【特集】業界最注目のシンガーソングライターTOMOO|「TWO MOON」制作秘話とその素顔に迫る

【特集】業界最注目のシンガーソングライターTOMOO|「TWO MOON」制作秘話とその素顔に迫る
KKBOX編集室
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幼少期にピアノを始め、10代からシンガーソングライターとして活動するTOMOO。2021年8月にリリースした「Ginger」はOfficial髭男dismの藤原聡をはじめとする多くのトップアーティストからも絶賛され、2022年にはメジャーデビューを果たした今最も注目されているアーティストの一人です。

その愛らしいルックスから放たれる美しいアルトボイスと声色豊かな表現力でファンを虜にする彼女が、2023年9月27日(水)に待望のメジャー1stアルバム「TWO MOON」をリリースしました。メジャーデビュー曲の「オセロ」や「Cinderella」、テレビ東京水ドラ25『ソロ活女子のススメ 3』オープニングテーマの「夢はさめても」のほか、「Super Ball」「Grapefruit Moon」「ベーコンエピ」「Mellow」「窓」など新曲5 曲を含む全13 曲を収録したキャリア初となる渾身のフルアルバム。今回はアルバム制作の知られざる裏側と彼女の素顔に迫るべく、インタビューを実施しました。

「TWO MOON」の13曲に共通しているのは “本当を追求” していること

──今回の取材に際してTOMOOさんのさまざまな楽曲を聴かせていただいて、昨今あんまりいない感じのアーティストさんだなと思いまして。歌声がすごくきれいで、歌声にも表情がすごい豊かで。

TOMOO:ありがとうございます!うれしいです。

──芯の強い音楽観を持っていらっしゃるなという印象を抱きまして。

TOMOO:ありがとうございます。

──今日は新作「TWO MOON」のことはもちろん、TOMOOさんの音楽観がどのように構築されてきたのか、お話をお伺いできるとうれしく思います。さっそくなんですが、他社さんのインタビューをいくつか読ませていただく中で、ちょっと感じたことがありまして。TOMOOさんは物事を突き詰めて考えるのがお好きな方なのではと感じていまして。

TOMOO:最近「TWO MOON」関連のインタビューとかで言ってたかもしれないですね。

──そういった側面が楽曲制作とかいろんな創作活動に影響してるんだろうなあと思ったんですけど、こうした性質は幼い頃からお持ちだったりしたんでしょうか?

TOMOO:わたし幼稚園の時とか入園したばっかりの時にずっとアリを見ていられる子供だったんですよ(笑)。

──(笑)。

TOMOO:それで飽きない、ずっと面白いなって思って見てられるタイプで。

──はいはい。

TOMOO:あとは、ずーっと絵を描いていても飽きないとか、ずっと泥団子磨いているとか(笑)。

──1つのことに没頭できるタイプでいらっしゃるという。

TOMOO:そうですね。私よく「本をたくさん読まれているんですか?」って聞かれるんですけど、そうでもなくて。昔から、あんまり人とスピーディーにテンポよく会話していったりとか、なんか人の輪が広がっていったりとか、アクティブに出掛けて行って人と繋がって、すぐ仲良くなっていっぱい喋るみたいなのがあんまり得意じゃなかったんですよね。だからそういう性格もあって、一人で考える時間が多かったと思います。

──なるほどですね。突き詰めた結果が創作活動なり歌詞の世界観なりのゴールになっているのかなって思っていたので、合点が行くところがありますね。「TWO MOON」のタイトルの付け方を他のインタビューで見た時に、きっとお一人で考える素養が身に付いておられるのだろうなと感じて。

TOMOO:なんかクセというか、グルグル考えがちかもしれません。必死に考えるというよりはもっとナチュラルに、いつもほんわり独り言を脳内で唱えながら生活しているかもしれないですね。

──「今このことで悩んでるから、ゴールに辿り着くにはどうしたらいいんだろう?」っていうよりかは、考えているうちに自然と気付いたら「あ、これゴールかもしれない」みたいな感じですかね。

