水曜日のカンパネラ|エジソンで話題沸騰の新世代ポップアイコンの素顔に迫る

水曜日のカンパネラ|エジソンで話題沸騰の新世代ポップアイコンの素顔に迫る
KKBOX編集室
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2022年にリリースした「エジソン」がTikTokでバイラルヒットを記録し、「踊る暇があったら発明してえ」というユニークな歌詞が「TikTok流行語大賞2022」のミュージック部門賞に選ばれ、以降イベントにフェスへの出演はもちろん、テレビやラジオ、CMなどの媒体へも引っ張りだことなり破竹の勢いで快進撃を続ける水曜日のカンパネラ──。

「2013年にコムアイ(主演・歌唱)、ケンモチヒデフミ(作曲・編曲)、Dir.F(その他)の3人組ユニットとして始動。2021年にコムアイが脱退し、詩羽が加入した。」もはやそんな前置きは不要なほどに、名実ともに確かな地位を確立しつつある同ユニットは、このほど新作EP『RABBIT STAR ★』をリリース。これに伴ってKKBOXでは、詩羽・ケンモチヒデフミ・Dir.Fの三者にインタビューを敢行。水曜日のカンパネラの成り立ちから現在に至るまでの苦悩や葛藤、“次々にヒット曲を生み出すからくり" に、新作の聴きどころまで、さまざまなトピックでお話を伺いました。

「水曜日のカンパネラ」が "キャッチー" である所以とは

─さっそくですが、「水曜日のカンパネラ」が放つ、「何をやってもキャッチーなバランス感」について深掘りさせていただきたいです。詩羽さんには、パフォーマンスや歌い回しをキャッチーに見せるための工夫を、ケンモチさんにはキャッチーなトラック・歌メロを生み出すための工程にポイントがあれば、 Dir.Fさんには水曜日のカンパネラをキャッチーに見せるためのブランディング戦略について、お話できる範囲でお伺いできますでしょうか。

詩羽:キャッチーって日本語でなんて言うんですか?
ケンモチさん:なんか、めっちゃポップ…わかりやすい…みたいな。

─親しみやすいみたいな感じですかね。
詩羽:そうですね。パフォーマンスの工夫ですよね。うーん、そうですね。あんまりこうしようとか、あんまり考えてなくて、正直。割と自分が一番たのしいっていうのが大事だなって思っているので、こっちが楽しんでいないとお客さんも楽しめないですし。だからこそ、純粋に私が一番楽しいことをして、あんたたちも勝手に楽しくなってんじゃん!くらいの気持ちで、ライブをするのが大事なのかなって思ってます。だからなんだろ、「私ってすごくてー」とかじゃなくて、「えやばくない?私めっちゃがんばってんだけど」くらいの気持ちでお客さんたちとお話しするので、たぶん親しみやすさだったりとか、歌一つとっても、私がコロコロ表情を変える楽しそうにしてる感じから、親しみやすさ/キャッチーさが生まれるのかなって思います。

―それは、ご加入前にこうしようっていう想いがあったんでしょうか。
詩羽:そうですね。まあ加入する一番はじめのときとかは、やっぱりコムアイさんの時のライブ映像とか見て、「あこういうふうにやったらいいのかな」って自分で勉強したりもしたんですけど、でもやってくにつれて、「まあコムアイさんはコムアイさんで、私は私だなあ」って気づきはじめて。そこからは、本当に「意識をしない(ほうがいいんだ)」っていうのを認識するようになりました。

―ありのままでいいんだっていうことですね。ケンモチさんはいかがですか。
ケンモチ:そうですね、僕は元々そんな、なんかキャッチーな音楽っていうのを聴いたり作ったりっていうのをしない人間でして。20代の頃とかは、渋めのインスト(歌がなく楽器だけで構成される音楽ジャンル)とかを作っていたんですけど、30歳になるぐらいの時にJ-POPを急に聴くタイミングがあって。そこでヒャダインさんが作っていたももいろクローバーの「ココ☆ナツ」を聴いて、「こんなキャッチーな音楽があっていいのか」という衝撃を受けて。ここまで行き切ったら逆にもう超アーティスティックだなっていうふうに、自分の中で合点がいって。僕もこういう音楽を作ってみたいなって興味を持つようになった、っていう。そこからは、本当に日々勉強ですね。

