ネット発の若手クリエイターが活躍する音楽10選 〜緊急座談会〜【前編】

ネット発の若手クリエイターが活躍する音楽10選 〜緊急座談会〜【前編】
後藤千尋
後藤千尋

世間的に言うと、いまネット発の若手クリエイターが大活躍している。ニコニコ動画で動画投稿をスタートさせたシンガーソングライター・まふまふが埼玉・メットライフドームで単独公演&ひきフェスを開催し、2日間で7万人の動員を記録。また、ネット発の謎の新人アーティスト・ずっと真夜中でいいのに。が先月オリコン週間ランキングで初登場1位を獲得。「ボカロ文化」がJ-POPシーンに頭角を現したことは、ボカロがその垣根を越え、ひとつの音楽として認知されつつあることを意味しているように思う。そんなネット発の若手クリエイターが活躍する音楽のリリースが続くことを受け、KKBOX編集室ではいま注目の若手クリエイターが活躍するプレイリストを作成、それをもとに緊急座談会を開催した。その模様を2回にわけてお届けしたい。

参加メンバー





朝日(ネクライトーキー)
@ishi_furo
「オシャレ大作戦」がネットで話題のネクライトーキー、ギター。コンテンポラリーな生活ではギター&ボーカル、石風呂の名義で動画投稿も行っている。今回、大阪にいる朝日さんには東京からSkypeを繋いで座談会に参加して頂きました。






ウォルピスカーター
@wolpis_kater
2015年4月に投稿した「アスノヨゾラ哨戒班」が1000万再生を超える記録。「歌ってみた」動画投稿とオリジナル楽曲のボーカルで活動し、“高音出したい系男子”として人気を博すボーカリスト。






みあ(三月のパンタシア)
@3_phantasia
2015年、YouTubeの動画投稿をきっかけに人気急上昇中の音楽ユニットとして注目を集めている三月のパンタシアのボーカル。“音楽×小説×イラスト”を連動させた企画やコンセプトのあるライブに定評がある。






すこっぷ
@scopscop
ボカロ投稿を中心に活動中。現在は三月のパンタシアに楽曲提供をしている若手クリエイターのひとりで、多くのシンガーに楽曲をカバーされている人気ボカロP。


座談会の参加メンバーに話を訊いた

—今回が初対面の方っていらっしゃいますか?

朝日:みなさん初対面ですね。

みあ:すこっぷさんとは、三月のパンタシア(以下、三パシ)の制作過程の打ち合わせやレコーディングにも来て頂いてるので(付き合いは)長いですね。ウォルピスカーターさんは、この間ラジオ(FM NACK5の冠番組『ウォルピスカーターの社長室からお送りします。』)にゲストで出させて頂きました。なので、お二方とはお久しぶりですね。

—みなさん朝日さんは初めましてなんですね。さっそくですが、それぞれの印象を伺ってもよろしいですか?

ウォルピスカーター:今お会いしたばかりなのでまだ印象も何もないですね!(笑)。いちばん強いのは、石風呂さんが映ってるテレビの画面が48インチくらいあることのかな? っていう(笑)。

一同:(爆笑)。

朝日:そんなです・・・? 恥ずかしいわぁ(笑)。

ウォルピスカーター:すこっぷさんは初対面ですけど、僕「歌ってみた」動画で何回か歌わせていただいてました。

—朝日さんはいまはネクライトーキーで活動されている印象が強いんですけど、じつは石風呂の名義で楽曲投稿されていて、7月24日には石風呂の楽曲をカバーしたミニアルバム『MEMORIES』がリリースされます。石風呂で活動されていることを周囲の人はご存じでしたか?

朝日:「石風呂だったんだ」って言われることは多いです。


やっていったら楽しくなっていって活動に繋がっていった

—動画投稿以前からコンテンポラリーな生活というバンドでも活動されてましたが、ボカロ投稿もやってみようと思ったきっかけは?

朝日:友達に「DTMできるんだったらやってみたら?」って勧められて、それで「そんなのがあるんだ」って初めてみました。で、教えてくれた人が映像もできる友達だったので映像も作ってもらったりして投稿したのが2010年ですね。

—他のみなさんは?