TOMOO:なんかつらつら考えてる感じで。目的地を見出そうとしてるっていうよりは、ふとした瞬間に「あ!」って。なんか点と点が繋がった、って気付きに至る感じですね。

──ありがとうございます。では、今回のアルバムに込めた想いがあればお伺いできますでしょうか。

TOMOO:今まで順々に一つずつ、「今これだ!」って感じで出してきたシングルが半分以上を占めていて、それにプラスしてライブでは披露しているもののまだ音源化できてなかった曲と、最新の自分がリアルに反映されている書き下ろし曲をまとめての13曲という今回のアルバムです。なので、最初にアルバムはこういうテーマでこういう想いを込めて作ろうっていう順序ではなかったんですけど。その曲その曲で書いたタイミングも違いますし、この13曲で何が言いたかったかなって全部並んだ後に考えて、古い曲も新しい曲もあるけれど、どれも共通しているのが「本当のことを見たがってる気持ち」なのかなと。時に大人になってしまったみたいな視点もあれば、すごく無邪気な視点もあったりなんですけど、本当の姿とか本当の心とか、本当を追求してるような想いが共通してるなって、あとから俯瞰で思ったんですよね。

──なるほど。

TOMOO:今の私の出せる振り幅?っていうか、感情表現とか描く景色とか、演奏とか楽曲の構成とか楽器の表現とかも全部ひっくるめて今出せる最大色というか。最大カラーを、早く見せたくって、アルバムにすることによってクレヨンとか絵具の13色の全色揃った色とりどりな感じを見せれるので、それを早く届けたかったっていう気持ちがあって。

──そんな中で、意図せず軸に「本当のものを見たい」というところがあったと。

TOMOO:テーマとしてそれを頭に置いているっていうよりかは、いつもどっかしらそういう風に考えていて、そう思う中で心が動いた時に曲ができるのかもしれないですね、多分。

──なるほど。いろんなことを考えながら、ご自身の中の迷いだったり、歌詞を書こうっていうモチベーションになったりするのがそのタイミングってことですね。

TOMOO:その時その時は言語化って意識してるわけじゃないんですけど、でも振り返ってみると「あ、そうだな」って思うっていうか。

自分が経験したり悟ったりした中で抱く「本当のものを残したい」という感覚

──今作に収録されている楽曲は古いものから新しいものまで混在してると思うんですけど、一番古い曲と一番新しい曲で作詞や作曲など楽曲制作におけるご自身の変化を感じるところってあったりしますか?

TOMOO:楽曲として出来上がった順で、一番古いのが「夢はさめても」で、一番新しいのが「Super Ball」です。「夢はさめても」を書いた時は10代だったんですけど、なんかその時自分の中で歌謡曲ブームがきてて。言葉数は少く聴く人にゆだねる部分が大きいというか、そういうダイナミックさというか。「夢はさめても」は、昔のポップスっぽさを意識して書いたんですよね。

──そうなんですね。

TOMOO:すごくシンプルはシンプルだし、サビも繰り返してるし。半分歌謡曲を書く気分で書いてたのもあって、歌詞は自分とちょっと距離があったんです。「あてにしちゃだめよ」って言ってる人格と、リアルな自分自身との間にちょっと乖離があって。乖離というか、なんかこうフィルターがあったというか。

──完全主観じゃなかったですよね。

TOMOO:なんかフィルターが数枚ある感じで。「どんな経験をしたんですか?」って言われたりするんですけど、そういうことじゃなくて。経験じゃなくて、なんとなく真実を掴んだような気がするっていう、幼いなりになんか気付いたこととして捉えていて。

──はい。

TOMOO:だから客観的に見たら背伸びしているような歌詞を書いていると思うんですね。身をもって「骨まで抱きしめて」って言えるような “どぎつい” 人生経験をしてるわけではないんだけど、今でもきっと年を取ってからもきっと同じことを思うであろうってどこか頭の中で無意識的に感じながら、経験が伴っていない悟りみたいなのをキャッチしたから曲にしたっていうのが「夢はさめても」です。「Super Ball」はむしろリアルが強くて、リアルをどう落とし込むかに苦労したというか。

