いまさら誰かに聞けない 〈THE FIRST TAKE〉の楽しみ方。

いまさら誰かに聞けない 〈THE FIRST TAKE〉の楽しみ方。
山本雅美
山本雅美

いま日本の音楽シーンで大きく注目され、今後の音楽の楽しみ方やアーティストのあり方にまで影響を与えるのではないかという音楽動画メディアが〈THE FIRST TAKE〉。1億再生超えの動画も続々生まれています。


出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

これまでの音楽動画と大きく異なるのは、白いスタジオに置かれた一本のマイクで一発撮りで歌うことをルールとしている点で、パフォーマンスが始まればアクシデントが起きても収録は途切れることなく最後まで進んでいく緊張感に驚かされます。また過剰な映像演出がまったくないため、自ずとアーティストの“歌と言葉”に集中することになり、これまでに体験したことのない臨場感の中で音楽の共有体験ができるのが魅力と言えます。YouTube上で映像を公開するこのプロジェクトは、2019年11月に開設され、これまでのチャンネル登録者数は381万人(2021年2月末時点)を超え、その勢いはとまりません。今回は〈THE FIRST TAKE〉の魅力に引き込まれ、動画が公開されるたびにワクワクしている筆者が、これまで公開された動画から押さえておきたいタイトルを紹介し〈THE FIRST TAKE〉の楽しみ方を解説していきます。


突如公開された「ナラタージュ」に釘付けになる

出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

2019年11月15日に突如公開されたのが、adieuこと上白石萌歌が歌う「ナラタージュ」。真っ白な背景のスタジオに置かれたコンデンサーマイクに対峙して映し出された上白石萌歌。過度な演出がなく、寄りと引きというシンプルなカメラカットだけで構成されている映像が印象的です。実際にこの映像を初めて観た時、完全に釘付けになりました。映像としての情報量が削ぎ落とされると“歌と言葉”が浮き彫りになるという、とてもプリミティブな感動を再認識することができたのです。しかも映像に〈余白〉があるからなのか、まるで自分の傍で歌ってくれているような新しい体験も味わえたことを記憶しています。


LiSAの息遣いまで聴こえる「紅蓮華」

出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

初期の〈THE FIRST TAKE〉はベールに包まれていて「誰がなんの目的で公開しているのか?」ということも気になっていた点です。しかし LiSAの「紅蓮華」が公開された時に、〈THE FIRST TAKE〉がとてつもないプロジェクトなんだと理解できました。TVアニメ「鬼滅の刃」のオープニングテーマで大ヒットとなり、2019年の「紅白歌合戦」にも出場が決定したタイミングでの登場は、まさにサプライズでした。歌う前の緊張を解こうとするLiSAの姿や息遣い、そしてピアノ伴奏だけの「紅蓮華」にゾクゾクさせられた人も多かったのではないでしょうか。この〈THE FIRST TAKE〉バージョンの「紅蓮華」の動画再生数は1億回を超え、オリジナルバージョンを大きく上回る再生数になっています。〈THE FIRST TAKE〉によって「紅蓮華」は新しい魅力と感動が広がっていったのではないでしょうか。


歌唱ミスがそのまま公開された「ないものねだり」

出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

撮り直し無しの一発撮り!! と言いながら、本当は撮り直ししているのでは?という疑念を払拭したのが、谷口鮪(KANA-BOON)&もっさ(ネクライトーキー) の「ないものねだり」です。歌う前の二人の挨拶では、谷口さんがもっささんに「声が小さい!」と気合をいれる掛け合いなどもあります。その谷口さんがまさかのサビでの歌入ミスをしてしまったり、もっささんも歌詞を間違えて歌うシーンもそのまま公開されました。歌い終わった後に「間違えました、すみません」という二人の言葉が微笑ましいです。アップテンポで明るい曲なので、そんなミスさえもライブ感に繋がっています。


