映画×音楽の新たな蜜月

映画×音楽の新たな蜜月
柴那典
柴那典
2016年は、邦画の当たり年かも!? 記録的な興行収入となっている『君の名は。』を筆頭に、日本映画のヒットが相次いでいます。そしてそのポイントは、音楽が効果的な役割を果たしていること。というわけで、今回は注目の映画主題歌をセレクトしました。
『君の名は。』の主演女優が映画主題歌をカバー
出典元:(YouTube:上白石萌音) 今年最大の話題作『君の名は。』。そのヒットの原動力の一つとなったのは、間違いなくRADWIMPSが手掛けた音楽だろう。「前前前世(movie ver.)」など4曲の主題歌が一つの映画にあるというのは異例のことだったが、それが映画の中でミュージカル的な演出を果たし疾走感を作り上げていた。 そして同作でヒロインの宮水三葉を演じた上白石萌音がミニアルバム「chouchou」で歌手としてメジャーデビュー。主題歌「なんでもないや(movie ver.)」をカバーしている。 女優、声優として注目を集める彼女だが、歌声の持つ透明感と表現力も抜群のもの。ミニアルバム「chouchou」は名作映画の主題歌や挿入歌をカバーした楽曲を集めた一作だが、YouTubeにMVが公開された「366日」(映画『赤い糸』主題歌)も、思わず耳を惹きつける力を持っている。
『何者』で実現した初のタッグ
出典元:(YouTube:Yasutaka Nakata Official) 『君の名は。』と同じく東宝の川村元気のプロデュースによる、朝井リョウ原作、三浦大輔監督の映画『何者』。この映画の劇中音楽を中田ヤスタカが手掛け、主題歌「NANIMONO」は中田ヤスタカと米津玄師による初のタッグが実現した。 『君の名は。』のRADWIMPS、昨年に公開された『バクマン』のサカナクションもそうだったが、川村元気プロデューサーが「映画×音楽」でヒットを生み出すポイントは劇中音楽と主題歌を同じアーティストが手掛けていることにある。加えて、このコラボは「初のタッグ」というところに大きな意味がある。作詞とボーカルの米津玄師にとってはフィーチャリング参加自体が初めてのこと。そして中田ヤスタカも、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅ、causuleとは違う新境地の表現をポップに開拓している。 意義の大きなコラボだと思う。
『聲の形』で追求した「音響の美学」
出典元:(YouTube:KyoaniChannel) 映画『聲の形』も、音楽がとても大きな役割を果たしている映画だ。電子音楽家agraph=牛尾憲輔が手掛けたその音楽は、ピアノの鍵盤のタッチや、中でハンマーがきしむ音など、微細な演奏音をあえて収録して空気感に活かした「音響の美学」が貫かれた作品。そして、聴覚障害を抱えた主人公が登場し、コミュニケーションの難しさをテーマにした映画だけに、そういった音の響き方と映画の作品性自体も、深いところで結びついている。 インタビューなどによると、通常の劇伴制作とは異なり、コンセプトワークのようなものから、京都アニメーションの山田尚子監督と牛尾憲輔による共同作業のような形で音楽が作られていったようだ。このあたりも、『君の名は。』の新海誠監督とRADWIMPSとの関係性に繋がるものがある。音楽を「添え物」としてではなく、作品の重要な軸として作っていくという発想がポイントだ。 ただ、だからこそ映画の制作サイドは主題歌にもその発想を貫いてほしかったな、というのが率直に思うところではある。本作の主題歌「恋をしたのは」を歌ったaikoは悪くない。というか、原作の大ファンを公言していた彼女は、とても気合いを入れて主題歌を制作したはず。なので、この曲はaikoの楽曲としてはとてもクオリティの高いものになっている。ただ、『君の名は。』や『何者』で本編と主題歌がシームレスにつながっていたのと比べると、どうしても映画を観終わった後にエンドロールで空気感の違いを感じてしまった。 aiko自身もここ最近はボカロPのOSTER projectを編曲に迎えたりして新境地を開拓していただけに、個人的には牛尾憲輔がアレンジとプロデュース、もしくはリミックスを手掛け、サウンド的にも映画と連動したaikoの主題歌が実現していったらよかったのにな、という思いはある。
『この世界の片隅に』で蘇る名曲
出典元:(YouTube:東京テアトル) 『君の名は。』や『聲の形』など傑作アニメーション映画が相次ぐ2016年。その中でも「今年のベストワン!」と絶賛を集めているのが『この世界の片隅に』。こうの史代の原作を、片渕須直監督が映画化した一作。戦時下の軍港・呉を生きるひとりの女性を描いた一作を、独特のやさしいタッチで映像にしている。戦争をテーマにした作品でありながら、ユーモラスで生活の実感に近いテイストが印象的だ。この作品の音楽を手掛けたのがコトリンゴ。主題歌「悲しくてやりきれない」も、彼女の手によるものだ。 ザ・フォーク・クルセダーズが60年代に発表した名曲を、透き通った声と豊かなストリングスの調べで、鮮やかに蘇らせている。
映画『少女』とGLIM SPNAKYの二面性
出典元:(YouTube:UNIVERSAL MUSIC JAPAN) 今年、話題作の主題歌を次々と手掛けているユニットがGLIM SPANKYだ。今年7月に公開された映画『ONE PIECE FILM GOLD』では、原作の尾田栄一郎たっての指名で主題歌「怒りをくれよ」を提供。松尾レミのパワフルなヴォーカルとストレートなロック・サウンドで、疾走感ある映画の世界観を見事に体現した。 そして湊かなえのベストセラー小説を原作とした10月8日公開の映画『少女』では、監督自らのオファーを受けて「闇に目を凝らせば」を書き下ろし。こちらはダークで幻想的な曲調で、GLIM SPANKYのもう一つの真骨頂を示すような曲となっている。 どちらも2ndアルバム『NEXT ONE』に収録。それぞれの映画がGLIM SPANKYの二面性をうまく引き出す結果となったと言える。
カンヌ受賞作が導くニューカマーの可能性
出典元:(YouTube:HARUHI Official YouTube Channel) 第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した映画『淵に立つ』。その主題歌「Lullaby」を歌うのが、新人女性アーティストのHARUHIだ。17歳で映画『世界から猫が消えたなら』主題歌に抜擢され、今年4月に「ひずみ」でデビューした彼女。深田晃司監督はそのデビュー曲を聴いて主題歌をオファーしたという。 独特の孤独感や内面性を感じさせる歌声が魅力的な彼女。「ひずみ」は音楽プロデューサーの小林武史が作曲した一曲だが、「Lullaby」は作詞と作曲をHARUHI自身が担当。シンガーソングライターとしてのポテンシャルの高さを感じさせる。 ミュージックビデオは深田晃司監督にとっても初のMV作品となったとか。ここに上げてきたように、異なるジャンルの才能を結びつけるのが、今起こっている「映画×音楽の新たな蜜月」のポイントなのかも。
柴那典
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