武藤彩未と一緒に楽しむ松本隆の詞の魅力!!

武藤彩未と一緒に楽しむ松本隆の詞の魅力!!
山本雅美
山本雅美

2021年は故・筒美京平の傘寿(80歳)を記念したトリビュートアルバムのリリースやトリビュートコンサートの開催や、大滝詠一の『A LONG VACATION』のリリース40周年を記念して、本人名義でリリースされた全作品177曲が遂にストリーミング配信スタートされるなど、70年代&80年代のポップスに脚光が当たっています。そして、この二人とも深い関係を持つ作詞家・松本隆の作詞活動50周年を記念したトリビュートアルバム『風街に連れてって!』がリリースされました。「木綿のハンカチーフ」「東京ららばい」「セクシャルバイオレットNo.1」「スニーカーぶる~す」など時代に寄り添うヒット曲を連発、第23回日本レコード大賞を受賞した寺尾聰の「ルビーの指環」、松田聖子の24曲連続オリコン1位のうち、17曲を手掛けるなど歌謡界で一時代を築き上げた松本隆。『風街に連れてって!』では、吉岡聖恵、川崎鷹也、幾田りら 、宮本浩次 、池田エライザ 、B’z、GLIM SPANKY 、三浦大知、Daoko、横山剣(クレイジーケンバンド)、MAYU・manaka・アサヒ(Little Glee Monster) のキャリアアーティストから新進のアーティストまで11組のアーティストたちが、選りすぐりの松本隆の作品を歌い紡いでいます。

今回は 80年代ソングをこよなく愛する武藤彩未さんに松本隆作品の魅力と『風街に連れてって!』の聴きどころのお話をお聞きします。武藤彩未さんの“松本隆愛”は絶大で、自らパーソナリティを務めるレギュラーラジオプログラム『LIKE SONG』のレギュラーコーナー「拝啓 松本隆さま」では、毎回松本隆作品を熱く語っています。みなさんも一緒に松本隆さんの魅力を発見していきましょう。


武藤彩未が語る松本隆の3つの魅力

―前回、筒美京平さんの魅力をお話ししてもらった記事が好評でした。その後に「筒美京平 オフィシャル・トリビュート・プロジェクトライブ」にも出演が発表されたのでビックリしました。

武藤:私が音楽や映像を通じて憧れていた皆さんと同じステージに立てたのはもちろん、岩崎宏美さん、森口博子さん、松本伊代さん、早見優さんとはコラボレーションして一緒に歌うことができて・・・いま思い返しても夢だったんじゃないかなと思います。ずっと「昭和歌謡が好き! 80年代ポップスが好き!聖子ちゃんみたいになりたい!」と言い続けてきて良かったと思います。

―そんな素晴らしいステージに立って、何か変化はありましたか?

武藤:ステージに立って歌うことで、名曲の良さがより身に沁みてきました。そして歌い継いでいきたいという気持ちになりました。

―そして今回は彩未ちゃんの憧れの松本隆さんについてのお話をお聞きしたいと思います。彩未ちゃんの松本さんとの出会いはどんな感じだったんですか?

武藤:両親の影響もあって、私は聖子ちゃんが大好きだったんです。聖子ちゃんの歌う歌詞や言葉も素敵で。調べていったら、どれも松本先生の詞だったんです。それからは時間があれば、松本先生の作詞された曲を探して聴いてます。もう習慣になっています(笑)。

―松本隆さんのこと、先生って呼んでいるんですか?

