10年目を迎えた「りんご音楽祭」が愛される理由

10年目を迎えた「りんご音楽祭」が愛される理由
KKBOX編集室
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皆さんは「りんご音楽祭」という、ちょっと変わった名前の音楽フェスをご存知ですか?音楽関係者やアーティストから「なんか、りんご音楽祭の雰囲気いいんだよねー。」という声を良く聞くので、以前から気になっていた音楽フェスでした。その「りんご音楽祭」も今年で10年目の開催となります。今回は、「りんご音楽祭」の魅力を探るべく、KKBOX編集室スタッフが初参戦してきたレポートをお届けします。

〈写真〉
katsunori abe / Taro Denda / 平林岳志(grasshopper) / 東 玄太 / 堀川多貴雄(PineDnap) / Takuya Inoue / 折井康弘 / 田中仁志 / 丹沢由棋 / みやちとーる(ステキ工房)/ Takanori Tsukiji / 渡邊和弘

「りんご音楽祭」の基礎知識

「りんご音楽祭」は長野県松本市にあるアルプス公園で2009年に初めて開催。松本市内で「瓦RECORD」を営む、当時26歳だった古川陽介さんが個人で主催したのが始まりでした。松本で17年間暮らしている古川さん。ある時アルプス公園でゆるっとしていたら「ここでフェスやってくれ」という声が聞こえてきたのが「りんご音楽祭」を始めたのが、きっかけなんだとか。

ttps://youtu.be/fj448sC9tQE

出典元:りんご音楽祭松本

長野の名産品にちなんだ「りんごステージ」「そばステージ」「おやきステージ」「わさびステージ」は初年度から馴染みのあるステージ。現在では「きのこステージ」「いなごステージ」「Red Bull Megga」が加わり、7ステージを要する音楽祭に成長しています。今年の出演者数は総勢200組以上。メジャー、インディペンデント、ジャンルは関係なく幅広いアーティストの音楽を楽しめるのが「りんご音楽祭」です。といっても会場のDIY感は10年前と変わらないようです。また。15歳以下と60歳以上の人は毎年無料入場できたり、東日本大震災・熊本地震・平成30年7月豪雨の被災者の方も無料しています。このあたりのアットホームな感じも「りんご音楽祭」の特徴です。

「りんご音楽祭」がいいな!と思う理由を来場者に聞きました

今回、「りんご音楽祭」に来場した50組以上の皆さんから、直接その魅力を聞いてみました。予想外だったのが、半数以上が初めて参加という人たちだったことです。口コミや、WEBやSNSでの評判から「りんご音楽祭」に行ってみようという人がどんどん増えている印象です。それでは「りんご音楽祭」が愛されるヒントとなるキーワードを紹介しましょう。

★会場となっているアルプス公園の評判が良い★

会場となっているアルプス公園は標高800メートルに位置する、起伏に富んだ地形や恵まれた自然を生かした公園です。松本駅からバスで約20分という便利な場所なのに、北アルプス連峰や安曇野を一望できる素晴らしい光景が広がっています。

★会場の人がみんな優しい★

会場スタッフや出店者の人を含めて「みんな優しい」という、他のフェスではあまり聞かない感想が印象に残りました。確かに会場のどのスタッフも、丁寧に対応してくれています。大型フェスにはないこの穏やかな雰囲気は、「りんご音楽祭」に関わっているひとりひとりの優しさによるものなのかもしれません。

★会場の規模感がよいので、ステージを回りやすい★

これも多くの方から出た言葉です。ステージ間はほど良い距離で、お客さんの混雑も少なく回りやすいのがその理由でしょう。野外フェスというとステージ間の移動が大変だったりしますが、「りんご音楽祭」はそんな心配もありません。野外フェスに初めて参加する人にはオススメだと思います。

