COVID-19以降、持続可能な音楽カルチャーとは。再開へ向けた第一歩を

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ふくりゅう

アーティストが自宅にいながら発信し、SNSで拡散する時代へと変化

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響がエンタテイメント・シーンに落とした影響は大きい。3月以降、軒並みライブやフェスが延期となり、CDショップが営業自粛になったことを受けてCD作品の新規リリースも延期となる作品がではじめている。新型コロナウイルスの影響で“コロナ以前〜コロナ以後”と一気に世界は変わってしまった。

アーティストは今できること=ライブ配信を行うことで“無観客ライブ”が増えてきた。しかし、この名称はそろそろ気を使うべきだろう。会場は無観客でもモニターの向こうには観客がいるのだから。さらに、無料配信も多いことから供給過多な側面もあらわれはじめている。刻一刻と状況や考え方に変化が起きているのだ。そんななか、このたった2ヶ月の間で様々なムーヴメントが起きた。

星野源「うちで踊ろう」

まず話題となったのは星野源による「うちで踊ろう」でのオンライン・セッションの試みだ。本人による“誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?”との呼びかけから急速に広がった。インターネットの可能性を示唆する試みだ。今後、回線が5Gになることでやれることのスペックも上がるだろうと想像力を刺激してくれた。

出典元:YouTube(星野源)

origami Home Sessions

同様のオンライン・セッションで言えば、Kan Sano、mabanuaらが所属する音楽制作者集団origamiが、収益が当面見込めないアーティストへ向けて楽曲を無償提供する『origami Home Sessions』を立ち上げたことも話題となった。提供するインスト・トラックやアカペラのデータを使ってコラボソングを作り、ネットにアップするなどリリースも可能という試みだ。収益は全てリリースしたアーティストに提供するというストリーミング時代ならではの粋でクリエイティヴな施策だ。
http://ori-gami.com/home-sessions/

White Teeth Donation

origamiの代表、対馬芳昭氏が音楽関係者に向けたドネーション(寄付)『White Teeth Donation』設立したことも大きなニュースだ。対馬氏の自己資金を音楽シーンに寄付することで“レーベル所属のアーティストに対してではなく、自分たちのいるフィールド(畑)を耕す”ことを目的としたドネーションとなった。音楽シーン全体を見渡すこと、手を取り合うこと。オープンマインドな姿勢に感銘した。
https://note.com/yoshiorigami/n/n565042212e67

One World: Together at Home

過去を振り返るとアーチストによる呼びかけや基金活動は1980年代の『USAフォー・アフリカ』、『ライブエイド』以降、ライブを中心に行われてきた歴史がある。そんななか、レディー・ガガが開催を呼び掛け、医療従事者への支援などを目的として、ポール・マッカートニーやビリー・アイリッシュなどジャンルや世代を超えた名だたる超豪華アーティストたちが参加したグローバル・ストリーミング・コンサート『One World: Together at Home』が素晴らしかった。いわゆる“家フェス”だ。ファン目線で言えば、アーティストの自宅を垣間見れる喜びもあった。

出展元:YouTube(Global Citizen)

出典元:YouTube(Global Citizen)

STAY HOME時代、アーティストもリスナーも家で楽しむ“家フェス”という音楽文化の誕生。音楽はあらゆる状況、どんなカルチャーにも溶け合える。コロナ禍で、SNSの活用や動画共有、ストリーミングサービスといったメディアへと音楽の楽しみ方、そしてプラットフォームが移行し、アーティストが自宅にいながら発信し、SNSで拡散する時代へと変化が起きたのだ。


音楽文化を持続可能にするには、テクノロジー活用が絶対条件

当初、非常事態宣言の期限とされていた5月6日。しかし騒動はゴールデンウイークを明けても収束することはなかった。政府の発表で自粛期間は5月末まで延期となった。街は通勤者も増え、飲食店が徐々に動きはじめている。しかし、オフラインのライブ界隈に日常は戻っていない。夏以降のコンサートやフェスの中止も続々発表されている。音楽関係者が模索し、求めているのはイベント再開へ向けた指標だ。