ウォルピスカーター:僕は2012年にボカロの「歌ってみた」投稿から趣味でやってきました。いまは投稿のほかに、CDを出したり、ライブもやるようになったという感じです。

みあ:もともとニコニコ動画に詳しかったわけでなくて「千本桜」が流行ってた時期に聴いて「ボカロって凄くかっこいいな」って思ったんです。「ボカロっぽい」って言いがちですけど、クリエイターによって全然カラーが違ったりして、いろいろなクリエイターの方の音楽を聴いていくのがすごい楽しくて。

すこっぷ:僕は2009年ですね。曲を作りたいって思って。もともとネットで音楽を探すのが好きで、その一端として初音ミクに出会って曲を作ってたんですけど、「ボーカルをどうしようかな」っていうのが凄い悩みで。初音ミクを聴いて「これでやってみようかな」っていうお試しくらいの感じだったんですけど、やっていったら作るのがすごい楽しくなっていって活動に繋がっていきましたね。


人が歌ったら普通に音楽だった「これはボカロでこれは違う」って意識して聴いてなかった

—三月のパンタシアのみあさんが活動に至った経緯は?

みあ:三パシ自体は2015年に初めてYouTubeですこっぷさん書き下ろしのオリジナル楽曲「day break」で発表しました。自分の中でボカロは音楽性として好きなジャンルだったので、「自分がこれまで敬愛してきた方と一緒に楽曲制作していけたらいいな」ってお声がけさせて頂きました。

—朝日さんやすこっぷさんが投稿をはじめた頃はニコニコ動画も初期の頃でしたね。いまのようにネット発の謎の新人アーティストがオリコン1位を獲ることって想像できましたか?

すこっぷ:ボカロが流行った時にどちらかと言うと「歌ってみた」のほうがメジャーというか、先にアルバムも出たんです。当時は歌う人に焦点が当てられたので、こういう風になるのは想像できましたね。ボカロとは別に、いまアーティストとしてオリジナルの曲を歌う人が増えているのは良い流れだとなと思います。

ウォルピスカーター:Eveさんやまふまふさん、そらるさんがオリコン獲ったり、大きいとこでライブしてくれたお陰で僕らも後を着いて行けるんですよね。僕はそういう風になると思わずネットの閉鎖された空間で細々とやっていつか終わるんじゃないかなって思ってました(笑)。

朝日:ボカロとはいえ人が歌ったら普通に音楽だったので、僕自身「これはボカロでこれは違う」って意識して聴いてなかった。僕がいた頃ってハチさん(米津玄師)がニコニコ動画で投稿していた時だったんですけど、「もはやこの人、こんなところに収まる才能やないやん」って思ってたんで、こうなってるのは驚いてはないですね。

—世の中がやっと気づいたか的なところもあった?

朝日:「遅っそいなあ」って思いました。

一同:(爆笑)。

すこっぷ:僕はハチさんの信者なんですけど、当時から「もっとこの人は日本を代表するくらいのアーティストになる!」と思っていたので、ヒットしてくれたのが個人的にすごい嬉しいです。


「生で歌えない曲を発表したところで何になる」なんて言われてましたけど、そういう価値観を変えていきたい

—少し聞きづらいんですが、動画投稿を辞めようって思ったことはありますか? あっ・・・朝日さんと繋いでるパソコンが落ちました(苦笑)。

ウォルピスカーター:これ、聞いちゃいけないこと聞いたから(笑)。

一同:(爆笑)。

—すみません、パソコンが不調のようなので、LINEを繋いで音声のみで話を戻します。よろしくお願いいたします。

ウォルピスカーター:僕は(音楽活動が)日常に溶け出してしまったので、趣味が仕事になって辞めるに辞められないみたいなことが大きいので続けています。動画が伸びなかったときは人気ないのかなって思いますけど、それ以外にやることがなかったので。

—ウォルピス社の社長として、そこは辞められないと。

ウォルピスカーター:はい、社長として!

