時代を創ったハナレグミ 魅惑の名曲たち

邦楽 総合 特集
後藤千尋

時代を彩り輝きを放ち続ける名曲たちが、ついにサブスクリプションサービスで配信をスタートさせた。ハナレグミは国内大型フェスのトリを務めるなど、多くのミュージック・ラヴァーから愛されているのはもちろんのこと、菅野美穂出演のサントリー『角ハイボール』のCMソングでおなじみの「ウイスキーが、お好きでしょ」を歌唱したことでも知られている永積崇によるソロプロジェクト。

新型コロナウィルス感染症の影響で不要不急の外出自粛が要請され、家にいることを選択し”おうち時間”、”STAY HOME”といった自粛期間中の自宅での過ごし方、楽しみ方に注目が集まっている今だからこそ、お酒を片手に、はたまた晴れの日にお散歩をしながら耳を傾けたくなるような曲もハナレグミの音楽には多く存在する。そして、彼の声を聴くと、「やはり歌の力はすごい」と思わざるをえないのだ。

今回は、そんなハナレグミの解禁された約100曲以上の楽曲の中から、時代を創ったハナレグミの魅惑の名曲を振り返りたい。心の深淵を覗き込むような”ハナレグミの歌”を、この機会にぜひ堪能してほしい。


デビュー曲「家族の風景」

<キッチンにはハイライトとウイスキーグラス>といった歌い出しが印象的な「家族の風景」は、カラオケでも定番ソングとして歌われることも多いのでご存知の方もいるだろう。ファンクバンド時代からソロに転身した永積の方向性を示すファースト・アルバム『音タイム』に収録されている同曲は、心に直接的に語りかけられるような憂いを帯びた優しさを宿したハナレグミらしさを象徴する1曲であり、間違いなく後世まで語り継がていくであろう名曲だ。

ふとその歌詞に目をやると、強く訴えかけるメッセージ性のようなものはなくとも伝わってしまう音の”香り”のようなものを感じる。多くは語らないけれど、言葉の余白に隠されたぬくもりに触れることができる。どこにでもあるような「家族の風景」は、どこにでもあるような風景であり、そこにしかないかけがえのないもの。自分の中で当たり前となっている何気ない心象風景を、こんなにも鮮やかにしてくれるのも、ハナレグミの魅力のひとつだろう。本作に収録されているアルバムタイトルを冠した「音タイム」もまた、ソロに転身した永積をアップデートした必聴の1曲となっている。


ハナレグミ初のカバー集『だれそかれそ』

出典元:YouTube(Victor Entertainment)

冒頭でも触れた「ウイスキーが、お好きでしょ」は1991年に石川さゆりがSAYURI名義で発表し、その後も数多くのアーティストが歌唱してきた名曲だ。ハナレグミの「ウイスキーが、お好きでしょ」は初のカバー集『だれそかれそ』に収録されており、お酒とともに楽しみたい楽曲の代表格だ。アルバムのタイトル『だれそかれそ』は【黄昏】の語源となった”誰を彼そ(誰だ、あれは)”。夕暮れの薄暗くなった時間に相手の顔が見分けにくくなったことに由来しているが、東日本大震災後に自分の歌を見つめ直し、自分の歌う意味を問う作品であったとリリース後、さまざまなインタビューで語っている。

「日が長くなって 影が長くなる頃よく自分に起きる

あの突然の胸騒ぎ 誰かに逢いたくなるけど それが誰だかわからない

どこかに無性に帰りたくなっているのに、それがどこだかわからない」

-永積崇 本人によるセルフライナーノーツ(引用)


出典元:YouTube(Victor Entertainment)

東京スカパラダイスオーケストラのメンバーと共演した「オリビアを聴きながら」(杏里)。


出典元:YouTube(Victor Entertainment)

スティールパンのアンサンブル上で歌唱している「空に星があるように」(荒木一郎)。
この他にも本アルバムには、「Hello,my friend」(松任谷由実)、「接吻 Kiss」(ORIGINAL LOVE)、「いっそ セレナーデ」(井上陽水)、「ラブリー」(小沢健二)といった不朽の名曲、全12曲をズラリ収録。

”ヒトはなぜ歌うのか”という問いに、永積自身が歌うことで答えているようだ。自分が誰なのかわからなくなる”だれそかれそ”な孤独な瞬間こそが、ハナレグミの歌が産まれるために必要な時間であり、歌を通して”僕はここにいるよ”と存在を証明しているようでもある。「エイリアンズ」(キリンジ)も、そんな黄昏時の故郷を近くに感じて聞きたい名曲だ。


永積が自身に投げかけた「君は何を探しているの?」

震災以降、歌うことの意味を探していた永積が”人の言葉だからこそ、たどり着ける世界もあるのだ”と、人の言葉へと想像力を膨らませたどり着いた作品『What are you looking for』は、YO-KING(真心ブラザーズ)、野田洋次郎(RADWIMPS)、池田貴史(レキシ)、堀込泰行(ex.キリンジ)、大宮エリー、辻村豪文(キセル)が詞・曲を提供した全13曲入りのオリジナル・アルバム。個性放つ作家陣の詞・曲に、想いを馳せることができる傑作だ。歌うことに重点を置き、自身に無かった言葉を旅するかのように歌う本作は、シンガーとしての永積の真骨頂に触れることのできる作品。

