もはや文化的遺産!! 70年代-80年代アイドルの復刻ライヴ音源がすごい

もはや文化的遺産!! 70年代-80年代アイドルの復刻ライヴ音源がすごい
山本雅美
山本雅美

いまの時代のように簡単に動画配信でアイドルたちのライヴや素顔に触れることができなかった時代、コンサート音源はアイドルたちのリアルな部分に触れることができる貴重なものでした。そこで今回は「いま聴いておくべき70年代&80年代のアイドルたちのコンサート・ライヴ」を特集。音源だからこそ想像して、浸れる当時の空気感を是非体感してみてください。


貴重なアイドルコンサート音源を蘇らせた編成マンとは?

ピンクレディーや桜田淳子、そして小泉今日子、荻野目洋子、酒井法子など70年代&80年代のアイドル黄金期を作ったビクターレコード(会社名:ビクターエンタテインメント)。そのビクターレコードから、当時の貴重なアイドルたちのコンサート音源が続々ストリーミング配信されているのはご存知ですか?今回は編成に携わった同社ストラテジック部の森谷秀樹さんにお話をお聞きしました。

KKBOX:当時のアイドルたちのコンサート音源をいまの時代に配信化されたのには、どんな想いがあったのでしょうか?

森谷:当時も今も売れっ子アイドルたちは毎年コンサートツアーを行いますが、1970年代は今と違い、簡単には映像で記録ができなかった時代です。今ならDVDやBlu-rayにコンサートの全編が収録され、その表情のアップまで簡単に観ることができますが、当時のアイドルたちのコンサート映像はなく、毎年発売されていたレコードに音源が残されているのみです(全編は収録されておらず、部分的な記録ですが)。でも実際に聴いてみると、音だけでも十分に当時の臨場感を伝えてくれるので、改めてアーカイブを行い、サブスクなどで体験して欲しいと思いました。



KKBOX:当時のアイドルたちのコンサート音源に対してどんな魅力を感じられますか?



森谷:当時のヒット曲のカバーなど、YouTubeでは絶対に観られない、意外な選曲が楽しめると思います。日本語詞で洋楽をカバーしていたり、面白いですよ。ご本人たちにお話を伺うと、テレビやイベントでは決められた曲をプロモーションとして歌うだけですが、コンサートでは自分の意見も言えたりして、好きな曲が歌えて楽しかったそうです。

KKBOX:今回デジタル配信化することで苦労はありましたか?

森谷:オリジナルのアナログテープからのリイシューは大変でしたが、アナログだからこその素晴らしい音質が魅力です。当時、LPレコードとカセットテープで発売されていた作品では、カセットの方が収録時間が長いため、曲数が多いものもあります。その場合は、すべて網羅してリイシューしたのですが、両方に収録されている曲はマスターが2種類あるので、聴き比べて、状態が良い方を採用しました。その際、拍手等のSE(効果音)は発売された編集済みの音しか残されていないので、違和感なく曲をつなげることにも苦労しましたね。



チェックしておきたいこのコンサート

16才のリサイタル / 桜田淳子 (渋谷公会堂 1974/10/19)

オーディション番組「スター誕生!」で才能を認められ、同時期にデビューした森昌子、桜田淳子、山口百恵は、当時中学3年生だったことから「花の中3トリオ」として、レコード会社や事務所の枠を越えメディアに取り上げられ親しまれました。そして進級するごとに、花の高1トリオ・高2トリオ・高3トリオと呼び名を変えていきます。『16才のリサイタル』は、高校1年生だった桜田淳子の記念すべき初めてのコンサートアルバムです。いまの時代の言葉に直すと「初のワンマンライヴ」なのですが、当時はライヴやコンサートという言葉が一般的ではなく、「独唱会・独演会」を意味する「リサイタル」が普通だったのです。

その『16才のリサイタル』は、聴きどころが満載です。まず2つのバックバンドを従えてのステージ。いまは生演奏でなくオケ出しでのアイドル・ライヴが多い中で、音源を聴いただけでもゴージャスさを感じます。



またステージでは、ジリオラ・チンクェッティの「太陽のとびら」や、スリー・ディグリーズの「天使のささやき」、カーペンターズの「トップ・オブ・ザ・ワールド」などの洋楽ナンバーも歌いあげ、ルックスと年齢のギャップに堪らないエモさを感じます。またMCトークでしかわからないステージや衣装の話は、想像力を掻き立てられます。そして当時、日本テレビのアナウンサーだった徳光和夫の滑りまくりの司会進行具合も貴重です。



必聴はフィナーレを飾る「わたしの青い鳥」。1時間40分のステージで喉を酷使したのか喉の調子が悪くなり、ほとんど高音が出なくなってしまった桜田淳子。それでも最後まで、声を振り絞りメロディラインに合わせて歌い上げる3分間は 半世紀近く経ったいま聴いても「がんばれ」とエールを送りたくなるほどの臨場感です。そして当時のアイドルシンガーの底力を感じます。


サマー・ファイア’77 / ピンク・レディー(田園コロシアム 1977/7/26)

