鮮烈なる個人史、広がり続けるランドスケープ

鮮烈なる個人史、広がり続けるランドスケープ
内田正樹
内田正樹

金子ノブアキ、約4年半振りのソロアルバムである。金子はロックバンド“RIZE”のドラマーである。また近年はAA=にも参加、同時に役者としても「クローズZERO」、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」など、これまでに数々の映画やテレビドラマに出演している。 こうしたプロフィールを連ねると彼が“器用な男”に見えるかもしれない。それは半分正解だが半分は違う。惜しくも12年に逝去した名ドラマー・ジョニー吉長を父に、同じく日本ロック史に残る名ボーカリスト・金子マリを母に持つ金子は、幼少の頃から多くの大人たちに囲まれて育った影響から、二十歳になる頃には音楽と演技の両方で活動を始めていた。音楽は生きる指針として、演技は誰かのニーズに応え、その収穫を音楽活動に反映させる。そんな志を持ち続けた。 しかしこれは役者の片手間みたいな作品でもなければ、ドラム一辺倒という類でもない。たとえば筆者は本作を聴いていると、花の蕾が開くスロー映像や草原を走る野生動物の姿が浮かぶ。そんな壮大なサウンドスケープ(音楽風景)のようなスケール感なのだ。エレクトロニカと、自身による歌とギターとドラムのアンサンブルが心地良い。 3.11の震災や父との別れを経た上で、生命の喜びを感じてもらえる音楽を目指したという本作には、金子の32年の個人史。自身が抱く死生観。森羅万象と共に在るべき愛や慈しみが込められている。個人の“Historia(歴史。探求)”がリスナーに“希望”の風景を見せるのだ。脳内から眼前が開けていくような、祝祭と癒しに満ちた音楽体験である。

内田正樹
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