女性アイドルソングにおける“僕”を読む

  • 邦楽
  • 総合
  • 特集
kimkim
アーティストが、歌詞に用いる一人称のワードといえば、例えば女性であれば“私”、男性であれば“僕”、“俺”などが一般的です。しかし昨今の女性アイドル市場では、一人称を“僕”と設定している歌詞が非常に増えてきています。そんな“僕”という一人称は、一体ファンの人にどのような作用を与えているのでしょうか。今回は、アイドルソングにおける“僕”を深読みし、その“僕”がもたらす効能について考えてみたいと思います。
“僕”と“君”の方程式
 フライングゲット  僕は一足先に  君の気持ち  今すぐ手に入れようか AKB48は、数ある女性アイドルの中でも、“僕”という一人称がとても多く登場します。その理由として大きいのは、男性ファンの目線を意識し、自身を“僕”として置き換えやすいように設定されているからです。まずアイドルソングの“僕”を考えるうえでは、僕=ファン、君=そのアイドル自身、と置き換えて考えるのが自然ですね。「僕から君への気持ち」を表す歌詞は、ファンからアイドルへの気持ちを代弁したものになっていることが多く、またアイドル自身は、“君”となって歌うことで、“僕”からの気持ちを認識していることとなります。この構造が、ファンにとってのリアリティとなるのです。「フライングゲット」では、そういった構造が非常に分かりやすく作られており、読めば読むほどに秀逸です。  君が僕に恋を恋をしてるのは鉄板  僕が君にゾッコンゾッコンなのは無双 1・2番のサビでは、このような対となる表現も含まれており、この瞬間、まるで両想いが成立しているかのような関係性が伝わってきます。“君”も、“僕”に対して実はこう思ってるんだぞ!という感情を、絶妙に表現しているわけです。すると、“君”はアイドルとしてだけではなく、一人の女性としても捉えることができ、ファン―アイドル、という関係性に留まらず、男女の関係としても考えられるようになるのです。 そもそも「フライングゲット」は、商品を発売日前に入手することを表した俗語ですが、それを恋愛に例えることで、非常に分かりやすいダブルミーニングを実現しています。つまり、フライングゲットして欲しいアイドルの気持ちと、フライングゲットして欲しい女性の気持ち、両方を兼ね備えた内容になっているんですね。こうして、いわゆるアイドルファンに留まらず、世の中の男性が共感する歌詞の構造を成立させたことが、大ヒットの一要因になったことは間違いないでしょう。 ちなみに今回は、“僕”視点であることから、男性目線での共感のメカニズムを中心に考えましたが、決して女性ファンが共感出来ないということではありません。このようなアイドルソングでは、“君”視点は女性目線で捉えられる曲が多いので、自身を“君”として考えることにより、男性に対して想う感情をアイドルが代弁してるように感じられ、それもまた共感を生んでいるのです。アイドルソングがこうして、性別問わず支持されている背景には、こうした歌詞の構造が、大きな役割を担っているのですね。 ▼AKB48 「フライングゲット」(ダンシングバージョン)
出典元:(YouTube:AKB48公式)
“僕”の置き換えの循環がもたらす最大の効能
その方程式を、極上に表現しているのが、乃木坂46の「君の名は希望」です。この曲では、ファン心理をくすぐる“僕”が何重にも表現されています。  透明人間 そう呼ばれてた  僕の存在 気づいてくれたんだ  もし君が振り向かなくても  その微笑みを僕は忘れない  どんな時も君がいることを  信じて まっすぐ歩いて行こう 一見すると、淡いラブソングと読めるところが、アイドルファンでなくても共感できる部分であり、幅広い層から支持される理由となっています。しかし、この曲ももちろん、ファンとアイドルの関係性を表しています。日々になかなか“希望”を見いだせなかった“僕”が、“君”という“希望”に出会えたことで、“希望”を見出していくというストーリー。すなわち、“君”は“希望”であり“乃木坂46”ということになります。しかし、この曲のさらに素晴らしいところは、逆にも読めることでさらに感動が増す、という点にあります。 “僕”を“乃木坂46”自身と置き換えて考えると、“君”は“ファン”であり“希望”へと変換されます。乃木坂46自身も、実はファンに対して希望を見出しているとも読める歌詞は、ファン心理をこれ以上ない程にくすぐられます。メンバーの様々なキャラクターを見ながら、そういった歌詞の背景を意識すると、どうしても感情移入してしまうものです。「“僕”も“希望”になりたい!」その心理が働くからこそ、ファンはさらに希望を見出すことができる。“僕”の置き換えが、アイドル、ファンそれぞれに該当し、その思考が循環することで、さらなる共感を増幅させるメカニズム。これぞ、アイドルソングにおける“僕”がもたらす、一番の効能といえるのではないでしょうか。 ▼乃木坂46「君の名は希望 Short Ver.」
出典元:(YouTube:乃木坂46 OFFICIAL)
友達同士を語る上での“僕”
さて、上記の2曲では、ファン心理をくみ取ったうえで、アイドルソングでは定番といえる“僕”の手法が存分に盛り込まれていますが、一方で、友情を語る歌詞において、“僕”が用いられる場合もあります。その関係性において、女性と限定したイメージとならないために、このような曲では“僕”が用いられるパターンが多いです。  ねーもしも君が悲しみに負けそうになる夜には  ねー僕を呼んでどんな時もすぐに駆けつけるから 9nineの「Smile Again」では、友達への想いを歌った内容となっていますが、この“僕”をリスナーが自分自身に置き換えたときの“君”というのは、ストレートに考えると自分自身が思い描くリアルな友達であるといえます。これは実際、アイドルソングに関わらず、様々なアーティストの歌詞で用いられる構造ではありますが、このような歌詞をアイドルが歌うことによって、そのアイドルグループが、メンバー同士でそう想い合えている感情を感じ取ることもできます。“僕”も“君”も、アイドルの一メンバーとして置き換えることが出来る、という曲もあるのです。 9nine「Smile Again」
出典元:(YouTube:Victor Entertainment) このように、様々なアイドルソングの中で、“僕”という登場人物が現れており、それがファン心理に影響を与え、共感を生んでいます。その他のおすすめ楽曲にも、様々なアイドルの“僕”ソングを集めてみました。このプレイリストを聴きながら、この“僕”という登場人物を様々な角度から考えてみると、アイドルソングの歌詞について、また違った感情を持てるのではないでしょうか。
kimkim

1985年11月3日生まれ。2010年~2012年末まで、大手レコード会社新人発掘部にて勤務。当時、年間で500を超えるライブチェックを行っていた超ライブジャンキーで、ライブハウス事情・新人アーティスト情報に詳しく、中でも女性シンガーソングライター界隈に精通している。現在は、ミュージックビデオを中心とした、 音楽系映像制作会社である「クラウディ株式会社」に籍を置きながら、 個人プロジェクト「ai-R.(アイアル)」にて、女性シンガーソングライターの制作・マネジメントや、イベント企画などを行っている。 http://ameblo.jp/kimkim-air

関連アルバム

関連記事