SAKANAMONにとっての「至福なオフ」〜なぜトレードマークの「半ズボン」をやめるのか?

SAKANAMONにとっての「至福なオフ」〜なぜトレードマークの「半ズボン」をやめるのか?
矢島由佳子
矢島由佳子

ミュージシャンの「オン」と「オフ」を覗く、連載『至福なオフ』。「オン」のモードで作り上げた作品についてはもちろん、休みの日に聴いている音楽や私服のこだわりなど、「オフ」のことも伺います。

今回のゲストは、SAKANAMONです。まずはファッションについて話を聞いてみると、トレードマークだった「半ズボン」を脱ぎ捨てようとしている事実とその理由が見えてきました。3人のゆるさと真面目さが入り混じった音楽・服・酒・銭湯談義を肴に、最新アルバム『GUZMANIA』をどうぞ。


キャプション:木村浩大、藤森元生、森野光晴(L→R)


写真: 関口佳代

どういうファッションが好き?

―SAKANAMONのなかで一番「オシャレな人」は?

木村(Dr):やっぱり森野ですよね。

森野(Ba):いや全然。ふたりよりは、というレベルですけど(笑)。

―森野さん、今日の服はどこで手に入れられたものですか?

森野:Tシャツはもらったものなんですけど、ボンジュールレコードという代官山にあるレコード屋さんのもので。パンツはHAREというブランド。HAREはライブとかの衣装を自分で用意するときに買うことが多いですね。でも僕、服屋で買うのが苦手なんですよ……。

藤森(Vo/Gt):わかるよ。

森野:店員に「お前がうちの服着てんじゃねえ」って見られてるんじゃないかと思って。だから誰かと一緒に行くか、ネットで買い物することが多いです。


藤森:俺は基本、森野さんの人形なんです。今日は着ようと思ってたTシャツが雨ざらしになって着られなかったから上の服は違うけど、パンツと靴は森野さんに選んでもらったものですね。

森野:ライブとか撮影の前日に一緒に買いにいったり、俺が勝手に買ってきたりもします。

―藤森さんというと、やっぱり「半ズボン」のイメージが強いですよね。今日は長ズボンですが、ライブでは常に半ズボンですし。

藤森:でもちょうど最近、半ズボンじゃなくなったんです!

森野:半ズボンじゃなくしよう計画が、俺のなかでもあって。もう30歳を過ぎたし、大人なところもちゃんと出していったほうがいいかなと思って。結構意見は分かれるんですけどね。半ズボンが好きだったお客さんには申し訳ないけど、でも、もういいんじゃないかなと思って。

藤森:俺はどんなファッションでもいいんだけど、個性を失うのは嫌だなあ。まあその個性は服じゃなくてもいいんですけど。

森野:十分個性的だよ、すべては才能にあるから。大丈夫ですよ。


オフの日、なにしてる?

―それぞれの「至福なオフ」の過ごし方を教えてください。もしこの取材後から明日丸一日お休みだとしたら、なにしたいですか?

木村:ワインを飲みます! ワインが一番次の日に残るじゃないですか? ダメージがでかい酒だと、俺は思ってるんですね(笑)。明日がオフなら飲める、というのがワイン。白から始まって、赤もいこうかってなって、なんか知らないけどビールも飲んで……ああ、いいなあ。友達呼んで、ワイン飲んで、牡蠣とか美味しいもの食べて、昼3時くらいまで寝て、起きてNetflix見て、また6時くらいとかに集まってご飯にいく。それをやりたいですね。

藤森:僕はスーパー銭湯に行きたいです。最近週2〜3回行っていて、なんなら今日も行ってきました。血液の循環がすごくよくなるんですよ。汗をかくし、体がドクンドクンいって、心臓というか、お腹が動くんです。肌にもいい、肩凝りにも効く、肩にいいということは歌にもいい……いいことしかない! なので明日がオフなら、どこか行ったことのないスーパー銭湯に行きたいです。

―ハマったきっかけはなにかあったんですか?

藤森:まんしゅうきつこさんの『湯遊ワンダーランド』という漫画を読んで、「やりたい!」と思って。サウナと水風呂に7、8回入ると、ドーパミンが出すぎてエクストリーム状態に入るらしくて。最終的にはそこを目指してるんですけど、まだ3、4回しかいけてないんですよね。

―森野さんにとっての、理想の「至福なオフ」の過ごし方は?

