戦争について考える音楽。

戦争について考える音楽。
山本雅美
山本雅美

ロシアによる激しい軍事攻撃で、ウクライナ国内の多くの市民が傷つき、住む場所を追われている姿が連日伝えられる中、世界の各地で平和を求めるメッセージが発信されています。日本においても様々なかたちでの人道支援の輪が大きくなっている中、ミュージシャンたちもアクションを始めました。3月5日(土)にはオルタナティブロックバンドのGEZANが主宰を務めるレーベル・十三月が、東京・新宿駅南口にて街頭宣伝「No War 0305」を開催。発案して開催するまで数日だったにも関わらず、折坂悠太、七尾旅人、坂口恭平、大友良英、カネコアヤノ、原田郁子(クラムボン)など多くのアーティストたちが参加、会場には1万人を超える人々が集まり、明確に「No War」の意思表示をしています。

出典元:YouTube(jusangatsu)

また3月23日(水)には、文筆家/ラジオDJで、WEBメディア『君ニ問フ』編集長のジョー横溝が発起人(※共同発起人: 佐藤タイジ、SUGIZO)となり、ウクライナ人道支援ライブ「PLAY FOR PEACE Vol.1」を無料配信で開催。曽我部恵一、TOSHI-LOW、佐藤タイジ&清春、真城めぐみ&八橋義幸、片平里菜、JESSE(RIZE,The BONEZ)などのアーティストがライブとともに想いを発信し、ウクライナへの寄付を呼びかけました。

出典元:YouTube(LOFTchannel)

音楽で戦争は止められないかもしれない。それでも戦争の歴史を再び繰り返さないために、ミュージシャンたちはたくさんのメッセージを音楽に託しています。今回はそんな音楽に向き合ってみたいと思います。

希望の大地 / ナターシャ・グジー

ナターシャ・グジーはウクライナ出身の日本で活動する歌手で、ウクライナの民族楽器であるバンドゥーラの演奏家です。透明で美しい歌声とバンドゥーラの可憐な響きで、多くの聴衆の心を惹きつけています。幼い頃、父親が勤務していたチェルノブイリ原発で爆発事故が起き、原発からわずか3.5キロで被曝した経験を持つナターシャ。避難生活を送りながらも、被災した少年少女を中心に結成された民族音楽団「チェルボナ・カリーナ」(チェルノブイリの赤いカリーナの実)のメンバーとして、16歳の時に来日。その後、日本での本格的な音楽活動を始めます。特に東日本大震災以降は、被災地への支援活動にも精力的に取り組んできました。

出典元:YouTube(ナターシャ・グジー)

大地を吹き抜ける 争い 悲しみ

いくつもの悲劇を 乗り越え 歩んだ


大いなる希望をウクライナの大地が

祈るように いつくしんで

守り育て いつの日にか 花ひらかせる


手に手をとって 歌ごえあわせ

小さな瞳が 夢みる 幸せの種をまこう


「希望の大地」は、ナターシャが作詞・作曲し2014年に発表された作品です。この曲を聴いて感じるのは〈祖国への愛情と慈しみ、そして希望〉です。バンドゥーラのメロディがウクライナの豊かな大地や美しい自然を感じさせてくれる一方で、これまでのウクライナの辛い試練にも触れられています。それでも再び種を蒔き、育て、花開かせてきたウクライナの人たちの前向きな姿が歌われる「希望の大地」。 聴く人の誰もが、ウクライナに想いを馳せることができるのではないでしょうか。

Russians / スティング

いま世界中のミュージシャンたちがプロテストソングを歌い始めています。日本でも人気のあるロックミュージシャン・スティングは、3月5日に自身のインスタグラムで「Russians」を歌う姿を公開しました。

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この曲は1985年の初ソロ・アルバム『The Dream of the Blue Turtles(ブルータートルの夢)』に収録された曲で、冒頭で破滅への時間を刻むストップウォッチの音が不気味に響きます。当時は東西冷戦時代で、核軍拡競争をしていたソビエトのフルシチョフ書記長とアメリカのレーガン大統領を批判した内容になっています。40年近くも前の曲でありながら、同じような状況が起きていることを憂い、今回の動きに繋がっています。

