武藤彩未が語る筒美京平ワールドの魅力

邦楽 総合 特集
山本雅美

「サザエさん」「また逢う日まで」「ギンギラギンにさりげなく」「センチメンタルジャーニー」「夏色のナンシー」「迷宮のアンドローラ」「Romanticが止まらない」・・・。私たちが何気なく聴いたり口ずさんでいるあの曲やこの曲。稀代のヒットメーカー・筒美京平による作品です。



筒美京平は、歴代作曲家シングル総売上では7,560万枚を超え、日本の音楽界で最も多くのヒット曲を生み出した作曲家です。誰もが1度は耳にしたことのある名曲の数々を世に送り出し、人々が気持ちを寄せる時代のアンセムとなっていました。生涯を歌謡曲に捧げ、多くの人たちに夢を与え続けてきた筒美京平は、2020年10月に80年の生涯を閉じました。


一緒に400曲もの楽曲をつくった松本隆のTwitter

筒美京平が作曲家として歌謡界に登場したのは、ビートルズが来日した1966年。若き作曲家が目指したものは、アメリカのポップスを歌謡曲に変換するというものでした。そして、2年後に、いしだあゆみが歌う「ブルー・ライト・ヨコハマ」(作詞:橋本淳)で、初めてミリオンヒットを手にします。それまでの歌謡曲になかった管弦楽器を贅沢に導入したゴージャスなサウンドに多くの人々が魅了されていったのです。



「ブルー・ライト・ヨコハマ」もそうですが、筒美京平のヒットの法則としてあげられるのが、一度聴いたら忘れることのできない〈パンチのあるイントロ〉です。「タンタン タ ター タ タン ドン」のイントロが印象的な「また逢う日まで」は、1971年の日本レコード大賞を受賞しました。とにかく短い小節で印象的なイントロは、筒美京平の十八番でした。

また〈歌詞と歌詞の間(ま)を飽きさせないように音で埋め尽くす〉音作りも大事にしていたことでした。本来は編曲家が行う音作りまで、筒美京平自身が手がけ独特な音楽世界を作り上げていったのです。一曲一曲、丁寧に聴くと、「なぜ、このサビがここで半音あがるの?」「なぜ、ここがこんなテンポになるの?」と新しい発見があります。



そしてなんと言っても素晴らしいのは 歌手の個性を見事に捉えて、男性歌手、女性歌手、歌謡曲、演歌、そしてアイドルと様々な歌手に、変幻自在に楽曲を提供・量産できた力です。筒美京平のメロディが歌い手のイメージやキャラクターを作りあげる。それほど筒美京平が作る曲は密度も強度も濃いものだったのです。



その筒美京平の傘寿(80歳)を記念し、本人の公認のもと制作が進められていたのがトリビュートアルバム『筒美京平SONG BOOK』。筒美京平が逝去した後、武部聡志を中心に、本間昭光、亀田誠治、松尾潔、小西康陽、西寺郷太というプロデューサー陣が集結、いまの時代のフロントラインで活躍するアーティストやシンガーたちと共に筒美京平作品を新たな輝きで蘇らせました。今回のコラムでは 80年代ソングをこよなく愛し、自らもその世界観を表現しているアイドル・武藤彩未さんに若い世代から感じる筒美京平の魅力を語ってもらいました。


武藤彩未が語る筒美京平


KKBOX:武藤さんは80年代ソングが大好きで、とりわけ作詞家の松本隆さんへのリスペクト感がすごいですよね。そんな武藤さんは筒美京平作品をどのように感じていますか?

