シティポップ・フレーバーが詰まった 武藤彩未の新作「SHOWER」インタビュー

シティポップ・フレーバーが詰まった 武藤彩未の新作「SHOWER」インタビュー
山本雅美
山本雅美

幼い頃から80年代の歌謡曲やシティポップをこよなく愛し、リスペクトしながらシンガーとしての活動をする武藤彩未。今年4月には「筒美京平トリビュートコンサート」に出演。そして11月5日&&6日に開催される敬愛してやまない作詞家・松本隆の作詞家活動50周年記念コンサート「風街オデッセイ2021」の5日の公演に出演が決定しているなど、彼女の独特なスタンスは各方面から注目されています。そんな中でリリースされた新作『SHOWER』には、80年代ソングに丁寧に真摯に向き合ってきた武藤彩未だからこそ、表現できた珠玉の曲たちが詰まっています。

武藤彩未と80年代ポップス

ー『SHOWER』の話を聞く前に、海外留学を終え活動再開してからの武藤さんのことも軽く振り返りたいと思います。2020年にリリースされた2枚のミニアルバム『MIRRORS』『あの頃、君に渡したプレイリストを今でも僕はくちずさむ。』は、シティポップ・フレーバーな気持ちの良い作品でしたね。

武藤:私は80年代の曲に憧れて歌を始めて、80年代というベースを大切にしてきました。だから、そこはぶれさせたくなかったんです。でもそのまま昭和歌謡を真似するだけでなく、私らしさを足せたらと思って何か、新しいエッセンスが必要だと思っていました。そんな時に、シティポップが再注目され始めていたんです。シティポップって時代を経ても、懐かしさと新しさが共存しているんですよね。そしてキラキラした世界観とかも私の方向性にぴったりだと思いました。それを踏まえてできたのが「雨音」だったんです。

出典元:YouTube(武藤彩未Official)

ー「雨音」を初めて聴いた時、「武藤さんのやりたいことってこういうことだったのか」と改めて認識できた気がしました。

武藤:本当に久しぶりの新作だったので、絶対に変化した武藤彩未を感じてもらいたいと思っていました。そして「雨音」から歌詞を書くことにも挑戦しました。世代、性別に関係なく、私のことを知らない人でも耳にすーっと入っていくような曲にしたいなと思っていました。

ー「雨音」以降も積極的に作詞もされています。歌詞を書くようになって変化はありましたか?

武藤:日々苦戦してます(笑)。自分の言葉の引き出しがまだまだ足りないと、毎回書くたびに感じています。でも挑戦していく中で感じる楽しさや喜びもありますし、私の歌で誰かを元気にできたらといった願いもあるので、これからも挑戦していきたいと思っています。曲を通じて私の変化していく部分も感じてもらえると嬉しいです。

ー武藤さんと言えば松本隆さんを大リスペクトしてますよね。松本さんの歌詞の影響もあったりしますか?

武藤:松本先生が書く詞は先生にしか出せないから、絶対に真似できないんです。でも松本先生のような情景が浮かぶ歌詞は、私もすごく意識していて「どこに、いついるのか?」「どんな服を着てるのか?」「どういうシチュエーションなのか?」というのは最初のAメロでちゃんと伝えようと考えて書いていることが多いです。あとは自分のリアルな想いを歌詞にするというよりは、ひとつの物語を作って表現するという方が好きですね。

ー物語をつくる上でなにか意識していることはありますか?