―じゃあヒャダインさんの楽曲との出会いがケンモチさんにとってターニングポイントだったというわけですね。
ケンモチ:そうですね。そこではじめて日本語の歌が乗っているものに興味を持って、それがどういうふうに作られているのかなっていうのを自分で考えたりとか、聴いて勉強したりしたっていうのが始まりで。最近は、ネット発のアーティストでボカロを作られている方々の曲を聴いたりだとか、少し前だとバンドマンの方が地下アイドル系のグループに楽曲提供されたすごい尖った曲を聴いて、「あ、こんな玄人が作る超キャッチーな曲があるんだ」って、そういう曲をいっぱい聴いて、自分もやってみようと思っている、今もその最中って感じですね。

─ではそれまでっていうのは、まったくって言うほど歌ものは聴かずっていう感じだったんですか。
ケンモチ:そうですね。なんか「歌が乗ってないもののほうが高尚だ」みたいな(笑)。若い時ありがちな、まあそういう先入観みたいなのがあって、あんまり日本語のポップスは、みんな聴いてるから自分は聴かなくてもいいかななんて思っていた時期もあったのですが。ヒャダインさんの曲を聴いて、情報量とか、キャッチーさが溢れすぎてて、頭を殴られたような感覚になって。そういう経験を経て、自分もやってみようって思い始めたっていうところですね。

―ありがとうございます。Dir.Fさんはいかがですか。
Dir.F:まずは、作詞の面でおもしろい歌詞が多いっていうところはキャッチーな要素ですし、コムアイ自体もそうですけど、詩羽もめちゃめちゃキャッチーなので、その掛け算でキャッチーになっている感じだと思うので、あんまりそこに戦略性とかっていうのはないんですよね。MVとかも、キャッチーって言えばキャッチーなんですかね、売り方自体がキャッチーかどうかはよくわかんないんですけど(笑)、まあコンテンツ自体がキャッチーなので、それを素直にプロモートしてるっていう感じかもしれないですね。

―ビジュアル的なこだわり、見せ方とかっていうのは、Dir.Fさんのほうで考えられてとかっていうのは特にはないんですか。
Dir.F:そうですね、ボーカル (主演) に合わせて変えていったほうがいいと思うんで、割と本人がやりたいイメージ、希望しているものを出しているほうがいいかなっていうふうに思っているので、そこをどうやって活かすかっていうことを考えてますね。

―続いて、水曜日のカンパネラの成り立ち・戦略的なところをお伺いしたいんですけれども、本プロジェクトの方向性をどのように固めたのか、名前の由来や音楽の方向性などを含めて現在の水曜日のカンパネラ像が出来上がるまでの模索や葛藤などについてお伺いできますでしょうか。
Dir.F:そうですね、どこから話したらいいか難しいところではあるんですけど、名前は確かケンモチさんが決めてくれましたよね。
ケンモチ:毎週水曜日にライブやったりとか、曲リリースしたりとか、そういう感じで木曜日にみんな学校いったときに「きのうの水曜日のカンパネラさあ」と話題になるシステムを作れるといいなあと思ったのが最初ですね。昔僕が小学校の時に水曜日にドラゴンボールZがやっていて、木曜日にみんな「きのうのドラゴンボールみた?」って話をしてたから、なんかそれ以来「水曜日っていいコンテンツが発表される日だ」って自分の中でイメージがあって。だからそんな流れで「水曜日がいいな」って思ったってところですかね。

―カンパネラはどこから来たんでしょうか。
ケンモチ:カンパネラはですね。「水曜日の〇〇」を何にしようかと考えていた時に、なんとなくキャッチーな感じがするなと思って。Googleで検索しても出てこなかったので、これだと。そういう感じですね。

―音楽的な方向性は、お二人で話し合いながら決めていったというようなところなんでしょうか。
Dir.F:一番最初は既存曲のテンポ早くした曲に何か歌が乗ってたか乗ってないか忘れたんですけど、「こういうのどうですか」って持ってきてもらった曲に「あ、それいいんじゃないですかね」っていうのが始まりだったと思います。ただ最初コムアイ以外に他のボーカルの子がいた時代はちょっと曲が暗めで。でも1枚目のアルバムは暗い中でもキャッチーなものとかがあったんで、そのとき一番キャッチーだったのが「お七」って曲で。それをライブでやったときにコムアイがすごくアグレッシブな動きしていて、ライブを重ねていくにつれて暗い曲調より明るいほうが合っているんじゃないかと思ってきて。ケンモチさんも同じようなマインドの動きをしていたっていう経緯もあって、ちょっとずつ曲の方向性が変わっていったような気がします。

―やりながら模索して、最適解を模索して行ったっていう感じなんですね。
Dir.F:結構僕はケンモチさんがその時にハマってるムード感だったりで曲のテイストも変わって行っている気はします。

