椎名林檎-必ず聴くべき心を震わす歌詞とフレーズ

  • 邦楽
三宅正一

デビュー20周年を迎えた椎名林檎のデビューから現在に至るまでの全楽曲がKKBOXにて解禁。1998年5月にシングル「幸福論」でデビューを果たし、その強烈な個性とジャンルレスな幅広い音楽性に、多くのリスナーは魅了され続てきました。今回は数々の作品の中から椎名林檎の歌詞にスポットを当て、初期の隠れた名曲や、生き方の指針ともなる名作をピックアップしてお届けします。少し違った角度で椎名林檎の作品に耳を傾けてください。

椎名林檎と青の時代

「すべりだい」
デビューシングル「幸福論」のカップリング。コアなファンの間では有名な
エピソードだが、実はこの曲がリード曲になるはずだったという。ジャジーにスウィングするサウンドプロダクションとアンサンブルは、早熟な音楽性がダイレクトに表出していると同時に、間奏以降に際立つ歪んだエレクトリックギターは初期のロックアーティスト然とした椎名林檎のイメージと符合する。官能と叙情が等しく溶け合った、ものすごく完成度の高いラブソングである。

「茜さす 帰路照らされど・・・」
1枚目のオリジナルアルバム『無罪モラトリアム』に収録。当時、若干ハタチでこんな大傑作を作り上げたことにあらためて驚かされるが、あまつさえこの名バラードは椎名が16歳のときに生まれたというのだからすごい。イントロのピアノが鳴った時点で立ち上がるドラマティックかつ切実な音楽としての像と態度が素晴らしい。ストリングスが重要な役割を果たしているが、それが響きとして決して大袈裟にならず、ラフにカッティングされるアコースティックギターとの絡みも絶妙である。どこか室内楽のようなムードをまとっているのも興味深い。忘れがたい情感に富んだ歌はまさに椎名林檎節としか言いようがない。〈アイルランドの少女が歌う〉というフレーズを聴くと、いつも若き日のビョークを想起するが、実際のところはどうなのだろう。

「あおぞら」
4枚目のシングル「本能」のカップリング。「茜さす 帰路照らされど・・・」と同じく、この曲もまた椎名が16歳、高校2年生のときにソングライティングしたという。ゆったりとしたリズムにトランペットやオルガン、ギターのカッティングがチャーミングな様相で交わるオーガニックなサウンドが心地いい。どこか儚くもキラキラしたプログラミングやアウトロの口笛も印象的だ。友人に捧げたリリックとメロディはどこまでも優しく、椎名が送った青春の季節のきらめきを映し出している。

椎名林檎と人生賛歌

「青春の瞬き」
2011年11月にリリースされた栗山千明の5枚目のシングル「月夜の肖像」のカップリング曲として椎名が楽曲提供し、2014年5月リリースのセルフカバーアルバム『逆輸入 〜港湾局〜』に収録された。また東京事変のラストツアーのアンコールで披露されたこともあり、この曲に強い思い入れを持っているファンも多いはずだ。5枚目のオリジナルアルバム『日出処』のリリースタイミングで筆者が椎名にインタビューしたときに東京事変の話題になったのが、そのときにバンド活動を振り返り「いいことしか思い出せないですよ。『青春の瞬き』ですよ、まさに」と言っていたのがとても印象的だった。彼女の言葉を踏まえて、この曲のリリックをあらためて受け止めるとさらにグッとくるものがある。ここで歌われている青春は、大人と呼ばれるようになってから一定の時間を過ごした者が見つめている過去と現在と未来が交差する刹那だ。サビの(時よ止まれ 何ひとつ変わってはならないのさ 今正に僕ら目指していた場所へたどり着いたんだ)というフレーズに胸を打たれずにはいられない。

出典元:YouTube(椎名林檎)

「ありあまる富」
10枚目のシングルであり、TBS系金曜ドラマ「スマイル」の主題歌として書き下ろされたこの曲。歌詞における椎名の毅然とした態度と凛とした目線はマイノリティに対して向けられている。それはまるで、慈愛に満ちた母のようである。たとえばもしあなたが社会的弱者に位置づけられ、権力を振りかざす者に何かを奪われたとしても、心配することはない。なぜなら〈彼らが手にしている 富は買えるんだ〉と椎名は歌う。そう、本質的な富はお金では買えないのだ、〈何故なら価値は 生命に従って付いている〉から。こんなことを言うと本人は嫌がるかもしれないが、個人的にはこの曲の歌詞を教科書に載せてほしいと思っている。

出典元:YouTube(椎名林檎)

「人生は夢だらけ」
高畑充希が出演する「かんぽ生命」のCMソングとして書き下ろされ、昨年12月にリリースされたセルフカバーアルバム第二弾『逆輸入 〜航空局〜』に収録された。ワルツをベースにしたビッグバンドジャズをゴージャスな編成で響かせるこの曲はミュージカル的であり、リリックもシアトリカルなダイナミズムを放っている。〈それは人生 私の人生 誰の物でもない 奪われるものか 私は自由 この人生は夢だらけ〉というラストのフレーズにこの曲のすべてが凝縮されていると言っても過言ではない。豊かに、自由に、活き活きと生きて、他の誰のものでもない人生という物語を謳歌しよう。そのメッセージは椎名林檎という歌うたいの核心でもある。

出典元:YouTube(椎名林檎)

椎名林檎の作品は多面的で様々な表情を見せてくれます。そして2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックの開会式、閉会式のプランニングチームにも就任、これからの動きにも目が離せません。これまで、椎名林檎に触れる機会が少なかった人も、改めて彼女の魅力に触れてみてはいかがですか。

三宅正一

株式会社スイッチ・パブリッシング入社。カルチャー誌「SWITCH」の広告営業と編集を兼任。その後、カルチャー誌「EYESCREAM」の編集を経て、2004年に独立。フリーラ イターとしての活動を開始し、現在に至る。 現在は音楽を軸としたカルチャー全般に関するインタビュー及び執筆を担当。2017年12月、主宰レーベル・Q2 Recordsを始動。第1弾作品として踊Foot Worksの1st CD『Arukeba Gravity - ep』をリリースした。

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