襖に染みた蘭麝(らんじゃ)の香(こう)で、
目眩(めくるめ)き、絆(ほだ)す。
怪(け)し、此(こ)の丑三つ―。
透き影滲む斑(はだれ)の雪と、
揺らめき乍(なが)ら手を這わす。
―紅の灯る 柔肌から溢(あふ)る、
淫らな囁き。
嗚呼―。
髪を撫でて、頬を撫でて、愛してやる。
見つめ合う刹那に、緊(きつ)く抱いて。
艶(なまめ)かしい其の眼(なまこ)が潤み、
吐息が零るる。
温もりが欲しいか。
―俺が呉(く)れてやる。
数え歌を口遊(くちずさ)みて。
目隠しをして、舌を這わす。
一・二・三・四
火照る柔肌から溢る、淫らな囁き―。
ふたつ、手を重ねて、
今生(こんじょう)を想う。
擦抜(すりぬ)けぬ様にと、緊(きつ)く絡め。
―独りきりの御前。
孤独を抱えて生きる事はないと、
俺が教えてやる。
髪を撫でて、頬を撫でて、愛してやる。
もう二度と、其の孤独を感じぬ様に。
想い重ね、日々を重ね、全て重ねて生きて。
永久(とわ)なる此の温もり、
俺が呉れてやる。
―だから、其の心や、体。全て、俺に寄こせ。
襖に染みた蘭麝の香で、目眩き、絆す。
―夜(よ)の御伽(おとぎ)。