武藤:昭和のメロディを聴いて、この曲いいなーと思える曲を調べてみたら筒美京平さんだったということがよくあったんですよね。私にとっても、もちろんいろんな人にとっても、ストライクなメロディなんだなって思います。

KKBOX:武藤さんはYouTubeチャンネルで80年代の名曲カバーを披露しています。その中で斉藤由貴さんの「卒業」(作詞:松本隆/作曲:筒美京平)を歌ってますよね。

武藤:あの曲、難しいんです。「木綿のハンカチーフ」もそうなんですけど、Aメロが不思議な上がり方するんです。「卒業」もなかなか普通では歌えないというか、聴いてる時は自然に入ってきたメロディが、歌ってみて初めて難しいメロディなんだなと感じましたね。
楽曲と斉藤由貴さんの魅力が合致していて改めて名曲だと思います。


出典元:YouTube(武藤彩未Official)


KKBOX:実際歌ってみて、筒美さんの曲の魅力とか感じました?

武藤:作詞が松本隆さんなので、もうニヤけるぐらい素敵な曲でした。それに「卒業」もそうですけど、筒美京平さんの曲はイントロが凄いですよね。ご自身でも編曲もされているので、イントロ込みで曲の世界観を作り上げてますよね。

KKBOX:武藤さんのコメント素晴らしいですね(笑)。そんなことを踏まえながら『筒美京平SONG BOOK』に収録されている曲を紹介していきましょう。


人魚

KKBOX:武藤さんがまず選んだ曲が、NOKKOの「人魚」。時代を一世風靡したバンド・レベッカを解散した直後の初のソロシングルです。この時の筒美京平さんは54歳なんですが、実に瑞々しいメロディを作っています。「人魚」はその後、安室奈美恵や BONNIE PINK、柴咲コウ、JUJU、岩崎宏美などなど多くのアーティストがカバーしてますね。



武藤:この曲は高校生の頃に出会って、それからずっと聴いています。静かに感情が盛り上がっていくバラードの感じが大好きな曲です。 “アカシアの雨に打たれて 泣いた”で始まる歌詞も素敵ですし、そこから始まる曲全体の浮遊感やファンタジー感にも惹かれます。「人魚」というタイトルにぴったりのメロディですよね。でも「抱いて 抱いて 抱いて」とリフレインする部分には女性の意志の強さを感じます。「人魚」はNOKKOさんの詞、筒美さんの曲のどちらが先だったんでしょうか。気になりますね。どちらが先だったとしても、この絶妙な世界観は生まれていたんだと思います。


KKBOX:この曲を、パンチのある歌声のLiSAさんがすごく優しい歌声でカバーしてますね。

武藤:とっても素敵ですよね。オリジナルと同じ浮遊感もありながら、後半はリズムの音があって現代っぽいアレンジになっているなと思いました。間奏で、ピアノがメロディを弾く感じもいいですよね。歌声も優しさだけではなく、LiSAさんらしい力強さも素敵でした。


シンデレラ・ハネムーン

KKBOX:次に選んだのが岩崎宏美の「シンデレラ・ハネムーン」です。阿久悠さんの詞の世界と、筒美さんの進化したディスコサウンドがマッチしている曲です。



武藤:やっぱりイントロがいいんですよね、ここからワクワク感が堪らないです!バックの演奏も豪華ですし、この生バンド感がいいですよね。岩崎宏美さんと言えば、一般的には伸びやかな高音が魅力だと思われていますが、筒美さんは「魅力が低音」だとずっと思っていたらしいんです。この「シンデレラ・ハネムーン」は、まさに岩崎宏美さんの低音が生かされた曲だと思います。特にAメロとか、それを感じます。筒美さんはデビュー曲の「二重奏(デュエット)」から8作品ずっと曲を作っていたんですがしばらく離れていて、「シンデレラ・ハネムーン」が6作品振りだったらしいんです。だからなのか、ずっと筒美さんが思っていた岩崎宏美さんの低音を生かした曲にしてみたかったのかなって。

KKBOX:すごく詳しい(笑)。

武藤:間奏のドラムもすごくカッコいい。後半はサビメロが少し違っていたりするんです。そのあたりも筒美さんっぽいというか、何回聴いても飽きさせないんです。すごく考えられたメロディですよね。



KKBOX:今回この曲をカバーしてるのが一青窈さんです。低音が魅力ですね。

武藤:ジャジーなアレンジと、ゆったりしたピッチ、そして一青窈さんの歌声が相まって歌詞に聴き入ってしまいました。オリジナルの高揚感と真逆のしっとりした大人な曲に感じられました。


