YUKI『SLITS』全曲解説|12枚目のフルアルバムとソロデビュー22年の軌跡

YUKI『SLITS』全曲解説|12枚目のフルアルバムとソロデビュー22年の軌跡
矢隈和恵
矢隈和恵

2002年2月にシングル「the end of shite」でソロ活動をスタートさせ、今年でソロデビュー22周年を迎えたYUKI。作品を発表するたび、そのときの自分の想いを詩に込め、真摯に音楽と向き合い、自分自身に向き合い、多彩なサウンドで “YUKI” を表現してきた。
2022年2月6日、ソロデビュー20周年を迎えたYUKIは、アニバーサリーイヤーを記念した全国ツアーでファンと共に歩んできた20年の感謝を歌で伝えたそのあとに、20周年を締めくくるアルバム『パレードが続くなら』をリリース。それから1年4ヵ月、12作目となるオリジナルアルバム『SLITS』がこのほど完成した。ダンスミュージック、ロック、ポップス、フォーク、スウィートソウルなど、YUKIがこの22年間で培ってきた多種多様なサウンドをベースに、自身が求める自由や希望、優しさや力強さ、そして誰もが感じる切なさがYUKIの言葉で軽やかに紡がれている。これまでYUKIが歩んできた22年間を読み解きながら、最新アルバム『SLITS』に収録された12曲を紹介したい。

2002年、YUKIソロ始動

YUKIは、JUDY AND MARYのボーカルとしてそのキャリアをスタートさせた。1993年にメジャーデビューし、1997年にリリースしたアルバム『THE POWER SOURCE』では300万枚を売り上げるトリプルミリオンを記録。スタジアムライブ開催やNHK紅白歌合戦出場など、圧倒的な人気を誇っていたモンスターバンドJUDY AND MARY。しかし2001年、全国のアリーナ会場・ドーム会場を回り、東京ドーム2 DAYSのライブをもって解散した。

その後、JUDY AND MARYのボーカルYUKIが、次にどんな音楽を作るのか、ソロとして何を歌っていくのか、音楽業界はもちろん、多くの音楽ファンから大きな注目を浴びた。YUKIは、ソロシンガーとして自分が作りたい音楽、歌いたい歌を、自分の中から溢れ出る音楽への欲求に忠実に曲作りに勤しんだ。翌2002年2月、1stシングル「the end of shite」をリリースし、同年3月には、1stアルバム『PRISMIC』を発表。自身が好んでいたミュージシャンに自ら声をかけ、一緒に曲作りをし、手探りでレコーディングをスタートさせたが、レコーディングのスキルや表現方法がまだ身についていなかったYUKIにとっては初めてのことばかりで、決して簡単なことではなかったという。それでもそのとき自分が作りたい音楽を追求したアルバム『PRISMIC』は、当時YUKIが好きだったオルタナティブロックを表現した曲が並び、自身の内情を吐き出すような歌詞で、プライベートな感情を全面に押し出した作品となった。

転機となったポップスアルバム『joy』

変化の兆しは、2005年にリリースされた3枚目のアルバム『joy』から表れ始める。ディレクターに音楽制作を手掛けるクリエイターが多く所属するagehaspringsの主宰・音楽プロデューサーの玉井健二を迎えると、当時「歌いたくてしょうがなかった」というYUKIは、ボーカリストとしてのパワーを試すかのように新しい音楽に挑戦していく。打ち込みをメインに、それまでの2作とは全く違った質感のポップミュージックに挑戦。先鋭的な音楽はもちろん、のちにYUKIの定番スタイルとなるボブヘアをはじめとしたオリジナリティ溢れるファッションに、独創的なアートワークなど、新しいクリエイターとの出会いも相まって、YUKIの代名詞とも言えるひとつのポップススタイルを確立していくことになる。

2006年1月にリリースしたシングル曲「メランコリニスタ」の歌詞を書けたことも、YUKIにとっては大きな一歩だったという。それまで、自我や自身の感情を詩に込めることの多かったYUKIの歌詞だが、「メランコリニスタ」ではその自我を出すことなく、リズムの上に歌詞を乗せ、“YUKI” ではない “誰か” のストーリーとしてその世界観を彩った。2005年リリースの「長い夢」や「歓びの種」では散文詩のような歌詞に挑戦していたが、どうしても自身の想いが滲み出ることに気づき、“自分らしさ” というものを明確に意識するようになった。2010年3月には、自分の心に素直に、手触り感のある楽曲を作りたいと、アルバム『うれしくって抱きあうよ』を発表。翌2011年にはアルバム『megaphonic』をリリースし、アリーナツアーを開催した。2012年5月、ソロ活動10周年を記念して東京ドーム公演を開催するなど、快進撃を続けた。バンドとソロの両方で東京ドーム公演を行った女性シンガーはYUKIが “史上初” の快挙であった。YUKIが創り出すエンターテインメントは、ここからさらに多くの人を魅了していくことになる。

