【特集】2023年最大の話題作|Vaundy 2nd Album "replica" 全曲解説

今年一番の話題作があらわれた。令和の音楽シーンを牽引するマルチアーティストVaundyによる、2枚目となる最新アルバム作品が完成した。2022年末、紅白歌合戦に初出場を果たし、日本のポップミュージック史を塗り替える圧倒的才能を持つシンガー・ソングクリエイターがVaundyだ。作詞、作曲、アレンジをすべて自らこなし、デザインや映像のディレクション、セルフプロデュースまでも手がける逸材である。
Vaundyは、見るものすべてを作品にしてしまう魔法めいたパワーを持つ
アニメ『SPY×FAMILY』Season 2のエンディングテーマ「トドメの一撃 feat. Cory Wong」、TOYOTA『カローラ クロス』のCMソング「Tokimeki」、日本テレビ系日曜ドラマ『ボクの殺意が恋をした』の主題歌「花占い」などヒット曲を連発し、ここ数年の日本のポップミュージックを塗り替えてきた新しい才能だ。
Vaundyが世に認識されたのは、忘れもしない2019年9月27日。YouTubeへアップした「東京フラッシュ」のミュージックビデオで、一気にシーンの最前線に躍り出た。メロディーメーカーで、一聴してクセになる天性の歌声を聴かせてくれるシンガーでもあるVaundyは、セルフプロデュース力に長けた軸のブレないパーソナリティも魅力的。以降も、楽曲をリリースするたびに、新たなペルソナ(仮面)を感じさせるなど表現の幅は広く、どの楽曲もVaundyが歌うことでひとつの繋がりがみえてくるのだからおもしろい。
2023年、世界情勢や政治、テクノロジーの進歩など、世の中が大きく変貌していくなか、Vaundyは不安定な時代に強い光を解き放つ存在である。王道感あるナンバーや時代性あるオルタナティブな作品を聴いていると、その影響のルーツを感じさせるフレキシビリティさにも心惹かれる。“編集” や “発明” というよりも “デザイン” を感じさせる独特なるモノづくりセンス。そう、Vaundyは圧倒的に新しいのだ。
3年ぶり、2枚目となるアルバム『replica』は、なんと全35曲収録の【Disc 1】と【Disc 2】に分かれた2枚組仕様となった。ストリーミング時代、ヒットシングルを多発するアーティストはCDアルバムリリース時に毎回ベスト盤になってしまうという課題があったが、Vaundyは驚くべきことに2枚組アルバムという形式を提示した。
そもそも、“オリジナルはレプリカの来歴から生まれる”というテーマで卒業制作を作ったという、最近まで美大生だったVaundy。
そう、注目すべきは【Disc 1】収録の15曲がほぼ新曲であること。これがすべてにおいてVaundyらしさに富んだ、強靭なポップセンスに満ち溢れたエモーショナルな作品ばかりだから驚異的だ。グローバルな音楽シーンとの親和性も高く、ぼくらリスナーの感性をアップデートするアルバム作品となっている。
とはいえ本人が “おまけ”と言い切る、豪華タイアップ曲で埋め尽くされた【Disc2】は、誰もが知るヒット曲ばかり。まさに、両面を持って2023年の空気を代弁する決定打となるアルバム作品となった。
しかしながらVaundy初体験の方にとってはアルバム作品で35曲もあると、身構えてしまうかもしれない。アルバムを聴く上でガイドとなるように、特に新曲ばかりの【Disc 1】を深掘りしつつ、全曲レビューをしていこう。聴きながら目を通してほしい。
<Vaundy 2nd Album "replica" 全曲解説>
【Disc 1】
●1曲目「Audio 007」
2020年5月27日にリリースした1stアルバム『strobo』にも収録されていた、サウンドスケッチのごとく “Audio” と銘打ったインスト作品。アルバムタイトルに “レプリカ=複製品” というキーワードを用いたことにも、自身の作家性・独自のセンスが表れている。
●2曲目「ZERO」
歌詞がないロックチューン。歌詞に頼りすぎなJ-POPへのアンチテーゼ?いや、歌詞に頼らなくともポップミュージックは “繋がれる” ことを指し示したナンバー。ライブごとに歌われる言葉が進化、いや変化していくことも楽しい。
●3曲目「美電球」
オルタナシーンのカリスマであり、ゆらゆら帝国での活動でも知られる坂本慎太郎へのリスペクトを感じる、耳に残るロッキンなポップセンス。オルタナティブの再構築。わかりやすさに、いかに毒を盛るか。時代と共に進化する高濃度のポップネス。
