渋谷龍太(SUPER BEAVER)にとっての至福のオフ 〜オフに聴く音楽と、ファッション&休みの過ごし方

渋谷龍太(SUPER BEAVER)にとっての至福のオフ 〜オフに聴く音楽と、ファッション&休みの過ごし方
阿部裕華
阿部裕華

ミュージシャンの「オン」と「オフ」を覗く連載「至福なオフ」。「オン」のモードで作り上げた作品についてはもちろん、休日の過ごし方や私服のこだわり、聴いている音楽など「オフ」の話題にも触れています。



今回のゲストは、2005年に東京で結成されたロックバンド「SUPER BEAVER」のボーカル渋谷龍太さんです。2020年にメジャー再契約したSUPER BEAVER。2月23日にはメジャー再契約後2枚目となるアルバム『東京』をリリースします。東京生まれ東京育ち東京で結成されたバンドがなぜ今『東京』というタイトルのアルバムを出すのか、本アルバムに込められた想いを赤裸々に語っていただきました。さらに個性あふれるファッションや最近よく聴いている音楽など、渋谷さんならではの「オフ」のお話もお届けします。


オフの日のファッションは?

ー今日のファッションはピンクで統一されていますね。

渋谷龍太(以下、渋谷):パステルカラーが死ぬほど似合わないから、パキッとした色のアイテムばっかり持っていて。でも、パステルカラーの中で唯一ピンクだけはマシという(笑)。

ーすごくお似合いです。ゴールドのアクセサリー類とも合っていて。

渋谷:ありがとうございます! もともとアクセサリー類は全部シルバーのアイテムをつけていたんですけど、父ちゃんがゴールドのネックレスをくれて。このネックレスをつけ始めたタイミングで、顔周りの色味は統一しようとゴールドのアクセサリーを揃えました。めちゃめちゃ安いですけど(笑)。



ー靴はどんな感じですか?

渋谷:浅草の「ROLLING DUB TRIO」という靴屋さんで買った靴です。一足一足をハンドメイドで生産しているんですよ。

すごく仲の良いラップグループ「MOROHA」のアフロがよく行っている靴屋さんで。お店の方が僕のことを知っているから一緒に行こうと誘ってくれたのがキッカケで行ったら、めちゃくちゃカッコいい靴がいっぱいあって、その中で気に入ったのがこの靴でした。ずっと履いていますね。

ー渋谷さんいつもオシャレだなと思っていましたが、身に着けているアイテム一つひとつにこだわられているのが分かります。

渋谷:恥ずかしいっすね(笑)。そんなに洋服に詳しいわけでもないから、ファッションのこだわりとか言われるとムズムズしちゃいます(笑)。



そこまでこだわりとかファッションのポイントとか特になくて。自分が着たいものを身に着けています。あとは、せっかくこうやってメディアに出るなら知人がすすめてくれたブランドや知人がやっているブランドのアイテムを身に着ければ、見て「いいな」と思ってくれる人が現れるかもしれない。そういう繋がりはすごく素敵だし、お世話になっている人たちに何かしら還元できたらなと思っています。

ー素晴らしい……。その一方で、今日も含め柄シャツをよく着ていらっしゃるなと。

渋谷:昔から派手なものがすごく好きで、柄シャツは気づいたらめちゃくちゃ持っていましたね。ステージ上ではポリエステルのシャツを着て、普段はレーヨンとかのシャツを着ています。

ーオンとオフでシャツの素材を変えているんですね。何か理由が?

渋谷:ポリエステルは洗濯ができて、アイロンがけが必要ないから(笑)。ライブの時は自分たちで衣装を持っていくんですけど、ツアーで何日間も地方にいると自分で洗濯しなきゃいけないから、絶対にポリエステルのシャツって決めていて。私服の時は材質的に好きなレーヨンを着る、という感じです(笑)。

ーかなり実用的な理由(笑)。

渋谷:あと、サイズ感は私服云々の前にすごく考えています。大きい会場であればあるほど全身がよく見えるので、遠くから見た時にシルエットで与える印象がすごく大事だなと思って。髪を伸ばしているのもそれが理由です。音楽をやっていなかったら絶対にしていない。ガンガン短くてもいい。ステージに立った時、映えるか映えないかのみですべて決めています(笑)。

ーということは、メイクもその一環?

