人気クリエイターたち ボカロで世に出した名曲

  • 邦楽
風間大洋

YouTubeやSNSといったインターネット上のコンテンツから登場したアーティストがチャートを賑わすことは、すっかり珍しいことではなくなった。日本においてその先駆けとなったのがVOCALOID(以下、ボカロ)とニコニコ動画のムーヴメントである、と言っていいだろう。ボカロ文化の象徴であり、実質的にスタート地点ともなった初音ミクの誕生から12年が経過した現在。一時の局地的なブームこそ落ち着いた感はあるものの、音楽ジャンルの一つとして、あるいはカルチャーの一つとして、ボカロの存在は無視することのできないものとなっている。

出典元:YouTube(ヨルシカ / n-buna official)

実際、ここ数年で登場したアーティストの中にもVOCALOIDクリエイター・ボカロP出身は数多くおり、バンドを組む、オーディションを受けてシンガーになる、といった音楽を生業とするための入り口の一つとしても効果的に機能している。むしろ、PC環境とソフト、一定のDTMスキルさえあれば、居住エリアや人間関係と関係なく、最も幅広い層にクリエイターへの道を切り開くことのできるツールと言ってもいい。

出典元:YouTube(須田景凪/バルーン)

シーンの黎明期からボカロ作品を投稿し続けている者、ボカロから活動をスタートさせてより広いフィールドで活躍するようになっている者、あるいはボカロPとして名を上げてはいないものの「ボカロ的」とされる音(高速BPMやトリッキーな曲展開、ジャンルを横断したアレンジなど)を楽曲に反映させている者まで、2019年のシーンを見渡せば、ボカロに端を発した才能が数多く存在する。そこで本稿では、ボカロシーンが生んだ才能と、彼らがボカロ時代に打ち立てた金字塔をまとめていく。ボカロシーンに触れてきた方は懐かしく、そうでない方は彼らの原点の発見として、楽しんでいただければ幸いだ。


米津玄師

出典元:YouTube(米津玄師)

このジャンルを語る上で、米津玄師の存在はまず最初に触れておかなければならない。ボカロP・ハチとして、それまでダンスミュージックやJ-POP的な歌ものが多かったボカロシーンにロックバンド的な音で新風を吹かせ、独特のコード感や歌詞の世界観など現在の彼にも通じる唯一性も当時から示していた。多くの後進が憧れとして名前を挙げるなど、その存在なくして現在のボカロシーンは語れない。米津玄師としての活動開始以降はボカロPとしての楽曲投稿は多くないが、アルバム『YANKEE』(2014年)で自身のボカロ曲「ドーナツホール」をカバー。初音ミクの10周年の際には「砂の惑星」を投稿している。

出典元:YouTube(米津玄師)


ヨルシカ

出典元:YouTube(ヨルシカ / n-buna official)

YouTubeでの再生数、アルバムの売上などあらゆる指標においてその人気が伺えるヨルシカ。作詞作曲、編曲、コンセプト作りに至るまで全てを手がけるコンポーザーのn-bunaはボカロPとしても同名義で活動中であり、シンガーのsuisは元々n-bunaの楽曲のリスナーだったという、まさにボカロシーンが無ければ生まれなかった2人組だ。学生時代に既にボカロシーンが存在していた世代にあたり、一般的な邦楽や洋楽と同じようにボカロ音楽に触れていたということもあってか、奇をてらわないスタンダードな楽曲をボカロに歌わせた楽曲が特徴の一つ。現在のヨルシカの音楽性との共通項も多い。

出典元: YouTube(ヨルシカ / n-buna official)


須田景凪

出典元:YouTube(須田景凪/バルーン)

バルーンとしてボカロ曲を投稿していた須田景凪。当初はプレイヤーとしての道を志していたというが、ボカロPとしての活動歴や時期はn-bunaらと近く、ジャンル・カテゴリを問わず先達からのリファレンスを自身の作風に活かしている。また、自身が歌唱を担当し、ライブ活動も行なっていることから、よりシンガー・ソングライターとしての立ち位置が明確になっていると言えるだろう。最新作の『porte』からは「MOIL」が映画『ニノ国』の主題歌に、「veil」がTVアニメ『炎炎ノ消防隊』のエンディングテーマとなっており、今後さらに幅広い層へと楽曲が届いていく可能性を大いに秘めている。

出典元:YouTube(須田景凪/バルーン)


PENGUIN RESERCH

出典元:YouTube(PENGUIN RESERCH Officila Channel)

ロックバンドとして活動しているPENGUIN RESERCHだが、そのベーシストでありソングライティングを手がける堀江晶太は、ボカロP・kemuとしての名義も持っている。投稿した曲数自体は決して多い方ではないものの、その全てがニコニコ動画上で大ヒットの物差しである“ミリオン再生”を達成するなど楽曲のクオリティは非常に高く、歌ものとしての完成度から、ボカロ文化から派生した“歌ってみた”などの2次創作文化においても、彼の楽曲は大きな人気を獲得している。また、これまで作曲/編曲家として手がけた楽曲も数多く、例えばLiSAの代表曲のひとつ「Rising Hope」の編曲は堀江の手によるもの。

出典元:YouTube(ke-san β)


ヒトリエ

出典元:YouTube(ヒトリエ/wowaka)

2019年4月に急逝したヒトリエのフロントマン・wowaka。ボカロシーンのレジェンドとしてハチと双璧を成す彼の功績にもここで触れておきたい。いま“ボカロ的”とされる特徴のひとつである高速BPMや細かい譜割に文字量を凝縮させた歌メロは、wowakaの発明品といっても過言ではなく、2010年代のフェス文化で人気となった速い四つ打ちも当初から取り入れている。ヒトリエではそういった特徴を人力で再現することで、唯一性の高いサウンドを生み出しており、彼の不在はボカロシーンのみならず音楽シーンにとって惜しまれてならないが、バンドは3人での活動を継続している。今後のヒトリエの動向も追っていきたい。

出典元:YouTube(ヒトリエ/wowaka)


風間大洋

ウェブサイト「SPICE」で音楽ジャンル編集長を務める傍ら、フリーランスとしてライター・編集、撮影、動画の企画なども。1982年生まれ。趣味・興味の範囲は相当広いタイプです。 https://twitter.com/zamax69

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