六畳半から生まれる次世代音楽!! MAISONdes管理人に聞く ヒットの舞台裏

六畳半から生まれる次世代音楽!!  MAISONdes管理人に聞く ヒットの舞台裏
森朋之
森朋之

テーマは「どっかのアパート、六畳半。あなたの歌。」。「六畳半ポップス」を掲げる音楽プロジェクトMAISONdesが大きな注目を集めている。

“どこかにあるアパートの、各部屋の住人の歌”をテーマにしたMAISONdesの最初の楽曲は2021年2月3日にリリースされた「Hello/Hello feat.yama,泣き虫☔」。5月に発表された「ヨワネハキfeat.和ぬか,asmi」がTikTokを中心に大ヒットを記録し、MAISONdes自体の知名度、存在感も確実に高まっている。設立1周年を記念してオフィシャルHPを立ち上げ、2月9日には新曲「ねぐせfeat.こはならむ,ぜったくん」が配信されるなど、精力的な活動を続けているMAISONdes。そのコンセプトや制作スタイル、今後の活動ビジョンについて“管理人”に聞いた。

いま注目の音楽プロジェクトMAISONdesってなんだろう?

―MAISONdesがスタートして1年。ここまでの手応えはどうですか?

やはり「ヨワネハキfeat.和ぬか,asmi」が大きいですね。去年(2021年)SNSでいちばん使われた楽曲だと確信していると同時に、「すごいなー」とどこか他人事のように感嘆してます。1曲目の「Hello/Hello feat.yama, 泣き虫☔」のときは、自分たちの力不足を痛感したんですよ。もちろんyamaさん、泣き虫☔さんにはまったく責任はなくて、楽曲には自信を持っていたんですが、「世間の反応はこんなものなんだ」と。企画自体がぜんぜん伝わってない、完全にスベったなと思ってたんですが(笑)、まだ継続できていてよかったです。

出典元:YouTube(MAISONdes -メゾン・デ-)

―そもそもMAISONdesはどんな意図でスタートしたんですか?

“架空のアパート”ですね。そのなかに六畳半サイズの部屋がいくつかあって、それぞれの住んでいる人の歌を、部屋ごとに異なったアーティストが表現するというのがコンセプト。なので当然、毎回、違う歌になるというわけです。アーティストというよりレーベルと言ったほうがいいと思いますが、対象としている二十歳前後のユーザーにとってはどちらでもいいことなのかなと(笑)。

―確かにそうかも(笑)。「六畳半ポップス」というテーマも、MAISONdesの大きな特徴です。かつて四畳半フォークと呼ばれる一大ムーヴメントがありましたが……。

まさにその流れですね。「四畳半フォーク」が持っているテーマ性は潜在的にずっと求められていると思っているんです。何らかの理由で、都会で単身暮らしを始めた20歳前後の人たちの孤独、生活だったり将来への不安だったり、恋愛の寂しさというものは、いつの時代でもある。そういう人たちが聴いて、「これは自分の歌だな」と思ってもらえる歌が、ずっと求められていると思うんですよ。今でいうと、“くじら”君の曲は、そのニーズに応えてますよね。いちばん知られているのはyamaさんが歌った「春を告げる」ですが、歌い出しが<深夜東京の6畳半夢を見てた>なんです。くじら君に「こういうことを考えているんだけど」とMAISONdesの構想を話している中で”六畳半ポップス”という言葉が生まれました。

出典元:YouTube(yama)

―そこでリンクした、と。いつの時代でも、単身で都会に暮らす若者の心情は変わらないというのは、興味深い指摘だと思います。

今の日本の社会が続く限り、そういう人たちが求める曲は潜在的にあるんだ思います。それがどうマーケットとして顕在化するかは、時代によって違うでしょうけどね。クリエイターに曲を作っていただくときも、「こういう人たちのための歌でありたい」ということだけは伝えてます。じつはリスナーの人物設定もしっかり決めているんですけど、それは言わないでおきますね(笑)。あまりにもファンタジーがなくなっちゃうんで。

―わかりました(笑)。クリエイターと歌い手のコラボの妙もMAISONdesの特徴ですが、組み合わせはどうやって決めてるんですか?