―音楽って近々で聴いているものに影響されやすいというか、かっこいいって感覚に突き動かされる部分って大きいですよね。
ケンモチ:すごいどっぷりひとつのアーティスト・ジャンルに傾倒していくっていうよりも、なんか今まで自分がやってないこととか、知らなかったものに対して方向を変えていくので、僕が意識していないところでずっと残っているルーツみたいなのはあるかもしれないですけど、結構毎回ガワ(外側)は変わり続けている気がしますね。

―どこかで軸はあるけど、味付けの仕方が変わっている、というようなことなんですね。そうすると、あんまり決めとかこだわりがあるっていうよりは、これもやっぱりやっていくうちに定まって行ったようなところなんでしょうか。
Dir. F:そうですね、でも世の中的に新しさをみたいなところは毎回考えてやってるつもりではあります。当時Charisma.comさんやDAOKOさんのようなカルチャー色の強い女性のラッパーや、アイドルカルチャーが地下も含めて盛り上がっていた時代がスタートだったんですけど、そこで異色を放つにはどうしたらいいかっていうのは割と考えていたかもですね。それで、当時、コムアイのボーカルのイメージだと普通に歌ものを歌ってもらった方がハマりは良かったんですけど、それをラップしたほうがいいんじゃないかとか、そういう歌唱のディティールはケンモチさんからアイデアが生まれて行って、当時テックハウスにラップってそんなに主流ではなかったので、そこでも差別化はできていたのかなっていうのは思いました。

―自分は水曜日のカンパネラを聴いていて、ラップという感覚があんまりなくて。どちらかというとポエトリーリーディング的なのかなと思うんですけど、そこって意識的にそうされた部分だったりするんでしょうか。もしくは、そうなっていった経緯なんかがあればお伺いをしたいです。
ケンモチ:ラップっていうのは本来自分の想いとか、自分が歩んできたストーリーとかを、マイクを持って語ることに意味があると思うんですけど、カンパネラの場合はそこに意味とか意思がのらないものになっていて。コムアイ自身の声もふわふわソフトな感じだったので、トラックに対してやわらかい声っていうのと、誰の意思も乗ってないっていう言葉の羅列っていうのが、どう考えても感情の込めようのないフォーマットになっていて。ああいう不思議な温度感のラップが生まれた、っていう感じですね。

―なるほど、たしかに…!ストーリー性がある感じじゃないですもんね。
ケンモチ:そうなんですよね。

―詩羽さんはカラフルなお化粧だったり個性的な髪型だったり、色味の強いお衣装だったりと、ビジュアルにおいて非常に印象的なイメージがあります。ちょっと古いところでいえばシノラー的なノリを感じつつも、アメリカのポップ・アーティストGrimes的な印象も抱いていて。感覚的にはアメリカのポップミュージックシーンのポップアイコンのニュアンスを日本に持ち込んだようなイメージがあります。詩羽さんはもともとこういった装いがお好きだったのでしょうか。それとも、詩羽さんとやると決めたときからDir. Fさんがチューニングしていった感じなのでしょうか。

Dir.F:僕からはなにも言ってないです(笑)
(一同爆笑)
詩羽:刈り上げと口ピアスは高校一年生の頃からずーっとで、デビューするずっと前から元々やってたことで。前髪のオン眉とかもそうだし、インナーカラーもデビュー前からで。唯一ツインテールはしてなかったくらいで、自分らしさを探していく中で見つけた形って感じで。服とかも、尊敬している人とか何を参考にしたとかが本当になくて、好きなものはたくさんあるんですけど、それこそシノラーを参考にしてるかっていえば別にあんましていなくて、Y2Kが流行して当時の雑誌はもちろん見たりはするし、海外のファッションの方が自分のマインドに近いなって割と海外のファッションとかも見たりとかするんですけど、何かの真似っていうよりは本当にいろんなものを見て、自分が一番何が似合うか、「自分が着たいものをどう自分に似合わせるか」って感じで。割と感覚的な感じではやってますかね。

―なるほど、学生時代からそのまま続けていることなんですね。
詩羽:メイクが上手くなったり、洋服が好きになったりっていうのは、学生の頃にはなかったので、卒業して大学生になるぐらいのときから、フリーランスモデルはじめるぐらいのときからですかね、自分で自分のことおしゃれだなとかって思うようになったのは。そのぐらいの頃に、自分の好きなものを追求するようになってはじめて、そういうことに気づいたって感じですね。