武藤:そうですね。もう松本さんとか呼べないです(笑)。最近私も作詞を始めたのですが、先生の詞でいろんな勉強させて頂いています。男性なのになんでこんなに女の子の気持ちがわかるんだろうと、いつも感じてます。

―彩未ちゃんの思う松本隆さんの詞の魅力ってなんでしょう。

武藤:まずは〈想像もできない言葉の組み合わせ〉です。例えば「風をあつめて」って普段は使わない言葉だと思うんです。風って手で捕まえることはできないし、集めることもできない。普通の発想では出会えない言葉が大好きです。そして〈想像したくなる世界〉の魅力です。松本先生の歌詞や曲のタイトルって、目に止まり耳に止まって、想像して情景を浮かべることができる言葉だなと思います。そして3つめは〈言葉の美しさ〉です。薬師丸ひろ子さんの「Woman "Wの悲劇"より」も、ただ悲しい歌だけでなく、美しさも感じるんです。

―そんな彩未ちゃんが選ぶ松本隆さんのベスト3ってなんですか? ガチで選ぶのは難しいと思うので、最近の気分で選んでもらいましょうか。

武藤:それはありがたいです。その時々でやっぱり変わっていくので(笑)。まずは「白いパラソル」です。これは外せなくて、私が最初に「松本隆先生の詞が好きだ」と思った曲なんです。〈涙を糸でつなげば真珠の首飾り〉という歌詞を聴いた時に鳥肌が立ちました。涙って糸で繋げる?と思わせてくれたり。悲しい涙を美しいものに例えてしまう松本先生に惹きつけられ、感動しました。〈心は砂時計〉と、移り変わる胸の内を砂時計に例える表現もシンプルなようだけど、すごく美しい表現ですよね。



武藤: 聖子ちゃんのデビュー35周年記念シングルの「永遠のもっと果てまで」も好きです。この曲は松本先生と松任谷由実さんが31年ぶりに聖子ちゃんに作った曲なんです。歌いはじめの歌詞が感動ものです。〈夕陽を絞ったジンジャーエール あなたとの日々が泡になる〉ですよ!美しいし、オシャレ!それでいて35周年を迎えた聖子ちゃんにぴったりな歌詞になっています。



武藤:3曲目は薬師丸ひろ子さんの「あなたを・もっと・知りたくて」です。これは筒美京平さんのトリビュートライブで歌わせて頂いたのでかなり聴き込みました。これは主催者さんからリクエストを頂いたものなのですが、松本先生の曲だったので「やった!私の愛が通じた」と思いました(笑)。もちろん好きな曲でしたが、自分が歌うことで、よりこの歌詞の素敵さに気づかされました。



武藤彩未が解説する『風街に連れてって!』の5曲

君は天然色

ーカバーやトリビュートというとアレンジを大きく変えたものが多いのですが、『風街に連れてって!』は、どの曲もオリジナルのアレンジに忠実だなと感じました。

武藤:私も第一印象で思いました!

―やっぱり、作詞家・松本隆の言葉の魅力を最大限引き出そうとするリスペクト感を感じます。アルバム全体もひとつのバンドが演奏をしているような統一感がありますよね。 どれも魅力的な曲になっていますが、彩未ちゃん的にはどうですか?

武藤:まずは「君は天然色」です。曲が始まる前のチューニングしている感じや、イントロのセッション感とか本当にオリジナルに忠実でしたね。

―今回、「君は天然色」は川崎鷹也さんが歌っています。

武藤:アレンジもそうなんですが、大滝さんの歌っている「君は天然色」を忠実に再現されていると感じて、とても嬉しかったです。



―その「君は天然色」は、日本のポップスシーンにいまでも輝き続ける『ロングバケイション』に収録されて、いろんなアーティストに歌い継がれる名曲です。

武藤:音楽っていいですよね。本当にいつまでも残っていくじゃないですか。「君は天然色」はラジオでも紹介させてもらいましたが、これからもずっと残っていく曲だなと思います。ポップな恋愛ソングと思いがちですが、亡くなった最愛の妹さんに向けられた曲なんです。歌詞の背景を知って聴くと、その想いがすごく伝わってきます。

―『ロングバケイション』は、大滝さんが「作詞は松本隆しかいない」という全面の信頼を持って制作されたアルバムですが、妹さんが亡くなったあと松本さんはしばらく創作活動ができなくなってしまいます。『ロングバケイション』の制作が中断してしまうんだけど、それでも大滝さんは松本さんの復帰を待ち続けたという話は有名ですよね。



