ジャケット・デザインの世界 第7回:ピーター・サヴィル

ジャケット・デザインの世界 第7回:ピーター・サヴィル
永見浩之
永見浩之
ピーター・サヴィルは、1955年マンチェスター生まれのイギリスのグラフィックデザイナー。地元のアートスクールでグラフィックデザインを学び、1970年代末からマンチェスターのインディペンデント・レーベル、ファクトリー・レコードのジャケットのデザインを担当、ジョイ・ディヴィジョン、ア・サーティン・レイシオ、ニュー・オーダーのアートワークが話題になり、ピーター・ガブリエル、ロキシー・ミュージック、キング・クリムゾン、ニコなどのビッグネームまで手がける。 70年代末から80年代前半、音楽は、情熱的で破壊的なパンクが終焉を迎え、代わりに内省的で陰鬱なニューウェイブの時代へ向かう。ライブ感覚よりも、デジタルな機材を駆使した緻密な編集感覚を伴ったものに変わっていく。その音楽の変革とシンクロするように、ピーター・サヴィルのデジタルの匂いのする端正で冷ややかな感触を持つデザインが世の中に受け入れられたのである。
Unknown Pleasures / Joy Division 1979
ジョイ・ディヴィジョンのファーストアルバム。黒を背景に音の波形のような模様が神経質な線で幾重にも描かれている。彼らの沈鬱で内省な世界感を上手く表現していると思います。ピーター・サヴィルの代表作の一つと言えるでしょう。
Closer / Joy Division 1980
イアン・カーティスの死後に出されたセカンド・アルバム。使われている写真はイタリアはジェノヴァの 巨大共同墓地スタリエーノ墓地にある彫像。イアンの死と符合しているように見えるが、ピーター・サヴィルは、これは全くの偶然だと語っています。
Rage In Eden / Ultravox 1981
ウルトラヴォックスの5枚目のアルバム。前作Viennaからジョン・フォックスからミッジ・ユーロにリーダが変わり、パンクっぽさは影を潜め、ファッショナブルなヨーロッパ耽美主義的な方向へ。ギリシャ彫刻をポップにアイコン化することでヨーロッパ主義を表現しているのかなと。
Movement / New Order 1981
前身バンドであるジョイ・ディヴィジョンからニュー・オーダーになってから初のアルバム。音楽的には漆黒のジョイ・ディヴィジョンに明るい光が差し込んできた感じでポップになってはいるがまだ吹っ切れてはいない。文字と直線と丸だけで構成されたシンプルなデザイン。余計な情感を全く挟まないピーター・サヴィルのデザイン感覚は当時新しかった。
Discipline / King Crimson 1981
インプロビゼーションを主体としたフリーフォームなスタイルから、まさに規律の取れた制御されたポップな音に大きく変化したクリムゾン。かなりの人が「これは、もうクリムゾンじゃない」と思ったのではないでしょうか。ジャケットもそれに合わせて秘密結社ぽいシンボルマークだけが描かれています。 ※このアルバムは現在、配信されていません。
My Life In The Bush Of Ghosts / Brian Eno - David Byrne 1981
トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』の裏盤といったニュアンス。サンプリングという概念がない時代にラジオやアラビックな歌手をごちゃごちゃにサンプリングしてリズミックな作品に仕上がった本作。この作品の少し前に出たホルガー・シューカイのムービーズと似た感触があって興味深かった記憶も。デザインはコンピューター画面?よくわかりませんが美しく印象に残ります。 ※このアルバムは現在、配信されていません。
Avalon / Roxy Music 1982
言わずと知れた名作ですが、最初、ヒプノシスのデザインかと思いました。それぐらい、ウィッシュボーン・アッシュのアーガスに似た世界観。ピーター・サヴィルのヒプノシスへのリスペクトを感じました。ちなみに、アヴァロンとは、ブリテン島にあるとされる伝説の島で、戦で致命傷を負ったアーサー王が 癒しを求めて渡り最期を迎えたとされるそうです。ロキシーが辿り着いた最後の楽園ということなんでしょう。
Power, Corruption & Lies / New Order 1983
日本題『権力の美学』、直訳すると「権力の堕落と欺瞞」ですが、この美しいジャケと美学という言葉の相性はいいですね。モノクローム一色のジョイ・ディビジョンから、カラフルで美しいニュー・オーダーへ。具体的に言うとシンセサイザーのサウンドを中心としたエレクトロ・ダンス・ポップへ、ということなんですが、ピーター・サヴィルはフランスの画家アンリ・ファンタン=ラトゥールの絵画を使って表現しました。
Wake Me Up Before You Go-Go / Wham! 1984
ワム!最大のヒット曲のシングル。邦題は「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」という超軽いもの。ベタだけど、この曲のウキウキ感を上手く表していますね。デザインは、ものすごくシンプルなようでいて、WHAM!のロゴの色と 彼女のメイクの色がシンクロしているというとこが実は凝ってます。
So / Peter Gabriel 1986
85年録音、翌年リリースされたピーター・ガブリエルの5作目。彼のクリエイティブの集大成とも言える名曲揃いです。時はまさにMTV時代、ユニークなビジュアルを伴って、ここからたくさんのヒット曲が生まれました。白黒のポートレート、タイトルとアーティスト名だけの超シンプルなジャケットがむしろ新鮮でした。 ※このアルバムは現在、配信されていません。
Saturnz Return / Goldie 1998
ドラムンベースの金字塔的アルバム。ドラムンベースとは、1990年代初頭にイギリスで生まれた音楽で、ヒップホップよりも速いBPMで、ジャングルよりもさらに複雑化したリズムが特徴だが比較的早くブームを終えた。一方、ピーター・サヴィルがCGで作ったこのジャケの美しさは今もそんなに古びてない。
This Is Hardcore / Pulp 1998
90年代のブリットポップ・ブームに一役を買ったバンドの6枚目。 ポッと出かと思ったら実は、1978年に結成、長くインディーズ時代を過ごしたベテランバンドの彼ら、元々グラムっぽい匂いを持っていたが、このジャケも妖艶なグラムっぽいイメージです。と言っても、華やかというより暗く重いトーンの仕上がりで、ブームの終焉を感じてしまいます。
Navigation / Orchestral Manoeuvres In The Dark (The OMD B-Sides) 2001
79年にデビューした、イギリスのテクノポップバンド、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク。彼らのカヴァーはピーター・サヴィルが担当しており、シングルのB面を集めたこのコンピレーションもピーターの作品。彼らの名作2ndアルバム(穴開きのやつ)を想起させるような単調な図形の連続。当時はアナログな2次元表現でしたが、CGを使って3D表現になっています。
永見浩之
永見浩之

関連アルバム

最新の記事

    share to facebook share to facebook share to facebook share

    Ctrl + C でコピー