三原健司(フレデリック)にとっての「至福なオフ」

三原健司(フレデリック)にとっての「至福なオフ」
阿部裕華
阿部裕華

ミュージシャンの「オン」と「オフ」を覗く連載「至福なオフ」。「オン」のモードで作り上げた作品についてはもちろん、休日の過ごし方や私服のこだわり、聴いている音楽など「オフ」の話題にも触れています。

今回のゲストは、ロックバンド・フレデリックのボーカル&ギター三原健司さんです。キャッチーなメロディと言葉選びがこれまで以上に印象的な遊び心満載の新しいEP『ASOVIVA』が9月22日にリリースされました。「2020年は“遊びの年”にする」という目標を掲げたフレデリックが新EPに込めた思いと、三原さんこだわりのファッションや新EPの楽曲制作で参考にしたという音楽についてお聞きしました。

(写真/山本雅美)


オフの日、なにしてる?

-三原さんは自粛期間中、音楽活動以外の時間どのように過ごしていましたか?

三原:最近は動画編集の勉強をしています。フレデリックの音楽を通してアートと向き合うYouTubeチャンネル『ASOVISION』プロジェクトで配信する動画や、オンラインライブの開演前の待機動画制作をしたいと思い、独学で動画編集の勉強を始めました。

-どういった勉強をしているのでしょう?

三原:DaVinci Resolveというソフトを使っていて、「これはどうやるんだろう?」と思ったことを都度調べています。いまはネットにいくらでもヒントが落ちているので便利ですね。

-これまで動画制作された経験はありましたか?

三原:iMovieで軽い動画をつくってSNSにアップすることはありましたけど、本格的に動画編集したことはなかったです。でも、やってみると楽しくて。向いている向いていないは分からないですけど、完成したことへの達成感や喜びが好きです。

-動画制作の参考に映画やアニメなどの映像作品を見ることはありますか?

三原:ほとんど見ないです。ほかのメンバーはみんな見るんですよ。僕以外はFilmarksやっています(笑)。僕、見ているときにアイデアが思いつくと見るのを止めてしまうんですよね。2時間見続けないといけないのが耐えられない。「今日は2時間絶対に映画を見るだけにしよう!」と意気込まないといけないので……。と言いつつ、面倒くさいだけやと思います(笑)。見たら見たでおもしろいと思えるし。メンバーが映画の話をしているのを聞いたり、知らない映画について教えてもらったりしています。

-基本的には休日も仕事に関係することをしているんですね。

三原:そうですね。動画以外だと仕事のためのコンディションづくりとして、運動しているしな……。学生の頃から休日になると音楽をしに出かける生活をしていて、結果趣味が仕事になっているから、休日でも仕事に関係するような作業をしてしまいますね。


どういうファッションが好き?

-続いてファッションについて。本日の私服は袖口広めの開襟シャツが印象的です。三原さんはよく開襟シャツを着ているのを見かけますが、お好きなんですか?

三原:シャツは多いですね。きっちり、すっきりしているのが好きなんですよ。でも、たまにダボッとしているのを着たいとも思います。今日のシャツは7月に販売開始されたシャリーフの新作シャツで、僕も袖のサイズ感が気に入っています。今日はタックインしていないですけど、写真のモデルの方はタックインしていて。いろいろ着回しできるのもいいなと。

-ブランドにこだわりはありますか?

三原:ブランドのこだわりはそんなになくて。このブランドのこの服がいい!くらい。その日着る服も気分が良くなる服を選ぶ感じです。自分の中で「今日はシャツ」「今日の天候ならこの色」みたいに大きなテーマを決めて服選びしていて。服を買うときも同じですね。

服が好きな人は服の歴史を掘ったり、ブランドにこだわりがあったりしますけど、そういう人たちに比べたらそこまでじゃないかなと。もともと一点ものを探し出すのが好きで、20代前半とかは古着をよく着ていました。なので、最近でも古着に近いモノを選んで着ています。

-20代前半と比べると着る服が変わってきたなと感じますか?

