライブジャンキーで、ライブハウス事情・新人アーティスト情報に詳しく、中でも女性シンガーソングライター界隈に精通している。現在は、ミュージックビデオを中心とした、 音楽系映像制作会社である「クラウディ株式会社」に籍を置きながら、 個人プロジェクト「ai-R.(アイアル)」にて、女性シンガーソングライターの制作・マネジメントや、イベント企画などを行っている。 http://ameblo.jp/kimkim-air

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