スティングはメッセージでこのように訴えています。

この曲を作ってから何年もの間、

歌うことは滅多にありませんでした。

なぜなら、この歌が重要な意味を持つようになることが再び訪れるとは考えていなかったからです。


この残忍な専制政治と戦う勇敢なウクライナ人、

そして逮捕と投獄の脅威があるにもかかわらず抗議を続けている多くのロシア人、

私たち全員が、子供たちを愛しています。

どうか戦争を止めてください。

3月25日にはインスタグラムで公開されたギター/チェロバージョン の「Russians 」の緊急配信がスタート。この楽曲の収益金は、世界中から人道支援や医療支援を募るボランティアセンターである「ヘルプ・ウクライナ・センター(Help Ukraine Center)」に、ドイツのチャリティ基金「 Peace for People」を通じて寄付されるということです。

花はどこへ行った?(Where Have All the Flowers Gone ?) / ピート・シーガー

出典元:YouTube(ShoutFactoryMusic)

ピート・シーガーはプロテストソングのパイオニアとして、国際的な軍縮や公民権運動を推進したアメリカのシンガーソングライターです。ピートが発表した数々の曲の中でも「花はどこへ行った?」は、世界で一番有名な反戦歌とも言われています。この曲が作られたのは1955年。その年の10月に南ベトナム共和国が樹立したことが契機となり。べトナム戦争が始まった年でもありました。この曲はカバーされることも多く、特にピーター・ポール&マリーのバージョンが最も有名で、ベトナム反戦運動の中で積極的に歌われていました。国内でも忌野清志郎やMr.Childrenなどが、ライブステージで演奏したこともあります。最近ではMISIAが現在おこなわれている自身の全国ツアーで、ウクライナ国旗カラーの青と黄色のドレスに身を包み、平和の願いを込めて歌っています。

「花はどこへ行った?」は、トルストイなどのロシア文学を受け継ぐ作家・ミハイル・ショーロホフの小説「静かなドン」に登場するコサック(現在のウクライナにあたる地域)の民謡にヒントを得て作られたといいます。曲の歌詞は非常にシンプルですが「戦争がいつまでも繰り返され、いつになったらその愚かさに気づくのか?」というメッセージが込められています。歌詞をじっくり読み、曲が作られた背景に想いを巡らせて聴いてみてください。この曲が作られてから67年経った現在、改めて向き合うべき曲だと思います。

Give Peace A Chance(平和を我等に) / ジョン・レノン

2022年3月4日。ロシアのウクライナ侵攻が始まった9日後のこの日、ウクライナを含むドイツ、フランス、イタリア、ラトビア、アイスランド、ポーランド、クロアチアなどヨーロッパ25カ国にある150のラジオ局が大きなキャンペーンをおこないました。それは〈EUROPE RADIO UNITED“GIVE PEACE A CHANCE”〉と題され、ジョン・レノンが1969年に作った反戦歌である「Give Peace A Chance(平和を我等に)」を国を越えて一斉に放送し、ウクライナとの連帯を示していこうというものでした。

出典元:YouTube(johnlennon)

「Give Peace A Chance」の2016年版のミュージックビデオには、モントリオールのクイーン・エリザベス・ホテルに滞在していた部屋でのレコーディング風景のほかに、1960年代から70年代にかけ全米で起きたベトナム反戦運動の記録が記されています。警察から激しい取り締まりを受ける若者たちの姿は、現在のロシアで反戦デモをおこない連行されていく人たちの姿と重なります。それでも、このミュージックビデオでは、圧力をものともせずに全国各地へ反戦運動は広がっていく様子も収められています。やがて「 Give Peace A Chance 」を歌っていくことで、その連帯の輪がさらに強くなっていきます。

