プロが解説する ジブリ名曲音楽の聴きどころ

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山本雅美

いよいよこれまでのジブリ作品音楽がストリーミングサービスで配信スタート!ジブリ作品は海外の音楽シーンに与えた影響は大きく、アリアナ・グランデは映画「千と千尋の神隠し」の大ファンで、千尋のタトゥーを腕に入れて大きな話題になりました。また今年のグラミー賞を総なめにしたビリー・アイリッシュは、VICE Mediaのインタビューの中で「千と千尋の神隠し」や「となりのトトロ」が、今の私を作った作品と語っています。今回はそんなジブリ音楽について、前半はKKBOXのジブリ大ファンのスタッフが、後半は洗足学園音楽大学大学院在学中からオーケストラ作品や、映画、ゲーム、ドラマ等の音楽を手掛ける作曲家で音楽プロデューサーであるZioさんから、プロ目線からジブリ・トリビアな聴きどころを紹介して頂きます。


風の谷のナウシカ (1984年)

ジブリ作品にとって欠かすことのできない久石譲が、初めて宮崎駿とコンビを組んだ作品です。そのオープニング曲はその後のジブリ作品の音楽を決定づける2つの要素をもっています。ひとつはジブリ音楽でたびたび聴くことができるミニマルミュージック。久石譲はスティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスなどのミニマルミュージックに大きな影響を受け、自身も「ミニマリズム」シリーズを発表している日本を代表するミニマルミュージックの第一人者です。ナウシカのオープニング前半は、そのミニマルミュージックで始まります。そして後半はジブリ音楽のもうひとつの魅力となった抒情性と旋律美溢れる曲。こちらもいろいろなジブリ作品の中で、物語の重要なシーンで使われていたので多くの人の記憶に残っているのではないでしょうか。



また「風の谷のナウシカ」で多くの人の心に刻まれたメロディといえば「ナウシカ・レクイエム」でしょう。物語の後半でナウシカの死を悼み、王蟲たちによってナウシカの体が高く掲げられた姿が「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」そのものだったという物語の一番のハイライト部分。それはナウシカだったという名シーンです。そのシーンで使われていたのが「ラン・ランララ・ランランラン」という印象的なメロディの楽曲です。この歌は宮崎駿の当時4歳の娘だった麻衣さんが歌ったものなのです。そもそも久石譲は「ナウシカ・レクイエム」をボーイソプラノの声で録音しようと考えていたそうですが、イメージを伝えるために4歳の娘・麻衣さんに歌わせたところ、そのデモテープを宮崎駿が気に入ったため採用が決定したという経緯があったようです。麻衣さんは訳もわからないままスタジオに連れて来られたときのことを「録音ブースは狭くて暗く、周囲が大人ばっかりだったので、とても怖かった……」と振り返っています。2部構成となっている「ナウシカ・レクイエム」の後半は、ストリングスの伴奏にのって木管がメインテーマの変奏を演奏するオーケストレーションになっているので、そのダイナミックな変化も聴いてみてください。



現在、麻衣さんは童謡やアニメの歌をうたっているので、聴き比べてみるのも面白いと思います。



「天空の城ラピュタ」(1986年)

宮崎駿がオリジナル原案で描いたファンタジック・アドベンチャー作品が「天空の城ラピュタ」。ある日、空から降ってきた少女シータを助けた少年パズーが、彼女とともに天空の城・ラピュタを目指す愛と希望と勇気に満ちた不朽の名作で、「バルス」という呪文の掛け声はテレビで再放送されるたびにTwitterトレンド入りしています。ここで使われている音楽は「ラピュタの崩壊」。主題歌の「君をのせて」のメロディパートは杉並児童合唱団が合唱バージョンで歌い、名シーンを盛り上げています。



そしてラピュタのサントラの中で一番壮大でドラマチックな曲が「天空の城ラピュタ」でしょう。雲が晴れてラピュタの全貌が広がるシーンや、ラストで飛行石とともに天高く昇って行くシーンなど、天空の城という世界を音楽で見事に表現しています。この曲も久石譲のミニマルサウンドとオーケーストラサウンドが融合、前述の「風の谷のナウシカ~オープニング~」と一緒に聴けば、二部構成であるかのような聴きごたえのある作品になっています。



「となりのトトロ」 (1988年)