仮歌として適当に当てこんでいた歌詞が本採用され、今の歌詞や演出が生まれた

―別のインタビューを拝見していて 、ケンモチさんの楽曲制作における過程は大喜利のお題をもらっておもしろいものを作るから「フリップ芸である」というお話があって、すごく頷ける例えだなあと思ったのですが、そもそもこの仕組みがなぜ生まれたのか、そしてなぜ人物に絞ることにしたのか、その意図や狙いがあればお教えいただけますでしょうか。
ケンモチ:そうですね。最初から僕が歌詞を書こうという意思はなくて。当初コムアイともう二人歌唱担当のメンバーがいた時期があって、いずれは彼女たちに歌詞を書いてもらって、パフォーマンスしてもらいたいと思っていたんですね。とりあえず作った曲のメロディをわかりやすくするために、仮の歌詞を僕が適当にのせてたっていうのがまず最初のスタートだったんです。いつか本人達がちゃんとした歌詞を書き直すだろうと思っていたら、「おもしろいからこのままでいいんじゃないですか」と仮歌詞が本採用になってしまったのがきっかけですね。で、いくつか曲がストックされてきたころに「そういえばこれ全部人名だね」と気が付いて、そこから人名やキャラクター名の曲名縛りルールが始まりました。もともと僕自身が歌詞や考えを世の中に伝えたいという想いが無いので、エジソンとか一休さんとかってお題をもらってストーリーを膨らませないと言うことがなくなってしまうっていう(笑)。そういう経緯で今のシステムになっている感じですね。

―あくまで偶発的にというか、特に意図するところなく、自然と人物を当て込んでいたようなところに、じゃあこれで決めちゃおっかって流れに身を任せたような。
ケンモチ:そうですね。だからこのシステムがなかったら僕はもうとっくに歌詞を書けなくなってると思いますね(笑)。

―ちなみに人物からトラックを作るのか、トラックから人物を当てこんでいくのか、どちらが多いんでしょうか。
ケンモチ:先にお題もらうときもあるし、トラック作ってて途中まで作ったくらいで、そういえばお題何にしましょうか、っていう話をすることもあるんですけど、そこがリンクしているっていうよりも、歌詞を構成するうえで、あそう来たらこういうストーリーが考えられるなあって、じゃあこのトラックにそれ乗せられるかなっていう形で考えていくんで。どちらが先っていうよりも、両方ともあるかなあと思います。パターンは。

―作詞作曲においては、どんな事柄からインスパイアされることが多いのでしょうか。0→1にも1→10にも「産みの苦しみ」がつきものだと思います。世の中のどんな出来事にアンテナを張って普段過ごされていて、それをどんなふうな工程を踏んで制作に繋げておられるか、などあればお伺いできればと思います。
ケンモチ:音楽に関しては「やばい作んなきゃ」「あネタ探そ」ってなって音楽を聴いて。「ここのビートなんかおもしろい使える」とか、「これ日本語のポップスでやってる人いなさそう」みたいなのを見つけてきて、自分で「使えそうなネタプレイリスト」みたいなのを作って「このイントロと、ここのドロップと、ここのサビのところを」みたいな感じで自分の中で組み合わせていって一曲にするっていう感じかなあと思います。
作詞のほうで言うと、こないだちょっと「あこれ使えるな」って思ったのが、なんかこうスープを飲んだときに、「いやあなんでこんなスープうめえんだろうな」っていう話をしていて、「スープのみぞ知るだね」、ってなって。あでも「スープのみぞ汁」ってスープと汁が同じじゃんって、これ何かに使えるかもな、って思ったことがあって(笑)。

―作詞は、暮らしの中から思いつくことが多く、作曲は割としっかり向き合ってやるぞ!ってなって生み出すようなイメージという。
ケンモチ:そうですね。言葉のほうが日常的に使っているので、偶発的に事故ったみたいに言葉が出てくることがあって。たとえば「スープのみぞ知る(汁)」っていうのは「よし考えるぞ」ってして出てくるような言葉じゃなくて、不意に出てきて「あなんか今一瞬おもしろく聞こえたな、なんだろうそれ」って。「汁物の汁になってたな…」っていう発見をどこかで使えるなって持っておく感じですかね(笑)。

―それは、いろいろと作詞活動をされる中で、どこかで無意識的に意識するようになってきたことなんでしょうか。「スープのみぞ知る」という発想そのものがすごいなあ、と思いまして。自分がスープを飲む時になかなか出てこないなあって。
ケンモチ:そういう歌詞を考えようってなってなかったらきっとスルーしてると思うんですけど、自然とアンテナを張ってるのかもしれないですね。

