ロシアが認めたピアニスト、松田華音と女子会トークしちゃいました。

高野麻衣

若干21歳ながらもロシアをホームグラウンドにグローバルな活動するクラシック・ピアニスト、松田華音。今回はJD Sakiに加えライターの高野さんも参戦、影響を受けた音楽から文学、食事、ロシアのインスタ映えスポットまで女子会トークが繰り広げられ、松田さんのチャーミングな素顔が浮き彫りに。ふだんクラシックを聴かない方も、コラムを読みながらプレイリストをきっかけに彼女の魅力に触れていただければと思います。(KKBOX)

プロフィール

1996年香川県生まれ。4歳で細田淑子に師事、ピアノをはじめる。2002年秋、6歳でモスクワに渡りエレーナ・ペトローヴナ・イワノーワに師事。8歳でオーケストラとの初共演するほか、数々のコンクールで1位を総なめに。2014年にはグネーシン音楽学校ピアノ科を首席で卒業し、名門・モスクワ音楽院に日本人初のロシア政府特別奨学生として入学した。

これまでミハイル・プレトニョフ(ロシア・ナショナル管弦楽団)、アレクサンダー・ルーディン(ムジカ・ヴィヴァ)、ワレリー・ゲルギエフ(マリインスキー歌劇場管弦楽団)他多数の指揮者・オーケストラと共演。ロシア・ナショナル管弦楽団には、20126月のアジアツアーや9月のRNOグランドフェスティバル(モスクワ)、10月のロシア国内ツアーのソリストとして招かれ、ミハイル・プレトニョフが認めたピアニストとして注目を浴びた。201411月ドイツ・グラモフォンよりCDデビュー。20176月に最新アルバム『展覧会の絵』をリリースした。


ロシア人はシャイだけど、一歩懐に入るととてもやさしい

Saki6歳でロシアに留学したときの印象を覚えていますか?

松田:まったく景色が違う、建物も違うことに衝撃を受けました。ちょうど10月で、すでに雪が降っていたことにも驚きました。日照時間が短く、すぐ暗くなるのが怖かったのですが、建物のなかに入ると暖かくて、ほっとしたのを覚えています。


Saki:お母さんとふたりで、寂しさはなかったですか?

松田:父や祖母は日本に残っていたので、少しだけ。でも、まだ小学校に上がる前でしたし、弟もまもなくモスクワにきて一緒に音楽を学んだり遊んだりしていたので、寂しさを感じる暇はありませんでした。

グネーシン音楽学校では12年間学んだのですが、先生たちがとても温かく迎えてくださったことを、いまでも感謝しています。ロシア人はシャイだけど、一歩懐に入るととてもやさしい。国土が広大なので、心も広いのかもしれません。



高野:お話から、ロシアへの愛が伝わってきますね。

松田:ロシア料理も大好きです。とくにスープ。有名なボルシチのほかにも、ウハーというお魚のスープや塩漬けのキャベツを入れて作る酸っぱいスープなど、たくさんあるんです。ボルシチにもサワークリームを入れますし、酸味が好きなのかな。でも、日本に帰ってくると和食も好きですし……おいしいものはなんでも好きです(笑)


KKBOX:僕は松田さんが10歳のとき、オーケストラと共演している動画を観たのですが……衝撃でした。水色のドレスを着た小さな女の子が、ニコニコしながら楽しそうに大曲を弾きこなしていて。あのときの思い出ってありますか?

(YouTubeKanon Matsuda)

松田:水色のドレス……ハイドンのコンチェルトですね。いい曲です。当時はコンクールとかコンサートの区別もつかなくて、ただただ楽しかったのを覚えています。自分が弾いている音と、オケの音が重なっていくのがほんとうにうれしくて。


音楽には自分が出てしまう。だから自分に栄養を与えて、自分を育てる

高野:私は今年の3月に聴いた、東京フィルとのラフマニノフ(ピアノ協奏曲第2番)が印象的でした。駆け抜けるというよりもどっしり構えた演奏が、いま目の前にいる松田さんと結びつかないほど力強かった。

Saki:私も松田さんがとても華奢で驚きました。トレーニングとかされているのですか?

