浮世離れした街のためのBGM 青野賢一
プレイリスト - 8 曲 |

浮世離れした街のためのBGM 青野賢一

2016-12-28
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青野賢一

ビームス創造研究所クリエイティブディレクター。執筆、編集、他企業の業務ディレクションやイベント・展示の企画運営、大学講師など、主に社外のクライアントワークを行う。また1999年にスタートしたビームスの音楽部門〈ビームス レコーズ〉のディレクターも務める。DJ/選曲家としても1987年から活動し、クラブ、ラウンジ、ファッションブランドのコレクションなど、様々な局面に合った選曲を提供している。1968年東京生まれ。

▼浮世離れした街のためのプレイリスト

原宿は、小さな頃から馴染みのある街です。親がファッションの仕事をしていたので、サンプルの納品など親のおつかいで、子供の頃から原宿に出入りしていました。

とても個人的な印象ですが、いい意味で「浮世離れしている街」だと思います。東京の他の街とは、明らかにリズムやペースが違う、昔も今もそんなイメージがあります。  

いわゆる大型デパートがなく(ラフォーレはありますが)、小さな個人商店の類がひしめき合っている。僕が子供の頃からあるような古い店も健在ですが、一方で入れ替わりは激しい。いい意味で「淀まない、移ろいゆく街」というイメージもあります。

原宿はまた、意外にのんびりしたところのある街です。竹下通りは確かににぎやかですが、明治通りを渡った側や千駄ヶ谷寄りは静かです。大型の街頭ビジョンはありませんし、夜が早い。明治神宮、東郷神社の存在も、原宿に独特な空気感を与えているようにも思います。

大人も多い街です。そして、互いにあまり干渉しない。いい大人が日中からふらふらしている。買い物も何もせずただ歩いている若者も大勢いる。こういう人たちが、「浮世離れした感じ」を醸し出しているのかもしれません。「何かを買いに」とか「何かを観に」どこかへ出かけていくことが多い現代において、原宿はどうもそういう欲望が希薄というか、直接的な目的とは密接にコミットしてない街なのかもしれません。とりあえずぷらぷらしてみる。そのうち、何かインスピレーションを得ることがある、というような。そこがちょっと、他のにぎわっている街とは違うのかもしれない。いつもどこか「絵空事」のような、そんな面白さがこの街には今もあるように思います。

#1 Moonlight Cocktail / Glenn Miller Orchestra from『The Very Best: Glenn Miller Orchestra Vol.2』

表参道に「同潤会アパート」があった頃、その敷地の奥の方に一軒の古着屋がありました。品数の多くない、絞り込んでいるような店。行くといつもスウィング・ジャズが流れていました。それまでスウィング・ジャズに着目したことがなかったんですが、そこで聞いてエレガントな音に惹かれましたね。1980年代の僕の原宿の想い出のひとつとして、このサウンドがあります。

#2 Honey Dew / Melon from『Do You Like Japan?』

僕にとって最も原宿っぽいバンドが、メロン。この曲は「スネークマン・ショー」のアルバムに入っているバージョンで、他にもいくつかバージョン違いがあります。プラスチックス(1976〜81年)、そしてメロンは、80年代の原宿を代表するバンドだと思います。僕にとって「街と音楽の関係」を感じるバンドであり、音楽です。

#3 Fallin’ / Connie Francis from『Gold』

原宿=歩行者天国の思い出です。1970年代末〜80年代初頭の原宿には、ホコテン文化がありました。竹の子族と一緒に、ローラー族とも呼ばれた革ジャンを着た男たちと、50’sの装いの女の子たちがいて、その彼女たちが踊っていたのが、このコニー・フランシスに代表される音楽でした。

#4 I’m Still in Love / Alton Ellis from『Legend』

かつて原宿に、「GHEE(ギー)」というカレー屋がありました。僕は1987年、大学1年生のときにビームスでアルバイトを始めたんですが、店の先輩に連れられて行ったのが、ギー初体験でした。初めて食べたときの衝撃は忘れられません。それまでのカレーの概念が覆されたというか。美味しさに驚きました。ギーはカセットテープで音楽を流していて、ちょうどこんなロック・ステディのミックステープでした。そんなギーのイメージでこの1曲を選びました。19歳の僕は、その店で安西水丸さんとか、こちらが一方的に知っている人がひとりでカレー食べているのを見て、「大人ってかっこいいな」なんて思っていたんですね。

#5 Tibetan Dance / Yellow Magic Orchestra from『LONDONYMO』

坂本龍一さんの『音楽図鑑』(1984年)の中の曲ですが、ここではロンドンでのYMO再結成ライブ時のものを選びました。『音楽図鑑』が出た当時、原宿のあらゆるブティックがこのアルバムを流していた。その印象がすごく強くて。僕にとってのファッションや音楽の入り口はYMOなので、どのアルバムもすべて聴いています。『音楽図鑑』も大好きな1枚ですが、それよりもとにかく、当時の「原宿のあらゆる店で流れている」印象が強いですね。

#6 Sucker M.C.’s (Krush-Groove 1) / RUN DMC from『The Best Of RUN DMC』

これもホコテン(歩行者天国)のイメージ。ブレイクダンスやっている人も多かったんです。僕はラップとかヒップホップとか特に意識せず、単純に「かっこいい音楽」として聴いていました。スクラッチとかあんまりよく分からなかったし(笑)。いわゆる「ブレイクダンス・クラシック」です。

#7 Mind Power / A Tribe Called Quest from『Beats, Rhymes & Life』

1990年代は「裏原の時代」と言われています。90年代、原宿にはヒップホップ・カルチャーに影響を受けた若者たちが大勢集まってきていました。90年代ウラハラをイメージする音楽を考えたとき、やはりトライブかなと思いました。今聴いても最高に格好いいですね。

#8 The Man From Califas/Tommy Guerrero from『No Mans Land』

BEAMS RECORDSのレーベルは1999年に始まったんですが、お店のオープンが2000年でした。オープン当初、お店でめちゃくちゃ売れたのが、トミー・ゲレロの『A LITTLE BIT OF SOMETHIN’』でした。当時のスケート・カルチャーともリンクしていたんでしょうね。お店でかかっていると誰もが買っていく、そんな1枚でした。今回は、同じゲレロの『No Mans Land』というアルバムからの1曲を選んでみました。

#9 Lowdown / Boz Scaggs from『Silk Degrees』

ビームス第1号店は、「アメリカン ライフショップ ビームス」という名前で1976年原宿にオープンしました。今年で創立40周年です。同じ年にリリースされたのがボズ・スキャッグスの『シルク・ディグリーズ』というアルバム。オープン当初のビームスは、アメリカのユース・カルチャーを紹介していましたが、当時の原宿のもう少し洗練された大人っぽいイメージも考慮して、このアルバムからタイトなリズムが心地よい「ローダウン」を選びました。

#10 joy / rei harakami from『lust』

「今の原宿の音楽って何だろう?」と考えたとき、やはり日本のアーティストにしたかった。これは、今の原宿の街を象徴する曲、原宿をイメージできる曲だと思います。例えば、竹下通りとキャットストリートでは、人々の歩く速度や密度が違うように、原宿にはいろんなレイヤーがあり、場所によってムードも変わります。レイハラカミのこの曲は、複数のモチーフ、リズムが重なって広がっていく曲。それが絶妙なバランスでひとつになっているところが現在の原宿で聴く曲として、すごくしっくりくると思いました。

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    最終更新

    2016-12-28