シド、結成15周年ライブで震災から8年越しの横アリ

シド、結成15周年ライブで震災から8年越しの横アリ
後藤千尋
後藤千尋


4人組ロック・バンド、シドが震災から8年越しの横浜アリーナのステージで結成15周年のアニバーサリーイヤーを締めくくるグランドファイナル公演を行った。


これは、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の被害状況を踏まえて中止となった『dead stock TOUR 2011』横アリ公演から8年越しの、シドにとっては思いの丈を伝える特別な意味を持つライブ。そんな本公演の模様を、彼らの15年を鮮やかに彩った音楽とともに振り返る。


SID 15th Anniversary GRAND FINAL at 横浜アリーナ ~その未来へ~

3月10日、どれだけ待ち侘びただろうか。運命に導かれるようにこの日、シドは初めて横浜アリーナで単独公演を行った。



2008年のインディーズラストツアーで初めて掲げられ、2010年のライブハウスツアーでも使われたシドの原点をなぞらえた『いちばん好きな場所』という名を冠したツアーを、結成15周年にしてバンド史上最大規模の31公演に及ぶ大ツアーとして決行した、「SID 15th Anniversary LIVE HOUSE TOUR 「いちばん好きな場所 2018」」。


そこからアジア4カ所を回るツアーを経て、本公演のPREVIEWライブをメンバーズクラブ限定でマイナビBLITZ AKASAKAで行った。その経験を経て、大きくなったシドが紡ぐグランドファイナルとなるステージを迎える。


シドの結成15周年ライブは、アニバーサリーイヤーの“その先へ”さらに大きな展望が照らされたかのようなライブであったことは、その場にいた誰もが感じ取れたことではないだろうか。本公演を待ち望んだ1万1000人のオーディエンスを前に、遂にライブは幕を開ける。


中止となった横アリ公演で最初に演奏するはずだった「NO LDK」


開演予定の18時を過ぎた頃、ツアーロゴがあしらわれた架空の飛空艇がワイドスクリーンいっぱいの大空に漂うオープニング映像。スクリュープロペラを全力回転させながら、時空へと突進していく飛空艇は2018、2017、13、12、2003——と、機械式時計の中に飛び込み時を往来するかのようにぐんぐん突き進む。そして、時空の壁を破りステージに飛空艇が着陸。すると、風に煽られ辺り一面がホワイトアウトするステージの上にミリタリー風の衣装を身に纏ったマオ(Vo)、Shinji(Gt)、明希(Ba)、ゆうや(Dr)の4人のシルエットが浮かびあがり、その飛空艇からステージへとメンバーが降り立った。


バックのドラムロールが鳴り止み、少しの静寂が保たれる中、張り詰めた緊張感を含んだステージにドラムスティックのフォーカウントの合図から先陣を切って耳に飛び込んでくる「NO LDK」と大歓声。それもそのはず、同曲は中止となった横浜アリーナ公演で最初に演奏される予定だった曲。ハンドクラップが巻き起こると、止まっていた“時間”が一気にはじけ、その興奮とサウンドがステージから波のように押し寄せた。


ファンのみんなと一緒に掴んだ“1番”


続く「ANNIVERSARY」では早くもシンガロングが巻き起こり、メンバーの表情がスクリーンいっぱいに映し出された。そして、レーザーが飛び交う中、ベスト盤『SID 10th Anniversary BEST』にも収録されている「V.I.P」とアニバーサリーイヤーにふさわしい曲たちが贈られる。


シドが結成10周年にリリースしたベスト盤は、10周年にして意外にもシドがはじめてチャート1位をとった作品でもある。ファンに支えられ掴み取った“1番”を噛みしめるように、マオが横アリいっぱいにロングトーンを響かせると、祝祭感あふれたライブに序盤から感極まるものがあった。


マオが飛空艇に重ねた想い

同時に彼らは一筋縄ではいかなかったセンシティブな心の葛藤を、本当に巧く表現するバンドでもある。すべての曲を歌い終えた後、マオは涙で言葉を詰まらせながらライブ中スクリーンに映し出されていた飛空艇について語った。


俺たちシドは、マオは、この飛空艇みたいにすごく不安定だし浮いたり沈んだり「なんでずっと飛べないんだろう」って思ったことも何度もあったけど、この浮いたり沈んだりするのが俺だし、シドだって15年で思いました。これからは浮いたり沈んだりも込みで、応援してください。その代わり、みんなが沈んでる時は俺たちが歌で音楽で精一杯励ますから、任しとけよ! ——マオ


そんなファンと掴んだ15年の軌跡がギュッと詰め込まれたセットリストで本編は続く。変化球に畳みかけた「cosmetic」やフュージョンテイストの「KILL TIME」は、レコードの針を落とすと広がるようなジャジーな雰囲気で存分に熱をあげ、続いてインディーズ時代のアルバム『play』から「罠」が演奏された。


これまで何度もシドのライブは観てきたが、これほどまでに時間が経っても色あせず、過去の曲も格段に価値を増している音楽に育っていたことに、ただただ驚かされた。シドの15年にさらなる期待と信頼が一気に高まる。そして、ライブ中、大きく会場を揺らしながら熱のあがるアリーナを観て、この景色はひとりでは作れないと圧倒されるばかりであった。


15年間バンドを続けるということ

圧巻ですこの景色は。こういうところを見ると、15年バンドをやってきて本当によかったなって思います。15周年の大打ち上げだと思うんですよね。そしてこれからを感じる最高のライブだと思います。最後まで俺たちと音楽の旅を楽しみましょう。——明希