—さすがです。ちょっと言わせてしまった感もありますが(笑)、みあさんは?

みあ:辞めようとかはないけど、何が聴かれてるかは気にします。むかし「星の涙」って楽曲を投稿したんですけど、当初は再生回数も普通だったんですけど何年後とかにすごい再生されて、いまもう700万近くは再生されてるんですよ。本当に何があるかわからないから、それもネットの面白さのひとつだなって思ったりしますね(笑)。

すこっぷ:僕は気に病みやすいので(笑)、しょっちゅう「もう辞めようかな」って思うけど、結局は自分のことを見つめ直した時に、まだ音楽でできるはたくさんあるって思ったり、努力が足りないところがあったりするので辞めるならやり遂げてからと思って続けてますね。


—続けてきたからこそ、いまの活動にも繋がってはいると思うんですよね。ウォルピスカーターさんは10月27日(日)東京・豊洲PITでワンマンを行いますが、すでに追加公演も決定しています。

ウォルピスカーター:ありがたいことに、そうなんです。

—今回プレイリストは「1%」(TVアニメ「不機嫌なモノノケ庵 續」ED)を選曲させて頂きましたが、ライブに来ていただけることに対してはどう感じてますか?

ウォルピスカーター:僕はこれまでライブでの披露は念頭に置かずに作品を作り続けてきたので、そのままライブで再現できる音源というのが・・・正直、ほとんど無いんですよ(笑)。

—“高音出したい系男子”と名高いですが、はじめて聴いた時に女性が歌っているのかと思う楽曲も多く驚きました。

ウォルピスカーター:もちろん高いキーで歌っているなとは思いますが、例えばオリジナル曲だったらサビまでブレスがない曲もやってきましたし、ライブに来て下さるリスナーの方は、その辺もふまえて楽しんでもらえると嬉しいですね(笑)。

—ネット発の音楽ってそこが魅力的にも感じます。

ウォルピスカーター:そこが魅力でもあり、叩かれる部分でもあったりするんですよね。僕らより上の世代で、特に生の音楽を聴いて育った人からしたらライブでやれない音楽はダメだみたいに言われて。学生時代の先生にも「生で歌えない曲を発表したところで何になる」なんて言われたことがありますけど、そういう価値観を変えていきたいですね。

—すこっぷさんはクリエイターとして楽曲を作る時に歌う側のことは念頭に入れますか?

すこっぷ:ブレスの位置とか少しは意識してたんですけど、ただボカロにも得意な音域とかあるんですよね。初音ミクは高いほうが良く合い、人が歌うにもキーが上のほうなので「歌ってみた」でやる方はすごい苦労してるんじゃないかな。

—ニコニコ動画が流行りだした頃の歌詞の特徴としてcosMo@暴走Pさんの「初音ミクの消失」は1秒あたり7.5文字、wowakaさんの「裏表ラバーズ」が1秒間に6.2文字と早口な音楽もあったりしましたが、今はどう?

ウォルピスカーター:今はYoutubeとかでもミドルテンポの楽曲が流行っている感じなので、ギュッと詰め込むというよりは語感とかメロディ重視になってますね。

すこっぷ:おっしゃる通り、結構テンポ的にはいまはスロウになってきてるんですけど、YouTubeで人気のあるアーティストとかって歌詞がいいんですよね。で、その歌詞の文字数っていうのは今も比較的多いものはたくさんありますね。

—すこっぷさんの「ケッペキショウ」は先月リリースされたGUMI10周年記念アルバムにも収録されてますが、その楽曲とSouさんがカバーしたものもKKBOXで配信されています。これも詰め込まれた歌詞が印象的ですね。

すこっぷ:そうですね。楽曲を作る中で歌詞に共感してくださる方がすごく多くて、自分でもこういう歌詞を受け入れてくれるんだって思ったことがあったので、これは歌詞を詰め込んで作ろうと思いましたね。

—三月のパンタシアの話にも移りたいんですが、「青春なんていらないわ」はヨルシカでも活躍されているn-bunaさんの楽曲ですね。

みあ:この楽曲は去年の夏にYouTubeで公開したんですけど、そこから“音楽×小説×イラスト”を連動させて作品を発表してく「ガールズブルー」という自主企画をはじめました。活動当初から物語性を大切にしていたんですが、「自分で書き下ろした小説を軸に企画に連動させて主題歌みたいな形でYouTubeに発表してみよう」と思って。

—「青春なんていらないわ」はどんなストーリーですか?