渋谷:そうです! フェスのサービスモニターで抜かれることが多くなった時に、照明やお日様の具合で顔がよく見えなかったりするなと思ったんですよ。

ちょうどそのタイミングに、忌野清志郎さんのようなロックアイコンをすごくかっけぇなと思っていて。高円寺のアンダーグラウンドのロックバンドが目の周りをがっつり黒くして演奏しているのを見ていても、こういうロックスター像がカッコいいなと。ともすれば、これは使えるかもしれないと思い、メイクを始めました。ステージで自分がどう見えるかを突き詰めた結果、それが私服にも生かされている感じです。


オフの日、なにしてる?

ーライブを軸に生活がまわっていると思うのですが、そんな中でもオフの日は何をしているのでしょうか。

渋谷:翌日がオフの日だと決まっている時は、前日の夜にめちゃくちゃお酒を飲みます。このご時世で難しくなってきましたけど、お声がけいただいた人たちの飲み会を転々とするというのを朝方までずっとやっています。



喉を使う仕事なので、ライブ前やツアーでライブが続いている時は基本的にお酒を控えているんですよ。飲みに誘っていただくことがありがたいことにすごく多いのに、全部お断りしていて。それもあって、翌日がオフと決まったら誘っていただく人たちのところに顔を出すようにしています。その分、翌日は死んでいることが多い(笑)。

ー二日酔いで(笑)。

渋谷:それでも、しんどいながらコーヒー屋さんに行って本を読んだり物書きをしたりすることは多いです。物書いている時間、めちゃくちゃリフレッシュになるんですよね。それに音楽をしている間に自分の身になったものを書いてアウトプットすることによって、本格的にインプットできるというか……。

ーアウトプットによって、初めてインプットされる感覚?

渋谷:その感覚がとても強いです。インプットした気になっているものってすごく多い気がしていて。ただインプットしたところで、アウトプットで形にしないと身になっていないなってここ2〜3年で気づいたんですよ。だから、オフの日はインプットしたことをアウトプットしてしっかりインプットする。そうすると頭の中でごちゃごちゃしていたものが自分の頭の中の引き出しに整理整頓されて仕舞える感じになって。

ーそれが結果的に2021年に出した小説『都会のラクダ』や、メディアで連載中のエッセイにも繋がっているわけですね。すごくいいリフレッシュ方法。

渋谷:しかも心身ともに楽しんでできているから、すごくいいんですよね。


オフの日に聴きたい音楽は?

ーオフの日に聴く音楽を事前にリストアップしていただきましたが、かなり幅広い。

渋谷:広いですよね(笑)。最近聴いている曲を上から順に集めました。

ーそう考えるとマイケル・ジャクソンの『unbreakable』やビージーズの『more than a woman』といった古い曲が入っているのが気になります。

渋谷:この2曲は母ちゃんの影響で小さい頃から好きで聴いていて、最近また聴いている感じですね。

ーお母さまはポップスがお好きだったんですね。

渋谷:父ちゃんと母ちゃんどっちもハードロックが好きなんですけど、ほかは分岐していて。幼少期の記憶では、母ちゃんが留守番電話のバックミュージックをマイケルにしていました(笑)。

ーカッコいい(笑)。あとは、LIBROやunderslowjamsなどヒップホップが多いなと。

渋谷:ヒップホップ好きなんですよね。とはいえ、ヒップホップをディグるようになったのはここ4〜5年のことで。中学生の頃はRHYMESTERを好きで聴いていたし高校生の頃はTHA BLUE HERBと54-71をカッコいいなと思っていたけど。明確にヒップホップを面白いなと思うようになったのは割と最近だったんですよ。言葉が面白いし、めちゃくちゃカッコいいなと。それでLIBROやZORN、underslowjamsとかいろんな人の曲を聴くようになりました。



ー執筆活動をしていますし、やっぱり“言葉”がお好きなんですか?