彼らの認知度を一躍引き上げたTVアニメ『黒執事』のオープニング曲にも起用されたメジャー1stシングル「モノクロのキス」には再び度肝を抜かれた。


15年経ってもなおバンドの現在地を更新し続ける姿勢。それを忘れずにいるからこそ、こんなにも人の心を揺さぶるライブができるのだろう。さらに、台湾でも人気を博しているTVアニメ『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』のエンディング曲「嘘」でファンと噛み合った一体感が生まれたのも納得だった。


シド、冬の3部作

ステージが暗転すると、スクリーンには雪が降り積もる。ここからは白銀の世界に息を呑まずにいられない「ホソイコエ」、運命的な再会というシチュエーションが多幸感を連れてくる「2℃目の彼女」、雪溶けと恋模様を麗しく描いた「スノウ」と、それぞれ冬のラブソング、名曲たちが届けられた。


彼らの表現力がどこまでも深く、強い個性を持っているのが改めて思い知らされ、壁も感じさせないほど無限に広がってゆく空間に、シドというバンドのポテンシャルの高さを感じさせた。理屈抜きに美しいものに目を奪われるかのように、インディーズ時代の「ハナビラ」も、気づけば花の散り際の美しさに見入るように、その流れに飲み込まれる。


そして、“ARE YOU READY?”の合図を皮切りに続いた暴れ曲


ここをライブハウスだと思ってぐちゃぐちゃにしてくれ!——マオ


ライブの起爆剤ともなる暴れ曲で一直線に駆け抜ける強気のセットリスト。「dummy」で盛り上げたあと、インディーズ時代の1stアルバム『憐哀-レンアイ-』からのシャッフルナンバー「隣人」へのシークエンスは最高だ。“結婚しよう”とはじまった「プロポーズ」では、≪捕まえた 昔みたいに 目を見てイってよ≫の部分でランウェイにマオが手を伸ばし求愛する行為にファンも歓喜。「眩暈」では≪汚れた僕で 汚した君≫の部分を≪汚れた僕で 汚したお前ら≫に言い換えギュッと距離を詰める。火柱が燃える中、高潮感をも燃やし尽くすほどの熱いステージ。これだけ見ればわかるだろうが、芯の強い攻めの姿勢を15周年でも貫いているシドは魅力的だ。



アンコールでは「空の便箋、空への手紙」、そして未来を照らす新曲「君色の朝」が初披露された。軽やかなピアノとアコースティック・ギターのイントロから得意のシニカルさを含みながらふわりと肌をかすめるような生ぬるい風、そういった温度感が伝わってくる新曲は、サビにかけて鮮やかさを増す。心地よく響きわたったハンドクラップ。シドが、また新たな風を吹き込んだ。



マオとアイコンタクトを取りながらニヤリとした表情をゆうやが浮かべてはじまったのは、インディーズ時代からライブの定番曲として知られる「循環」。明希とShinjiがステージの両サイドで目配せしながら演奏する姿や、この日≪Dear YOKOHAMA≫と歌われた「Dear Tokyo」でマオとゆうやが肩を寄せる仲むつまじい様子など、その姿はとても楽しそうで自由だった。



きっとシドは、誰かの未来を照らす原点となれるバンドだとこの日のライブで確信した。バンドをはじめた頃の初期微動が詰まった「one way」や、背中を押すようなシドの楽曲に自分を照らし合わせながら、一歩を踏み出した人もこの場に多くいたことだろう。そして、今進もうとしている人にもそれは響いたはずだ。


ライブアンセムとなった「その未来へ」


その未来に 光に 罪はなくて

その未来へ 光へ 目を向けよう

その未来に 光に 届くまで

その未来へ あなたへ 繋げよう

シド「その未来へ」


今日という日を特別な日にしてくれた「その未来へ」。2018年にリリースされた自身初のミニアルバム『いちばん好きな場所』の収録曲の中でもシドの15周年を象徴する大切な楽曲の1つだ。



15周年グランドファイナルのラストに選ばれたこの曲を聴いて身体から溢れ出た感動は、忘れることなく一生、記憶に刻まれていくだろう。歌詞が書かれたハート型のカードがアリーナの風に舞い上がり、一足早い春の訪れを感じたようだった。アリーナには大合唱がいつまでも響く。その景色に、マオは思わず流れる涙を拭っていた。


15年間もらったすべての声援と拍手に感謝します。これから俺達もっともっとかっこ良いバンドになって、また帰って来ます。そん時はまた会いに来てください。俺たちにいい夢をありがとう。みんな愛してるぜ。——明希


最近ねぇ、幸せってなんだろうなってよく考えるんですよ。幸せって意外と普通なことだったりしませんか? ご飯食べたり些細なことが幸せと思えるんですが、今日みたいな日はとっても幸せだと思います。——Shinji


小さかろうが大きかろうが、本当にみんながいつも良いステージを用意してくれて、僕らはすごくうれしいです。ずっとずっとシドは走り続けるってことをみんなに見せていくんで、またツアーで会いましょう。——ゆうや


みんなにとっての大切な大切なシドになったんだなと改めて実感しました。そしてこれから先、16年、17年ずっとずっとシドを続けていきたいと思ってます。大切なみんなと大切なシドを、もっと大切にしながらお互いに過ごせる時間をもっともっと大事にしながら活動していきたいと思ってます。愛してます。——マオ


全22曲、あっという間、しかし15年の思いの丈が詰まった2時間以上のとてつもなく濃い時間だった。4月にメンバーズクラブツアー『ID-S限定ツアー2019』、6月に対バンツアー『SID collaboration TOUR 2019』を開催すること、さらには約2年ぶりのフルアルバムを年内にリリース、そして全国ホールツアーを回ることをアンコールで発表。シドはこのファイナルで終わらない。そう、その光はとても真っすぐで純粋で、バンドの未来のように果てなく眩しい。

(撮影:緒車 寿一、今元秀明)

後藤千尋
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