木綿のハンカチーフ

KKBOX:歌謡界のゴールデン・コンビと呼ばれた作詞家・松本隆との曲は400曲以上にもなりますが、このコンビで最初となる曲が「木綿のハンカチーフ」です。



武藤:「木綿のハンカチーフ」は、松本先生が作詞した作品の中でもベスト3に入るぐらいの好きな曲です。まず4番まであるって凄いじゃないですか。最後まですべて聴かないと、この物語は理解できないですよね。

KKBOX:メロディ的にも筒美作品の中でもベスト3に入ると思います。

武藤:筒美京平ワールドですよね。“僕は旅立つー”で上がるところとか、すごく特徴的ですよね。どうやって表現したら歌がもっと素敵になるか、本当に参考になります。メロディの音程をほんの少し変えるだけで、グッとくるというか、引き込まれ方が違うじゃないですか。そして松本先生の男性サイドと女性サイドの詞の変化が メロディが乗って本当にキラキラしてますよね。



KKBOX:ですね。女性サイドのメロディで、白いワンピース着て草原にいるようなイメージを想像させられちゃうんですよね。この曲を初めて聴いた時、音楽って想像を掻き立てるものなんだなと感じたのを覚えています。

武藤:確かに草原が見えます(笑)。メロディで情景が浮かぶってすごいですよね。この曲の詞ってすごく切ないじゃないですか。普通だったらバラードのイメージなのに、それをこんなに明るいメロディにしてギャップを出しているところが、本当にすごいです。



KKBOX: 橋本愛さんが歌う「木綿のハンカチーフ」はどうですか?

武藤:オリジナルでは気持ちをそんなに引きずらない、実は強い女性を感じていたんです。それが今回はバラードになっていて、それを橋本愛さんはアカペラじゃないかって思えるぐらいしっとり歌われているので、言葉ひとつひとつがすごくエモーショナルに感じられます。アレンジによって女性像がこんなに変わるんだと驚きました。


魅せられて(エーゲ海のテーマ)

KKBOX:そして筒美京平作品としては最大のヒットとなった「魅せられて」です。もはや言う必要はないですが、強烈なイントロです。



武藤:本当に衝撃的ですよね、この曲。イントロだけでなく、サビの前で音が止まるアクセントが好きです。そして、そこから伸びやかなメロディと英語の歌詞。もう、うわーって感じです。あと「 Uhー Ahー Uhー Ahー」ってあるじゃないですか。ここだけで物語を作れているというか、いろんな想像ができるメロディって驚きです。



武藤:同じ曲かと思えるぐらいアレンジが大胆に変わってますよね。クラップがずっと入っていたり、ベースの感じとかもすごくいまっぽいし。この曲は歌うの、相当難しいと思うんです。さっき話した 「Uhー Ahー Uhー Ahー」の部分も普通に歌ったら響かないと思うんです。それをかれんさんと芹奈さんは表現しきっているので素晴らしいなと思いました。ちゃんと語れているのがすごいです。


ブルー・ライト・ヨコハマ

KKBOX:GS風のロックビートのリズムに、和風な情緒を湛えた哀愁のあるメロディがのり、いしだあゆみのクールな小唄風のボーカルが際立つ「ブルー・ライト・ヨコハマ」は、歌謡曲と洋楽を融合したエポックメーキングな作品といわれています。まさに〈歌謡ポップス〉の礎を築いたと言えます。



武藤:いしだあゆみさんの歌が始まると、オケの音圧が変わるんです。急に演奏の音が小さくなるんです。それでサビを歌い終わると音圧が大きくなるんです。いしださんの歌を際立たせようとして、こうなったんですかね?当時のレコーディングの様子が浮かんできて、すごくレトロ感があるのが好きなんです。


KKBOX:本当だ、気がつきませんでした。

武藤:「ブルー・ライト・ヨコハマ」を作詞した橋本淳さんと筒美さんは、同じコンビで西田佐智子さんが歌う「くれないホテル」という曲も大好きですね。すごくオシャレなんです。

KKBOX:どこで知ったんですか?