映画は昭和30年代の埼玉の郊外を舞台に、サツキとメイの幼い姉妹と不思議な生きものトトロとの交流を描いた「となりのトトロ」。その作品の根幹をなす音楽がメインテーマとも言える「風のとおり道」で、この曲をモチーフとしたアレンジバージョンが、物語の印象に残るシーンでたくさん使われています。「夕暮れの風」はサツキとメイが引っ越してきた日の夕暮れの描写ではアダージョ・バージョンとして流れるほか、お父さんがサツキとメイとを連れて家の隣の神社へお参りに行く場面では、イントロ部分にオーボエの音色によるメロディが追加されています。そのほかにも、メイが「おじゃまたくし!」と言って、小さなトトロを追いかけていくシーンの後半や、真夜中にトトロのコマに乗って二人が空を飛ぶシーンなど、物語の大切なシーンでアレンジバージョンが使われているので、この機会にぜひ聴き比べをしてみるのも面白いかもしれません。



もともと「風のとおり道」は久石譲が、トトロよりも前に作った曲で、映画のラッシュを見て「この曲は、ここで使うために生まれてきたんだ」と思ったといいます。シンセサイザーによる幻想的で様々な音色とメロディが、トトロの作品世界に欠かせないものとなっています。ちなみに久石譲はジブリ作品以外でもたくさんの映画音楽を手がけていますが、その中でぜひ聴いておきたいのが北野武監督の「あの夏、いちばん静かな海。」のメインテーマ。「風のとおり道」同様にシンセサイザーの音色で郷愁あふれる作品になっています。



「魔女の宅急便」 (1989年)

スタジオジブリでの宮崎駿の長編映画としては初めて他者の原作による作品で、欧州の架空の都市を舞台に魔法使い見習いの少女キキの成長を描いた作品です。「となりのトトロ」と制作が重なった期間もあり長編アニメーション映画としては制作期間が短かった本作は、すでに発売されていた松任谷由実の「ルージュの伝言」「やさしさに包まれたなら」がオープニング&エンディングで採用されリバイバル大ヒットになりました。音楽面でも久石譲自身のアルバム制作とスケジュールが重なり楽曲制作からレコーディングまでの期間がギリギリだったそうです。その一方で、「魔女の宅急便」の音楽は、ワルツ調、タンゴ調の曲が異国の雰囲気を醸し出し、一度聴いたら忘れることのできない優しいメロディが印象的な作品が多くなっています。そしてその主軸となっている曲が「晴れた日に…」「海の見える街」で、物語全体のさまざまなシーンにいろんなアレンジで使用されています。



「晴れた日に…」は物語冒頭、草むらで寝転んでラジオを聴いていたキキが、村の道を走って家に戻るシーンで使われています。オカリナの音色が印象的な3拍子のメロディは牧歌的で、天気の良い休日に聴いても気持ちが華やぎます。そして「海の見える街」は 、都会へ旅立ったホウキに乗ったキキがコリコの街を飛び回り交通をメチャクチャにしてしまうシーンで流れています。この曲は2部構成になっていて、前半は物語の象徴になっている耳馴染みのあるメロディ、後半は舞曲調のメロディ転換も見事な作品になっています。ジブリコンサートでも、この曲をもとにしたオーケストレーションによって演奏されています。

今回、ジブリ音楽以外の久石譲タイトルも多数配信スタートしているので、ジブリ音楽との聴く比べをしてみるのも面白いと思います。


「猫の恩返し」(2002年)

それでは、ここからZioさんによる、さらに深掘りしたジブリ音楽の解説をお届けします。Zioさんが特に印象に残るという「猫の恩返し」と「思い出のマーニー」といった久石作品とは違う音楽の聴きどころを紹介します。


作曲は野見祐二。木管楽器を上手く使う作曲家で、作品の中でその特徴をよく生かしていると思います。メロディが美しく、特に木管と弦中心の編曲がとても素晴らしい。明るく暖かいメロディから始まるオープニングは、木管と弦で構成されています。寝坊して学校に遅刻しないために登校を急ぐ主人公ハル。この演出、シーンに合わせて金管が入り、ダイナミックに発展する編曲が印象的で作品全体の雰囲気を形作り、表現していると思います。