──なるほど、すごく深い世界観ですね。

TOMOO:もっとシンプルに、少ない言葉数で書ければよかったかなって思ったりすることもあるんですけど、もっと言いたいことがあるけど音のハマりのなかで限界まで詰め込んでる感じで、「夢はさめても」は余白がいっぱいあるなって思います笑。ごめんなさい、細かい解説で(笑)。

──いえ(笑)、最高の解説です。

TOMOO:変化っていうのかわからないですが、でもやっぱり大体10年くらい経っているので。

──経験値がもう全然違いますもんね、10年間という時間では。

TOMOO:私普段は、基本詩先が多いんですけど、なぜか「夢はさめても」は「ポップスを作るのだ」みたいな気持ちがあったから、音先で歌詞を埋めていったんですよ。「Super Ball」は音数がそれなりにあるんですけど、あれも音先で共通してて。

──「夢はさめても」の話で、ご自身の普段の感覚とその俯瞰から見てる別人格じゃないですけど、もう一人のTOMOOさんがいて、そのもう一人の自分っていう視点を交えながら「夢がさめても」という曲ができたのかなと、お話お伺いしながら思ったんですけど、合ってますか?

TOMOO:合ってます!「夢がさめても」はその俯瞰の視点が強いですね、かなり。

──本当にたまたまなんですけど、自分もそういう「俯瞰の自分」っていう感覚が普段からあるので、そういうことかな、と思いまして。自分自身の視点と俯瞰から見ている自分の視点とみたいな感じで、そこが対話じゃないですけど、自問自答しながら物事に取り組むみたいなことが多かったりするので、その感覚に近いのかなって。

TOMOO:はい(笑)、めっちゃそうです。

──あ、よかったです(笑)。ジャケについてもお伺いしたいんですけど、なんかいわゆる名盤臭が漂うインパクトのあるアートワークだなって思いまして。

TOMOO:おお!ありがとうございます(笑)。

──(笑)。着想がどういったところにあって、このジャケにしたのか、そして目におはじきのようなものを置いた意図をお伺いできたらと思います。勝手ながら、おはじきを「2つの月(=TWO MOON)」に見立てているんじゃないかなって思ったんですけど。

TOMOO:まず、アイデアは私由来じゃなくて、デザイナーさんのyot(佐藤奈穂子)さんで。最近の作品のアートワークの多くをやっていただいていて。今回は私が「TWO MOON」っていうタイトルに込めた、いくつもある意味っていうか、託してるメッセージを箇条書きで伝えたんですね。それは眼差しそのものもそうだし、満月の丸と丸が2つ並んでたら「私とあなた」という感じで捉えられそうだし、あと「やっぱ真実を見たい」ということとか、いろいろお話をしていく中で佐藤さんからいろんなアイデアをいただいたんですよ。

加えて、わたしが近年丸が気になってきていて、「丸の要素は欲しいです、月じゃなくてもいいから丸は欲しいです」っていうのをお伝えをしていて。佐藤さんからわたしのイメージが透明な物体とリンクしそうみたいなお話もいただいて、そういったさまざまな要素が掛け合わさってあのジャケになりました。

──はい。

TOMOO:少女の顔にした理由は、今現在の限定的な私の姿じゃなくて私よりも年下の少女の顔であることによって、それが普遍的なものになるというか。私である必要がないと思って。実物のモデルさんの上にビー玉をくっつけたわけじゃなくて、一度写真を撮ってからその上にビー玉置いてさらに写真撮ってるんですけど、二重構造にすることで、モデルの女の子が抽象化されるというか。時間的な二重構造もあるので、「過去から、そして未来に」みたいな時間を超えるようなイメージを込められたんじゃないかなって、私が何も聞かずに勝手に思ってるだけなんですけどね笑。