―さきほどおっしゃっていた「誰も使ってない音楽を見つけてこよう」っていうその工程は、なんかルーティーンみたいな、こういう手順でやっているというようなものがおありだったりするんでしょうか。
ケンモチ:普通にみなさんと同じように、YouTube巡りをしていたりとか、サブスクで音楽聴いて、パパパパっていろんなとこ飛んでいって、って感じじゃないかなあと思います。そうやっていろいろ探して回る中で、あなんか全然知らない音楽でてきたなってのを聴いてみたりとか、ですね。まあ割とみんなメジャーどころから聴いていって、だんだんだんだんそこから趣味趣向が分かれていくものじゃないですか。あんまりみんなが聴いてなさそうなものだったりとか、民族音楽を取り入れているアーティストの楽曲だったりとか、そういうところからインスパイアを受けることは多いかもしれないですね。

曲はライブで育てていくもの―。毎回想像を凌駕するポテンシャルを発揮する詩羽

―水曜日のカンパネラは特徴的な歌詞に特徴的なトラックと、個性に満ちた楽曲が印象的ですが、いつも詩羽さんはケンモチさんが持ってくるデモを聴いてどういった感想を抱くことが多いのでしょうか。
詩羽:いつも「デモ出来たんです」って言われて聴きにいって、ケンモチさんは不安そうに「どうですか」って聞いてきて「え、いいんじゃないですか」ってくらいなんですよね(笑)。
ケンモチさん:そうなんです。
詩羽:だからデモに対して何か討論することとかってあんまないですし、私は特に。音楽を作る面に関して、私はあんまり参加をしていなくて、出来たものをどれだけよくするかっていうところ(が役割)だと思っているので。たぶん一般のリスナーさんたちなら引っかかるところは多いと思うんですけど、私は何も引っかからないですね、逆に。
(一同大爆笑)

―それは一番最初のご加入時からそうなんですか?
詩羽:はい!何も引っかからないです!えってならないですね、本当に。

―この言葉の組み合わせすごいなとか、そういったことも特にないですか。
詩羽:すごいなあとはならないけど「え、ウケる」とはなりますね。「えーウケるー」って(笑)。
(一同大爆笑)
ケンモチ:熱量があんまないから、大丈夫?ってなるんですよ。で「あ、大丈夫でーす」って。
詩羽:ほんと「あーウケるー」ぐらいです。歌っていくうちによくなるものだと思ってるんですよね、私的には。はじめは、もらったもので私のものじゃないから、それをレコーディングまでにどうやって私のものっぽくしていくかって思っていて。もっと私的に大事なのはそのあとで、ライブでどんだけ自分のものにするかだと思っているので。もらった段階では熱量とかは全然なくて、「この歌詞ってこういう意味ですか?」とかそういうのも何もなく。「え確かに、あそうなんですねえ」って感じで。「あーね」「あーね」ぐらいの感じで受け取って、それから愛情を込めていくって感じなんですよね。

―レコーディングのときとかっていうよりも、ライブでなんですね。
詩羽:そうですね。私は結構ライブだなって最近思います。まあレコーディングのときも最近はちょっとずつ意識するようになったんですけど、でもまあそんなにレコーディングに対する熱量があるかっていったら正直そんなないタイプで(笑)。早く帰りたいタイプなんで、だからライブですね。ライブ。ライブが一番。ライブだとレコーディングと歌い方変わってたりするし、声の出し方もライブ用に変えていったりとかするから。

―じゃあ数を重ねれば重ねるほど自分の中になっていく、というような感じなんですね。
詩羽:そうですね!育てるっていう感覚があります。

―デモ段階の音源って、ケンモチさんが仮歌を入れていたりするんですか。
ケンモチ:ラップのところは仮で僕が「こういう符割で歌ってね」って感じで入れてますね。

―じゃあそれを詩羽さんが歌うことで、詩羽さんなりの味付けがされていくというような。
ケンモチ:割となんか初見で歌ってくれても、僕が思ってた節回しとちょっと違う感じで歌ってくれたりとかして、でもなんかそれが「詩羽っぽいな、水曜日のカンパネラっぽいな」ってなって、それを採用しようってなることもありますね。だからそういうのはやってみなくちゃわからないし、おもしろいなって思いますね。

―「これを次はテーマにしてみよう」とかって普段から探されていたりするんですか。
ケンモチ:うーん、そうですね、でもまあみんなで何をテーマにする?みたいな感じで、聞いたり、みんなでこういうのにする?って話し合ったりしながら、みんなで意見を出し合うのが多い感じですね。

