海外批評メディアが選んだ2016年ベストの「裏注目作」

海外批評メディアが選んだ2016年ベストの「裏注目作」
柴那典
柴那典
今回の記事では、僕がひそかに参考にしているサイトを紹介させてください。 知ってる人は知ってると思うのですが、メタクリティック(http://www.metacritic.com/)という、音楽や映画やゲームなどの海外レビューサイトの作品に対する評価を並べたサイトがあります。そこで、海外の各メディアが発表している「年間ベスト」が集計され、公開されているのです。 Best of 2016: Music Critic Top Ten Lists http://www.metacritic.com/feature/critics-pick-top-10-best-albums-of-2016 日々更新されているのですが、この原稿を書いている1月17日時点では、ピッチフォークやローリングストーン誌などの有名メディアから各国の音楽批評サイトまで、集計されている「ベスト10」の数は200超。そこで選ばれた作品に、1位を3ポイント、2位を2ポイント、3位〜10位を1ポイント(11位以降が発表されているリストに関しては11位から20位が0.5ポイント)というルールで点数を付与し、順位を集計しています。 つまり、各批評メディアに言及された数の多いリストというわけなのです。その20位までの結果は(この原稿を書いている1月17日時点では)以下の通り。 1. David Bowie『★』 2. Beyoncé『Lemonade』 3. Franke Ocean『Blonde』 4. Solange『A Seat at the Table』 5. Chance the Rapper『Coloring Book』 6. Radiohead『A Moon Shaped Pool』 7. Kanye West『The Life of Pablo』 8. A Tribe Called Quest『We Got it from Here... Thank You 4 Your Service』 9. Nick Cave & The Bad Seeds『Skelton Tree』 10. Angel Olsen『My Woman』 11. Anderson .Paak『Malibu』 12. Rihanna『Anti』 13. Leonard Cohen『You Want It Darker』 14. Bon Iver『22, A Million』 15. Car Seat Headrest『Teens of Denial』 16. Mitski『Puberty 2』 17. Anohni『Hopelessness』 18. Sturgill Simpson『A Sailor’s Guide to Earth』 19. Kaytranada『99.9%』 20. The 1975『I Like It When You Sleep For You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It』 上位に関しては「洋楽」(=英語圏のポップ・ミュージック)を追っている人にとっては、かなり納得の結果なんじゃないでしょうか。少なくとも僕はそうでした。やっぱり2016年を代表する作品を選ぶとするならデヴィッド・ボウイ、ビヨンセ、フランク・オーシャンは外せないよな、という。 ただ、リストを見ても、まだまだ聴き逃してる作品がありそうなので、以下は改めて注目作を紹介させてください。
「ビヨンセの妹」を脱却する強力メッセージ作
Solange「Don’t Touch My Hair」 アルバム:『A Seat at the Table』
出典元:(YouTube:SolangeKnowlesVEVO) ▼ピッチフォークで1位、タイム誌で2位になるなど各メディアで圧倒的な評価を集めたソランジュの8年ぶり新作。どうしても「ビヨンセの妹」というネームバリューが先行してしまう彼女だけれど、今回の作品の評価で「名実ともに」の“実”の部分を獲得したと言えると思います。まず格好いいのはラファエル・サディークが大半を手掛けたトラック。シンプルだけど奥深い。最近ではディアンジェロの復活にも関わり、音楽業界を舞台にした大ヒットドラマ『Empire 成功の代償』のプロデューサーをティンバランドと共に手掛けてきた彼がサウンドを手掛け、そしてテーマはとてもコンシャス。今のアメリカにおいて黒人女性として生きるということが直面する怒りや嘆き、そして自らのルーツに支えられているという意識を歌う。いわば姉ビヨンセやケンドリック・ラマーの作品とも通底するテーマで、アメリカのブラック・ミュージックのここ数年の充実ぶりを考えると、やはり聴き逃すわけにはいかない一枚だと思います。
オルタナの復権
Mitski「Your Best American Girl」 アルバム:『Puberty 2』
出典元:(YouTube:MitskiVEVO) ▼2016年に4枚目のアルバム『Puberty 2』をリリースしたMitskiは、日本生まれニューヨークを拠点に活動する日系女性シンガーソングライター。リード曲「Your Best American Girl」を最初に聴いた時には「そうそう、こういうの好きだわぁ」と思いつつ、ここまで高い評価を集めるとは思っていなかった。Aメロでぐっと抑えて抑えて、サビで爆発する90sオルタナティブの黄金律を展開している。12月には単独来日も果たしているので、今夏にはフェスで観れるかも。
「USインディー期待の星」の真価
Car Seat Headrest「Vincent」 アルバム:『Teens of Denial』
出典元:(YouTube:carseatheadrest) ▼Car Seat Headrestは、シアトルのウィル・トレドを中心にするバンド。2015年に老舗インディーレーベル「マタドール」から発表したアルバム『Teens of Style』が賞賛を集め「USインディーシーン期待の新星」として注目を集めた彼らが5月にリリースしたアルバム『Teens of Denial』は、ローリングストーン誌がビヨンセ、デヴィッド・ボウイ、チャンス・ザ・ラッパーに続く4位に、ラフ・トレード・ショップが年間ベスト10位に選ぶなど、今作でインディーヒーローの座を掴んだ感がある。サウンドとしてはピクシーズ以降のUSインディの流れを汲んだもので決して目新しいものではないかもしれないけれど、ちゃんと「いい音」で「歌うべき言葉」を歌っている作品という感じがする。日本で言うならASIAN KUNG-FU GENERATIONを好きな人は間違いなくフェイバリットソングに入りそうな気がします。そういえばアジカンのGotchの「2016年間ベスト」(http://www.onlyindreams.com/interview/2016-12_music_gotoh.html)にも、選外ながらAndy Shauf、Whitney、Hazel Englishと並べて「若いバンドマンたちに聴いてほしい作品です。彼らと張り合うような音楽が日本のそこかしこで鳴ってくれたら」と紹介されていた。さすが。
異色のカントリーカバー
Sturgill Simpson「In Bloom」 アルバム:『A Sailor's Guide To Earth』
出典元:(YouTube:SturgillSimpsonMusic) ▼Sturgill Simpsonは現在38歳のシンガーソングライター。2013年に遅咲きのデビューで、この『A Sailor's Guide To Earth』が3作目のアルバム。カントリー・ミュージックのシーンで活躍する人ということもあって、個人的には全くノーチェックだった。アルバムを聴いてびっくりしたのが、ニルヴァーナの「In Bloom」のカバー。メロディや歌詞はそのままなのに、まるで“アメリカーナ演歌”みたいな、全然違う曲になっている。これはひとえに彼の歌い方と音楽センスゆえのことで、MitskiやCar Seat Headrestが「90’sオルタナティブ」を正統的に受け継ぐサウンドを鳴らしているのとは対極的に、原曲の精神性をまるっとひっくり返しているような仕上がりになっている。これはこれで、とても興味深い。グラミー賞の「ベスト・カントリー・アルバム」にもノミネートされています。 というわけで、プレイリストにはここで挙げた以外も含めた「いまさら聴き逃せない」曲をまとめました。
柴那典
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