★オシャレな人が多い★

ほどよい山感と、ほどよい都市感が共存する「りんご音楽祭」に来場する人のファッションは、確かに多種多様。確かにイケてます。山ガール風の人や、秋のファッションを纏った人もいれば、クラブ系テイスト、アウトドア系テイストなど様々なお客さんのファッションが「りんご音楽祭」のより良い雰囲気を作っています。

★子供連れでも楽しめる★

「子供連れだとライブハウスに行けないので、今日は娘と一緒にアナログフィッシュを聴きにきました」と話してくれたご夫婦。「若い頃はフジロックに行っていたけど、今日は久しぶりに娘とその友人家族と来ました」と話してくれたお母さん。小さな子供連れや家族でも楽しめる音楽フェスっていいですよね。

★知らないアーティストに出会える★

誰でも知っているアーティストからインディペンデントで活動するアーティストまで、ジャンルも様々なので本当に色んな音楽と出会えます。「りんご音楽祭」で初めて知ったアーティストのファンになったという声もたくさん聞きました。KKBOXスタッフが出会ったのが、Elephant Gymという台湾の3ピースバンド。ボーカル&ベースのジェルさんの愛くるしい日本語と、エモいベースが素敵でした。

★ステージとの距離が近い★

ステージと客席の距離が近いのも「りんご音楽祭」の特徴です。「わさびステージ」や「きのこステージ」は、間違い無くライブハウスよりステージが近いです(笑)。それゆえアーティストの楽しげな表情も良く見え、その感じがお客さん全体に広がっているようです。

★アーティストと友達になれる★

アーティストたちがお客さんにまじって「りんご音楽祭」を楽しんでいるのも良い感じ。足湯ブースでは、お客さんと出演を終えたアーティストが、足湯につかりながら音楽談義をしている光景がありました。また、2日間かけて作品を完成させたペインターの雪下さんは「きのこステージ」ではお客さんに混じってステージを楽しんでいました。

★音楽が間断なく流れているのが良い★

「りんごステージ」と「わさびステージ」では、メインステージが終わった途端に、DJの皆さんがサブステージで音楽を鳴らし始めます。本当にすぐ過ぎてびっくりです(笑)。ほかの会場から流れてくる音楽もよく聴こえるので、良い感じの音楽がいつも聴こえてきます。

★目的がなくても楽しめる★

「すごいお目当てのアーティストがいるわけではないけど、オシャレなお客さんのファッションチェックや、美味しい食事がとても楽しいです。ステージを回らなくても、遠くから聴こえる音楽を聴きながらのんびり過ごせて気持ちよかった!こういうフェスの過ごし方もいいなーって思いました」と、新潟からやって来たあいみさんが話してくれた感想が「りんご音楽祭」の魅力を一番言い表しているのかもしれません。

アーティストが語る「りんご音楽祭」

machina(マキーナ)

韓国出身で東京を拠点に活動しているエレクトロニック・サウンドをベースとし、モジュラー・シンセサイザーや、アナログ・シンセサイザーを駆使しスケール感ある音楽を構築しているエレクトロニック・ミュージシャンです。今年3月には、米テキサスで開催された世界的な音楽ショーケース"SXSW(サウスバイサウスウェスト)"にも出演し、日本と海外をクロスオーバーに活動する今もっとも注目されているアーティストの一人です。そのmachinaは、昨年「りんご音楽祭」に初出演。その時のエピソードを語ってくれました。

「去年は朝のステージだったんですが、みんなどう乗ればいいのかわからない反応だったんですね。私の音楽スタイルはダンスミュージックでもないし、シリアスな音楽だったりするので。でも夜のステージ(松本市内のクラブで行われる中夜祭)で、たくさんの人が反応してくれました。私の音楽でこんなに踊ってくれるんだという自信が持てたというか。それを初めて体感できた「りんご音楽祭」には本当に感謝しています。それから私の音楽も、どんどん変わっていったように思います。」

annie the clumsy (アニー・ザ・クラムジー)