渋谷:音楽に関しては、実は歌詞に注目して聴くことは全くしてこなかったですね。ずっと洋楽を聴いていたから言葉は音の1個としか思っていなかった。歌詞を聴こう!と思わなきゃ聴けなくて。でも逆に集中して聴くから、イケてるパンチラインに出会った時は「うわ!すげぇ!こんなこと言ってんだ!」とビックリする。それでグサグサ刺さる言葉がヒップホップには多いなと思います。

ーヒップホップとSUPER BEAVERの楽曲はジャンルのベクトルが全く異なりますけど、歌い方で参考にすることはありますか?

渋谷:言葉がしっかり聴き取れるようにする縦の線(リズムの正確さ)はすごく参考にしているかな。リズムや拍の取り方が違うから自分の歌にヒップホップの要素はまるでなかったんですけど、参考にするようになってから言葉がしっかり聴こえて届くなって。

おととしからやっているソロでの歌い方は、感覚的にヒップホップの縦の取り方にかなり寄っています。うちのドラム(藤原”33才”広明)にも「歌い方すげぇ変わった」「すごく縦がキレイになったから、歌だけでリズムを感じるようになった」って言われて。意識はしていなかったけど、聴いている音楽がいろんなところで作用しているんだなと。すごくタメになりました。

ーもともと渋谷さんの歌声って歌詞が真っすぐ届くなと思っていたのですが、新しいアルバム『東京』ではより一層それが感じられて。歌い方の変化も影響しているんですかね?

渋谷:もともと言葉で気持ちを届けられないとSUPER BEAVERというバンドでフロントに立って歌を歌っている意味が全くないと思っていたから、歌い方はかなり意識し続けてきました。言葉が聞こえるように、気持ちが届くように歌うことを一番念頭に置いています。



でも、今回のアルバムで歌がスッと入ってくると感じられたのは、おそらく声質もあると思っていて。そもそも僕自身、自分の声がコンプレックスだったんですよ。僕の声質って陰に作用するから明るい歌が歌いづらくて、シリアスに響きやすい。この声がプラスに作用するバンドだから、すごく助かっていますけど……今回のアルバムは特に、声質や歌い方がプラスに作用する部分が多かったと思っています。だから、そういう風に思っていただけたのかなと。


SUPER BEAVERのレコーディング秘話

ーでは、レコーディングもスムーズに進んだんですか?

渋谷:レコーディングは毎回スムーズなんですよ(笑)。それは僕たちの生い立ちにあって。20歳前半でメジャー落ちして自分たちだけでレコーディングで盤をつくるとなった時、時間とお金がないからスタジオが取れないんですよ。1曲に対して1日スタジオを取るなんてできない。1日のうち楽器も歌も込みで少なくとも2曲、録れるなら3曲。とにかく早くレコーディングするために、ミステイクも減らさないといけない。だから、一生懸命準備して臨む姿勢が未だに抜けきっていないんですよね。

ー自分たちだけで活動するようになってから、レコーディングへの意識が変化したんですね。

渋谷:最初にメジャーデビューした時は、学生が終わってすぐで音楽業界のことなんて何も知らずに飛び込んだ。レコーディングも大人の人たちがスタジオを取ってスケジュールを組んでくれる。全部大人の人たちにやってもらっていた中、23歳くらいでインディーズにほっぽり出されて何も知らないことに気が付いたんですよ。レコーディングの仕方もCDの作り方も何もかもどうすればいいのか分かんないから、いろんな人に助けてもらって。音源・CDがどういうルートや成り立ちでできるのか把握して、4人だけじゃ活動できないんだと痛感してから意識が変わりましたね。



ー今はレコーディングにどれくらいの時間を要しているんですか?