武藤:その時のエピソードを書いたのが、2コラース目の〈夜明けまで長電話して 受話器持つ手がしびれたね〉という歌詞みたいです。

―そうなんですか!それは知らなかった。

武藤:もう詞はかけないという松本先生に、大滝さんが「いつまでも待つよ」と励まし続けていた光景が目に浮かんできます。


Woman "Wの悲劇"より

武藤:筒美京平さんのトリビュートコンサートでは、私も薬師丸ひろ子さんの「あなたを・もっと・知りたくて」を歌わせて頂きましたが、それとはまったく違う大人の歌詞になっていて初めて聴いた時は驚きました。聴き入ってしまうと、泣いてしまうぐらい美しい歌詞です。松本先生も「生と死を彷徨う感覚がある」とおっしゃっていたのですが、この曲は本当にそんな“儚さとか切なさ”がリアルに伝わってきます。



―「Woman "Wの悲劇"より(以下、「Woman」)」は作曲がユーミン(呉田軽穂)です。松本さんとユーミンのコンビでは、松田聖子に「赤いスイートピー」や「小麦色のメーメード」などヒット曲を14作品も作っているんですが、それ以外のアーティストにほとんど作っていなくて。その中でも「Woman」はたくさんのアーティストに歌い継がれる数少ない曲です。

武藤:松任谷由実さんは提供した曲で一番気に入っているのが「Woman」だとおっしゃっていたような気がします。聖子さんへの明るい曲とはまた違って、松本先生の詞と松任谷由実さんのメロディがお互い響き合って深い世界を作り出してますよね。

―武藤さん的にどの歌詞が響きますか?

武藤:歌い初めの〈もう行かないで〉です。聖子さんの曲では心象風景を軽やかに表現する歌詞が多いのに、それに比べるととてもストレートですよね。

―確かに。ここまで歌頭で心情をさらけ出す歌詞って、松本さんの詞としては珍しいですよね。池田エライザさんの「Woman」はどう感じましたか?

出典元:YouTube(日本コロムビア 公式YouTubeチャンネル)

武藤:私も何度もカバーしようと思っているんですが、すごく難しい曲なんです。ただ歌うと、歌うだけで終わってしまうというか、強弱をつけるのが難しくて同じテンション感になってしまうんですね。それを池田エライザさんは、心に響くようにしっかりと歌いこなしているのがすごいと思いました。  


SWEET MEMORIES

―松本さんが一番多くの歌詞を書いたのが松田聖子で、138曲もあります。

武藤:すごいですよね。この二人の関係は絶対です。松本先生もデビューした時の聖子ちゃんを見て「あ、この人に自分は絶対に歌詞を書くべきだ」と確信したそうです。きっと必然だったのだと思います。たくさんある曲の中でも「SWEET MEMORIES」は、大人の聖子ちゃんを見せてくれた曲だなと思います。それまではピュアな恋愛ソングが多かったと思うのですが、切ない恋愛の世界が描かれてます。聖子ちゃんファンにとっても衝撃的な曲でしたね。



武藤:「SWEET MEMORIES」は「ガラスの林檎」のB面の曲だったんです。それがテレビCMに使われて、のちのち両A面になったそうです。でも考えてみると、こんなに素敵な曲がB面だったなんてびっくりですよね。

―彩未ちゃんが「SWEET MEMORIES」で残る印象的な歌詞を教えてください。

武藤:情景ではなく感情を歌っていますよね。〈「幸福?」と聞かないで 嘘つくのは上手じゃない 友だちならいるけど あんなには燃えあがれなくて〉とかは、こんなにも女性の心の中を表現できる松本先生のすごいところですよね。そして終わった恋を最後には〈甘い記憶〉に結びつけているので、失恋の歌なのに、前向きで幸福感さえ感じさせてくれます。