三原:上も下も柄モノ、アクセサリーはジャラジャラつけるような格好をしていたけど、だんだん落ち着いてきて、控えめにシンプルになっていきました(笑)。いまは自分が今日見せたいポイントを見せるように、ほかをシンプルに。あくまで一点だけ遊び心がある感じです。

今日もシャツに遊び心があるので、靴とパンツは黒にしています。もし全身黒だったら、帽子や時計など何か一点だけ輝くものを身に着けるようにしますね。

-黒など暗めのアイテムを買うことが多いんですか?

三原:冬になるにつれて灰色や茶色・深緑などの大人しい色になりがちなので、夏には真っ白をはじめ明るい色を買いますよ。僕、着たいと思う服の色が天候に左右されるんです。「今日はあんまり明るい色を着たくないな…」と思っている日に限って、気温が低かったり湿度が高かったりする(笑)。

靴は黒が多いです。全身黒のコーディネートのときは灰色のスニーカーを履くこともあります。

-今日のスニーカーもシンプルな黒ですね。

三原:前まではハイカットが好きだったのでブーツばかり履いていたんですよ。でも、最近はカジュアルなモノも履こうと思ってスニーカーを履くようになりました。

アクセサリーも最近つけるようになって。今年に入ってから一個だけ輝くものをつけたいと思い、いやらしくないシンプルなモノを選んでつけています。


オフの日に聴きたい音楽は?

-オフの日に聴く音楽には井上陽水さんの『娘がねじれる時』やJason Mrazの『Make Love』などを選ばれています。ジャンル問わずかなり幅広く聴かれるんですね。

三原:井上陽水さん含めた歌謡曲は親が聴いていたのもありますし、程よい懐かしい曲は自分のモチベーションを保てるので、日常的に聴いています。

Jason Mrazは、朝から昼にすっごい合う音楽というイメージがあって。夜に聴いてもいいんですけど、朝から昼に聴くとヒーリング効果を感じる。日常に溶け込む音楽だなと。2020年の新譜『Make Love』もそのイメージを貫き通していると感じたので今回選びました。

-普段から聴いている音楽をメンバー内で共有し合うことはありますか?

三原:ベース(三原康司)とドラム(高橋武)はめっちゃ多いですね。音の関係性が近いからこそ分かり合えるというか、お互いに知っておいた方がいい音楽の情報があるんだと思う。このジャンルを知っておけば、今後のリズムパターンに活かせるみたいな。そんな感じで共有し合っていることが二人は多いですね。康司は作曲することもあって、新しい曲をつくったときには「この楽曲を参考にした」とメンバー内でよく共有しています。

-最近の楽曲制作で参考にしていた曲があれば教えてください。

三原:George Morelの『Let's Groove』は最新EPに収録されている『正偽』の参考にした曲です。『正偽』は2ステップというリズムジャンルを取り入れてみようと思った曲で。『Let's Groove』を聴いて2ステップについて学びました。

フレデリックとしてのオリジナリティを足してアレンジしていくか考えるための共通言語として『Let's Groove』を聴いていました。2ステップはギターの入る余地が少ないので、どうやったらギターを出せるだろうとか、フレデリックっぽさを出すにはボーカルはこれまでのペースでいいかもとか、一人ひとりがいろいろ考えながら聴いていたと思います。



最新EP『ASOVIVA』について

-最新EPの『ASOVIVA(アソビバ)』はいままでのフレデリック以上に遊び心が満載でした。自粛期間という中で制作が進められたEPだからこそ、こういったタイトルをつけられたのかなと感じたのですが、『ASOVIVA』にはどのような意味が込められいるのでしょうか?