武藤:コロナ禍ということもあり、外出できない状況なので家で韓国の恋愛ドラマをよく見ているんですが、ネタが増えました。最近あるインタビューで、松本先生も韓国ドラマをよく見ていてヒントを得ているということを知って、私もそこからさらに見るようにしてます、口実ですが(笑)。

ー4月に配信された「今夜のキスで忘れてほしいの」の歌詞の〈夜で遊び 大人になったら 上書き保存はリップグロスで〉という部分は情景感たっぷりですね。evening cinemaの原田夏樹さんとのコラボレーションというのも新鮮でした。次のアルバムはどうなるのかなという期待感が高まりました(笑)。

武藤:ありがとうございます。ちょっと懐かしさを感じるメロディーに、〈上書き保存〉と か〈リップグロス〉とか 想像しやすい言葉を入れて懐かしさと新しさが織り交ぜられたような楽曲を目指しました。そして同時にこの曲あたりから、私自身が〈武藤彩未らしさ〉を理解し始めて、この先なにをやるべきかが明確になっていきました。

ー今年は「筒美京平トリビュートコンサート」に出演、当時のトップアイドルの皆さんとも競演されました。刺激になったことも多かったのでは?

武藤:改めてこの名曲たちを歌い継いでいきたいと本当に実感しました。私だけでは微力過ぎますが、もっと多くの若い世代のみなさんに聴いてもらいたいと思いました。私のYouTubeチャンネルでカバー動画を公開しているんですが、いつかはカバーアルバムも出したいですね。

出典元:YouTube(武藤彩未Official)

ー武藤さんの役割は大きいですよね(笑)。レギュラーラジオでは松本隆作品や80年代ソングの魅力を紹介したり、先日のKKBOXのコラムでは松本隆さんの魅力について語ってもらいました。そして先日発表になりましたが、11月に日本武道館で開催される「松本隆トリビュートコンサート」にも出演することが決まりましたね。おめでとうございます。

武藤:本当に夢みたいです。松本先生には7年前ぐらいにTwitterのDMでファンとしてメッセージを送ったことがあったんです。そうしたら「いつか会えたらいいですね」と返信をくださって感激しました。ずっと待ち焦がれていた日になるのは間違いないんですが、どうしたらいいかわからないですね、いまは。

シティポップ感満載のミニアルバム『SHOWER』

ー新作の『SHOWER』には、武藤さんのどんな想いが込められているのか教えてください。

武藤:タイトルになっている『SHOWER』という名前の通り、日々の悩みとかを洗い流せるような、優しくて寄り添える曲が詰まったアルバムになったらいいなと思って制作しました。それにはシティポップの持つサウンド感がぴったりかなと思ったのと同時に、今まで以上にシティポップというものを意識したものになっていると思います。

ー1曲目の「夢みちゃうよ」は、イントロからワクワク感が高まります。歌詞も読み解いていくとシティポップ感が溢れていますよね。〈ロマンティック止めないで〉というフレーズが刺さりました。

武藤:ありがとうございます。口笛で始まるっていうのがすごいインパクトあるなと思ってて、1曲目にしました。語っていくというよりは、言葉を並べてリズミカルになるよう意識しました。あと高音が続くサビのパートも、私らしさがでているかなと思います。

ー2曲目の「ヘッドホンコミュニケーション」もメロディが本当にキャッチーで何度か聴くと、自然に「ヘッドホンコミュニケーション~♫」と口ずさんでしまいました。

武藤:最初は全然違うアレンジだったんですが、メロディが本当に気に入って、一番最初にアルバムに収録することを即決した曲なんです。曲を書いていただいたuno blaqloさんがラッパーでもあるので、今回初めてラップ調な歌い方もしてます。私の新しい歌い方を引き出してくださった曲になったかなと思います。音数が多いという点でも、今までにない感じだったんです。

ー情景が浮かぶタイトルもいいですね。曲タイトルは武藤さんが考えるんですか?