―〈甘い記憶〉かぁ。ひょっとしたら最初の曲タイトルって「甘い記憶」だったりしたのかもですね。

武藤:私もそう思いました。絶対に最初は日本語からですよね、きっと。

出典元:YouTube(日本コロムビア 公式YouTubeチャンネル)

―その「SWEET MEMORIES」をYOASOBIの幾多りらさんが歌っています。

武藤:すごく好きです。幾田りらさんの歌がすごく良かったです。自分のものにしているというか、幾田りらさんの「SWEET MEMORIES」でしたね。聖子ちゃんとは違う「SWEET MEMORIES」を聴けて新たな発見もあって素敵でした。


September

武藤:この曲も大好きです。一番好きな歌詞が〈涙が木の葉になる〉というところです。涙が流れ落ちる様子を、木の葉が木から落ちていく様子に例えているんです。すごくオシャです。



―彩未ちゃんが好きだと言ってた「白いパラソル」の〈涙を糸でつなげば真珠の首飾り〉と近い表現です。

武藤:そうですね。松本先生の歌詞をいろいろ読み込んでくるとちょっとした共通点を発見できるんです。「君は天然色」で〈渚を滑るディンギー〉という歌詞があるんですが、このディンギーって聖子ちゃんの「白いパラソル」にも出てくるんです。そいう点を見つけると本当に嬉しくなりますね。〈涙〉の表現も松本先生の中にはたくさんあるので、もっともっと深く掘り下げたいです。

武藤:「September」は失恋ソングなんですが、詞もメロディも爽快ですよね。あとはBメロの〈借りていたディクショナリー 明日返すわ ラブという言葉だけ 切り抜いたあと〉というところも好きです。この可愛い仕返しで恋の終わりを自分でオチをつけて、それからは明るく進みだす感じが好きです。

―これを歌っているのが宮本浩次さんです。



武藤:「September」を男性ボーカルで聴くのが新鮮で、キーも変えずに歌われていて、すごくこだわりを感じました。

―宮本浩次さんは、女性アーティストの歌ばかりのカバーアルバム『ROMANCE』をリリースしていて「赤いスイートピー」や「白いパラソル」を歌っています。


風をあつめて

武藤:もう「風をあつめて」という表現が素晴らしすぎます。松本先生の原点ですよね。はっぴいえんどが日本語ロックの原点と言われてますが、松本先生の“ですます調”の歌詞がすごく影響しているのではないかなと思います。何回聴いても色褪せない素敵な曲です。



―はっぴいえんどの曲はいつ頃から聴いてるんですか?

武藤:レコードを買うようになってから、はっぴいえんども聴くようになりました。

―松田聖子の松本隆と、はっぴいえんどの松本隆の違いとか共通する点とかありますか?

武藤:違う点は、聖子ちゃんへの詞は松本先生とは違う人に書く歌詞なのでプロデュース視点という感じがしますが、はっぴいえんどは松本先生のバンドなので、自分の見た風景や気持ちをストレートに歌詞にされていたんだろうなと思います。でも言葉の選び方は一緒なんだろうなと思います。それにしても「風をあつめて」って言葉は発明ですよね。松本先生の言葉は発明だらけです。

―そしてこの曲は Little Gree MonsterのMAYU・manaka・アサヒの3人です。



武藤:やっぱりコーラスがしっかりしているので厚みがでるなと思いました。

ーオリジナルの「風をあつめて」は細野さんが淡々と飄々と歌っていますが、リトグリの3人が歌うことで表情豊かになっているなと感じました。

武藤:そうなんです。コーラスの強弱がつくことでドラマチックな「風をあつめて」になっていますよね。



〈武藤彩未インフォメーション〉

80's×現代を掛け合わせたレトロポップな楽曲を歌うシンガー。
両親の影響により80'sの楽曲を愛し、特に松田聖子さんの大ファン。YouTube公式チャンネルでは80'sポップスのカバー動画も多数公開中。7月28日には9月15日にリリースされる3rdミニアルバムから新曲「ヘッドホンコミュニケーション」が先行配信!



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山本雅美
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