三原:毎年「こういう年にしたいね」とメンバーの中で目標を考えているのですが、2020年は「“遊びの年”にしたいね」と話し合いの中で出て。「何をするにもフレデリックは遊んでいたよね」といろんな人に言われる年にしたくてこの目標を立てました。

これからのフレデリックは10月からZeppツアーがあり、2021年2月は日本武道館でのライブが予定されています。武道館ライブの発表の際には「武道館を遊び場にします!」と伝えて去りました。2020年、“遊び”は自分たちから切り離せないテーマとして活動してきて、コロナ禍で予定されていたライブやフェスが中止・延期になる状況の中、SNSでの発信の仕方や音楽表現の伝え方を変えてみた。この半年間は“遊び心”を忘れずに音楽ができたかなと。そんな自分たちを表したタイトルになっています。

-『ASOVIVA』に収録された4つの楽曲はリモートで制作されたと伺っています。

三原:メンバーそれぞれで機材を揃えて、会わずにリモートでのレコーディングに初挑戦しました。そういう面を含めて自分たちの“遊び心”をより追求できたかなと。

-とはいえ、リモートでのレコーディングは大変ではなかったのでしょうか……。

三原:一人ひとりがどう考えて進めているのか話し合ったり、進め方がブレないようにするのは大変でしたね。普段レコーディングスタジオで収録する際は「これってこうした方がよくない?」と軽い提案や意見を投げることができるけど、リモートになるとちょっとしたことが話しづらい。だから、ある程度一人ひとりの判断に任せていました。

でも、意外と上手くできたんですよ。みんな機材に詳しくなって、自分の出したい音を出せるようになった。しかもその音がみんなも「いい!」と思えて。そんな感じで進んで行けたので、リモートでの制作はとてもプラスになりました。スタジオでの収録は思っていた以上に時間に縛られていたという気づきもあった。リモートだと時間を気にせずそれぞれがレコーディングできるから、朝までずっとレコーディングしているメンバーもいましたし。メンバーによってはリモートの方が向いているんじゃないかなと(笑)。(赤頭)隆児はリモートに向いている感じでした。人とつくるより自分のペースでつくった方が時間の使い方が上手い。

-三原さんはリモートでのレコーディングは「自分、向いているな」と感じましたか?

三原:自宅の電圧の問題からいい音が録れないので、ボーカルのレコーディングはボーカルブースを借りて、別室にエンジニアがいる形でレコーディングをしていました。なので、僕だけは普段と変わらなかったんですよ。

ただ、どの曲もオケが完成しないとボーカルの録音ができないから、メンバーのつくっている過程を一番に見られるんですよね。自分のレコーディングの番がくるまでの時間を一番楽しめるのが僕で。メンバーが純粋に個人の判断で曲をつくっていくのを見て、フレデリックってめっちゃおもしろいなと感じました。スタジオでのレコーディングも個人の考えは反映していますけど、どうしても誰かの意見を踏まえてしまって、100%自分だけの意見ではない。リモートで自分の判断だけで曲づくりをしたことで、一人ひとりより自信がついた感覚や、これまで一緒に曲づくりしてきた信頼関係を感じました。今後、スタジオでレコーディングができるようになっても、ある程度はリモートでレコーディングしてもいいんじゃないかなと。どんな状況でも対応していける、おもしろくできるバンドだと思いますね。

-そんなリモートで制作した楽曲、どれもお気に入りだと思うのですが、三原さんイチオシの曲を教えてください。

三原:『Wake Me Up』ですかね。今回、海外の方にミックスをしてもらって。バンド音源の素材と「遊び場というタイトルだから遊んでみてよ!」とだけ言ったら、めちゃめちゃおもしろいミックスにしてくれました。


出典元:YouTube(フレデリック)

海外のミックスは曲のバランスを整えるだけではなく、曲自体を変えたり新しいフレーズを入れたりするのが主流なんです。ヘッドホンで聴いてもらうと、いろいろな音が聴こえてくるはず。ぜひ聴いてもらいたいです。

-どの曲も聴くたびに気づく音があるなと感じました。また、6月中旬にTwitterでワンコーラスだけ投稿、7月にデジタルリリースした『されどBGM』は自粛期間だからこそ伝えたいメッセージを受け取りました。フレデリックとしてどのような思いを込めたのでしょうか?