渋谷:ブースに入って1時間、かかっても1時間半で歌撮りと歌のセレクトを全部終わらせるのが僕の目標です。歌のレコーディングでは「絶対に時間取らせねぇ!」って決めています(笑)。残りの時間は全部楽器陣にあげたいので。楽器って毎回響き方が変わったり合わせた時に音が変わったり歌以上にレコーディング現場で考える時間が絶対に多いはずだから。とはいえ、楽器陣もレコーディングが早いから毎回1日1曲パケる(納品する)ので、ライブの合間にアルバム作っても大体2カ月くらいで完パケしますね。

ーツアーをやりながら、その速さでレコーディングしているのは本当にすごいです。

渋谷:『東京』に関してもライブをずっとやっている中での制作だから、ライブの合間に練習してレコーディングして。僕は楽器陣が録っている合間に別のブースで歌の練習をして、と進めました。そんな中でもちゃんと準備はできたし、今回も抜かりなくやりたいことは全部できた感じがしています。


アルバムタイトル『東京』に込めた思い

ー『東京』はメジャー再契約後、2枚目のアルバムです。今このタイミングでアルバムに“東京”とつけた理由とは?

渋谷:そもそも4人とも東京出身なので、東京という街がとても大事なのはあります。ただ毎回アルバム制作する時って、タイトルとテーマを決めてコンセプチュアルに構築することはほぼしていなくて。曲が揃ってきてアルバムの全貌が何となく見えてきた段階で、アルバムタイトルを考えています。


出典元:YouTube(SUPER BEAVER official YouTube channel)


今回も同じ進め方だったんですけど、いくつかの候補の中から“東京”一択だなと思って選びました。「東京」という楽曲が入っていたのもあって、SUPER BEAVERのバンド人生で『東京』というアルバムをリリースできるタイミングは今しかないだろうと。

ーこれまでのキャリアの中でいくらでも出せるタイミングはあったと思いますけど、その中で「今しかないと思った」というのが響きます……。

渋谷:“東京”って必殺ワードだと思っていて。僕らの中で“SUPER BEAVER”というバンド名をアルバムタイトルに掲げるのと同じくらい意味のあるワードなんですよ。東京生まれ東京育ち、ずっと東京で活動してきたバンドが『東京』というアルバムを出せるタイミングで出さないともったいないと、セルフタイトルを出すくらいの勢いで大事に大事にしていたものを「今だ!」と出した感じです。

ー「東京」という楽曲名の由来も知りたいです。

渋谷:この曲には聴いてくださる方の思いを馳せる場所・人を当てはめてほしくて。“東京のことを歌った曲”ではなく、僕らが東京出身で思いを馳せる生まれ育っていろんなことを経験した場所がたまたま“東京”だったから「東京」という名前がついているだけなんです。福岡でも北海道でもどこでも何でもいい(笑)。

それだけ器のデカい曲ができたのもあって、この楽曲が入っている『東京』というアルバムそのものも自分が思いを馳せる場所・人を当てはめてくれたら、より大事なアルバムになるんじゃないかなと。そういう意味でも今しかねぇ!と思いました。

ーそのお話を聞くと、緑黄色社会の長屋晴子さんと歌われたTHE FIRST TAKEバージョンを先に発表したのにも意味を感じます。

渋谷:お話をいただいたタイミング的なものもあるんですけど(笑)、ありがたいことに「アサヒスーパードライ」のタイアップ曲になることもあって楽曲を出す順番やタイミング・アレンジはメンバーやチームとすごく話し合いました。


出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)


その中で「東京」はそれぞれの思いを馳せられる楽曲だからTHE FIRST TAKEバージョンはまた違う側面を見せてもいいのではないか、とアレンジを加えました。最初にスピンオフ(THE FIRST TAKE)を見せて「東京」を知って沁みていただいた上で、SUPER BEAVERとしての意思が集結したオリジナルバーションを聴いたらまた違う響き方をするんじゃないかと。我ながらいい順番で展開できたなと思っています(笑)。

ーTHE FIRST TAKEとオリジナルでは渋谷さんの歌い方も少し違っていて、それがまたいいなと。

渋谷:オリジナルは少しプレッシャーがありました。晴子ちゃんと二人で歌ったら確実にいいものを生めるだろうと思う一方、一人で歌った時にそれにひけを取ったらマズいなって。オリジナルバージョンの曲もめちゃめちゃ良いと分かっていたから、あとは自分がいい歌さえ歌えば確実にいい曲になると思ってレコーディングに臨みました。

ーちなみに、長屋さんと一緒に歌われてみていかがでしたか?