YUKIにとっての “自由” とは、詩を書き、歌を歌うこと

時は巡り、2020年春。新型コロナウイルスの流行という未曾有の状況下において、ライブはおろかレコーディングすらもできない状態に、不自由を感じていたYUKI。ただ、YUKIにとっての “不自由” は、外出できないことではなく、「歌えない」ことだった。「歌いたい」「歌詞を書きたい」という欲求が高まって、歌うことこそがYUKIにとっての “自由” なんだということに気づいたのだという。その想いを詰め込んで制作されたのが、2021年4月に発表したアルバム『Terminal』だ。「とにかく歌いたい」というYUKIの想いが溢れんばかりに一枚に詰め込まれ、続く2023年発表のアルバム『パレードが続くなら』に収録の「鳴り響く限り」では、「自分の中の情熱が鳴り止まない限り、私は歌い続けていく」、そして未来に向かって「ずっと変わり続けたい」というYUKIの決意表明が、高らかに歌われた。

今作『SLITS』は、YUKIが22年間歌ってきたさまざまな楽曲の進化が詰まっている。常に転がり続け、挑戦し続けてきたYUKI。音楽への情熱が消えない限り、YUKIが創り出す音楽は、まだまだ広がりを見せていくに違いない。

アルバムタイトルの『SLITS』は、スリットの入ったロングスカートからインスピレーションを得て付けられたもの。足を動かしやすくするために入れられたスリットは自由の象徴であり、さらに、女性としての強さや、自分のことをわかってほしいという承認欲求もそこには存在する。さらに、かすり傷や切り傷のような “傷” も意味するスリット。誰しも体や心に残るいくつもの傷があり、そうした愛しい傷の数々もYUKIの言葉でストーリーに落とし込まれ、それぞれの楽曲はさまざまな意味を持った “SLITS” という言葉で1本につながった。

「ここ数年は、仕事とプライベートのグラデーションがマーブル模様みたいになっていて、作品作りは私にとって普通のこと、日常になっているんです。そこにリズムとメロディがあったら詩を書いて歌うというのが、私にとってはとても楽しいことで。何を見ても、聞いても、誰かと話しても、全てが曲作りにつながるんです」と語ったYUKI。『SLITS』には、YUKIが作りたい音楽はもちろんのこと、スタッフから提案された “こんなYUKIの歌が聴きたい” という声から作られた楽曲群も収録。YUKIの魅力がより一層広がりを見せ、さまざまな表情が表れたアルバムとなった。YUKIが今歌いたい歌、届けたい楽曲を軸に、さまざまなトライをしながら、じっくりと時間をかけて進められたアルバム制作。YUKIの生きている毎日そのものが言葉となり、音となって、この12曲が生まれた。

YUKI『SLITS』全曲解説

1. Now Here

自身の存在を凛とした表情で肯定するように、YUKIの高らかな歌声で幕を開けるオープニングナンバー。アレンジは、R&Bシーンから高い評価を得るトラックメイカーのU-Key zoneが手掛けた。鳴り続けるリズムの上を、予測のつかないメロディが縦横無尽に駆け抜け、言葉遊びのようにくるくると展開していく歌詞がなんともユニーク。ダンスミュージックとして存分に楽しめる楽曲でありながら、YUKIの日常から生まれた歌詞には、日々YUKI自身が感じていることや想いが見事に凝縮され、表現されている。

2. 雨宿り


〈あ・あ・あ・あまやどり〉という言葉の繰り返しが、まるでリズムの響きのように刻まれるミディアムテンポのダンスナンバー。オリエンタルな音色が印象的なフレーズは、まるで雨粒が跳ねているように心地よい。商店街のアーケードで待ち合わせする2人の姿が、まるでミュージカルのワンシーンのように綴られ、YUKIの表現豊かな歌によって、聴く者の心を高揚させる。〈大切な人に 大切にされたいと思うから / 言われて嬉しい言葉 相手に 自分からも言ってあげなくちゃ〉という詩は、当たり前のようで、つい忘れてしまいそうな大事なことを思い出させてくれる。

3. 流星slits


アルバムタイトルの「slits」を冠した一曲。「JOY」からYUKIが追求してきたダンスミュージックの進化系で、シンセの印象的なフレーズが一気にテンションを上げてくれる。ラップも飛び出し、YUKIの遊び心が詰まった1曲。歌詞には、YUKIが普段あまり歌詞では使わない〈助けて〉という言葉も出てくるが、空しいことや諦めたくなる状況にあっても、決して希望を捨てないというYUKIの覚悟が込められている。

4. Hello, it’s me


両A面シングルとして先行リリースされた「Hello, it’s me」は、YUKI最新の極上のポップス。他人と比べて落ち込むことや悩むこともあるけれど、だからこそ、私は私だけのものなのだと、心が強くなれるような曲。YUKIの伸びやかで透明感のあるボーカル、迫力ある言葉がはっきりと伝わる歌は、メッセージをきちんと伝えたいというYUKIの意志が伝わってくるようで、ブラスアレンジはライブでの盛り上がりを想起させる。キラキラと輝くほどの元気をくれる曲。