エジソンのヒットを機に、意識せざるを得なくなった「語感」の連続

―昨今TikTokで昭和平成の楽曲が流行した背景に、同じ言葉や語感の似た言葉を繰り返す「リフレイン=わかりやすさ」が要因の一つにあげられることがしばしばあります。水曜日のカンパネラも、エジソンをはじめ同じ語感の言葉を並べて繰り返す楽曲があると思うのですが、そういった楽曲は意識的に「耳残りのいいものを」というような歌メロ構成をされているのでしょうか。
ケンモチ:ようやく僕もたぶんみなさんと同じように、TikTokでそういうのが流行るんだっていうんだなあって思うようになって、そこから意識してやるようになりました。でも、それまでは「あんまそんなにやりすぎるとわかりやすすぎるのかな」と思って避けている節があって、“あえてタイトルに出てくる言葉を歌詞の中に入れないようにしよう" だとか、そっちのほうがかっこよく聞こえるかな、って意識していたんですけど、でもTikTokとかで人気が出るものとか、みんなが聴いてくれている音楽とか、街中で耳に引っかかるような音楽とかって逆にそういうところをちゃんと狙っていって作られたものなんだなって気づいて。意識して、というよりは意識せざるを得なくなっていったっていう感じですかね。

―試行錯誤の末にそこに辿り着いた、というような。
ケンモチ:だからそれをやった(同じ語感の言葉をリフレインさせた)うえでもちゃんとかっこよく聴こえるとか、自分たちらしく聴こえるとかっていうのを担保できるかっていうところが肝なんだなと思います。

―ちなみにこうやってすごく難しい歌詞を詩羽さんはどういうふうに覚えてらっしゃるんでしょうか。
詩羽:歌って覚えますね。頭で考える内容じゃないので(笑)。普通に家で動きながらとか、ライブでは体を動かしながら歌うことになるので、ライブのシチュエーションを想像しながら動きながら染み付かせていく、とかですかね。お風呂で歌ったりとか。口に出して覚えてます。

―ああやってすごく長い歌詞でもそうやって染み付いていくっていう感じなんですね。
詩羽:メロディーはなんとなく聴いているうちに覚えていくんですけど、歌詞の細かいところ、一番と二番でメロディーは似てるけど歌詞が違うものとかは覚えにくかったりするから、もう本当に覚えようとしてひたすら口に出して覚えるって感じですね。

新作『RABBIT STAR ★』と水曜日のカンパネラを構成する10曲

―今回「水曜日のカンパネラを構成する10曲」という形で楽曲を選定いただきました。この選曲を見て、自分は「なるほどなあ」と合点がいくところがすごくあって。というのも、とにかくジャンルが幅広くていろんなタイプの楽曲がありながらも、全部本当にキャッチーであるという共通点は揺るがないなあと思いまして。
ケンモチ:僕の中でも全部キャッチーな楽曲だなというイメージですね。「キラキラしとるなあこの曲は」っていう、こういうのに衝撃を受けて自分の曲作りにも活かしてるって感じですね。

―水カンの二曲は最新作『RABBIT STAR ★』で特に推したい曲という感じで選んでいただいたんですが、何かここがというポイントはあったりしますでしょうか。
特にカンパネラらしい曲だなあって思ったものを選んだ感じですね。

―詩羽さんはこの「赤ずきん」「七福神」に対してはどういった想いをお持ちでしょうか。

赤ずきんはおしゃべりラップみたいな感じなんですけど、割と詩羽らしさというか、素の詩羽らしさが出てるのかなと思いますね。しゃべりの感じだったりとか。レコーディングの感じとかは割とかわいい感じなのかなと思うんですけど、ライブとかだと自分が素でいうような感じでラップしてみたりとか、すごい自分らしく工夫できる曲かなと思ってます。