ケース・バイ・ケースですね。私が「この組み合わせ、おもしろいだろうな」と想定してオファーすることもあるし、曲を作ってくれた方に「誰に歌ってもらいたい?」と相談することもあって。向こうから「こういう感じでやりたいんだけど、どうですか?」と言ってくれるクリエイターもいますね。1曲目の「Hello/Hello」のときは、「こういうプロジェクトを考えてるので、参加していただけませんか?」といろいろな人に声をかけていたなかで、yamaさん、泣き虫☔さんがそれぞれ興味を示してくれて。

―「Hello/Hello」は、yamaさんのオリジナル曲とはかなり違うテイストですよね。

そうですね。他の曲もそうなんですけど、MAISONdesには「普段とは違う側面の魅力を出してあげたい」という事も意識しているんです。yamaさんの場合は、「春を告げる」をはじめとするくじら君の印象が強いと思うんですが、凄くエモーショナルな声をしているのに、あまりギターロックっぽい曲の印象がなかったので、それをやってみようと。伝統的なJ-ROCKのエモさも似合いだろうなと思ったので、泣き虫☔くんにお願いしました。

出典元:YouTube(MAISONdes -メゾン・デ-)

―意外性もテーマの一つなんですね。「ヨワネハキ」の歌唱を担当したasmiさんも、インタビューなどで「こういうタイプの曲は歌ったことなかった」とコメントしています。

「ヨワネハキ」は曲が先だったんです。曲に適した歌声を和ぬかさんと相談して、asmiさんの名前が挙がって。当初はリモートで歌を録ってもらうことになってたんですが、仮歌を聴いたときに「ここをクリアしたら、めちゃくちゃいい曲になるだろうな」という確信があったので、対面でレコーディングさせてもらいました。具体的に言えば、ウィスパー系でフロウ重視の歌い方ではなく、言葉をパキッと伝えるように歌ってほしくて。キーも上げましたね。

―そのディレクションがハマったわけですね。「ヨワネハキ」はTikTokで拡散され、大ヒットにつながりました。TikTokをはじめ、SNSで使用されることも制作時から意識しているんですか?

もちろん、すべての曲で意識しています。TikTokで踊ってもらうことだけを目的にしているわけではなく、ご参加いただいたクリエイター、歌い手の方のファンダムやマーケットに沿うのが大事なのかなと。たとえばyamaさんはYouTubeですごい数字を持っているアーティストなので、「Hello/Hello」はYouTubeを中心になるべく多くのリスナーにタッチポイントを持てるように試みました。

「ヨワネハキ」に関しては、もともと和ぬかさんがTikTokで実績のあるクリエイターでした。マーケットが“聴かれる、見られる”から“使われる”に移行しているなか、まさにそこに適したプロダクツを提示し続けていて。「ヨワネハキ」がTikTokで拡散されたのも、和ぬかさんの力が大きいと思います。ただ、私自身は歌を作るわけでも歌うわけでもないので「こういう歌が、このマーケットの人達に沢山好きになってもらえる」みたいなことはほとんどわからないんです。やれることがあるとすれば、(「ヨワネハキ」がTikTokで拡散された、などの)実績を残していくなかで、そこから逆説して制作することくらいですね。

―「ヨワネハキ」はYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」や地上波の音楽番組でも披露され、さらに幅広いリスナーに浸透しました。この広がりも当初から考えていたんですか?

MAISONdesの性質上、そこはかなり難しかったし、迷ってましたね。露出が増えれば増えるほど、asmiさんの曲だと思われるかもしれないし、「MAISONdesってあのasmiって女の子のユニットでしょ」みたいな、本来とは違うとらえ方もされるだろうという予測もしてました。途中から「まあ、それでもいいか」くらいの気持ちになりましたけど(笑)。MAISONdesのことをそこまで正しく認識してもらう必要もないというか、“誰がやってる”とか“どこがやってる”とか、音楽コンテンツを消費するみなさんは考えてないと思うんですよ。「気に入ってもらう、使ってもらう」を全力でやれば、あとはどういう形で広がってもいいのかなと。

出典元:YouTube(THE FIRST TAKE)

―“ネット発の音楽”という枠を完全に超えて、本当の意味でヒットを目指すと。

MAISONdesをはじめるとき、“ネット発”という言葉をなくしたいと思っていたんです。日本のインターネット・ミュージックでいちばん独自性があるのはボカロ系や歌い手の文化だと思うんですが、その辺とは厳密には関係ないのに、インターネット投稿から始まったそれらしき音楽をひっくるめて“ネット発”と言ってるだけじゃないかなと。いまやボカロや歌い手の文化ですらジャンルではなく、フォーマットなので、”ネット系“という言葉にはほとんど意味がないんですよ。たとえばバンドブームの頃に「このバンドはライブハウス出身」と言ったら、「そりゃそうだけど」ってなるじゃないですか(笑)。それと同じなのかなと。

―確かにそうですね。

自己表現の方法が変化しただけなんですよね、つまり。以前は“バンドを組んでライブハウスに出る”という方法が主だったんだけど、今は曲を作る人、歌う人、映像などを作る人が共作して、YouTubeやTikTokなどで発表するのが主流になっていて。そういう状況において“ネット発”という言葉は可能性を狭めるだけではなく、日本のカルチャーがなかなか更新されない理由になっていると思います。ちなみにMAISONdesにはボカロPはほとんど参加していないんですよ。先ほども言いましたけど、音楽コンテンツを消費する側はそんなことは気にせず、すべて自然に並べて使ってくれていて。そこにはユーザーと作り手のギャップがあるんだと思います。