武藤:最初から私が考えることもありますし、仮タイトルを変えることもあります。「ヘッドホンコミュニケーション」は仮タイトルがついていて、そこにつながる物語を想像して詞を書きました。別れてしまった恋人とよく聴いていた音楽がふいに流れてきた時の女の子の気持ちを書きました。

ー3曲目は潮騒の音から始まる「あの夏の海で」。いままでにはないタイプの曲ですね。

武藤:アルバムの中でも結構しっとりしてる曲になっています。メロウな曲も大好きなので、歌っていて気持ちがよかったです。最初は夢から目覚めた感じのふわふわした世界観を大切にして、後半に向かう中でだんだん盛り上がっていく感じて欲しいです。

ー「あの夏の海で」を聴いて、やっぱり季節の情景を歌う武藤さんはいいですね。ぜひ、いろんな季節の曲を歌って欲しいです。

武藤:私も歌ってみたいですね。次は「冬」をテーマにした曲を(笑)。

ー楽しみにしてます。そして4曲目の「SHOWER」は、 Rin音や空音などの新世代シンガーやラッパーとの共作や楽曲提供で注目を集めているmaeshima soshi がOHTORA と一緒に作った曲なんですね。

出典元:YouTube(武藤彩未Official)

武藤:ずっと気になっていた作家さんだったので、今回ご一緒できて本当に嬉しいです。自分が歌ってみたいシティポップができるんじゃないかなと思ってお願いしたんですが、本当にオシャレでカッコよくて、でもそれだけじゃなく、可愛らしい感じも持った曲になったと思います。

ーポップなのにしっとりしたウエットな雰囲気があるのも良いですね。

武藤:「SHOWER」では、ワンオクターブ下の低音のハモリも初挑戦してみました。いままで低音は苦手だったので、今回初挑戦してみましたが、息を多めにしてフワッとした浮遊感みたいなものを表現できたのかなと思います。

ーそして「SHOWER」から一転。「グッバイ。」のイントロたまらないです。竹内まりやさんへのオマージュかのようです。

武藤:アルバムの中で言うと一番、80年代当時のシティポップっぽい楽曲になっているかなと思います。シンプルな楽曲ですが、歌がすごく際立つアレンジもして頂きました。サビの部分がパーンて抜けるので、カラオケとかで歌ったらすごく気持ち良いと思いますのでぜひ歌って欲しいです!

ーラストを飾るのは「もっとわがままになってみせたなら」。「今夜のキスで忘れてほしいの」に続く原田夏樹の曲です。

武藤:原田さんも80年代ポップスや昭和歌謡が大好きというのもあるので、私がやりたいことを本当に理解して作ってくださいます。メロディがすごくキャッチーですごく耳に残るのに、懐かし過ぎず、新し過ぎず絶妙なんです。「今夜のキスで忘れてほしいの」でご一緒させてもらってから、絶対にまた曲を作って頂きたいと強い想いがありました。

ー作詞は、元SHE IS SUMMERのMICOさんですね。

武藤:MICOさんにはずっと前から歌詞を書いて頂きたかったんです。MICOさんにしか出せない女の子の可愛らしさが大好きなんです!

ー〈胸のうち 見せてあげない〉とか、MICOさんじゃないと書けないですよね。

武藤:そうですよね。MICOさんワールド感満載な歌詞なんですが、MICOさんと打ち合わせした時の私の印象で感じた少し強い面も意識した女性像を描いてもらっています。こんなに可愛い歌詞の世界で歌うことが本当に楽しかったし、いつもとは違う自分を発見できた気がします。本当に大切な曲になりました。

ージャケットはこれまでの感じと少し違うというか、夜のシチュエーションの武藤さんが大人チックな雰囲気になっています。

武藤:もう十分大人なんですけどね(笑)。私が持っているシティポップのイメージは、夜の街のキラキラした感じなんです。その中で少しエモーショナル感を出せるように意識してみました。今回はフィルムで撮影してもらったので、懐かしい感じも出ているんじゃないかなと思います。

ー最後にもう一度『SHOWER』の魅力をお願いします。

武藤:夜の時間って、一人でふといろいろ考え込んでしまう事があると思うんですが、そんな時は『SHOWER』を聴いてもらって、軽やかな気持ちになってもらえたらいいなと思ってます。

ー10月24日はワンマンライブがありますが、どんな感じになりそうですか?

武藤:今回も生バンドでのステージを楽しんでもらいたいなと思います。


山本雅美
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