七福神はまだライブでやったことがなくて、自分にとってどんな感じで大事な曲になっていくのかなって楽しみです。

―では、新作『RABBIT STAR ★』のコンセプトをお聞かせ願えますか。どんな人に刺さって欲しいかなど、本作に込めた狙いについてもお伺いできますでしょうか。

ケンモチ:まずタイトルからじゃない?
詩羽:まずタイトルは私が決めたんですけど、RABBIT STAR ★って。意味的には、水曜日のカンパネラって2022年にエジソンがバズったっていうのもあって、だからこそ2023年がすごく大事な年だよねっていうのをいろいろ話していて。そんな中でタイトルどうしようかなっていろいろ調べてたら、2023年は何の年かなって見たら癸卯(みずのとう)って言って、陰陽五行説っていう中国から伝わってきた説があるんですけど、それが今年「卯年の水」だから、私たちは水曜日のカンパネラだし、何か2023年とご縁があるんじゃないのかなって思って、そこから “RABBIT” をつけて、あとは速くスピード感を持って進んでいきたい、光り輝いていきたいっていう意味と、今年を勝負の年・飛躍の年にしていきたいっていう想いを込めてRABBIT STAR ★って名前にしました。

ケンモチ:音楽的にいうと、今まで水曜日のカンパネラと、詩羽になってからの新しい水曜日のカンパネラとをグラデーションをなめらかにっていうのが1st EP「ネオン」のテーマで、それが納得いく形でできたので、今作は新しい水曜日のカンパネラとしてこれからやっていきたいこと・できるようになったこと、前作でできなかったことも踏まえて一つ一つの曲で実現させて、そういう形で作った曲を集めたものっていう感じなので、トータルで見せていくっていうよりも、一曲一曲おもしろいことやっていくぞっていうのができたEPですね。

―それは今のサブスク時代における「アルバム単位では聴かれない」みたいなところを意識されてのことだったりもするんでしょうか。
ケンモチ:そうですね、それもありますね。EP用の曲とかシングル用の曲とかっていうふうには自分たちは考えずに、全部が推し曲っていう感じで、トータルのバランスよりも一曲一曲それぞれに聴いてもらっても輝いている感じにしたかったというところですね。

「こんな生き方があってもいい」そんなカウンター的な存在になれたら

―まだ水曜日のカンパネラを知らない未来のファンに向けて、水曜日のカンパネラを簡潔に3つの単語を使って説明していただけますか。
ケンモチ:「水曜日」「の」「カンパネラ」かな(笑)
(一同爆笑)

詩羽:まあ3つですからね(笑)
Dir. F:漢字とひらがなとカタカナ(笑)
ケンモチ:音楽でいうと、最近心掛けているのは「おもしろい」「かっこいい」「新しい」の三つが三つとも立った音楽・ユニットにしていきたいなっていう想いがありますね。

詩羽:なんだろう、、うーん、、3つ、、、知らない人に。「変」。。!知らない人に……

―コムアイさん時代に最初に聴いた時の印象とかって?
詩羽:あー「変」(笑)
(一同爆笑)
詩羽:私の水曜日のカンパネラの印象って変でおもしろいなので、割とそこは変わってないんじゃないですかね。だからもういっそ一言で足りる気がします。「これ変だよ、聴いてみ」って言ったほうが早いなって思います(笑)。

―水曜日のカンパネラを通してどんなメッセージを世の中に伝えていきたいでしょうか。水曜日のカンパネラとは別個に、詩羽さん単体として受け手に届けたい想い・メッセージなどがあれば、あわせてお伺いさせてください。
詩羽:水曜日のカンパネラは「感動させよう」とかそういう音楽じゃないと思うので、どっちかというと「何も考えたくないけど音楽聴きたい、みたいなときに “聴いて楽しい”」とかそういう感情が生まれるものだといいな、と思っていて。だからメッセージ性は私にはあんまなくて。私個人として伝えたいことになるんですけど、ステージに立ってライブのMCとかいろんな場所でスポットライト当ててもらってお話する機会とか、そういうところで伝えていきたいなって思うのは、「みんな最高だね」っていうことですね。私がこうやって音楽をやっていくうえで、みんなの自己肯定感を高めていきたいっていうのはずっと初期から言っていて。私はこの活動を始める前も始めてからもそうだけど、「自分らしさ」は割と変わっていなくて、ビジュアルひとつとっても世間の人から見たらこれは違うとかこれは変だとかいろんなこと言う人がいるかもしれないけど、自分の好きなものを追求していきたいなっていうのはこれからもずっと思っているので。なんかそういう私を見て「これもありなんだな」って思ってもらえたらいいなって、そういう人が増えて行ったらいいなって思うし。いろんな人たちがもっともっと一緒に活躍していける場所になったらいいなって思っているから、私もスタイリングとかメイクとかいろんなおもしろいことやっている人を見つけて、その人をフックアップしつつ一緒にたのしいことをしていきたいなって思ってます。