●4曲目「カーニバル」
Netflixドラマ『御手洗家、炎上する』主題歌。言葉遊びか、タイトルや歌詞ではドラマにも通じる“カニバル”とのダブルミーニングを感じた。削ぎ落とされたエモーショナルなオルタナロック・センス。服を脱ぎ捨て、生身のサウンドで勝負する。
●5曲目「1リッター分の愛をこめて」
シンプルな音づかい。ベースでひっぱり、ラップでメロディーを紡いでいく。サビでの開放されるふわっとした心地よさ。徐々にギターサウンドで圧を調味料のごとく振り撒きながら、日記のような爽やかなポップチューンへと仕上げていく。
●6曲目「常熱」
タイアップでのヒット曲とは異なり、自らのセンスへと向き合い重圧を削ぎ落としサウンド化していくフレッシュなシン・Vaundy。甘酸っぱいギターポップで、軽快なビートが胸を弾ませてくれるポップロック。距離感の近さがとてもあたたかい。
●7曲目「Audio 006」
ここで再び、サウンドスケッチのごとく“Audio”と名打ったインスト作品。電話音鳴り響く悪夢のような靄をすり抜け、まるで誰かから逃げるかのように駆ける足音と荒い息づかい。そして、鳴り響く心音。緊張感が一気に張り巡らされていく。
●8曲目「宮」
“みや” と読ませ、問いかけるタイトル。ミドルのビートで展開されるせつなポップ。“傘”・“子宮”というキーワードが物語を進めていく。少しばかり不安定なビートが、シティーポップ寄りの世界観を醸し出す繊細さに深みを持たせていく。
●9曲目「黒子」
“ほくろ” と読むタイトル。ベースの鈍い響きとシンクロする葛藤する心。ミドルでロッキンに重厚に響くビート。オルタナティブロックの手法を取り入れ、人との距離感・心の温度差を歌い上げていく。サビで広がるVaundy節が気持ちよい。
●10曲目「逆光 -replica-」
アニメ映画『ONE PIECE FILM RED』劇中歌としてAdoに提供した「逆光」のセルフカバー。模倣・複製の意味を持つ “replica” というラベルが、ある種楽曲提供元=オリジナルを表す矛盾がVaundyらしい価値提言となる。
●11曲目「NEO JAPAN」
NIRVANAやBUDDHA BRANDを意識して生み出されたというナンバー。ブッダの「人間発電所」からの影響はフロウ含め大きそうだ。90年代から得るインスパイア、その掛け合わせは時代とともに新たなオリジナルを創出する。
●12曲目「呼吸のように」
映画『正欲』主題歌。たゆたうように紡がれる言葉は、ピアノに寄り添われ言霊となる。気持ちが爆発する、“これが愛であって欲しい と言うのが君であって欲しい”というフレーズからのエモーショナルな展開が熱いバラードだ。
●13曲目「怪獣の花唄 - replica -」
2022年末『第73回NHK紅白歌合戦』歌唱曲として話題を集めたナンバーの “replica” バージョン。Vaundy自身が本気でやりたい完成系をレプリカとしてオリジナルに表現。
●14曲目「Audio 008」
三度、サウンドスケッチのごとく “Audio” と名打ったインスト作品へ。夢うつつノイジーな音像から、アナログなカセットデッキの再生ボタンが押され、早送りボタンが押されテープが高速回転。停止ボタンが押され、ネクストへ誘う。
●15曲目「replica」
歌い回しや世界観など、デヴィッド・ボウイをリスペクトして生み出された重要曲。The 1975のグローバルヒットにみられるように、影響の積み重ね・掛け合わせが新たなオリジナルを生み出すことの証明を身をもって表現した。
【Disc 2】
●1曲目「Audio 003」
Vaundyアルバム作品ではお馴染み、サウンドスケッチのごとく “Audio” と名打ったインスト作品。アルバム冒頭を飾るに相応しいアッパーチューン。ただし、ナンバリングの順番の法則は不明。
●2曲目「世界の秘密」
マルハニチロの冷凍食品「横浜あんかけラーメン」CMをはじめ、3社のタイアップに起用された楽曲。耳に言葉が残る、柔らかなポップセンスがVaundyらしさであり、ヒットクリエイターたる所以である。
●3曲目「融解 sink」
2021年第一弾となった配信シングル曲。“融解=溶ける”、“sink=沈む、落ち込む” という意味を持つ単語を組み合わせたタイトルが意味深。闇深い心情に、やわらかな音像で寄り添っていく。