連休中に発表された新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言を踏まえ、政府は“新しい生活様式”を提言した。娯楽,スポーツに関しては“歌や応援は十分な距離、またはオンライン”と書かれていた。いまだ復活へ向けて指標は曖昧なままだ。期間がいつまでになるのか検討がつかない。しかし、来るべき再開へ向けて、今はやれることを模索するしかない。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html

ライブ再開時、注意すべきは観客同士の距離を2メートル程度空け、換気を十分に気をつけることとなるだろう。しかし、数百人以内をキャパシティーとするライブハウスにおいて収益モデルは作れるかは疑問だ。オフラインでの生ライブはプレミアムな体験となってしまうのだろうか。

座席が設置され席数が明確なホール、アリーナ規模の大会場であれば両隣の客席を空けること、声を出さないこと、体温を検知すること、消毒など徹底することで実施が可能となるのだろうか。もちろん入退場、トイレの行列など人が密となる課題はある。しかし、やれることからスタートしないと本来目指すべき状況へは戻れない。

オンラインでのライブ配信と、オフラインでのリアルライブ。両方を活用することで、オフラインではアプローチできなかった層へもトライが可能となる。音楽文化を持続可能にするには、テクノロジー活用が絶対条件となるだろう。

4月7日、宇都宮隆が赤坂マイナビBLITZでライブ配信したLIVE UTSU BAR『それゆけ歌酔曲!! ギア-レイワ2』は、ニコニコ生放送で有料配信された。生放送後も一定期間販売そして有料オンデマンド配信を続けることで通常のライブ以上のキャパシティーでのチケット販売(3,500円)を可能にしたのだ。今後、時間軸を超えた有料チケット販売によるライブ公演はアーティストにとって収益性を確保できるものとなり、ファンにとっても日程や地域に縛られずライブを体感できることになるかもしれない。
https://secure.live.nicovideo.jp/event/lv324958757

現在、ライブ配信をサポートする会社、新規サービスが軒並みローンチしている。新しい音楽文化の創造へ向けて、アーティストファースト、ユーザーファーストなサービスを期待したい。


アフターコロナ時代のDIY精神による価値創造の変換

音楽表現者の多くは、巣篭もり期間を創作時間に当てている。今の時代、楽曲は、TuneCoreやBIG UP!などデジタルディストリビューターを通じてストリーミングサービスで定期的にリリースができる。アーティスト同士が直接会わなくても、SNSでの交流を経て、リミックスやトラックを交換するリプロダクションも活発化しているようだ。

昨今では、楽曲が注目されるきっかけにモバイル向けショートビデオのプラットフォームTikTokで新規リスナーに発見される事例が世界的に増えている。他にも、ゲーム『フォートナイト』上で開催され1,230万人が同時参加したトラヴィス・スコットのライブを楽しむユーザーもいれば、ゲーム『マインクラフト』上でもstarRoやSeihoによるDJイベントが繰り広げられていたりする。音楽を楽しむ場所がオンライン上で広がってきているのだ。


出典元:Twitter(HIP HOP DNA)

そんななか、ミュージックビデオの制作にも変化が起きようとしている。密な状況になりやすいこともあり、ライブハウスやスタジオ撮影がはばかられる現在。注目したいのがツイッターのハッシュタグ #indie_anime で、イラストレーターこむぎこ2000氏が提唱する“自主制作アニメーション部”によるカルチャーだ。まだこの春スタートしたばかりのムーヴメントである。

https://twitter.com/komugiko_2000
https://twitter.com/indie_anime

ボーカロイド文化が絵師という名のイラストレーター、アニメーターとのコラボレーションや二次創作を誘発することで、個人クリエイターが立体的に交流できるようになったことは、ボカロ文化がn次的に発展する大きな理由となった。

音楽文化は変化を続けている。40年前に誕生したMTVライクな、莫大な予算をかけたTVドラマのワンシーン風なミュージックビデオは今の時代にはそぐわないかもしれない。しかしながら、スマホで観ること、SNSでシェアすることを前提とした個人クリエイターによるコラボレーションから生まれる音楽ヴィジュアルに人気が高まってきている。