出典元:YouTube(Victor Entertainment)

作詞・作曲をRADWIMPSの野田洋次郎が担当した「おあいこ」は、野田洋次郎がCharaに提供した「ラブラドール」を聴いて、その才能に惚れ込み永積自らがオファーしたというラブソング。ハナレグミの楽曲は誰かのために歌われる曲が多いようにも感じるが、「おあいこ」では楽曲の主人公の立場に寄り添って自分のために甘えるように歌ったという。そんな歌声にも注目したい。


ライブの緊張感までも感じられる『Live What are you looking for』

『What are you looking for』を引っさげ2016年に行われた《Tour What are you looking for》のNHKホールで披露された21曲を完全収録したアルバム。ライブでは定番の「光と影」「家族の風景」「明日天気になれ」といった代表曲が収録されているライブベストといっても過言ではない。「大安」は永積がバンドとして活動していたSUPER BUTTER DOGのライブで披露されていた楽曲で、バンド時代は音源化されていなかった。アルバム『あいのわ』で待望の音源化がされたが、本作ではこの「大安」のライブ音源が聞くことができる。ウエディングソングとしてもオススメの1曲だ。

晴れやかなメロディが爽快

自分のサニーサイドに置いておきたい晴れやかなポップ・ミュージックも、ハナレグミに惹きつけられる要素だ。こんな時期だからこそ聴きたくなる、明るい楽曲がいっぱいだ。

変わらない ここで待ってても

行かなくちゃ 一人ぼっちでも

何処かで 僕を呼ぶ声

届くかなぁ 明日天気になれ

-「明日天気になれ」ハナレグミ

明日の天気に自身の願いを託すような同曲は、見えない先を照らしてくれるような、背中を押してくれるエールソングのようだ。そして、軽やかなシャッフルビートにノセて、陽気な歌が響く「うららかSUN」も晴れの日に聞きたいハナレグミらしいカントリー調のナンバー。

さらにレコーディングにも参加したみどりん(SOIL&"PIMP"SESSIONS)、BLACK BOTTOM BRASS BANDのメンバーに加え、池田貴史(レキシ、100s 、ex. SUPER BUTTER DOG)、TOMOHIKO(ex. SUPER BUTTER DOG)、U-zhaanが出演したミュージックビデオが話題となった「オアシス」はアップチューンでひたすらに音の世界に浸っていたくなる陽気さがある。


出典元:YouTube(Victor Entertainment)


映画『海よりもまだ深く』ともシンクロした「深呼吸」

出典元:YouTube(Victor Entertainment)

『海街diary』などの作品でも知られる是枝裕和監督作『海よりもまだ深く』は、なりたかった大人になれなかった大人たちの物語を描いた第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にも出品された映画作品。その音楽と主題歌「深呼吸」を永積が手がけた。

同ミュージックビデオは、そんな映画の池松壮亮演じる町田の背景を知りたいという声を受け、監督自らがメガホンを取りバックボーンを写した作品に仕上がっている。ちょっとした心の隙間に気配なく入り込んで、心地よく作用する魔法のような歌詞。

ぼくがぼくを信じられない時も

君だけはぼくのこと

信じてくれていた

夢みた未来ってどんなだっけな?

hello again

明日のぼくよ

-「深呼吸」ハナレグミ

おうちで過ごす時間にハナレグミの音楽に浸りながら、映画『海よりもまだ深く』もぜひ楽しんでほしい。


今を切る抜けるために「光と影」

だれでもない どこにもないぜ

君だけの光と影

光の先の闇を見に行こう

光と影

-「光と影」ハナレグミ

そしてハナレグミといったらこの曲という人もいるほど人気のラブバラード「光と影」。歌詞には<光の先の闇を見に行こう>と、表裏一体な光と影の関係性を歌いながらも、闇の部分とも向き合うタフネスさが垣間見れる。避けられない悲劇や闇、孤独——。それらと対峙することで、安易に慰めの言葉をかけるわけでもなく、自らの力で光へ向かう。闇を切り抜けようとする姿勢がハナレグミらしく、<どこへだって行けるんだぜ>とい歌詞が説得力を増し、そんな言葉たちに勇気付けられるナンバーだ。


ハナレグミの音楽は誰のものでもない。一貫して感じるのは、そんな感覚だ。自分だけに届くような歌が、そこにはある。君の歌であり、私の歌でもある。ハナレグミの音楽を通して、ぜひそれを自身の中で体感してほしい。KKBOXで展開しているプレイリストの中には、今回紹介しきれなかった“あなただけに響く名曲”も、まだまだ存在しているはずだ。

後藤千尋

1987年生まれ。編集者、ライター。大学在学中よりライターとしての活動をスタート。その後、音楽メディア「OKMusic」「EMTG MUSIC」編集部を経て、2020年より編集プロダクション Why Not!を立ち上げ、主にファッション/エンタメ/ビジネス関連の仕事に携わる。動画企画、撮影、ラジオDJをしていたことも。https://www.w-not.jp/