音楽で戦争は止められるかもしれない

「Give Peace A Chance」が生まれて53年。この曲には、いつまでもそんなメッセージが宿り続けています。

ボヘミアン・ラプソディ/ クイーン

映画の大ヒットで、若い世代も巻き込んでリバイバルヒットした「ボヘミアン・ラプソディ」。解散寸前状態と言われていたバンドを再浮上させる転機となったウェンブリー・スタジアムの「LIVE AID」に出演するまでが描かれ、そのステージの1曲目を飾った曲です。また世界初と言われるミュージックビデオの冒頭と中盤のオペラ部分では『クイーン II』のジャケットを彷彿とさせる暗闇の中で歌う4人の姿が、ミステリアスな世界観のもとに描かれています。

出典元:YouTube(Queen Official)

この曲を作ったフレディ・マーキュリーが「ボヘミアン・ラプソディ」について多くを語らなかったこともあり、これまでにも様々な考察がされてきた曲ですが、今までプロテストソングとして聴かれることはなかったのではないでしょうか。今回のウクライナ侵攻において、ロシアの兵士たちが正確な情報を与えられず戦闘していることをメディアが報じています。その兵士たちの想いも想像してみると、「ボヘミアン・ラプソディ」がこれまでとはまったく違うメッセージを持つ曲に聴こえてくるのです。現実か幻なのかわからない世界で、現実から逃げることのできない主人公は、このように告白します。

Mama

Just killed a man


Mama

I don’t want to die

I sometimes wish I’d never been born at All About


ママ

いま人を殺してきたんだ


ママ

死にたくないよ

時々、生まれて来なければよかったとさえ思うんだ

その歌詞は、まるでいま戦場にいる兵士の叫びのように聴こえてきます。またアカペラ、バラード、オペラ、ハードロックと複雑に構成されたメロディは、戦場にいる人たちの心を映しているかのようにも感じさせてくれます。

Human / ラグ・アンド・ボーン・マン

反戦デモに激しい弾圧がかかるロシア国内で、市民たちの小さなアクションが始まっています。それは「緑のリボン」です。
緑色はウクライナ国旗の青と黄色を混ぜ合わせるとできる色で、3月上旬頃からロシアの都市部の街角で目にすることが多くなり、ウクライナ侵攻に反対するロシア市民による無言の抗議メッセージになっているようです。
TikTok動画には、警察に連行されるロシア市民たちの生々しい様子とともに、「緑のリボン」の映像が映し出されています。

@natashasrussia

Another day in Saint-Petersburg Russia 🇷🇺

♬ Human - Rag'n'Bone Man

このTikTok動画は多くの人に共有されていますが、使われている音楽はイギリスのシンガーソングライター、ラグ・アンド・ボーン・マンが2016年にリリースした「Human」です。
31歳でリリースしたデビューアルバム『ヒューマン』に収録されている曲で、全英チャートでは過去10年間におけるデビューアルバムでの初週最高セールスを記録しています。

出典元:YouTube(Rag'n'Bone Man)

Take a look in the mirror and what do you see?

Do you see it clear,or are you deceived

In what you believe?


鏡を見て 何が見える?ちゃんと見えてる?

それともぼやけている?

そこにあなたの信念は映っている?


「Human」は自虐的に自問自答する男の心情が描かれています。 この動画の投稿者はこの曲が持つメッセージを通じて、人と人が傷つけあう愚かさを多くの人に共有しようとしたのかもしれません。

この原稿を書いている時点では、ウクライナとロシアの間で戦争解決に向けたポジティブな情報はありません。

そんな中で、キーウの地下シェルターで小さな少女が、「アナと雪の女王」のテーマ曲「Let It Go」をロシア語で歌う姿が世界中で話題になっています。

出典元:YouTube(Evening Standard)

音楽で戦争を止めることはできないかもしれません。それでも音楽には力があります。この現実に向き合うきっかけとなり、
今後のひとりひとりの思考やアクションが、より良い未来に繋がっていくはずです。
この不幸な軍事侵攻が一刻も早く終わり、平穏な世界が戻ることを願っています。


山本雅美
山本雅美

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