Stayhome期間中に〈THE FIRST TAKE〉のニーズが急上昇

出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

2020年4月に新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が発出。様々な音楽活動がストップする中、アーティストたちはネットを通じて音楽を届ける試みを始めます。〈THE FIRST TAKE〉 も収録を一時中断。5月から7月までの3ヶ月間、アーティストの自宅やプライベートスタジオから楽曲を届ける「THE HOME TAKE」というプロジェクトが始まります。その中でのサプライズはYOASOBIの登場でした。「夜に駆ける」が各ストリーミングサービスランキングで1位を獲得していながらも、公式な場でリアルな姿を見せていなかったYOASOBI。そのボーカルのikuraが歌う姿がStayhome中の中で大きなバズを生み、その後のYOASOBI人気を揺るぎないものにしていったと言えると思います。


大人世代を唸らせたフラカンの「深夜高速」

出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

若い世代のアーティストたちのキャスティングが多いなかで、大人世代も注目させられたのが、結成31年を超えるキャリアを持つフラワーカンパニーズ。名曲「深夜高速」のアコースティックアレンジでのセッションは音楽ファンには堪らない貴重な映像でした。これまで様々なパフォーマンスを行なってきた鈴木圭介はコメントで「レコーディングに限りなく近い状況なんだけど、テイクが1回のみという約束で、緊張感が半端なかったです」と語っています。〈THE FIRST TAKE〉のヒリヒリ感は、まさにそんな環境から生まれているということを改めて認識させられます。


新しいライブの形を体感できるTHE FIRST TAKE FES

出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

〈THE FIRST TAKE〉はスタジオを飛び出し、ライブハウスでのフェスへと発展していきます。無観客のライブハウスでステージスタッフ以外は全て退場。アーティストたちは自分たちの音だけしか聴こえない環境の中でパフォーマンスをおこない、それを無人の定点カメラで撮影していくという手法がとられています。また〈THE FIRST TAKE〉同様に、幅広い周波数の音を収録できるコンデンサーマイクが使用されている効果も大きく、YUIのライブではステージに登壇する際の階段の軋む音や、ステージ上でヘッドホンやギターをセッティングする音までも再現、まるで目の前にYUIがいるかのような臨場感を体験できます。また「CHE.R.RY」の冒頭で、YUIが口笛を吹き続けるシーンの緊張感も必見・必聴です。

メディアに登場しないアーティストが初出演

出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

各ストリーミング再生ランキングでロングランヒットしているyama。2020年4月に配信された「春を告げる」は、若いリスナーを中心に絶大な人気となっています。その一方でアートワークやミュージックビデオはイラストとなっていて、その素顔を知ることはありませんでした。そのyamaが〈THE FIRST TAKE〉でメディア初登場、オリジナルバージョンとは違うピアノとストリングスバージョンの「春を告げる」を個性的なマスクをつけた姿で歌うyamaの姿は神々しささえ感じることができます。また yamaに続き、ずっと真夜中でいいのに。も〈THE FIRST TAKE〉に登場。ライティングを落としてのパフォーマンスでしたが、リアルに歌うずっと真夜中でいいのに。の姿を初めて見た人も多かったのではないでしょうか。今後も〈THE FIRST TAKE〉でメディア初出演するアーティストが増えていくかと思うと本当に楽しみです。


注目の女優も登場!〈THE FIRST TAKE〉のサプライズ感がすごい

出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

ミュージシャンではない初となるキャスティングとして、女優 橋本愛が〈THE FIRST TAKE〉に登場、筒美京平が作曲した昭和の名曲「木綿のハンカチーフ」をピアノに武部聡志を迎え情感豊かに歌い上げています。後半では感極まり泣きそうになりながら歌う橋本愛の姿に心打たれた人も多かったのではないでしょうか。この動画は大きな反響を呼び、2021年2月にはミュージックステーションでテレビ初歌唱されることになります。今後も俳優の皆さんと〈THE FIRST TAKE〉のコラボレーションを期待したいところです。


今回、取り上げたタイトル以外にも必見・必聴の動画が数多くあるので、是非チェックしてみてください。また〈THE FIRST TAKE〉で公開されたタイトルはKKBOXでも配信されています。聴覚だけで感じる〈THE FIRST TAKE〉に、また違った発見があるかもしれません。


オススメプレイリスト


山本雅美
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