渋谷:バンドのフロントマンっていうのは不思議なものでどっかしらバチバチしていて。つまり同じ曲をボーカリスト二人で歌うのはすごく構えることなんですよ。僕も、おそらく晴子ちゃんもそうだったと思う。お互いに「自分が自分が」となるとぶつかり合って殺し合っちゃうから。

でも、THE FIRST TAKEは「すごくいいこの曲がどう響いてどう受け取ってもらえるのだろう」とワクワクしていて、僕自身「この曲を良くしたい!」という気持ちが強かった。それがすごく良かったというか、「私も良くしたい!」「俺も良くしたい!」という気持ちで歌えた。お互い、歌が好きで音楽が好きでいい方向に転んだなって。全く油断していないしヒリついてはいるけど、何くそ根性だけじゃないのが本当に良かった(笑)。


SUPER BEAVERがストレートに“愛”を伝える理由

ー「名前を呼ぶよ」「愛しい人」「318」「未来の話をしよう」「東京」、『東京』に収録されている楽曲の多くが“愛”にまつわる楽曲だなと。もはや『東京』というアルバムを一言で例えるなら“愛”なのではないかと感じるほどでした。

渋谷:おぼろげながら、バンドを始めた当初から“愛”を軸に持ったバンドだったのだと思います。恥ずかしげもなく露骨にドストレートに“愛”を伝えるようになったのは最近ですけどね。「愛してる」なんて言葉、照れくさくて全く言えなかったですし。

ーそれでいうと、前回のアルバムタイトルはまさに『アイラヴユー(愛してる)』でしたよね?

渋谷:そうなんです(笑)。あのアルバムをリリースする少し前から感覚的に変化があって。というのも、ここまでストレートに“愛”を伝えられる人たちってあんまりいないなと。奇をてらってそういうことがしたいわけではなく、自分たちの軸にあった愛でいろいろなものが展開してきたバンドだから、何となく「これはハッキリ言った方が絶対にカッコいいよな」と思い始めたんですよ。


出典元:YouTube(SUPER BEAVER official YouTube channel)


みんな思ってはいても恥ずかしいからやらないんだと思うんですよ。でも僕らは恥ずかしがってる場合じゃねぇなって。恥ずかしげもなくライブを見てくださる人たち、チームの人たちにちゃんと伝えて形にしていくことができるバンドは僕らしかいないんじゃね?と、思いっきり表に出すようになりました。

ーだから、歌詞に書かれている言葉の一つひとつが真っすぐに届くんですね……。

渋谷:そうだと思います。恥ずかしくないから(笑)。堂々と自信満々に本気で思っていることを言って何が悪いの!?という感覚なんですよ。僕らは本当に一生懸命なので(笑)。だから伝わるんだろうなって。それは強みだと思っています。

ー今のお話を聞いていて、『東京』に収録されている「ロマン」のメッセージ性もより強く感じました。恥ずかしげもなく愛を伝えるというステージまで上り詰めたSUPER BEAVERから発せられる「それぞれに頑張って」という言葉は押しつけがましさが一切ない。

渋谷:この言葉は『アイラヴユー』のツアーで「時代」という曲を披露する前にステージ上で「それぞれ頑張ろう」と話していて。それをギターの柳沢(亮太)が「これは歌った方がいい言葉だね」と「ロマン」のサビに落とし込んでくれました。※「ロマン」埋め込み

この言葉はコロナ禍じゃなかったら出なかった言葉です。コロナ禍になっていろんな配信ライブを見ていると多くの人たちは「頑張っているから頑張りすぎなくていいよ」と言っていて。言わんとしていることはすごく分かる。だけど、ずいぶん無責任だと思ってしまった。そんなつもりで言っているわけではないと分かっていても。誰しも頑張らなきゃいけない瞬間があるのに、それを無視して「頑張らなくていい」なんて言ったらダメじゃね?って。