──めちゃくちゃ奥深い話ですね。ちなみに何度かお話出てきてるその「本当のものを見たい」みたいな感覚は、「ビー玉を通じて見る世界」みたいなところで表現しているところもあったりするんでしょうか?「見る」っていうことだったり、本当のものを知るっていうところだったり、受け手の捉え方次第でさまざまな情報の受け取り方があるのかなって思いながら。誰しもいろんなことを経験して大人になっていくと思うんですけど、TOMOOさんのおっしゃる「本当」っていうものがどういうポイントにあるのかというか。

TOMOO:私もそもそも「本当のことを知りたい」っていうのも、仮初の言葉というか、世の中に伝える仮の言葉として置いている言葉で。言葉って難しいですね(笑)。

──難しいですね(笑)。「本当のことを知りたいから私はこの音楽をやっている」というところにも繋がるのかなとか感じて。「本当のことがわかった」という感覚を得た時に曲が出来上がるってすごいなって。そう言った感覚ってすごい稀有で、すごい豊かだなあと、その真髄の部分をもっと引き出してファンの皆さんにお伝えできるといいなと思いながら。

TOMOO:確かに!いつもそこ止まりで終わりますからね。難しい!(笑)

──めちゃくちゃ難しいですね(笑)。その「本当」っていうもののポイントがどこなのかなというか。

TOMOO:取りまとめて13曲のなかで言語化しているので。例えばある時は本音とか本来の姿を歌っていて、「Ginger」がそういう曲だったりしますし。「Cinderella」だったら人と人を分けるようなカテゴライズするような価値観を鵜呑みにできなくなってきた瞬間とか、「そうじゃないと思うよ」みたいな時に湧いてくる「本当の想い」というか。

──なるほど!その時その時で見えた真実というか、私はこう思うよっていう想いが曲になっている、というような。

TOMOO:そうですね。うん、なんか「あ!」って「見た!」みたいな、「垣間見た!」みたいなものを残そうとしてる感じですかね。

丸の尊さ:「丸」は「アイデンティティのモチーフ」として思える形

──先程お話にあがった、「最近丸が気になっている」っていうところを掘り下げてお伺いしたくて。丸が気になるきっかけって何だったんでしょうか。普段から何かが気になるっていうブームみたいな、トレンドみたいなのがあったりするのですか?

TOMOO:ちょいちょいあるかもですね。些細なことがきっかけで特定の色が気になったり。

──ご自身が着る服とかも自然とそういう色合いに寄っていったりとか?

TOMOO:実際着なかったとしても、なんか通販サイトとか見たらその色ばかり気になっちゃうみたいなことはあるかも。たとえば「Super Ball」をリリースしたときは、私のイメージするスーパーボールが黄緑だったから黄緑のものが気になってきた―!みたいなのがあったり(笑)。丸で言うと、ビー玉が小さい頃から好きで。中高生の時に化学の教科書にデジタルっぽいグラフィックで描かれていた分子の丸いやつがすごく好きで(笑)。なんかツルツルの丸ってなんかグッとくるなあって。

──なるほど(笑)。ときめきみたいなことなんですかね。

TOMOO:普通に丸っこいアイテムが気になるとか、そういうのは元からありはしたんですけど、意味を持って気になりだしたのはここ2年半くらいで。弱さ強さっていうことについて自分的に関心があったんです。弱さとか強さって結局相対的なものであって、不動の強さって存在しないなって。あるものが単体で存在する強さっていうのは本当は状況によって変わり得るもので、弱いものは基本的によくない要素とされて、強いものがよしとされるけど、それがひっくり返ることってあるよなあってよく思うことがあって。世の中で弱さを切り捨てていったら結局世の中は回らなくなると、ここ2~3年くらいずっと思ってるんです。「ネオ強さ」って自分で命名しました。たとえばボールが何かと接したときに飛んだりいろんな動きの可能性があると思うんですけど、ただそこにズンて存在して変わらずに動かないでいられる四角でもなく、一点集中で「これで威嚇してやるー」みたいな感じで武器にもなり得る三角でもなく、丸に強さを見出せるかもしれないって思って。丸そのものには強さがあるわけではないんですけど、そういうのが丸の魅力なのかなって。

