一流の色気に満ちた、玉置浩二待望の歌謡曲カバー集

一流の色気に満ちた、玉置浩二待望の歌謡曲カバー集
内田正樹
内田正樹

とにかく玉置浩二は歌が上手い。 そんな彼の歌を評した文章で思い出すのは、久世光彦のそれである。 「(前略)歌の奥底に芯というものがあるとすれば、それは色気である。男が女を、雄が雌を呼ぶのが歌である。私が女なら玉置浩二の四小節で骨抜きになり、八小節で身を許す。年中そばにいる奥さんは忙しいことである」(「人恋しくて 余白の多い住所録」より抜粋) 筆者はかねてよりこの二人のファンで、久世が玉置を主演に据えて制作したテレビドラマ「キツイ奴ら」(89年)や「みんな夢の中~ある偽ハマクラ伝~」(92年)が大好きだった。アルバム『群像の星』の一曲目と最終曲(リプライズ)で歌われる「みんな夢の中」(高田恭子)は久世も好きな歌だった。作詞作曲は浜口庫之助。前述のドラマ「みんな~」は久世の企画演出だった。 ハマクラを名乗る偽物のギター弾きを演じたのは玉置その人だった。劇中、玉置は艶のある素晴らしい歌唱を聴かせていた。あのドラマを何とかしてもう一度見たいとずっと思っていたが、このアルバムでようやく「みんな~」が聴けてようやく少しだけ気が済んだ。これで繰り返し聴いて、泣くことができるから。 惜しくも久世は06年にあの世へ旅立ってしまったけれど、玉置は昨年「東京バンドワゴン~下町大家族物語」で久々にドラマ出演を果たした。あの頃より歳は重ねていたけれど、相変わらず飄々としている役所が嬉しかった。 現在56歳。本作は彼の変わらぬ色気と歌への愛情と、歌が本当の意味で、深く、尊く愛されていたかの日、つまり昭和への郷愁で出来ている。歌詞が歌う物語を、気持ちを、メッセージを届けようとする熱の強さは、やはり現役シンガーソングライターの中で随一だ。 「愛の讃歌」、「圭子の夢は夜ひらく」、「初恋」……「みんな~」の他の曲もいずれ劣らぬ名曲揃いである。あらためて玉置浩二という“歌手”の再評価に繋がることを期待すると共に、もし本作で初めて知った楽曲があったら、オリジナルと聴き比べる楽しさを味わってほしいと願う。そして、玉置の声で歌ってほしい歌が個人的にまだたくさんあるので、ぜひ続編も実現してほしい。

内田正樹
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