松田:特別なトレーニングはしていないです。でも、音楽が求めていることは表現したい。どっしりした曲はそのように弾きたいなと……まだまだ鍛錬中です。


高野:最近では、フィギュアスケートの羽生結弦選手とのインタビューも話題でした。

松田:あんなに情熱的な演技をされるのに、それこそ華奢な方で驚きました。リスクと緊張のなかで闘っていらっしゃる姿を、尊敬しています。ロシアにいると小さな頃からフィギュアスケートは身近ですから、感慨深い出会いでした。

いまはやりませんが、モスクワに渡った小さい頃、アイスダンスの元チャンピオンという先生に習ったこともあるんです。リンクに立ったら全然滑れなかったのでやめてしまったのですが(笑)、いまでもフィギュアだけは観ますね。バレエも、習い事はすぐにやめてしまったのですが、観るのは大好きです。

高野:フィギュア、バレエといったお家芸もまた、ロシアの魅力の一つですよね。ラフマニノフもそうですし、最新のセカンド・アルバムもムソルグスキーとプロコフィエフ。今後もロシア音楽で攻めるのでしょうか?

▼20171019日関西フィルハーモニー管弦楽団との共演 © s.yamamoto


松田
:たまたまです。今回はムソルグスキー「展覧会の絵」を弾くことが決まっていて、ではカップリングにも物語があるものを、ということでプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」を選びました。今後は大好きなフランス音楽や、シューマンなども弾いてみたいですね。

高野:似合いそう! 松田さんは、演奏のテクニックだけでなく物語を持っているイメージです。恩師イワノーワ先生は、「本を読みなさい」とくり返し教えてくれたとか。

松田:はい。「音楽には自分が出てしまう。だから自分に栄養を与えて、自分を育てていかないといい音楽は絶対に弾けない」と。「本を読みなさい。絵を見なさい。映画を観なさい。いろんな感情に触れなさい」とよくおっしゃっていました。

高野:素晴らしい教えですね!

モスクワの「インスタ映え」スポット

Saki:好きな作家など、いらっしゃいますか?

松田:やはりプーシキン、トルストイ、ドストエフスキーでしょうか。あと、ショロホフの「静かなるドン」は、学校の授業で読んで感動しました。ほかにもジャック・ロンドン、ジュール・ヴェルヌ、ヴィクトル・ユゴー……

高野:音楽や、それが作られた時代ともつながりがりそう。

松田:そうなんです! たとえばサマセット・モームの「月と6ペンス」は、画家ゴーギャンをモデルに描いた小説。芸術とは、ということが描かれていてとても興味深かったです。

絵画では、モネが好きです。あとカンディンスキーや、ロートレックの色がいいなと思います。映画は……じつは時間がかかるのであまり見れないのですが、古いものが好きですね。『風と共に去りぬ』や、オードリー・ヘップバーンの作品……

高野:ほんとうに、クラシカルで美しいものが好きなんですね! 私、松田さんととても気が合う気がします。

松田:よかったです。(笑いながら、高野の手元を見て)私、万年筆も好きです。音楽史の授業とか、書くものがたくさんあるときは必ず使います。書きやすいですよね。



Saki
:私のまわりの同世代ではできない会話で、驚いています……

一同:笑い

Saki:友人たちの間では、インスタが流行っています。「インスタ映え」という言葉、知っていますか?

松田:はい、聞いたことはあります!

Saki:その「インスタ映え」のためにかわいいカフェやおしゃれなスポットに2時間、3時間並んで、写真を撮るんです。

高野:え、それはおいしいもの食べるためじゃないの?

Saki:食べるのも楽しいけど、ほぼインスタのためです。

松田:インスタ命みたいな(笑)。でも、それはそれで楽しいですよね。私もインスタやってるんですよ。

(Instagram:kanonchik)



高野:モスクワ生活の一場面、それだけで素敵ですよね。

松田:モスクワは、ここ2年で道路が整備されてほんとうにきれいになったんです。今はちょうど雪が降ってきて、ロシアっぽいいい時期ですよ。とても寒いですが(笑)。

Saki:モスクワの「インスタ映え」スポットなんてありますか?

松田:「カフェ・プーシキン」というお店がオススメです。帝政時代の建物で、壁がちょっとグレイがかったピンク色でかわいい。なかには本がたくさん並んでいて、その雰囲気もすてきなんですよ。

Saki高野:わー、行ってみたい!