最新曲「ねぐせ feat.こはならむ,ぜったくん」について

出典元:YouTube(MAISONdes -メゾン・デ-)

―2月9日には新曲「ねぐせ feat.こはならむ,ぜったくん」がリリースされました。<会いたいよ寝癖とパジャマの君><いやいや今イイヤ><明日じゃイヤなんだ>など、男の子と女の子の掛け合いで構成された楽曲です。

おもしろい曲ですよね。こはならむさん、ぜったくんは声の距離感が近いというか、聴いている人のすぐそばで歌ってるような感じがあって。それを活かして「会話劇みたいにしたらおもしろそうだね」というとこから制作がはじまりました。手法自体は昔からあるんですよ。「別れても好きな人」とか「3年目の浮気」とか(笑)。

―なるほど(笑)。古くからある手法をアップデートさせたわけですね。

そうですね。こはならむさん、ぜったくんとも、どういうキャラクターにする?という話をして。“だます、だまされる”とか直接的に悪いことをするわけではなくて、あくまでもハッピーに聴こえるんだけど、最後は悲しい歌になるという作りにしたかったんですよ。蛙化現象(好きだった男性が振り向いてくれたとたんに、気持ち悪いと感じてしまう瞬間)の逆というか、男の子が途中で飽きちゃったり、立場が入れ替わることもよくあることですからね。そういう内容の歌詞をポップでキャッチーな声の二人が歌うとおもしろいのかなと。

“ぜったくん&こはならむさんへのQ&A”

― MAISONdesにどんなイメージを持っていましたか。

ぜったくん

ぜったくん:201号室に入居したいなぁ〜!とずっと思っていました。自分の人生的に思い出の部屋番号だったので。。。 今回こはならむさんと入居できて本当に嬉しいです。

こはならむ:私が好きなアーティストさんばかりが入居していたので、憧れの場所でした! そこに、まさか自分が入れるとは思っていませんでした!

―「ねぐせ」の楽曲作りで意識したことを教えてください。

ぜったくん:ドラムとベースだけで一生聴けるループを作ろうという意識が最初ありました。それを基本にどんどん楽器を足していったらカワイイのにカッコイイビートが完成して嬉しすぎたのを覚えています!歌詞は一定の距離がずっとある男女のことを書きたくて、それを生活感ある感じで表現するのを意識しました!「牛乳」とかイイアイテムですよね。買って帰ります。あとは、普段感情をこめて叫ぶように歌っている こはならむ さんのカワイイ歌もみんなに聴いてほしい!!という思いでメロディを考えました。良すぎる。。。

こはならむ

こはならむ:歌詞の意味がより伝わるように歌うことを意識しました。また、ぜったくんと会話しているような、自然体の自分を意識して歌いました。

―今回のコラボレーションをやってみて、発見したこと、感じたこと、得たものなど教えてください。

ぜったくん:僕だけの声でデモを作ってらむさんにお渡ししたのですが、返ってきた歌声が想像の7億倍くらい曲に合っていて小躍りしたのを覚えています。その日のご飯はとても美味しく感じました。らむさんありがとう。。。

こはならむ:デュエットで歌うことは、オリジナル楽曲としては初めてでした。また、作詞作曲にも関わらせて頂いたので、新しい世界にいきなり飛び込んだ感覚でした。ちゃんと歌えるか不安もありましたが、ものすごく良い曲が出来上がったと思っています!

これからのMAISONdes

―これからもリリースが続くとも思いますが、今後の展開についてはどんなビジョンを持っていますか?

“誰のための歌か”というのは変わらないし、それに即した曲を出していきたいですね。“誰のため”が増えてもいいのかなとも思ってます。年齢や志向性が違う人たちが住んでいるアパートを想定して、そこに向けた曲を作るというか。架空のアパートなので、施工費はかからないし(笑)、いくらでも増築できるので。

―楽曲の幅も広がっていきそうですね。

そうなったらいいなと。あと、“こういう人たちのための歌”というテーマを決めたことで、なんとなく“MAISONdesっぽさ”も出来てる気がして。1周年を記念してホームページも立ち上げましたし、MAISONdesに浸ってもらう場所を作ることも考えたいですね。これは夢物語ですが、MAISONdesに参加してくれた人たちが集まる機会も作りたくて。(ドラマ、映画などの)タイアップとも相性はいいと思うし、柔軟に構えながら、積極的にやっていきたいです。

―新しい才能をフックアップする機能もありそうですよね。

うん、それはすごくあると思ってます。才能の絶対数は変わってないし、もっと増えていると思っていて。ただ、プレゼンテーションできる場が少なくなってる気がするんですよ。MAISONdesが新しい才能が世に出るためのチャンスの一つになれるようにがんばります。


森朋之
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