──四角でも三角でもなく、丸っていう。

TOMOO:あれ、何の話をしてたんでしたっけ?(笑) 

──丸に興味を…。

TOMOO:丸に興味を…!そう(笑)!で、今のレーベルに所属する時にレーベル長が「うちはなんとなく丸いアーティストが多くてですね~」みたいな事を言ってて。トゲトゲしてる感じのキャラではないというか。なんでそれを言われたのかは忘れちゃったんですけど、すごく印象に残ってて。私もその丸のひとつとして見られてるのかもしれないっていうのが嬉しいなって思って。ポップスってある意味丸い部分があると思うんですよ。その中にめっちゃ尖った成分も含まれていたり、いろんなものが混じって結果丸くなっていて、トゲを取ってポップスになってるわけじゃない。それを先輩アーティストとかに感じるんですよ。真の強さというか、内なる凛としたものみたいなのを私はいつも見て尊敬してて、自分もそういう強さを身に付けたいというか、いいなーって思い始めて。自分の名前に丸がいっぱいあるのも、小さい頃から丸っていう物体が好きだったのも全部ひっくるめて「あ、なんか最近ネオ強さの象徴として丸が気になる」みたいな。

──辿り着いた答えのような感じというか。

TOMOO:なんというか、アイデンティティのモチーフとして思えるような形ですね。

沈むような歌詞には聴覚的に躍動させる要素が欲しくなる

──今回のアルバムに収録されている「Grapefruit Moon」は、「ストレスフルな状況の中で拭えない枯渇感や憔悴感をもったまま、どう日々を満たすか、どう自分を癒していくか。良くも悪くも、そうやって苦い経験や事柄も楽しめるようになるのが大人」というTOMOOさんご自身の視点をもとに作られた楽曲とのことですが、こういう想いを抱くことになったきっかけ・ターニングポイントみたいな出来事があればお聞かせください。

TOMOO:そうですね、要素としては2つあります。1つ目が、数年前、当時23歳くらいの時にこの曲についてメモ書きを残したんですけど、10代の頃の「可能性が私の最大の強みです!」みたいな本当のフレッシュ枠とはちょっと枠が変わってくるというか、人から見られる枠が変わってくるというか。周りは就職してたりして、若いは若いけど社会的にも自分のアーティストとしての実力的にもちょっと中途半端な立場だったんですね。そんな時に、自分はもう着ることのない制服を着ている新・高校1年生とか、新入社員っぽい人達がコンビニの前できゃっきゃいって賑やかなところに出くわしたことがあって。私はそこを部屋着みたいな姿で入った時に、「自分はどこにも属してないな」って。なかなか芽が出ない現状に焦ってるのもそうだし、心の潤いが少なくなってきたかも、クリエイティブの源や衝動みたいなものが少なくなってきたかもと思って。「なんかちょっとやばいかも」みたいに思ったと同時に、「だけどそれに気付けてるんならまだいいんじゃない?」「乾いたスポンジが乾いてることに気づけてるんだったら水を吸えるから」みたいな、漠然としたやばいっていう気持ちと、それを逆手に取るような気持ちみたいなのが湧いて、メモに残しといたんです。

──なるほどですね。もう1つの要素はどのようなことでしょうか?

TOMOO:2つ目が最近のことで、今私すごく幸せな環境で制作とか様々な活動をさせてもらっているんですね。月に例えると、何もない時が新月で駆け出しの時が微月だとします。今の私は周りの人たちがいろいろサポートしてくれるような環境にいて、満月になるような番が自分に回ってきてる感覚があって。ある意味満たされてるし、言い訳できることが何もないような状況で、それでも「湧いてこないことってあるんだ」みたいな焦りがあるというか。だから「Grapefruit Moon」には、2018年の時の感覚と今のその感覚がどっちも登場してるんです。だから丸くなっちゃってきてるのかな?っていう突っ込みが自分の中で湧いてくる時もあるんですけど、そうじゃなくてむしろ見えてるものが重荷がだんだん増えてくみたいな感じで。