森野:理想は、ひとりでちょっと遠いところへ旅に行きたいですね。奥多摩とか、鎌倉とか、電車で1〜2時間で行けるくらいのところへ行って、老舗の居酒屋に行って……。

藤森:そこにいる女の子と……。

木村:ひと夏の恋愛……。

森野:やめろ、やめろ(笑)。そこまではできないね。その妄想をする、くらい。

―(笑)。

森野:理想はそれですけど、現実は、一歩も家から出ない気がします。それか、僕、歩き飲みが好きで。「飲み歩き」じゃなくて「歩き飲み」が好きなんです。お酒を片手に、音楽かラジオを聴きながら、近所や土手をひたすら歩く、ということをよくしてます。


オフの日に聴きたい曲

-今回KKBOXのプレイリストを作るにあたって、「オフの日に聴きたい曲」をテーマに楽曲を選んでいただきました。それぞれ選んだ理由を聞かせていただけますか?


-藤森元生セレクト-

●Cymbals「RALLY」

●EGO-WRAPPIN'/「だるい」

●80kidz「Weekend Warrior」

藤森:最近音楽を外で聴くことがあまりないんですよね。家で作業したり掃除したりしているときに聴いているんですけど、そういうときに聴きたいのはやっぱりテンションの上がる曲で、Cymbalsの「RALLY」とかはちょうどいいですね。ダンスミュージックもめちゃくちゃ好きなので、80KIDZもそういうときに聴きます。EGO-WRAPPIN’は、昔ギターロックばかり聴いてた頃に、いわゆるダウナー系の気持ちよさとか、上がりきらないテンションのかっこよさを教えてくれたバンドだなという気がします。


-森野光晴セレクト-

●American Football「Uncomfortably Numb」

●Chinese Football「Electronic Girl」

●Pele「Hummingbirds Eat」

●藍坊主「魚の骨」

森野:僕はやっぱりポストロックが好きで。American Footballはかなり好きなバンドなんですけど、一番新しいアルバムに入っている「Uncomfortably Numb」を選びました。休みの日は、作業用のモニタースピーカーで自分の好きな音楽を鳴らすようにしていて。そうすることで、好きな音の基準、いい音・悪い音の指標を、自分のなかでちゃんと持っておきたくて。そういう意味でも休みの日はモニタースピーカーでAmerican Footballを鳴らしますね。Chinese Footballは、サブスクで見つけました。中国のバンドで、この曲が特にかっこよかったんですよ。あとは、ルーツ的なものも思い返して聴くようにしているので、Peleも入れました。自分の好きなジャンルは探っていかないと、って思っているので、ストリーミングを使って探ってますね。最後に藍坊主を選んだのは……知り合いや先輩・後輩からCDをもらうことがあって、そういうのもオフの日を使って聴くようにしているんですけど、そのなかで最近よかったのが藍坊主のミニアルバム『燃えない化石』でした。


-木村浩大セレクト-

●Foo Fighters/Monkey Wrench

●Bob Marley & The Wailers/Buffalo Soldier

●女王蜂/火炎

木村:Foo Fighters「Monkey Wrench」とBob Marley & The Wailers「Buffalo Soldier」は、ずーっと聴いている曲です。「Monkey Wrench」は、こういうイントロが好きなんですよね。なんてわかりやすいドラムなんだろうって。オフの日、というより、起きたときに聴くといいですね。「Buffalo Soldier」は、一晩中叩かされたことがあって。あるレゲエバーへ友達と行ったら、よくわかんないボーカルの人に、ずっとこれを叩かされたという(笑)。曲がよかったから好きになったし、ずっと叩いてたから理解できて「俺とこの曲はめちゃくちゃ心が近い!」みたいなエクストリーム状態になりました(笑)。女王蜂「火炎」は、今年聴いた曲のなかで一番好きですね。すんげえと思いました。わけわかんないですもん。今年一番衝撃だった。


最新アルバム『GUZMANIA』について

-昨年は10周年イヤーで、全国ワンマン/対バンツアーや、フェイクドキュメンタリー映画『SAKANAMON THE MOVIE 〜SAKANAMONはなぜ売れないのか〜』の制作などがありました。SAKANAMONにとって昨年はどういう気づきがあった1年でしたか?

森野:映画やツアーを通して、自分たちがどういう場所にいて、どういう状況なのかを再確認した1年でした。「SAKANAMONはなぜ売れないのか」って自分たちでも言うし、清水康彦監督含め周りの人も面白がっちゃうところは、良くも悪くも僕らの10年を表してるのかなって思いましたね。『GUZMANIA』は、それを踏まえてここからどうするか、というところの第一歩目になってると思います。

藤森:課題とかもちゃんと見つけられたし、迷ったからこそ修正点もできて。少しずつよりいい方向に向かっていけているのではないかという気がします。

―映画のなかでは、TENGAの松本光一社長に「『僕はマイノリティーに向けて曲を作っているから』というのは、自分たちが売れない理由にはならない」「人間誰しもに鬱屈したところや悩みがあるから」と、藤森さんの痛いところを突かれたシーンがありました。それ以降、なにか意識や作る音楽に変化はありましたか?