誰かとの会話、景色、すべてが音楽を思い出させてくれる

Saki:影響を受けたアーティストについても教えてください。

松田:最近、モスクワで先輩の大ピアニスト、キーシンさんのリサイタルがあったのですが、私がイワノーワ先生に言われてきたことが完璧に再現されている、という経験をして衝撃を受けました。音の立体感が素晴らしくて、最初から最後まで惹きつけられてしまって。いつかあんなふうに演奏したいと思いました。

あ、でもロックも聴くんですよ。レッド・ツェッペリン、ロックですよね?

KKBOX:はい、ロックです。斬新な問いかけですね(笑)

松田:クイーンや、レッド・ホット・チリ・ペッパーズも好きです。たとえば「ボヘミアン・ラプソディ」や、マイケル・ジャクソンの「アースソング」に感じる響きは、クラシックとほとんど変わりません。違うのは100%爆発する感覚かな。


高野:日本のポップスなどはいかがですか?

松田:さだまさしさんや、玉置浩二さんが好きです……全体的に古いんですが(笑)。母の影響もあって、エンヤやビリー・ジョエル、バナナラマなんかも好きです。

KKBOX:女子大生がなかなか聴かないアーティストですね(笑)。ジャズのような、クロスオーヴァーな活動をお考えになったことは?

松田:アドリブはできないんです。ジャズの方にはとても憧れるんですが、できないですね。でも即興性はクラシックに大切なことなので、少しずつ、身につけていきたいです。



Saki
:今後の目標はありますか?

松田:目指しているものに向かって頑張って成長していきたいです。成長し続けたい。

高野:松田さんのなかには物語があって、音楽を楽しんでいらっしゃる。そこが素晴らしいと思います。

松田:音楽を聴いていると、物語が自然に浮かんでくる――ああ、ここではこういう女の子がこんなことを話している、とイメージが浮かんでくる。それを音で表現することが、私の使命だと思っています。湧いてきたものを分かちあうように。

Saki:素朴な疑問ですが、演奏後はどんなテンションなんですか?

松田:興奮したままですね。あまり顔には出ていないと思うのですが、夜中の34時まで眠れないことも多いです。

高野:そこまでテンションを高めているわけですね。そんなときは、音楽を聴いてリラックスしたりも?

松田:ピアノではなく、オーケストラを聴くことが多いです。ラヴェルの「ラ・ヴァルス」が大好き。あの曲って体中をシャンパンが流れるような感じがしませんか? 泡がはじけて鼻から抜けていくような、そんな気分になります。

KKBOX:おお! 規則正しくない泡の感じがラヴェルっぽいですね。ダンス音楽ですし。ワルツって、じつは生きていくうえですごくフィットするリズムですよね!

高野:おもしろいですねえ! ほかにもそんなイメージのある曲ってありますか?

松田:デビューアルバムに収録したスクリャービンのワルツ。あの曲の調が変わるところでは、必ずベルガモットの香りがします。じつはクラスに3人、音から色が見える人もいるんですが、私は香りですね。


Saki
:なにかから音が聞こえるような、逆パターンもあるんですか?

松田:ありますよ。なにか食べたときに「これフランス音楽みたい」とか。誰かとの会話、景色、すべてが音楽を思い出させてくれる。芸術は素晴らしいですね。

高野:そうはっきり言えることも素晴らしい。今後音楽で、何を伝えていきたいですか?

松田:ちょっと落ち込んでいても、いい音楽を聴くと楽になったり、温かい気持ちになったりする。私は音楽を通して、そういう存在になりたいです。


関連リンク

・松田華音(まつだかのん)|Kanon Matsuda - UNIVERSAL MUSIC JAPAN
フィギュアスケート羽生結弦×ピアニスト松田華音 それぞれの表現のかたち:前編
フィギュアスケート羽生結弦×ピアニスト松田華音 それぞれの表現のかたち:後編

高野麻衣

音楽ジャーナリスト/コラムニスト。上智大学史学科卒業。音楽雑誌編集を経て現職。ラジオ『Memories & Discoveries』(JFN系列)レギュラー。歴史をベースに音楽、美術、マンガ・アニメ、英国王室等について執筆。書籍やメディア、イベントで企画監修・構成・出演を担当するほか、ラ・フォル・ジュルネ音楽祭、東京フィルハーモニー交響楽団ワールド・ツアーなどにも携わる。乙女座B型。 著作:『フランス的クラシック生活』(PHP新書)、『マンガと音楽の甘い関係』(太田出版)、『マリー・アントワネットの音楽会』(ワーナーミュージック) http://www.salonette.net

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