みあ:夏、部活でちょっと挫折して・・・もう辞めたいけど辞められもしない自分も嫌だし、そういう「なんで自分だけ上手く出来ないんだろう?」みたいな葛藤を抱えてる中でちょっと一歩踏み出すような話なんです。自分を救ってくれた人がいて、本当は素直にありがとうとか伝えたいけど、上手く言葉にならならなかったりとかして、それを小説にしました。

—先月EXシアター六本木で行われたワンマンでも諦めや葛藤がありながらも一歩踏み出せるような想いを起こさせてくれるシーンがありました。活動する上で軸にしていることはありますか?

みあ:わたしが学生時代から自分の気持ちを言葉にするっていうのがあまり得意じゃなくて、「あの時、もうちょっとああいう風にできてたら変わってたかもしれないな」ってことが多かったんです。そういう“言いたくても言えない気持ち”をせめて歌の中で言えたらいいなって思うし、自分と同じようなもどかしさや葛藤を抱えてる人の気持ちを三パシの曲では歌ってあげられたらいいなっていう思いはありますね。

—7月15日には新曲「いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら」も配信されます。

みあ:去年の夏に発表した企画と楽曲をきっかけに何作か小説と連動した作品を発表したんですけど、その延長戦上にある自主企画を今年もやります。

—すこっぷさんが書き下ろした「フェアリーテイル」も人気ですが、すこっぷさんが小説をもとに書き下ろしたのは「ビタースイート」がはじめてですよね?

すこっぷ:「フェアリーテイル」はTVアニメ『亜人ちゃんは語りたい』に内容を寄せたりが強かったですね。「ビタースイート」は「この小説の曲を書いて欲しい」って言われて打ち合わせして、“依存”をテーマに暗い曲を作って欲しいと言われました。

—これはみあさんが友人の体験談をもとに書かれた小説なんですよね?

みあ:そうですね。恋人じゃない人とずっとだらだら関係を続けちゃうっていう・・・自分から離れられない依存症みたいな小説を書いたんですけど、打ち合わせするときも「この曲は最後まで暗くていいんで」って言いました。具体的にすこっぷさんの「アイロニ」みたいな闇狂ったピアノのフレーズを入れて欲しいっていったのと、「アイロニ」みたいな胸の内にあるものを全部吐き出すような感じで言葉を詰めるようにこを作ってほしいとはお伝えして。

すこっぷ:さっき諦めや葛藤がありながらも一歩踏み出せるみたいなところが三パシの音楽にはあるって話に出てたんですけど、この曲に限っては「そういう三パシっぽさは意識しなくていいんでとにかく暗い曲でいいんです」っていう風に言ってたので、楽曲提供だとアーティストのイメージとか気にするんですけど、この曲はオリジナル楽曲のように伸び伸び作れました。

—前作はCDの初回特典で小説が読めましたが、新作は?

みあ:7月14日からTwitter上でつぶやいていこうかなって。

—「8時33分、夏がまた輝く」という企画タイトルでいろいろな想像が膨らみます。

みあ:新曲はbuzzGさんに「こういう話を書こうとおもってるんだけど、絵としてはこのシーンの絵が浮かぶ感じでこういう感情を切り取って歌詞にしてほしい」と話して書き下ろしてもらいました。前回の企画が“女の子の憂鬱”をテーマで、その延長戦上で今回も主人公・高校生の女の子のひと夏の物語を描いてます。小説のタイトルだけ見たら意味がわからないと思うんですけど、読んでもらえたらわかる面白い企画になってるので、そこは“小説×イラスト×音楽”とあわせて楽しんでもらえたら嬉しいです。


※この座談会の後編は、7月26日(金)に公開予定です。
後藤千尋
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