ー言われてみるとたしかに……。

渋谷:そのあとに今度は「一緒に頑張ろう」というメッセージも聴いたんですよ。それはそれでいいけど、一人ひとり違う道を歩んでいるからそれぞれ頑張りどころは絶対違うよなって。



それぞれがそれぞれの道の中で頑張らなきゃいけない瞬間ってあるよねと思った時、僕らは「それぞれに頑張って」と言いたくなったんですよ。僕らの曲を聴いてくれているみんなを信頼しているから、それぞれに頑張ってまた会おうぜ!と。

ーそれをライブで話したら、「ロマン」という曲になったと。アルバム最初の「スペシャル」もですけど「自分らしく自分の道で頑張れ」と言われているような気がして。一貫して伝えたいメッセージなんだろうなと感じました。

渋谷:「スペシャル」で始まって「ロマン」があって最後「最前線」で締める。このアルバムの物語を自分たちも気に入ってるので、そう言っていただけるのはすごく嬉しいです。


「目標は過去より“楽しく”活動すること」

ーメジャー再契約後もSUPER BEAVERの活動の在り方は変わらずに進んでいると感じますか?

渋谷:何も変わっていないですね。そもそも変わるくらいなら絶対にメジャーに戻るつもりはなかったし、インディーズの活動が主軸にある上でプラス1個エンジン積むくらいの感覚じゃないと戻りたくないと思っていました。それは一度メジャー落ちして、自分たちの活動を離れて俯瞰して見た時、メジャーで失敗する理由が何となく分かったから。メジャーがどんな場所なのかどんな人がいるのかとか、みんながみんな同じ考えじゃなくて少なくとも会社という組織の上で成り立っているとか。



そういうことを僕らが分かっているのを理解してくれた上で、ちゃんと僕らの音楽と僕らを一人の人間として愛してくれた上で、今一緒にやっているチームが声をかけてくださった。わざわざ「僕らはメジャー再契約しても絶対に変わりませんから」と言わなくても、意思が伝わっていると理解できた。メジャーに戻っても僕らの意思を尊重してくれているので、ビックリするくらい変わっていないです。

ーエンジンを1個積んだ今、SUPER BEAVERとして掲げている目標はありますか?

渋谷:具体的な目標って実はあんまりなくて(笑)。すごく長い目で見て、過去より楽しい活動ができればそれでいいかなとはずっと思っていて。それを目標に掲げるといろんなやりたいことが増えてきたり仲間が増えてきたりするんですよ。自分たちが楽しくなるために、自分たちの周りにいる人たちに楽しいと思ってもらうために、どんどんやりたいことが増えていく。そういう動機の方がいいなと活動を続けてきたから、それを今後も更新したいと思います。

ーいい意味での“変わらなさ”にファンのみなさんも安心しますよね。

渋谷:とはいえ、メジャー落ちしてインディーズで10年間活動して武道館でライブして代々木第一体育館を埋めてメジャー再契約……という自分たちの歩みはすごく稀有だとも思っていて。メジャー落ちても活動できると少しだけ証明できた気がするので、今度はメジャー再契約後にもっと売れたというプロトタイプを自分たちの中でつくりたい。そこでパイオニアになるためにも結果はちゃんと出したいですね。数字なのか何なのかは分からないけど(笑)。

ーもうすでにパイオニア的存在になっていると思うほど、2021年はSUPER BEAVERの楽曲を耳にしていた気がします。

渋谷:過去の自分たちと比べればもちろん数字も変わっているし、結果が出ているとも思います。だけど、身の回りのすごく結果を出して売れているのに一切驕っていない人を見ているとやっぱりすごく素敵だと思うし、それに比べたら全く足りていると思わない。ずっと飢えている感じがします。

自分たちもちゃんと地に足つけて一歩一歩堅実にやっていきたいって本当に思っています。


阿部裕華
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