ビギナーにもわかるaikoの魅力

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武市尚子

2020年2月26日、aikoの楽曲が、ついにダウンロード配信およびサブスクリプションサービスでの配信をスタートさせた。ここで聴けるのは、メジャーデビュー曲「あした」から最新シングル曲「青空」までのシングル39作品、オリジナルアルバム13作品、ベストアルバム3作品、ミュージックビデオ49作品と、aikoがこれまでリリースしてきた全414曲だ。自分自身や作品を象徴するイメージとして彼女がセレクトした写真やデザインなど、アートワークも含め、その全てでの表現がaikoであったことから、手に取って感じられるCDでのリリースにこだわって来た彼女だからこそ、このサブスク解禁は大きなニュースであったのだと思う。

出典元:YouTube(aikoOfficial)

しかし、このキッカケは必ずと言っていいほど、「カブトムシ」のaikoとしか認識していない人達に、aikoの魅力を今以上に伝え、今以上に多くの人達に彼女のシンガーソングライターの才能や、aikoという哲学に気付かせることになるだろう。最新シングル「青空」で歌われる“知ってはいけない”恋を“知ってしまった”心情を見事なワード使いで表現するaikoはさすがであり、その苦しみを、暗くとつとつと歌うのではなく、明るいメロディラインをファンクテイストなリズムで歌って魅せることで、よりその心情を切なく聴き手に響かせるその個性もさすがである。既存曲「ココア」にも似たaikoからのメッセージを自分に重ねる聴き手は多いはず。彼女が歌う歌は、全ての聴き手への応援歌なのかもしれない。そう想えてくるaikoの哲学を、ここに6曲ピックアップして紹介したい。


カブトムシ

出典元:YouTube(aikoOfficial)

知らない人はいないであろうaikoの代表曲。aiko=「カブトムシ」という認識の人も多いはず。その認識は間違ってはおらず、aikoが描く究極のラブソングの中でも群を抜いた極上作であると言っても過言ではないだろう。柔らかなメロディラインに、彼への愛しさが溢れ出た歌詞を乗せたこの曲は、2人が一緒に居る時間の体温や、そこに流れる幸せな空気までもリアルに感じさせる。ゆったりとしたテンポ感とサビで魅せる半音使いが、幸せな今と、この幸せがずっと続いてくれますようにと願う少々の不安をかきたてる。小柄なaikoが〈少し背の高いあなた〉に寄り添う姿も、大きな木に必死にしがみ付くカブトムシを想像させるのも、実にノスタルジックである。


えりあし

出典元:YouTube(aikoOfficial)

まだ過去に出来ない愛しさを綴った「えりあし」も、この歌詞の中に居る2人が過ごした日々をとてもリアルに思い起こさせる。この曲もaikoを代表する人気曲の一つ。涙ながらに聴き入る女性aikoジャンキーは、自らの恋愛の後悔をこの曲に重ねて共感し、男性aikoジャンキーは、ずっと自分との時間を忘れずに大切に想い続けてくれている心情を歌うaikoに、こんな風にいつまでも想い続けられたいと願う理想の女性像を重ねるのかもしれない。そして多くの人が、後悔を振りかえらず一生懸命に前を向こうとしている主人公の健気さに、aikoを重ねるのだろう。そして、そんなaikoをどうしようもなく愛しく想い、訪れるかわからない彼との5年後の偶然の再会に、彼女が笑っていられるようにと願うのだろう。愛しかった日々を想いながらも、前を向こうとする心情を届けるメロディの運びも、心地良く伸びるaikoの歌声も、全てが美しく切ない。


水玉シャツ

ピアノのみの音にそっと声を乗せて届けられるこの曲は、またしても終わってしまった愛しい日々への後悔。楽しかった日々を共に過ごした“水玉シャツ”という具体的なアイテムが、より切なく過ぎ去った時間を浮かび上がらせる。そんな歌詞の魅せ方と、ミディアムナンバーに多くみられる音程を細かく上下させる独特なaiko節も、この曲ではしっかりと感じられる。

音楽を聴いているという感覚はもちろん、ミディアムやスローナンバーで感じる話しかけられているようなaiko節は、まさしくaikoだけの個性と言えるだろう。


出典元:YouTube(aikoOfficial)

恋愛ジャンキーと呼ばれるaikoが、恋愛をテーマではなく、生まれたばかりの命に歌ったとされるこの曲では、素顔のaikoからの純粋なメッセージが込められている気がしてならない。恋愛ではない愛の形は、より深くaikoの人柄と哲学を浮き彫りにさせる。aikoがこの曲に込めたかったであろう大きく包み込む無償の愛を、ピアノの音色に沿った柔らかなストリングスが担っている。この世の険しさも、悲しさも、切なさも、かけがえのない幸せも、経験した者からの愛しい応援歌だ。


Do you think about me?

日本語タイトルが多いaikoが時々選ぶ英語タイトルの1つ。〈ねぇ 知ってる?〉という問いかけから始まるこの曲は、女性aikoジャンキーからしてみたら、「分かる!そうそう!」という声が聞こえてきそうな代弁である。言葉に出来ない気持ちとよく言うが、この歌詞を読み返すと、言葉に出来ない心情などないのかもしれないと思ってしまうほど、改めてaikoの作詞力のスキルの高さに驚かされる。

アイツを振り向かせる方法

バラードもミディアムも絶品のaikoだが、ポップな楽曲表現も実に素晴らしい。ジャズ要素を強く感じさせるこの曲は、フラれた心情をちょっぴりファニーに書き起こした歌詞が、リズミックに歌い上げられた最高にハッピーなナンバーである。歌詞の内容的に、恋愛が上手くいっている幸せな時間を描いたものではないのだが、湿っぽくないのが不思議なところ。この楽曲に限らず彼女の楽曲全てに当てはまることでもあるのだが、恋を失った可哀想な主人公を題材にした心情を描くことが多いのに、aikoというアーティストに暗く湿っぽい印象は全くないというところだ。

切ない心情と明るいメロディラインの絶妙な同居によって生まれる魔法。これこそがaikoという魔法の特徴でもあると言える。また、ジャズ風味をなんちゃってジャズにすることなく、緻密な音楽ルールをも感じさせる音への向き合い方を感じるのも、音大を卒業している彼女だからこそ。そんなaikoの本物を見せつける1曲といってもいいだろう。奥深いaikoの音楽性に気づかさせられるナンバーだ。

武市尚子

1968年 12月15日生まれ。愛知県出身 1990年 名古屋芸術大学美術学部・デザイン科卒業。 1990年 株式会社BIGI GROUP・PINK HOUSE PRESSに勤務。 1999年 株式会社BIGIを退職後、アイドル雑誌の編集を経てフリーライターに。バンド、ソロアーティスト、俳優、アイドルなど幅広くインタビュー。 ライター、編集以外にも、ラジオやトークショーなどのMCも担当。現在は首振りDollsのマネージメントも手掛ける。