●4曲目「しわあわせ」
専門学校 首都医校・大阪医専・名古屋医専2021年度テレビCM、マルハニチロ冷凍食品テレビCM、ジャックス『物以上の、物語を。』テレビCMに起用されたトリプルタイアップ・ソング。歌詞とシンクロする、心臓音ビートからの導入。心を鷲掴みされるライフミュージック。
●5曲目「benefits」
MV映像含め、恋愛が統率された世界、様々な愛の解釈をオルタナティブに表現。タイトルとは裏腹に、見返りを求めることではなく、愛すること自体に幸せがあることを歌い上げた悲恋ロック。
●6曲目「花占い」
日本テレビ系日曜ドラマ『ボクの殺意が恋をした』主題歌。イントロから元気いっぱい、疾走感溢れるポップロックチューン。“僕たちの1000年の恋は 相槌で咲く”のフレーズが耳に強く残る。
●7曲目「Tokimeki」
TOYOTA『カローラ クロス」CM、NTTドコモ『ドコモ青春割』CMによるダブルタイアップ・ソング。令和時代を代表する、軽快なビートが華やぐ国民的ポップソング。
●8曲目「泣き地蔵」
ギターリフがインパクト強く、耳に新しいビートセンスを与える令和時代にふさわしい最新型のロックチューン。ラップめいたボーカリゼーションがテンションを煽り、独自の物語センスに没入する。
●9曲目「踊り子」
YouTube Premiumタイアップ・ソング。ベースが牽引するビートロック。やさしく歌い紡ぎ溶け合うボーカリゼーションの妙。“とぅるるる” といった、口ずさみやすいフレーズが脳内をループする。
●10曲目「裸の勇者」
フジテレビ “ノイタミナ” TVアニメ『王様ランキング』第2クールオープニングテーマ。シンプルな歌詞展開についつい口ずさみたくなる、魂込められたエモさがお守りのようなパワーポップチューン。
●11曲目「恋風邪にのせて」
ABEMA『彼とオオカミちゃんには騙されない』主題歌。かわいさを打ち出す、煌びやかなトラックメイク。シリアスかつ真摯な歌い回しが、都会的なポップソングを醸し出すキュートなラブソング。
●12曲目「走馬灯」
死生観を歌った、考察しがいのある奥深いナンバー。“さらばと願い纏う僕の姿” のフレーズがキーとなるストーリーテリング。MVでの心電図の描き方とともにリピートして聴きたくなる作品。
●13曲目「mabataki」
サントリー『BOSS CAFFEINE』CMソング、NTTドコモ『ドコモ青春割』CMによるダブルタイアップ・ソング。ストリングスの響きが荘厳な、言葉が力強くスッと入ってくる。
●14曲目「CHAINSAW BLOOD」
テレビアニメ『チェンソーマン』第1話エンディングテーマ。イントロのチェンソーとシンクロするギターリフが悪魔つながりのヘヴィメタルな展開へとマッチ。ずば抜けたセンスの良さを感じさせてくれる。
●15曲目「瞳惚れ」
テレビ朝日系土曜ナイトドラマ『ジャパニーズスタイル』主題歌。軽快なギターカッティングがシティポップな香りを振り撒く。洒落たポップスタイルは、日本独自の様式美でもあり批評性を感じた。
●16曲目「忘れ物」
日本マクドナルドCM『時をかけるバーガー』篇CMソング。90’s王道ギターロックを彷彿とさせる、感情の高まりを受け止め解放する泣きのポップロック。快楽ポイントの高さ、多さに驚かされる。
●17曲目「置き手紙」
Morisawa Fontsコラボレーション。郷愁感を漂わせる、80’sギターポップなバンドセンスが心にジワッとせつなき想いでいっぱいに。音楽はタイムマシン。そんな時間軸を乗り越える凄みを感じた。
●18曲目「まぶた」
フジテレビ系月9ドラマ『女神の教室〜リーガル青春白書〜』主題歌。ラテン風ビートとギターカッティングによる熱い想い。繰り返すコーラスワークによるせつなき信条。心地良きサビでの解放。
●19曲目「そんなbitterな話」
ABEMA『花束とオオカミちゃんには騙されない』主題歌。跳ねるビートが、歌詞で描かれる恋物語への没入感を高めていく。刺さるフレーズ、“ほろ苦い、そう苦い” の哀愁感がパワーワードだ。
●20曲目「トドメの一撃 feat. Cory Wong」
テレビアニメ『SPY×FAMILY』Season 2エンディングテーマ。ゴージャスなシティポップセンスを漂わせ、ファンクのカッティングが世界トップのギタリストCory Wongをフィーチャリング。最高じゃん☆