藤森:「世の中にはたくさんのマイノリティーがいる」という話で……。それが歌詞に如実に出てるかどうかはわからないですけど、今年に入ってから意識はしました。

木村:みんなマイノリティーな部分は持っているから、こっちで分類するな、ということですよね。

藤森:できるだけたくさんのマイノリティーの人たちに響くように、という意識は歌詞のなかに出てるんじゃないかな。……どうかな。

―「並行世界のすゝめ」は特に印象的でした。今って“多様性”が叫ばれる一方で、極端な主張や正論がそこらじゅうで目立つ世の中になっていて、それこそ「みんながマイノリティー」という感覚はより強まっていると思うし、なにを正しいと信じるかは自分で決めなきゃいけない時代で。SAKANAMONの〈たくさんのマイノリティー〉に向けた言葉や、もがきも生々しく叫ぶ歌詞は、今の時代にこそ必要なものだなと。

藤森:「正義の反対は『悪』じゃなくて、もうひとつの正義なんだ」という話を、小林賢太郎さんの舞台のなかで見て、それも歌詞に反映させていますね。敵を作らない。みんな正しい。誰も間違ってない。“あいつが悪い”という歌ではなくて、みんなそれぞれが正しいという意味で“たくさんのマイノリティー”のためにできたのかな。

―そこに「BAN BAN ALIEN」が入ってくるのが面白いですよね。これは空気を読めない人について歌った曲ですけど、自分の正義・信念を大事にしてる人って、他人が裏から見れば空気の読めない人になったりもするわけで。

藤森:確かに〜……今自分が言ったこととこの曲が矛盾してないか心配になりました(笑)。ああ、でもこれは、それこそ、まだTENGAの社長と話してないくらいの時期に書いた曲なんですよね。

―なるほど。このアルバムのなかで藤森さんの考え方の変化や成長が見られる、とも言えそうですね。ジャケットについても聞かせてください。これは、『アカデミー賞短編アニメーション部門』に日本人初ノミネートされた作品を手がけ、世界的な賞をいくつも受賞しているアニメーション・絵本作家の山村浩二さんによるものです。どういった経緯だったんですか?

藤森:もともと僕が山村浩二さんを好きで、昔からずっと描いてほしかったんですよ。もう、最初の頃からです。この方の絵のイメージが、僕のなかのSAKANAMONのイメージだったので。昔から「シュールでポップなバンドになりたい」って言ってたんですけど、山村さんの絵はそんなイメージなんです。それで今回、ダメ元でオファーを投げてみたら意外と受けてくれて。「アリカナシカ」のPVを作ったときにアニメーションを描いてくれた女の子が、山村さんが教授をやられている東京藝術大学の教え子さんで、そういうのもあって受けてくれたのかもしれないです。

―絵についてはなにかリクエストされたんですか?

藤森:基本お任せで、「なにか生き物を描いてほしいです」「ぜひ線画でお願いします」くらいですかね。

森野:「シュール」のすり合わせはやったよね。

藤森:かわいすぎず、怖すぎず、という話はしましたね。

アルバム『GUZMANIA』

―9月から12月までは全国ツアーが開催されます。特に初挑戦したラップ(「YAMINABE」)がライブでどうなるのか、楽しみにしてます。

木村:次から毎回アルバムにはラップが入る?

藤森:どうかな、このツアー次第かな!



出典元:YouTube(murffin discs)

〈プロフィール〉

藤森元生(Vocal/Guitar)、木村浩大(Drums)、森野光晴(Bass)。上京と同時に組んでいたバンドが解散し一人で曲作りを続けていた藤森が、2007年11月専門学校の同級生である森野と出会い結成。「聴く人の生活の肴になるような音楽を作りたい」という願いからSAKANAMONと命名する。2009年4月より木村が加入。2013年4月にメジャー1stシングル『シグナルマン』、6月には2ndシングル『花色の美少女』をリリース。その後も多数のフェスへの出演やZepp Tokyoでワンマンライブなど大成功を収める。2019年1月から3か月連続配信シングルをリリース。さらに8月7日には通算5枚目となるミニアルバム『GUZMANIA』をリリースした。「サカなもん」というマスコットキャラクターを従え、独特のライブパフォーマンスを展開している。
http://sakanamon.com/


矢島由佳子
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