テレサ・テンが愛され続ける理由

テレサ・テンが愛され続ける理由
濱安紹子
濱安紹子
1995年5月8日、20世紀を代表する希代の歌姫、テレサ・テンがこの世を去った。葬儀は彼女の祖国である台湾・台北で国葬として大々的に執り行われ、世界各国から実に3万人のファンが訪れ別れを惜しんだと言われている。米ビルボード誌、ニューヨークタイムズ紙なども彼女の訃報を大きく取り上げ、その命日には毎年各地で様々な追悼企画が開催。没後20年の節目である昨年を振り返れば、あのボン・ジョヴィが中国ツアーにあたり、テレサの名曲のカバーし話題となったことも記憶に新しい。生前、タイム誌の「世界7大女性歌手」に選出され、世界的な人気を誇っていたテレサは、現在も熱狂的なファンを虜にし続けている絶対的な存在なのである。リアルタイムで彼女を知らない世代も、その名前や代表曲はきっと知っていることだろう。ここでは「アジアの歌姫」として絶大な支持を得たテレサの魅力、時代を超えて愛される理由について触れていきたい。
(YouTube: Bon Jovi)
語りかけるような哀愁を帯びた歌声で魅了
14歳でデビューし、「天才少女歌手」と呼ばれた実力で10代のうちに国民的スターの仲間入り。その後日本に渡ったテレサは、慣れない日本語の曲を歌う際にも決して努力を怠らなかった。通訳を通して言葉の意味を作詞家やプロデューサーに何度も尋ね、きちんと理解してからでないとレコーディングを進めなかったと言う彼女を、「つぐない」などを手掛けた作詞家の荒木とよひさは「日本語がすごく丁寧で綺麗」「日本人が忘れてしまった言葉の感じを大切に表現できる歌手」と絶賛。チャーミングな外見とは裏腹、心に訴えかけるような哀愁に満ちたその歌声は、彼女の不断の努力と波瀾万丈な人生における苦悩によって醸成されたものかもしれない。しかしそれが演歌や歌謡曲が持つ特有の“憂い”と絶妙にマッチしたからこそ、多くの心に響く名作を多く残すことができたのだろう。
世界を股にかけ、7つの言語を使いこなすマルチリンガルだった
前述の通り、詩をとても大切にする歌手だったテレサ。歌詞を深く理解した上で語りかけるように歌う、“語り歌”と呼ばれるスタイルは功を奏し、ジャンルや言葉の壁を超えて多くの人々に親しまれることに成功。さらに、北京語・福建語・広東語・英語・日本語・フランス語・タイ語の7カ国語を使いこなせたという彼女は、オリジナル曲を他言語で歌ったり洋楽をカバーしたりと、実に多彩なバリエーションの曲を発表し、活躍の幅を広げていった。また、歌手人生の途中でアメリカやパリに拠点を移しながら各国でツアーを敢行し、アジアを超えて世界的な人気を得ることとなる。
夜の街に似合うヒットソングが多い
日本でのテレサの人気が顕著に表れているのは、カラオケでのリクエスト数である。日本でデビューした当時も、クラブやスナックのホステスなどがカラオケで歌ったことで人気に火がついたと言われているが、すごいのは今でもその状況があまり変わっていないということ。その人気は今なお衰えずカラオケで歌われ続けているのだ。秘めたる恋や別れ……恋愛にまつわる情念を歌ったヒット曲が多いせいもあるかもしれない。ムード溢れる楽曲と恋に身悶える女の心情を綴った歌詞、情感たっぷりに歌い上げるテレサの歌声は、やはり夜の街に似合う。きっと今宵も、どこかの誰かによってしみじみと歌い上げられていることだろう。
自由を求めて戦い続けた革命家としての顔
既に人気を得ていながらも、不倫を歌った歌詞や政治的なメッセージ性が作品に含まれているとして、1980年代の中国本土でテレサの作品は発売禁止に。ようやく解禁された後、人気が再燃した彼女は本土での本格的な活動を考えていたが、その計画が実現されることはなかった。1989年に起こった天安門事件に対して彼女は、トップスターではなく民主化を支持する1人の女性として真っ向から立ち向かうことを選択。香港で行われた弾圧抗議集会に「民主万歳」と書いた鉢巻き姿で現れたその姿は、自由のために戦う女闘士そのものだった。同年、日本デビュー15周年の記念番組に喪服のような黒いドレスで登場したテレサは、「悲しい自由」という曲を披露し、「私はチャイニーズです」「私は自由でいたい。全ての人たちも、自由であるべきだと思っています」という有名なスピーチを残している。彼女の歌だけでなく、その姿勢や生き方そのものに勇気づけられ、感銘を受けたファンも多いはずだ。 溢れんばかりの才能を持ちながら、歴史に翻弄され数奇な運命を辿ったテレサ・テン。日本でリリースされた曲は約260曲、中国語でリリースした曲は1,000曲以上。累計売上は1億枚を優に超えると言われ、未だに日本で中古レコードが一部高騰している状況なのだとか。42年という短い人生の中で彼女が遺した楽曲は実に様々。今でもカラオケ歌われるヒット曲から、珠玉のカバー曲、中国語の響きが美しいクラシックな名曲まで、是非ご一聴頂きたい。
濱安紹子
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