ケンモチ:いま詩羽も言ってたけど「これもありなんじゃない?」みたいなものをいろいろ出して行けたらいいなって言う感じですかね。ちゃんといろんな人に聴いてもらえるところで、ちょっとカウンター的な表現というか今までこういうものに触れてこなかった人たちが「こんな表現があるんだ」とか「こんなことやってもいいんだ」みたいなのをもっともっと許容されるような世の中に、みんなの考え方が少し広がっていったら、いろんなことがやりやすくなったり、生きやすくなったりするんじゃないかなって、そういうのを音楽を通して伝えられていたらいいなと思います。

Dir.F:二人が言ってくれた通りかなと思います。「新しい生き方の提案」というか。もっと売れてる人っていっぱいいるじゃないですか。彼らは彼らで楽曲からインスパイアされたファンになった人たちがいると思うんですけど、我々は我々のやり方で「ああ、そういう生き方もOKなんだね」とか思ってもらえるような、そういう存在であればいいなっていうところですかね。

〜〜取材を終えて〜〜

―普段移動中に音楽とかってお聴きになるんですか?
ケンモチ:割と一人で移動する時はずっと聴いてるかもしれないですね。
詩羽:私は聴かなーい(笑)
―へえ、聴かないんですね!
詩羽:聴かないとか言っちゃだめなのかな。でも私あんま聴かない、私イヤホンしないんですよ。さすがに新幹線のときとかはするけど、普段は何もしてないです。でもめっちゃ考えてる。考えたり妄想したりが多いタイプだから、だからずーっとスマホを持ちながら一点見つめてます。
―それはスマホいじるよりもぼーっとしていたい、というような。
ぼーっとしてるっていうよりは、いろんなこと考えてるとか妄想してるとかが多いんだと思います。
―じゃあ新曲覚えようみたいな感じで聴くこともあんまりないんですか。
詩羽:ああそれはないですね、移動中に自分の曲聴くことは絶対ないです。私まじで再生回数あげてない(笑)。でも聴く人って分かれません?自分の曲聴きたい人と聴かない人みたいな。私の友達も聴きたい人がいるんだけど、新譜とかめっちゃいいって自分で聴くって言ってたけど、私は絶対聴かない(笑)
ケンモチ:でもリリースされる頃にはちょっともう胃もたれしてるもんね(笑)
―もう飽きちゃってっていう。
詩羽:そうなんですよね。だってどうせライブで死ぬほど歌うし。
―レコーディングでめっちゃ聴きますもんね。
詩羽:そうなんですよね。知ってるしこの曲!っていう。
ケンモチ:あとでも音楽に限らず情報があまりに多すぎて、チェックするのもちょっと「よし新譜聴こうか」みたいな気持ちにならないと聴けないみたいな感じはありますね。移動中とかだったらあんまりそういう感じにはならないから、聴くともなしに、移動するともなしにというか。
詩羽:え、MVは見ます?
ケンモチ:MVはより何か見るぞってならないと、、
詩羽:え、わかりますわかります、私も見ないですもん。
ケンモチ:一応サムネだけちらっと見て、あ新譜出たんだなみたいな(笑)。今度落ち着いたら見ようって思いながら、ずっと聴かないっていう。
詩羽:見ないですよね、MV。
―完成品見るだけって感じですか?
詩羽:本当自分のMV一回・二回…で終わりかもしんないです。本当に見ないです。他の人のMVはめっちゃ見ます。
ケンモチ:え、そうなの(笑)
詩羽:最近はトランポリンしてるから、そのときに曲聴いてるよりもYouTube見てるほうが楽しいので。
ケンモチ:トランポリンやりながらだと画がめっちゃガコンガコンって揺れない?
詩羽:揺れます揺れます(笑)
―テレビとかで流しながらってことですね。
詩羽:そうそう、家にでかいテレビあるから、それで流しながら。だから他の人は見るけど、自分のは見ない。恥ずかしいから(笑)。
ケンモチ:でもそうだよね、恥ずかしいからなあ。
詩羽:他の人のはおもろいけど、自分のは知ってるしって思っちゃうから。
ケンモチ:最近見たMVって他の人ので何がある?
詩羽:最近ヒップホップばっかMV見てる。ralphさんとWatsonさんとJUMADIBAさんの新曲!曲もいいしMVもよくて見てる、あとAwich姉さんがMV出したから、それもよく見てる。
ケンモチ:なんかヒップホップとかのMVは聴いたり見たりするだけで自分も強くなった気分になれない?
詩羽:わかります!!だから私好きなんですよヒップホップ。
ケンモチ:俺もイケてるかもみたいな。
詩羽:うん、メラメラしたいときに聴くのヒップホップ!

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