1970年代後半に社会現象ともなったピンク・レディーは、ミーとケイの2人によるダンスミュージック系アイドルです。セクシーなダンスや衣装は いまのK-POP系グループ以上の衝撃とインパクトがありました。ともすれば男性ファン中心になりがちな路線ですが、ピンク・レディーは子供からおじいちゃんやおばちゃんに至るまで、老若男女を問わない人気を得たことが特筆すべき点です。そのスタイルは、子供たちに人気だった初代のモーニング娘。や、キレキレのダンスで魅了するTWICEへも受け継がれているように思えます。『サマー・ファイア’77』は、オリコン史上初のミリオン・セールスとなった「渚のシンドバッド」をリリースした直後に開催されたコンサートです。コンサート終盤の「渚のシンドバッド」はもちろん、「ペッパー警部」も「S・O・S」も最高の盛り上がりを見せています。



また「ラブ・ポーションNo.9」「ダンシング・クィーン」「愛するデューク」など、メドレーを含め30曲に及ぶ洋楽カバー。当時はこういった機会に洋楽曲に触れ、興味を持った人も多いのではないでしょうか。



ところで皆さんは田園コロシアムって知っていますか?東京都大田区田園調布に1989年まであった多目的屋外スタジアムで、ピンク・レディーの他にも、サザンオールスターズやオフコースなどのコンサートもおこなわれました。地図で見ると住宅街の近くにあったようですが、近隣からクレームがなかったのか気にかかるところです。かつての野外ライヴの先駆けとなった『サマー・ファイア’77』は貴重なコンサート音源と言えます。


シンフォニー / 岩崎宏美 (中野サンプラザ 1980/2/3)

1975年に「二重唱(デュエット)」でデビューした岩崎宏美は セカンドシングル「ロマンス」で90万枚近いセールスを上げ、この年の数々の音楽祭で新人賞を受賞しました。岩崎宏美の強みはなんと言っても同時期のアイドル歌手の中でも抜きん出た歌唱力と表現力です。デビューから東京郵便貯金ホール(現東京メルパルクホール)で9年間続いた秋のリサイタルでは、オリジナル曲はもちろん、洋楽ポップスやスタンダードにとどまらず、シャンソンやカンツォーネまで歌い、しかも全てレコード化されるという、当時でも、そして現在でも異例なリリースでした。これは歌手としての岩崎宏美が本物であることの証と言えます。



また1980年には、なんと日本フィルハーモニー交響楽団と「シンフォニー」と題し共演もしています。交響曲アレンジの「ロマンス」はもう圧巻のひとこと。いまの時代で、オーケストラをバックにステージに立つことのできるアイドル歌手は誰なのでしょう。



伝説そして神話となったラストコンサート

FINAL CARNIVAL PLUS ONE/ キャンディーズ (後楽園球場1978/4/4)

ここからはビクターレコード以外のアイドルに目を向け、絶対必聴のラストライヴを収めたコンサートアルバムを紹介します。まず初めはラン、スー、ミキの3人組グループのキャンディーズ。女の子がグループになってパフォーマンスする形態で、幅広い人気を得たアイドルの原型はキャンディーズではないでしょうか。「春一番」や「やさしい悪魔」など数々のヒット曲を出しながら、人気絶頂期にデビュー4年半で解散してしまいます。



解散宣言をしたステージから叫んだ「普通の女の子に戻りたい」は流行語にもなりました。そんなキャンディーズのラスト公演は後楽園球場に55,000人を動員して開催。後楽園球場で単独コンサートを開催したのは女性アーティストとしてはキャンディーズが初めてのことでした。コンサートの模様はその後、TBS系列で全国に放送され平均視聴率32.3%(関東地区)という単独アーティストによる音楽番組としては歴代1位の高視聴率を獲得しています。このことから、キャンディーズがいかに凄く、そしてこのファイナルコンサートがいかに貴重であるかという点を感じながら聴いてみてください。ラストを飾る「つばさ」の曲間の「私たちは幸せでした」という名言は、いま聞いても震えます。



また『FINAL CARNIVAL PLUS ONE』には、MCの音響感が残っていたりファンの歓声の細部に至るまで聞こえたりと、まるで観客席から一発レコーディングしているような臨場感があります。エンディングではファンの歓声にかき消され3人が何を言っているのか聴き取りづらいのですが、最後のフィナーレで、ステージ上で泣きじゃくる3人の声は確実に聞こえます。


伝説から神話へ 日本武道館さよならコンサート・ライブ / 山口百恵 (日本武道館 1980/10/5)

先日、音楽ストリーミングサービスで600曲以上の楽曲が配信スタートとなった山口百恵。
引退から40年経ったいま、往年のファンはもちろん、新しいリスナーも含めてたくさんの人から聴かれています。



山口百恵はデビューからわずか7年半、まだ21歳という驚くべき若さで引退しましたが、発表したシングルは31作の累計で1630万枚、LPは45作の累計で434万枚のセールスを記録、1970年代最もレコードを売り上げた伝説的な歌手です。『伝説から神話へ 日本武道館さよならコンサート・ライブ』はその引退公演を収録しています。



ラストの「さよならの向う側」では、1コーラス、そして2コーラス、そしてラストへと向かうごとに涙、涙の歌声。いま聴いても震えます。そしてファンに深々と一礼をしてマイクをステージの中央に置き、山口百恵は静かに舞台裏へと歩みながら去っていきます。そんなことも想像しながら浸ってみてください。

70年代、80年年代の貴重なコンサート音源はただ懐かしいだけではなく、時代の空気感はもちろん、文化的財産としても貴重です。是非みなさんも当時のコンサート・ライヴ音源を掘り起こしてみませんか?



山本雅美
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