どこかの誰かなら
思い出も忘れるほどだったでしょう
通りすがりならば
約束も交わさずいられたでしょう
書きかけの言葉たちと
夜に吸い込まれながら
行き場を失う三日月
薄い扉の向こうから
遠い遠い君が呼んだ
変わらぬ声で 変わらぬ瞳で
ああなんともないから
さらさらないんだから
今さらこぼれ落ちた雫
言い聞かせながら
密かな明日を漕ぐ
少しだけ 少しだけ いいよね?
どこか違うような眼差しが
優しい嘘であったなら
はるか昔何もない
まっさらな私でいられたでしょう
ペン先に溜めた日々と
いつの間にか滲む跡
何度もかき消す二文字
ほんのわずかな期待と
諦めのはざまで揺れている夜明け
まだ その先は言わないで
深い深い水の底から
名もない雫を見つめる
そこに溶けた一縷の望み
泳ぎ回る心を余所に 余所に
光る鱗と揺らめく水面
忘れたくない残響として
座標のない日々に眠る
とめどなく押し寄せる波に 波に
飲み込まれないように
忍ばせた秘密
いつか君の懐へ
流れ着くのだろうか
(たまには見させて)
この時が移ろう限り
(美しい夢を)
この詩 消えない限り
ああなんともないから
さらさらないんだから…
ああなんともないから
さらさらないんだから
今さらこぼれ落ちた雫
言い聞かせながら
密かな明日を漕ぐ
少しだけ 少しだけ いいよね?