ウクレレを弾き語りしながらサンプラーを操り、独特な音像を作り上げるannie the clumsy (アニー・ザ・クラムジー) 。数々のCMやWEB等の楽曲を手がけつつCM出演も果たすなど、さまざまな分野で活躍しています。

「本当はWHALE TALXとコラボで演る予定だったんですが、2ステージをもらえたので、こうやってソロステージもできたんです(笑)。そんなに野外で演る機会がないので、この自然の中でできてすごく楽しかったです。」

そんなannie the clumsy の野外ステージを楽しめる近々のスケジュールが、東京都和泉多摩川河川敷で開催される「多摩川リバーサイトフェスティバル TAMARIBA(10月8日出演)」。是非、足を運んでみてはいかがでしょうか。

CittY

「夏」をメインテーマとして活動する三人組バンドがCittY。グミのキュートで清涼感あふれる歌声と、ドラマチックなサウンドが溶け合ってとても気持ち良しです。「りんご音楽祭」に本当にぴったりなステージでした。

「RINGOOO A GO-GOにエントリーして初めて出演できました。この音楽祭の出演者はジャンルが多岐に渡っているんですが、どの音楽もこのアルプス公園にマッチングしていて不思議な一体感がある感じがいいですよね。目的のアーティストを観に来た人も、絶対新しいアーティストや音楽に出会えると思うんです。自分がお客さんとしても本当に楽しめます」

その言葉通り、他のステージでCittyの皆さんに何度も再会しました。アーティストも楽しめるフェス!それが「りんご音楽祭」の魅力です。

「りんご音楽祭」は妄想の現在進行系

最後に「りんご音楽祭」を終えたばかりの、主催者である古川陽介さんにお話を伺いました。

ー最初の「りんご音楽祭」はどんな感じだったのでしょうか。

大きな野外イベントなんてやったことがなかったし、音楽業界にネットワークもあまりなかったので大変でした。本当に無知で、よくやったなと(笑)。

ー10年目を迎えて「りんご音楽祭」はどのように変わってきましたか?

「りんご音楽祭」って自分の妄想なんです。妄想をどうやって現実に近づけていけるかという10年でした。自分がこんなことやりたい、こうしていきたいという発信をしていっても、最初はその妄想をほとんど理解されませんでした(笑)。
その妄想が「りんご音楽祭」で可視化されて表現できていくと、自分の話していた妄想が、いろんな人に合致し始め、理解してもらえるようになった気がします。

ーターニングポイントはあったんですか?

5年前の「りんご音楽祭」で、東日本大震災以降、東日本で一度もライブをやっていなかったUAさんに出演してもらったんです。沖縄まで何度も通って、直接お話ししてようやく実現できました。そうしたら動員数が倍になったのは良かったんですが、運営が手に負えなくなってしまいました。

ーそれまで運営はどうしていたんですか?

ほとんど個人発信です(笑)。告知はほぼTwitterだけだったし、チケットもほとんどが全部手売りで、通販分を発送するのが本当に大変でした。そこで、もともとほぼボランティアで手伝ってくれたスタッフに仕事で制作スタッフになってもらいました。また、自分の妄想に興味を持ってくれていたり、賛同してくれた方に、制作スタッフとして関わってもらうようになりました。

ーそれって、本当に最近ですよね。

そうです。昨年の「りんご音楽祭」から、自分の妄想の具現化率がすごく高くなってきた気がします(笑)。今年は、自分がやりたかったパーティーがさらに大きくなったという感じですね。本当に来てくれたお客さん、アーティスト、スタッフ、参加してくれたみんなで楽しめたと感じました。

10年前に始まった「りんご音楽祭」は、古川さんの妄想の世界から始まりました。初めは理解されにくかった「りんご音楽祭」。いまでは古川さんひとりの妄想ではなく、アーティスト、スタッフ、そしてお客さんの共通の妄想になったことが、「りんご音楽祭」が愛されている最大な理由なような気がします。来年の「りんご音楽祭」ぜひ、みなさんも足を運んでみてはいかがですか。


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