子供の頃のハルが猫と会話しているシーン。ゆっくりしたテンポの中、フルートの穏やかなメロディと弦楽器とハープの伴奏などがハルの温かい心をうまく表現しています。



そして、猫の王国からハルの家に訪ねるシーンは音楽からも夢幻的な神秘な感じが伝わります。洋楽器でも十分表現できるシーンですが、和楽器を用いて日本ならではの色を生かした編曲は素晴らしいアイデアだと思います。



この後、猫たちはネズミや猫じゃらしなど、ハルにとってはあまり嬉しくないプレゼントをしますが、適度に緊張感があり多彩な色を表現する木管と弦のオーケストレーションがとても素晴らしい。弦と木管がお互いにメロディを取り合って曲が発展し、その中で多様な木管と金管の伴奏でその多彩な色彩が表現され、一度テーマが進んだ後、スネアドラムが緊張感を増して、さらに曲が展開していきます。弦と木管が役割を変えながら編曲の面白さが加わり展開していると思います。



猫に連れ去られるハルをバロンと仲間たちが追うシーン。ここではトランペットから始まるメロディが印象的です。バロンを表すメロディとも言えます。そのメロディは作品の様々なところで聴くことができます。



明るく軽快なこの映画で微笑ましい所は擬人化された猫たちの行動ですが、その特徴をよく表現した編曲が特に印象的です。そのアプローチは映画の様々な部分で見ることができて、主人公のハルが猫の王国に行くシーン(M-14)、猫の王と一緒に晩餐を楽しむ場面で楽団の動きに合わせて音楽を演奏するシーン(M-17、M-18)、迷路の中で兵士たちから逃れて脱出するシーンなど(M-20、M-21)。是非チェックしてみてください。

野見祐二はとても好きな作曲家の一人ですが、これからも、もっと野見さんの曲を聴きたいと思っています。


「思い出のマーニー」(2014年)

“この世には目に見えない魔法の輪がある。輪には内側と外側があって、私は外側の人間”。映画「思い出のマーニー」は世の中に自分の居場所はないと思っている少女杏奈の物語で、作曲家は村松崇継。最初に紹介するのは「しめっち屋敷」。杏奈が湿っ地屋敷を初めて見つけた時に流れるこの曲は、作品全体の雰囲気を表現する巨大なテーマだと思います。船に乗って川を渡って至ることができる湿っ地屋敷。屋敷は夜なのに空は昼のままで、共存できない夜と昼が混ざりあった奇妙な世界。夢と現実、過去と現在が「内側と外側」ではっきりと区別されていない世界です。ピアノと弦楽器がお互いに奏であい、そこにギターと金管、木管楽器が増して曲が発展されていく。夢幻的でどこか神秘的な、静的で何かを思い出せるようなすごく懐かしい感じをよく表現しています。



杏奈とマーニーが会うシーンでよく出るメロディがあります。マーニーのテーマ曲なのでしょうか。二人が初めて出会うシーンから、月光が降ってくる海辺で櫓を漕ぎながら自分の悩みを話すシーンなど、二人の友情を表現する温かい曲です。



月光の下、二人が一緒に踊るシーンは見る人に大きな癒しを与えるシーンだと思います。マーニーが心を込めて杏奈を抱きしめた時、それまで誰にも心の言葉を話せなかった杏奈がマーニーと「秘密の約束」を共有する瞬間だからです。ここでマーニーは歌を歌います。どこか苦くて、でも明るい曲で二人の感情をよく表しているのでないでしょうか。この曲は作品の後半にも編曲されて使われています。



マーニーの過去を聞くシーンでは、個人的に一番好きな「杏奈」という曲が使われています。繊細に描写された杏奈の内面世界から、自分を表現すことを怖がる12歳の少女の心、その少女が成長する姿まで、この作品の中で何より杏奈をうまく表現している曲です。



そして韓国系アメリカ人のシンガーソングライターであるプリシア・アーンが歌う主題歌「Fine On the Outside」(M-34)はまるで杏奈の人生そのものを静かに聴かせてくれます。そして、映画では使われていませんが、「彩香の夢」(M-5)という曲は劇中の彩香を表現した曲でとても明るくて気持ちの良い曲なので、是非聴いてみてください。


山本雅美

ainone合同会社 代表/プロデューサー ビクターエンタテインメント/A-Sketch/KKBOX Japanで幅広く音楽ビジネスを担当、現在は音楽専門インターネットラジオのプロデューサーのほか、多摩川沿いの街で音楽フェスなどを開催。また写真家として国内・海外でのエキシビションに出展。

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