紅白歌合戦70年〜印象に残るあのアーティスト

紅白歌合戦70年〜印象に残るあのアーティスト
風間大洋
風間大洋

時代や流行が変わっても、どれだけ裏番組が充実しても、なんだかんだいって大晦日の風物詩といえば『NHK 紅白歌合戦』という方も多いのではないだろうか。毎年、出演者が発表されるたびに「誰それが出る/出ない」が話題に上がり、その年ごとの世相やブームを反映させつつ懐かしのヒット曲も交え、文字通り老若男女がお茶の間に集って観ることのできるという、今となってはとても珍しい番組となった『紅白』。今年・2019年で節目の70回を数えるそんな『紅白』の歴史を、ざっくりとではあるが振り返ってみたいと思う。


最初の紅白出場歌手は14組

初回は1951年。筆者はおろか、その親世代すら生まれているかどうか怪しい時代なので詳しく語ることはできないが、藤山一郎、二葉あき子など戦中・戦後のスターたちが名を連ねている。ボリュームは今よりだいぶコンパクトで、紅組・白組ともに7組ずつ。ちなみに白組が勝ったそうである。なお、第3回までは大晦日ではなく正月番組として放映されており、第4回からが大晦日となったため、1953年は正月と大晦日で年に2回の『紅白』が行われるというレアケースだった。



驚異の視聴率81.4%を記録した1963年

第10回あたりになると、美空ひばりや島倉千代子といった、耳馴染みのあるビッグネームの名前が出てくるようになり、第12回には坂本九が「上を向いて歩こう」で、第14回には北島三郎が「ギター仁義」で初登場。第14回ではなんと81.4%という驚異的な視聴率を記録したというからすごい。『紅白』は、テレビの普及という時代背景や、翌年に東京オリンピック開催を控えるなど当時のポジティヴな空気を象徴する番組として、まさしく国民的番組となったのだ。そしてこれ以降、北島三郎はなんと50年後の第64回(2013年)まで50回にわたって登場する『紅白』の顔となる。現在この記録に迫っているのが、五木ひろしで、今年で49回目の出場を果たす。


出典元:YouTube(五木ひろし Official YouTubeチャンネル)


社会ニュースを反映していく紅白歌合戦

60年代のグループサウンズ、70~80年代のフォーク、アイドル、90年代以降のJ-POPなど、新たなトレンドが生まれるたび、それを象徴する出演者が登場してきた『紅白』だが、音楽シーンの出来事以外の、世間全体で起きたニュースや事件、災害などを受け、それに伴うスローガンを掲げて行われることもあった。例えば、阪神淡路大震災やオウム事件などがあった1995年の第46回には、さだまさし「精霊流し」や、南こうせつ「上を向いて歩こう」(カバー)など追悼の意を表したであろう曲が披露されたほか、〈新たな出発〉をテーマにニューフェイスも多数抜擢。当時社会現象ともなっていた安室奈美恵が「Chase The Chance」で初登場することとなった。彼女はこの後も産休前後の第46・47回で「CAN YOU CELEBRATE?」、そして引退を翌年に控えた第68回(2017年)の「Hero」など、節目節目で『紅白』の歴史に印象深いパフォーマンスを刻んでいくことになる。


出典元:YouTube(NHK)


記憶に新しい2011年の東日本大震災の後には、サンボマスター・山口隆、箭内道彦ら福島出身のミュージシャン・クリエイターによる猪苗代湖ズが「I love you & I need you ふくしま」で初登場。阪神淡路大震災の際にも歌われた「上を向いて歩こう」は、松田聖子と神田沙也加の親子共演で届けられた。さらには長渕剛が被災地から中継で「ひとつ」を熱唱した。なお、近年になるにつれ、こういった会場外の象徴的な場所からの出演も多くなっており、翌2012年にはMISIAがアフリカから「Everything」「明日へ」を、2014年には中島みゆきが「地上の星」を黒部ダムから歌唱して話題を呼んだ。昨年・2018年に米津玄師が徳島の美術館内から、礼拝堂を思わせるステージセットで「Lemon」を歌ったのも記憶に新しい。


出典元:YouTube(中島みゆき公式チャンネル)


いつかは出場して欲しいゴールデンボンバー

その知名度ゆえ、長きにわたり「『紅白』に出る」ということがひとつの目標やステータスであり続ける一方、人気や知名度が十二分にありながらも「『紅白』に出ない」というスタンスを取るアーティストも多かった。テレビそのものにあまり出ない人、一応は音楽で勝敗を競うという番組の形態に疑問符を投げかける人など、その理由は様々だが、長らく『紅白』に出なかった大物が初出場を果たすタイミングには、毎回大きな話題となってきた。近年も、2015年にはBUMP OF CHICKENが「ray」で、2016年には宇多田ヒカルが「花束を君に」でそれぞれ初登場。意外にも、V6やKinki Kidsが初登場したのもデビューがかなり経過してからだった。


出典元:YouTube(BUMP OF CHICKEN)


これはメディアの多様化や価値観の変化によって「テレビに出る」ことの持つ意味合いが変化してきたことの象徴とも言え、事実、我々が日々の現場で取材していても「夢は『紅白』」と宣言する若手のアーティストは増えたし、そのファンたちが「『紅白』に出てほしい」と熱望する様もよく見る。アーティストやリスナーの価値観の変遷という観点から、『紅白』出場者の顔ぶれを眺めてみるのもなかなか面白く、今年の出演者の顔ぶれも、一昔前だったら「出なそう」だった気もするRADWIMPSが2度目の登場を果たしていたり、King GnuやOfficial髭男dism、LiSAら、ロックフェス等でよくお目にかかるアーティストが初登場を果たしている。


出典元:YouTube(radwimpsstaff)


そういえば、今年は「出ない」ではなく「出られない」を逆手に取ったアーティストもいた。「もう紅白に出してくれない」と題したアルバムのリリースを、『紅白』出演者発表のその日に発表するというキレキレっぷりを発揮したゴールデンボンバーには陰ながら賛辞を送りたい。元号ソングまで出して準備万端だったのにねぇ…。


出典元:YouTube(Zany Zap official)


駆け足ながら、『紅白』の歴史とその中のいくつかのトピックを書き出してみた。もっとも、リスナー一人ひとりの歴史の中で、その時々の思い出の曲というものは存在しているはず。あなたの『紅白』名シーンはいつ、誰だろうか。また、いつか今年の出来事や思い出をヒット曲とともに振り返ることになるのだろうか。そんな想いとともに大晦日にまったりとテレビに向かえば、興味のある曲もない曲も、曲間に挟まれたあのちょっとおサムい演出の数々も、きっといつもより感慨深くなるはずである。


オススメプレイリスト


風間大洋
風間大洋

最新の記事

    share to facebook share to facebook share to facebook share

    Ctrl + C でコピー