──はい。経験が増していくにつれて、というような。

TOMOO:自分が自分に求めるクオリティもどんどん高くなっていくから、本当に足枷とか背負ってるものが増えてくような感じもあるんですよ。だけど幸せな状況でもあるし、そういう意味での自分の番がきたみたいな満月っていう意味もアルバムに込めてたことをそういえば思い出しました。…めっちゃ早口で喋ってしまいましたね(笑)。

──(笑)。ありがとうございます。TOMOOさんは楽曲制作の手順として何きっかけで曲を作り始めることが多いのでしょうか?TOMOOさんの楽曲って、文学的な詩と跳ね上がるような軽快な曲調がすごく魅力的だなと思っていて、それらがどういう経緯で出来上がっていくのかというところをお伺いできればと思います。

TOMOO:まず、基本は歌詞先か、同時にメロディも言葉もセットで出来てるワンフレーズが鼻歌とかで湧いて、そこを核にして周りをどんどん作っていくみたいなことが多いんですけど、歌詞は自分ではそんな文学的だとは思ってなくて。というのは、本をそんなに読んでいるわけじゃないっていう…なんか引け目みたいなのがあるからそう思ってるのかもしれないです。単純に私がわざわざ比喩しなくていいことも、すぐものに例えがちというか。逆もありますね、景色をなにかの象徴として捉えるというか。婉曲表現や情景描写がちょっと多めだったりするので、それが文学っぽさを感じられる所以だと思うんですよ。

──なるほど。

TOMOO:最近の曲調がリズミカルというか跳ねる感じがあるのは、単純に昔は本当にしずかなバラードしか書けなくて、そういうテンションでしか言葉が湧いてこなかったんです。聴く音楽が変わったっていうのもあると思うんですけど、昔はリズム楽器とか登場しない映画のサントラとか聴いてて、1人で気持ちが沈んでる時にこうジュワ~って滲むように湧いてくる曲が生まれてたんですね。でも最近は昔に比べてけっこうビート先行な曲を聴いてて、そういう変化が楽曲に表れてきているっていうのはあると思ってます。あと、天邪鬼ですけど、沈むような歌詞を書いたらバランスを保つように、ちょっと刻むものを、物理的に聴覚的に欲しくなるというか。文字だけ見るとしっとりしてたら音ではちょっとカラッとさせたいというか、躍動させる要素が欲しくなるんですよね。最近はそういうバランス感覚みたいなことがあるかもしれません。

──以前は曲と詩が一緒に出てくるみたいなこともあったんですか?

TOMOO:そうですね。今もワンフレーズくらいはあるんですけど、以前はもう少しほぼ同時みたいなことがありました。

──なるほど。聴く音楽の変化とかインスピレーションの受け方というので、楽曲制作の在り方みたいなのがちょっと変わってきたところなんですね。

TOMOO:はい、ちょっとずつ。

1つ1つのフレーズにも実は意味がある、音にこだわって制作した「TWO MOON」

──具体的に影響を受けた楽曲っておありだったりしますか?直接的な影響でなくても、たとえば「この楽曲が特に好きでよく聴いていて、インスパイアを受けた」とか「こういう曲があるなら、私はこういう曲を作ってみよう」など、今のTOMOOさんを形作っている楽曲というものがあれば。

TOMOO:そうですね。たとえばブラックミュージックみたく、ちょっとリズミカルで、かつ華やかで鮮やかで、だけど切ない…みたいな要素を書きたくなって「HONEY BOY」や「Cinderella」が生まれたとか、「らしくもなくたっていいでしょう」とかが書けた時期は、プリンスの「I Wanna Be Your Lover」と「Do Me, Baby」をよく聴いてて。あとは、岡村靖幸さんの「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」「カルアミルク」もめちゃめちゃ好きでよく聴いてました。それと、小沢健二さんの「back to back」とかにも影響を受けました。あとは昔からマイケルジャクソンとかジャクソン5の曲も好きでしたけど、ここ数年ではVulfpeckにもめっちゃ影響されてて、こんな可愛らしくて切ない曲もう出会えないかもって「Animal Sprits」聴いた時は思って、その気持ちはすごく「Ginger」に反映してるなあって思ってますね。あ…永遠に続いちゃう笑。


──ルーツのお話は永遠に聞けますね。聞いていて楽しいです。

TOMOO:顕著なのはそこら辺の曲です。でもアルバム曲の「窓」とかは影響元が直接あるわけじゃなくて、もっと中学生の頃に出会ってたアーティストとか邦楽のイメージとか。

──曲としては新しいわけですよね?