5. ユニヴァース


ピアノとYUKIの深みのある歌声で始まる楽曲は、70年代ソウルミュージックを思わせるアレンジが素晴らしいメロディラインを際立たせる一曲だ。そんなYUKIのボーカルを盛り上げるようにコーラスが見事にグルーヴを作り出し、小鳥の鳴き声にも、優しく吹く風にも似たフルートの音がその世界観に彩りをもたらす。今はもう会えない人たちともどこかでつながっているんだというYUKIの細やかな感情を、メロディを取り巻く音が丁寧に引き出している。

6. 追いかけたいの


浮遊感のあるギターが印象的なラブソング。higimidariという2人組ユニットが作曲を手掛けた本曲は、ローファイなギターとドラムが癖になる、YUKIのキュートさが溢れ出るような一曲。淡々と紡がれる言葉が、YUKIのキュートさをさらにアップさせている。楽曲によってYUKIの歌声やボーカルスタイルが変化するのも、このアルバムの聴きどころのひとつと言えそうだ。

7. 金色の船


鍵盤とマンドリンの音色がYUKIの歌声と見事にマッチして、70年代のバンドサウンドを彷彿とさせる、どこか懐かしさが漂う一曲。トオミヨウの見事なアレンジが、この曲をさらに壮大なものにし、ストリングスによって、詩の世界はさらに広がりを見せる。サビの〈戻れるなら〉の繰り返しが、締め付けられるような切なさを増幅させ、感情が昂っていく様を見事に描く。YUKIの歌の素晴らしさ、アレンジの素晴らしさが秀でた名曲だ。

8. One, One, One


YUKIの作詞作曲による本曲は、トラックを流しながら、メロディを歌って歌詞を乗せていくという、YUKIとしては初めての手法で制作された。トラックの上を、YUKIからこぼれ落ちたメロディと、言葉のカケラがハラハラと舞うように流れていくのが気持ちいい。YUKIの中低音のボーカルの心地よさも感じることができる楽曲だ。

9. 友達


さまざまなアーティストから引っ張りだこのギタリスト・名越由貴夫がアレンジを手掛けた一曲。フォーキーなギターサウンドで、後ノリの独特のグルーヴ感が心地よい。懐かしく切ない、そんな世界観が、歌詞はもちろん、サウンドでも見事に表現されている。歌詞は、高校生の頃の友達を歌う内容で、自分たちが残してきた良いことも悪いことも、傷となって、この傷だけずっと変わらない、というもの。自分の傷を愛しい勲章のように歌われている歌詞に、前を向く強さをひとつもらったような気持ちになる。

10. パ・ラ・サイト


激しいギターがかき鳴らされるロックサウンドに乗せて、YUKIが創り出すストーリーと歌の世界観を楽しめる一曲。物語の主人公は、〈フライデーナイトで知らない男〉〈ああ またやらかした〉と言いながら、〈ドラマの続き早く観たいや〉と、目の前のことを見ているようで、気づくと遠くを見ているような、現実と虚偽の世界を行ったり来たりしているような女の子。本当に好きな人とは手さえ繋げない彼女の気持ちを描いた〈地べた這いつくばって 呼び続けるのだ〉という歌詞に、胸をギュッと掴まれるような切なさを覚える。あっけらかんとした感情と、締め付けられるような切なさが同居する最高のラブソング。

11. こぼれてしまうよ

YUKIの歌いたいこと、伝えたいこと、思っていることがリアルに詰まった独白のような楽曲。悲しみや空しさ、焦りや迷いといった、YUKIの詩にはあまり使われてこなかった言葉やネガティブな感情が描かれているが、そんな状況も吹き飛ばすようなパワーと、やはり最後は前向きに気持ちに着地させてくれるYUKIのエネルギーがこぼれるような曲。〈好きなものを好きと言って 何も悪くないんだよ / そんなこと あたりまえの世界にしたいなあ〉という歌詞は、あるがままの自分を愛することの大切さを教えてくれる。まるでYUKIが耳元で歌ってくれているような臨場感たっぷりでリアルな声も心に沁みる。

12. 風になれ


風を受けて前に進んでいくように、伸びやかに晴れやかに響くYUKIの歌声が印象的な楽曲。アレンジャーにリトル・クリーチャーズの鈴木正人を迎え、真っ直ぐなメロディに一見シンプルなようで複雑なベースライン、一筋縄ではいかないリズムを刻むドラムなど、歌の後ろで独創的なリズムが壮大な旋律を刻む。高らかに “自由” を歌いながら、日々生きていくための大切なことを、YUKIならではの言葉で紡いでいる。楽曲の素晴らしさはもちろん、YUKIの歌の素晴らしさを真正面から感じることができるアルバムの最後を飾るにふさわしい一曲だ。

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