昨今、90年代文化が再評価されるユースカルチャー・シーン。ファミコンなどレトロなドット絵に人気が集まっていることに注目したい。ドット絵が、チープながらもセンスを感じられる表現として評価されつつある“自主制作アニメーション”カルチャーが面白いのだ。


出典元:Twitter(DONG)

アフターコロナの時代、DIY精神による価値創造の変換は起きるのだろうか。テレビからスマホへと活躍の場を移したミュージックビデオ・カルチャーは2020年、大きな変化を遂げるかもしれない。

まだまだ小さな火種に過ぎないが興味深い事例を紹介しよう。シンガーソングライターましのみがSNS上で出会ったイラストレーターななみ雪によるドット絵作品にインスパイアされ楽曲「瞬き(matataki)」を作ったことでコラボレーションが起きていた。ネット上で加速する音楽とヴィジュアルの融合。パソコンやスマホにおけるイラストや動画制作ツールが安価となった時代、個人クリエイターが増えていることにも注目したい。

出典元:YouTube(ましのみ)

映像で注目すべきは究極のシンプルさ。アニメーションながら可動域を制限することでミニマルなループによるリズムの快楽を生み出す。ある種、イコライザーをヴィジュアル化した音の可視化とでも言うべきか。

なお、もともとゲーム好きとしても知られるRAM RIDERも、服部グラフィクスとともにドット絵MV「うちで踊ろう(星野源と服部グラフィクスとRAM RIDER)」を公開している。

出典元:YouTube(RAM RIDER)

King Gnu常田大輝によるプロジェクト、millennium parade「Fly with me」は、本編は驚愕の3Dアニメーションだったがティザー映像でゲーム風ドット絵MVを展開している。

出典元:YouTube(millennium parade Official YouTube Channel)

まるでSF映画のごとくデストピアなセンスを感じられる今の時代。スマホ画面で音楽を楽しむ際に、なつかしのレトロを醸し出すドット絵は、STAY HOMEな時代となった2020年のミュージックビデオにおいてキーワードのひとつになるのかもしれない。


ライブ中心の時代から、ストリーミングやライブ配信とともにある時代へ

ストリーミングサービスへ向けたマーケティングに特化することで、TikTokでの拡散をきっかけに海外グローバルでのバイラルチャートヘ日本のアーティストによる作品がランクインすることも増えてきた。

それこそ、20,30年前だったらアメリカ中をバスでツアーして、各地域のカレッジチャートやFMでのラジオオンエアをきっかけに認知を広げるしか手段が無かった。いまでは、自国でのストリーミング拡散をきっかけに海外で1位になれるという凄さ。最近では、YOASOBI、RIN音、瑛人などもグローバルでのバイラルチャートヘ軒並み上位にランクインしている。ライブ中心の時代からストリーミングやライブ配信とともにある時代へ。過渡期ではあるが、今の時代ならではのスターが誕生しようとしている。この時代にどんな言葉を、どんなメロディーを、どんなサウンドを表現者は鳴らすのか。

出典元:YouTube(YOASOBI - トピック)

先日、NHKみんなのうた「答えを出すのだ」が話題となったアイラヴミーというバンドが、制作中の新曲デモを聴かせてくれた。単純な応援歌ではなく“唇噛んだ 血の味がした ポツリポツリ涙が出てきた なんでずっと苦しいんだろう なんでずっと生きづらいんだろう”と歌う、ギリギリの感情を吐露するナンバーだ。いつリリースされるかは未定だが、コロナ禍で表現者がどんな想いで作品を生み出していくのか。音楽が持つチカラ、心に突き刺さるサウンドが聴けることを、2020年、withコロナ〜アフターコロナへと続く大変な時代ではあるがひとつの希望としたい。

出典元:YouTube(アイラヴミー)


ふくりゅう

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、J-WAVE、ミュージック・マガジン、音楽主義などで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)、DREAMS COME TRUEツアーパンフ、TM NETWORKツアーパンフ、SMAPタブロイド風新聞フライヤー、『別冊カドカワ 総力特集 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』発売中! https://twitter.com/fukuryu_76