TOMOO:すごく新しいです。なんですけど、なんか気分は10代だった。思春期真っ只中に戻って書いてました。

──アルバム用に書こうと思って書いた曲なんですか?

TOMOO:いえ、そういう想定はなく普通に書きました。ライブで一度だけ披露した時にけっこう反応をもらってた曲で、自分的にもすごく思い入れのある歌だったんでアルバムに早く入れたいなって。

──ありがとうございます。では最後に、アルバムの聴きどころについてお話を伺えればと。

TOMOO:今回こだわったのは、レコーディングの終盤で録音した最新のアルバム曲の「Grapefruit Moon」とか「Super Ball」とかはすごく “人対人” 的な感じで制作していて、マイク選びからすごい時間かけていて。アレンジも対面で、スタジオで一緒にリアルタイムで作業しながら「こうかな?こうかな?」みたいなのを同じ目線で歩む感じで進めました。曲に込めた感情の話とか歌詞には含まれていない想いとかも込みで、「だからこういう音が欲しいんですけど、どうしたらいいですかね」という様なやりとりをすごい長い時間かけてやって。それに、レコーディングは生楽器で参加してくれた方々がたくさんいて、楽器数がすごく多かったんですね。フレーズ1つひとつのに関しても「今のところは感情がこうだから、どうしてもこうして欲しいかも」みたいに、その場で変更していただいたりしました。ミックスも何日もかけて立ち合いで行なったり、マスタリングもけっこうこだわりました。レコーディング全体ですごく会話を大事にしながら、こういう意図だから、こういうことを伝えたいからここを追求したいという私の希望を汲み取ってくれて、皆で「じゃあいくらでも向き合おう」みたいな感じで付き合ってくださりずっとこだわって作っていました。

──なるほどです。

TOMOO:ポップスだし、まず言葉と声とか、メロディとかを聴いてもらうことになると思うんですけど、音作りへのこだわりがオケにも詰まってて、実際演奏している人達が本気で、熱を込めて弾いてくれた現場を覚えてるので、耳を澄ませて感じてもらえればなって思っています。1つひとつのフレーズにも実は意味があるんだと感じてもらえたら嬉しいです。

──アレンジャーさんだったりエンジニアさんだったりとかとたくさん対話して、その都度答えを出して「こうしたい」っていうところですね。

TOMOO:そうです!本当にたくさん対話しました。

──確かに今回のアルバムを聴かせていただいた時につややかさみたいなのをすごく感じて、そうしたTOMOOさんのこだわりはきっと伝わる人には伝わるなって思いました。

TOMOO:ありがとうございます。

──今後ともご活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

TOMOO:ありがとうございました!

あとがき

1つの質問に対してたくさんの答えを返してくれたTOMOOさん。言葉で表すのが難しい感覚的なことも、言葉を探しながら一生懸命言語化して伝えようとしてくれた姿が印象的でした。どの話においても、じっくり頭の中で考えて答えを導いていくという彼女の特性が垣間見えて、TOMOOさんの深みや「らしさ」に触れられた気がしました。

一度聴いたら忘れられない美しい歌声と、瑞々しい情景描写や繊細な感情表現が魅力のTOMOOさんの音楽には、人を惹きつける唯一無二の力があります。ファンのみなさんはもちろん、今まで彼女の音楽を聴いたことがなかったという方も、今回リリースされた1stアルバム「TWO MOON」をチェックして、TOMOOさんの魅力に触れてみてくださいね。

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