三原:コロナ禍で衣食住を最優先としたとき、エンタメは不要不急なものだったじゃないですか。それを理解した上で、「そうですよね、分かりました」と受け入れて生きるのは僕らじゃないなとも思った。

そもそもフレデリックというバンド名はレオ・レオニの絵本『フレデリック』からつけています。冬眠中、食料が尽きた時、芸術でみんなの心を満たしたフレデリックに感銘を受けて始めたバンドだからこそ、音楽でみんなの心を満たしたいという目標から絶対に逸れたくない。そんな思いから自分たちの音楽に対するラブソングとして、(三原)康司がつくった曲が『されどBGM』でした。フレデリックには恋愛のラブソングはないけど、音楽に対するラブソングはたくさんあって。『されどBGM』もそのうちのひとつ。今年、このタイミングで『されどBGM』ができて自分としては本当によかった。自分の中でかなり響いた曲でしたね。

-「FREDERHYTHM ONLINE「FABO!!〜Frederic Acoustic Band Online〜」」で演奏された『リリリピート』『ふしだらフラミンゴ』、初回限定盤には『終わらないMUSIC』もEPに収録されています。自粛期間でリアルライブができない中でのオンラインライブはいかがでしたか?

三原:映像だからこその良さ、リアルライブでは体感しえない良さがオンラインライブにあると思っています。そこを追求していきたいなと感じました。僕らがオンラインライブをする前から、いろんなミュージシャンのオンラインライブを見ていて感じたことがあって。当たり前ですけど、生で感じるライブとオンラインライブは別物だなと。オンラインライブはリアルライブの代わりにはならない。リアルで体感できていた良さをオンラインライブで取り戻そう!みたいなことは絶対に無理です。

生の良さは空間の中に人が集まってデカい音が鳴って、雰囲気込みで浴びる楽しさや中毒性がある。没入感が魅力です。一方オンラインライブの良さは、自分で視聴環境・方法が選択できて、ライブ終了後もアーカイブで視聴できるところ。だから何回でも聴いてもらえるように心地の良いライブは何かと考えたときアコースティックライブを選択しました。今後もオンラインライブのやり方は模索していきたいですね。

-今後リアルイベントができるようになったとしても、オンラインライブはフレデリックのライブの選択肢のひとつに加わりましたか?

三原:有観客になったとしてもコロナ前の状況に完全に戻るのは不可能だと思っています。でも、フレデリックは都度その状況をどう活かしたらおもしろいかを考えられるバンドだから、そういうところに目を向けて今後は活動をしていきたいですね。

フレデリックには「これじゃないといけない」という固定観念がありません。コロナ禍がキッカケでどういう状況になっても楽しむことができるという自信にも繋がりました。それがフレデリックの“遊び”にも繋がっていくのかなと考えています。


〈プロフィール〉

神戸にて結成された三原健司(Vo./Gt.)、三原康司(Ba.)の双子の兄弟と、赤頭隆児(Gt.)、高橋武(Dr.)で編成される4人組バンド。初年度MASH A&Rオーディションにて特別賞を受賞。独特なユーモア性、幅広い音楽的背景から生みだされる繰り返されるリズムと歌詞は中毒性が高く、一筋縄ではいかないスタンスを持ったバンドとしてシーンを席巻。印象的なMusic Videoやアートワーク等楽曲以外のクリエイティブも関心を集めている。ライブならではの楽曲アレンジや多彩な演出でライブバンドとしても定評があり、2018年に神戸ワールド記念ホール、2020年に横浜アリーナ単独公演を開催。2021年2月には日本武道館公演を控える。どのシーンにも属さない「オンリーワン」の楽曲とそのスタンスに注目が高まっている。

ホームページ:https://frederic-official.com/


阿部裕華
阿部裕華

Related Albums

Latest articles

    share to facebook share to facebook share to facebook share

    Press Ctrl + C copy