武藤:松本隆先生のことを調べていくと、はっぴいえんどに在籍していた頃に細野晴臣さんが「くれないホテル」のレコードを持っていて、「筒美京平はスゴイ!天才だ」とよく言っていたエピソードを知りました。そこから聴いてみたら、わたしもハマりました(笑)。曲もそうですが、編曲家としての筒美京平さんの凄さを感じる曲です。

KKBOX:『筒美京平SONG BOOK』ではアイナ・ジ・エンドさんが「ブルー・ライト・ヨコハマ」を歌っています。



武藤:オリジナル曲のアレンジが〈陽〉な感じだとすると、アイナさんバージョンのアレンジは〈陰〉。すごいギャップですよね。音数を少なくしてメロディを際立たせているせいなんですかね。アレンジが変わると、こんなにも雰囲気が変わるものなんだと。

KKBOX:もともとこの曲のテーマって「夜に漂う色気」みたいなものがあったと思うんです。オリジナル曲ではそれがキラキラしたネオンサインで彩られる夜なんだけど、アイナさんバージョンは裏通りにある明るさ低めのBarという雰囲気です。

武藤:アイナさんがどんな感じで「ブルー・ライト・ヨコハマ」を歌うんだろうってドキドキしてました。アレンジが変わったいうのもありますが、アイナさんの妖艶な歌声が夜な感じを引き立てますよね。完全にアイナさんのオリジナルになっていると思います。



KKBOX:いまシティポップが若い人たちにも人気ですが、『筒美京平SONG BOOK』で同年代のアーティストが歌うことによって、70年代、80年代の歌謡ポップスがもっと広がっていけばいいなと思います。

武藤:いま聴いても古さを感じないし、サウンド感でこんなに違った表情を見せてくれるんだと思いました。カッコいいです。やっぱりメロディがしっかりしているから、どんなアレンジがきても成り立つんだと思います。

KKBOX:それでは最後にひとことお願いします、

武藤:ラジオは「80年代ソング」を中心に紹介する番組なので、一人でも多くの人に曲を好きになってもらえるといいなと思います。YouTubeチャンネルでは、私が「80年代ソング」をカバーして披露しています。こちらでも是非新しい音楽と出会って欲しいです。


そして取材後に嬉しいニュースが!! なんと4月17日&18日に東京・東京国際フォーラム ホールAで開催されるコンサート「~筒美京平 オフィシャル・トリビュート・プロジェクト~ ザ・ヒット・ソング・メーカー 筒美京平の世界 in コンサート」に武藤彩未さんの出演が決定しました、70年代、80年代を彩ったアーティストとの共演、本当楽しみです。


〈武藤彩未〉

生年月日:1996年4月29日 出身地:茨城県
幼少期よりモデルとして活動を開始し、2008年からキッズグループ「可憐Girl’s」として活躍。2010年からはアイドルグループ「さくら学院」の生徒会長(リーダー)としての活動を経て、ソロアイドルとしてデビュー。抜群の歌唱力、表現力で人気を博す中、活動を休止し海外留学へ。多くのことを吸収し、シンガーとして活動を再開した。

父は元騎手で現調教師の武藤善則氏、弟にJRA騎手の武藤雅氏を持ち馬に囲まれて育ってきた。馬がいて物音を立てれない実家では、親が運転する車内でのみ音楽に触れることができ、その影響で80年代の曲を好むようになった。夢は「父が育てた馬に弟が乗り、プレゼンターとして歌唱すること」

山本雅美

ainone合同会社 代表/プロデューサー ビクターエンタテインメント/A-Sketch/KKBOX Japanで幅広く音楽ビジネスを担当、現在は音楽専門インターネットラジオのプロデューサーのほか、多摩川沿いの街で音楽フェスなどを開催。また写真家として国内・海外でのエキシビションに出展。

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